相続が”争族”にならないために、遺言で財産の分割を決めておくのは非常に有用です。しかし、財産分けの他に、もう一つ忘れてはならないことがあるのです。それは相続税の納税方法で、相続人ごとの手当てが必要です。何故なら延納も物納も、実態はそれ程甘くありません。また、その可否は、相続人ごとに判定されるからです。と言う訳で、本日のテーマは相続税の納税方法です。
1.相続税の納税方法
納税方法としての原則は、言うまでもなく現金による一括納付です。これは何も相続税に限ったことではなく、所得税、法人税、そして消費税に至るまで、納税方法としての大原則です。
しかし、特に相続税については、相続した財産によっては必ずしも換金化が容易でない場合もあります。そこで、相続税には特別な納税方法が認められているのです。それが延納であり、物納です。延納は他の税目にも認められていますが、物納は相続税だけに認められている、特異な納税方法で、その条件も確かに厳しいものがあります。
2.物納の前に『延納』が
物納は本当に特別な納税方法なのです。従って、いきなり物納を選択できる訳ではありません。その前に、様々なテストが用意されているのです。初めのテストは、相続財産と相続人固有の財産で、どれ位の現金納付ができるか、と言う判定です。それで不足する場合には、次に延納を考えて下さい、と言うことになります。最長20年の分割払いになりますが、延納とは、いわば税務署に借金をするようなもの。従って、担保が必要になりますし、金利も掛ります。但し、延納は返済方法が年賦となっているため、1年に1度の返済で、しかも元金均等払いです。通常の金融機関からの借り入れのように、元利均等ではありません。従って、例えば1億円を10年で納税する場合、毎年の返済は元金の1,000万円と金利との合計額になります。そのため、年を経るごとに利息込の返済額は少なくなりますが、当初の負担は非常に重いものと覚悟した方が良さそうです。
3.延納する額を自由には決められない!
実は、延納が認められる金額は、納税をする側で自由に決めることはできません。あくまでも現金で納税ができない部分だけです。しかも、その算出に当たっては、『金銭納付を困難とする理由書』と言う書式で細かく決められています。この中で、まずは納期限までに、いくら納付ができるのかを算出します。その過程で毎月の生活費を記載するのですが、これが驚愕の算定方法なのです。一律に申請者である相続人が月100,000円、配偶者その他の親族が一人当たり45,000円です。つまり、相続人に妻と二人の子がいる場合、生活費は100,000円+45,000円×3で月額235,000円、1年で282万円。これに各種の税金や社会保険料の負担額を記載し、1年間の収入からこれらの金額を控除した残額が、納税に充てられますね、と言う訳なのです。
4.それでも駄目な部分が物納ですが…
ここまでのテストでも、どうしても相続税が納められない場合に限って、初めて認められるのが物納です。日常は贅沢をせず、つましく質素に暮らして下さい。残ったお金は先ず税金に充当です。それでも納税ができないなら、仕方がありません。その時の最後の手段が物納で、不動産等の現物で納めて下さい、とこんな順序、考え方なのです。
物納となれば、どの土地にするかですが、その最有力候補は、不良資産である借地人の居る底地でしょう。ここは税金を納める側の勝手です。税務署に駅前の土地の方が嬉しいです、とは言わせません。選択権は我にあり、です。
5.事前の準備が何より大切
但し、土地の場合、まずは実測に基づく確定測量が必要です。面積を求める事と同時に、敷地境界を確定させなければなりません。そのため、必然的に隣接地の所有者の立会いが必要となります。また、民有地同士の境界確定(民民査定)だけでなく、公道や水路等の公有地との境界についても、役所立会いの上で確定させること(官民査定)になるのです。が、これが結構時間のかかる、いわゆるお役所仕事。併せて借地人との借地境も確定させましょう。また、地代が周辺相場並みであることも重要な条件の一つです。その他にも、建物が越境している、上下水道の埋設場所が適正でない等々の問題を整備しておく必要があります。これら諸々の事柄を、相続税の申告期限までに、原則的には総てクリアーしておかなければなりません。相続後に動き始めても、到底間に合うものではないのです。物納は以前より認められるのが難しくなったと言われています。しかし、決して難しくなった訳ではありません。物納に適した財産かどうかの基準が明確化され、原則的には、申請時点で必要書類がすべて整っていることが要求されるようになっただけ。延納は使い難い制度ですし、物納は事前準備が大変です。いずれにせよ納税方法の準備は相続人ごとに、しかもお早目に!