相続時精算課税の制度をご存じの方も多いでしょう。生前に2,500万円までは贈与税が課税されずに贈与ができると言うものです。一見お得そうな制度です。が、実際の相続時には相続財産として課税されるため、多くの場合は相続税の節税にはなりません。特殊な場合を除いて、お勧めしてはいないのですが、実は、世間であまり知られていない、こんな驚きの実態が隠されているのです。
1.制度の概要
初めに復習を兼ね、そして初めてお聞きになる方のために、簡単にこの制度の概要に触れておきましょう。暦年で計算し、1年あたり110万円の基礎控除があるのが普通の贈与税です。これに対し、相続時精算課税では、総額2,500万円までの贈与が非課税で、贈与の対象や回数は無制限となっています。この金額を超えた場合、一律20%の税率で課税されるため、以降は僅か10万円の贈与でも2万円が課税される計算です。
問題は相続の時で、贈与したにもかかわらず、相続財産に取り込まれ相続税が課税されることでしょう。もっとも、それまでに納めた贈与税があれば、それは相続税から控除されるため、損得なしと考えられなくもありません。強いて問題点と言えば、贈与した時点での評価額で相続税も計算されることでしょうか。贈与した時点では1,000万円と評価された物が、相続時に300万円になっていても、逆に1億円になっていても、相続時には1,000万円での評価なのです。値上がりしていれば得、値下がりは損と言ったところです。
2.どんな使い道があるのか?
この制度、評価額の増減で多少の影響はあるものの、それを除いてどんな損得があるのでしょうか。相続税の心配のない方なら、例えばアパートと言う収益物件の贈与が考えられます。土地はそのままで建物だけを子に移せば、その賃貸収入は建物の所有者である子のもの。収入の少ないサラリーマンの息子や嫁に行った娘の生活が楽になるでしょう。相続や贈与の時の建物の評価額は固定資産税の評価額を用います。もともと低い建物の固定資産税の評価額が、賃貸物件の場合はさらにその70%相当で済んでしまうため、贈与税の負担も比較的軽いのです。勿論、相続税の心配がある方でも活用できない訳ではありませんが、一定規模以上なら建物を法人化する方がお得でしょう。
3.年功序列とは限らない!
ここで結論を申し上げておきましょう。恐いのは、相続時精算課税制度で贈与を受けた子が親より先に亡くなるケースです。子が亡くなった時点で、子に特別な財産などない場合でも、相続時精算課税で贈与された財産は、既に子の財産。当然のことながら、子の相続税の対象となる訳です。そして、その金額が相続税の基礎控除額を超えていれば、その財産について相続税の負担が生じることになってしまいます。贈与されたのだから、それはそれで仕方がないのかも知れません。
しかし、その後で贈与をしてくれた父親が亡くなるとどうなるか。もう一度この制度を思い出して下さい。相続時精算課税制度とは、贈与をした父親が亡くなった時に、既に贈与をした財産をもう一度父親の財産として相続税を課税する、そんな制度だったはずです。つまり、一度、子の財産として課税された物が、今度は父親の相続財産となるのです。同じ財産について、一度のみならず二度までも相続税が課税されてしまうのです。課税当局はそう言う言い方を認めませんが、まぎれもなく、これは二重課税です。これを避ける方法はありません。子が早く死ぬのが悪い、と言わんばかりの制度なのです。
4.親の相続時に課税されなければ…
しかし、もし親の相続時に相続財産から除外することが認められるとしたら、一体どうなるのでしょう。誰もがとりあえず生前にこの贈与をして、積極的に財産を移転してしまうのではないでしょうか。相続税は最高税率55%の累進税率です。決して幸せな事ではありませんが、万が一にも子が先に亡くなった場合、思わぬ節税効果が生まれることになります。親の財産が20%の贈与税だけで移転できることになるからです。それを防ぐために、子の相続時にも親の相続時にも、相続税を課税するのです。税法とは、税金を召し上げるための法律です。致し方ないのかも知れませんが、何らかの軽減策があってもいいとは思います。
ただ、この制度にはこんな恐怖が内在していることを覚えておいて頂きたいのです。昔から子が親より先に逝くのは親不孝な事だと言われています。しかし、親不孝だと言われようと何と言われようと、こんな事もあるのが現実の世の中。必ずしも年の順序通り逝くとは限りません。
ゆめゆめ、子たる者、親孝行を忘れてはなりませんぞ!