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原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
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新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5389号
金利が上がると相続税評価にも影響
令和6年3月、日銀はマイナス金利政策を解除しました。そして、日銀の利上げ発表と、総裁の利上げへの言及などを発端にした8月の株式・為替相場の乱高下は記憶に新しいところです。これからの動向が気になりますが、金利が変動するとその影響で相続税評価額も変わるのです。
1. 金利の影響
日本は長いあいだ低金利の状態が続いていましたから、金利変化とその影響をあまり意識してこなかった感じがあります。実は金利が上昇すると、それだけで相続税評価額が変わるものがあります。ここでは、あくまでも金利が相続税評価額に直接影響するのであって、金利変動が時価相場に影響したということではありません。
たとえば、定期預金の相続税評価額は、相続開始時に解約したとすれば受け取ることができる既経過利息を加算する必要があります。これは直接的なことですから分かり易いですが、この他どのようなものに影響するのでしょう。2. 基準年利率
その前に、まずは相続税評価額を計算するときに使う金利指標を確認しておきます。財産評価基本通達では「基準年利率」という金利指標を用いて計算することが多いです。この基準年利率は、日本証券業協会で公表される利付国債に係る複利利回りを基に算定された数値で、期間に応じて、短期(1年~2年)、中期(3年~6年)、長期(7年以上)の3区分に分かれています。
基準年利率の昨今の推移をみると、利率が上昇傾向にあることが良く分かります。以下に過去5年程の動向をまとめました。(執筆時点では令和6年6月まで公表)① 短期の利率・・過去5年は一貫してほぼ0.01%だが、令和6年3月から上昇
② 中期の利率・・令和4年までほぼ0.01%だが、令和5年頃から少し上昇
③ 長期の利率・・令和3年までは0.01%~0.25%ほどだが、令和4年頃から少し上昇
令和6年は月ごとの適用利率を記載しました。いずれも利率が上昇してきており、長期の利率は1.50%に達しました。今年の後半にかけて、もう少し上昇しそうな気がします。3. 著作権などの評価に影響
著作権や特許権、商標権などは、これらから得られる将来の収入を見積もって評価します。将来得られる収入ですから、評価の際には現在価値に割戻す必要があります。そこで基準年利率を用いて計算することになります。
基準年利率の上昇は割引率が高くなるということですから、相続税評価額は逆に減少します。つまり、著作権などの相続税評価額は、収入見込みが同じであれば今までよりも評価額が減るのです。4. 信託受益権の評価に影響
信託受益権は、これを元本受益権と収益受益権に分けて設定することができます。このように受益権を分けた場合にはそれぞれ別々に評価することになり、その際に基準年利率を利用します。基準年利率が上昇すると、①元本受益権の評価額は増加し、②収益受益権の評価額は減少します。元本受益権の贈与をお考えの方は、早めに実行するのが良さそうです。
5. 債務にも影響
土地に定期借地権を設定して賃貸している場合、賃借人からは保証金を預かるケースが多いです。相続時には預り保証金は債務として相続財産からマイナスしますが、保証金額そのものを債務計上することはできません。将来の返済ということで割引計算をしなければならないのです。その際に基準年利率を利用します。基準年利率が上昇すると債務計上できる金額は減少します。
6. 得にも損にもなる
金利が上昇すると相続税評価額が増える、逆に減る、どちらもあり得ます。金利が上がるのを待った方が有利か、それとも不利なのか。ものによっては早めの贈与を検討する必要があるのかも知れません。
2024年10月31日
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5388号
遺産分割の仕方次第で変わる相続税
相続人の2人は、相続する土地をどのように遺産分割しようかと考えています。もし、この土地が1筆であるならば、共有で相続するのか、それとも分筆してそれぞれを相続するのか、どちらを選択するのかで相続税に大きな差が生じるかもしれません。
1.次のような土地を考えてみる
被相続人は2棟の貸家の土地建物を所有していたとします。なお、土地は分筆されておらず、1筆の土地の上に2棟が建っている状態でした。このように、1筆の土地の上に複数の建物があるようなケースは結構あるのではないでしょうか。
話し合いの結果、相続人甲はA棟建物を、相続人乙はB棟建物を相続することになりました。土地は1筆ですので、この場合はどのように土地を相続すべきなのでしょう。
2.共有で相続すると?
共有財産は後々トラブルの種になる可能性が高いために共有相続は得策ではありませんが、甲と乙が親子の場合や夫婦である場合などには、一旦共有にするケースもあります。そこで、甲は土地持分の2/3を、乙は土地持分の1/3を相続する場合を考えます。一見、各棟の敷地に相当する土地持分を相続していますから、甲はA棟の敷地部分を、乙はB棟の敷地部分を相続したと本人たちは認識しているかもしれません。ところが、共有では実際には次のような考え方になります。
甲⇒A棟敷地の2/3とB棟敷地の2/3
乙⇒A棟敷地の1/3とB棟敷地の1/3つまり、共有では1筆の土地のどこかを特定することはできず、土地全体を持分割合で均等に所有するという考えになるのです。
そうすると、相続税の計算では小規模宅地等の評価減に影響が生じます。甲が承継したA棟の敷地は200㎡の2/3のため、小規模宅地等の対象面積は200㎡ではなくて約133㎡です。同じく乙の対象面積は100㎡ではなくて約33㎡になります。なんと、貸家の敷地についての限度面積200㎡の全てが適用できると思っていたところ、対象は各棟の敷地面積×持分となることから相続税の負担が増加してしまいました。3.分筆して各々相続すると?
あくまで甲はA棟の敷地部分、乙はB棟の敷地部分を相続したいのであれば、あらかじめ土地の分筆をしてから各敷地部分を相続しましょう。この場合には、特定された各棟の敷地部分を相続するので共有のような考え方にはならず、小規模宅地等の評価減も最大限適用できます。被相続人名義のままで土地の分筆ができますので、甲と乙は分筆後の各敷地を単独相続する流れになります。
4.評価単位が変わることもある
共有の問題点を踏まえれば、分筆して相続するのが税務上もベストだと思われたかもしれません。ところが、何事も100%はないのです。今回の事例の場合はこの考え方で良いですが、駐車場の敷地や広い貸地の場合などはそうとは限りません。共有ではなく、分筆後の各土地を各相続人が相続する場合にはそれぞれ別の評価単位になります。例えば、都内にある500㎡の駐車場を考えてみます。共有で相続するときの評価単位は500㎡のため、地積規模の大きな宅地という取扱いが適用できる可能性があります。これにより土地評価額は通常に比べて20%以上減少します。もし、相続人2人が分筆後の土地250㎡ずつを相続する場合には500㎡未満になり適用できません。このようなときは一旦共有で相続して、その後に分筆、共有物分割をして共有の解消を図れば良いのです。
5.話し合い次第
相続後の最終的なかたちは同じであったとしても、過程により相続税が変わる可能性があります。検討したいのであれば、相続人全員の同意のもと柔軟な対応ができる状況が前提になるでしょう。みんなで円満な話し合いができればこそ、税金もお得になるわけです。
2024年9月30日
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5387号
相続税の2割加算対象外の孫養子?
相続税の2割加算ルールはご存知ですか?配偶者や子ではなく、兄弟などが遺産を承継した場合の相続税は通常の1.2倍の金額になります。この2割加算の対象者は一般的には孫養子も含まれますが、ケースによっては対象外になることもありえるのです。
1.2割加算の対象者
相続税の2割加算の対象者を確認しましょう。
この制度は、①親等(しんとう)の遠い人や親族関係のない人が遺産を取得するのは偶然性が高い(いわゆる棚ぼた)、②孫が遺産を取得すると代飛ばしとなるので相続税の課税機会が減る、などを考慮して相続税の負担の調整を図る意味で設けられています。■相続税の2割加算の対象者
イ) 1親等の血族(その代襲相続人を含む)及び配偶者以外の方
⇒ 兄弟やおい・めい、孫、第三者など
ロ) 上記の1親等の血族には、直系卑属が養子となっている場合を含まない
⇒ いわゆる孫養子(孫養子が代襲相続人となっている場合を除く)
養子はいわゆる孫養子だけが2割加算の対象です。したがって、子の配偶者が養子の場合などは含みません。考えてみれば当然ですが、いわゆる婿養子などは対象外です。2.加算されてもメリット有り?
孫は2親等で相続人ではありませんが、養子になれば子と同じ1親等の血族として相続人の地位を得られます。
相続の1代飛ばしが可能になることから、孫養子を考える方もおられることでしょう。原則として孫養子は上記1.ロのとおり相続税の2割加算の対象者ではありますが、相続税がある程度生じる方は2割増しの税金を負担したとしても最終的にはお得になります。ただし、子世代では得をせず一旦税負担が増えます。税金の先払いであり孫世代まで考えればお得なのだと割り切れる方には良さそうです。「例」
① 親から子への相続税負担率が40%、
子から孫への相続税負担率が40%の場合
合計税負担率 ⇒ 40%+(1-40%)×40%=64%② 親から孫養子へ直接相続させる場合
税負担率 ⇒ 40%×1.2=48%3.代襲相続人は加算対象外
孫養子であっても2割加算の対象から外れる場合があります。有名なケースは、孫養子が子の代襲相続人になった場合です。親より子が先に亡くなった場合などでは、孫は子の代襲相続人になります。この場合の孫はたとえ孫養子の身分があったとしても1代飛ばし的な意味合いはありませんので、原則に立ち返って2割加算の対象外になるというわけです。至極当然のことです。
4. こんな場合は対象外
先ほどのケースはよく聞く話だと思いますが、次のようなケースではどうなるでしょう。
甲乙は実子がいないことから、跡取りとして平成元年に養子をとりました。養子にはすでに子(孫1)がいましたが、養子縁組後に孫2が生まれました。このようなケースで孫を養子に迎え入れた場合はどうなるでしょう。実は孫1と孫2は異なる結果になるのです。
孫1 ⇒ 養子縁組前に生まれているため甲乙の直系卑属になりません。そのため1.ロには該当せず養子になったとしても孫養子の2割加算の対象外です。
孫2 ⇒ 養子縁組後に生まれているため甲乙の直系卑属になります。そのため孫養子の2割加算の対象者です。このように、孫養子の全てが必ずしも2割加算の対象になるということではないのです。余談ですが、孫1は甲乙の直系卑属ではないため養子Aが先に亡くなっていたとしても甲乙の代襲相続人の身分にはなれません。
5. 戸籍でしっかり確認
孫養子という先入観だけで判断するのは危険です。まずは基本に忠実に、戸籍を調べて親族関係を整理しましょう。また、養親と養子の細かな関係性は、法定相続情報一覧図だけでは判断ができません。法定相続情報一覧図があれば万全と思いがちですが、あくまでも民法上の相続人情報を知るための資料です。実子か養子かだけで相続税の計算はできません。相続税の2割加算のほか、基礎控除の計算における養子の人数制限など、影響は多々あります。相続税の申告手引きを良く見ると、養子がいる場合は法定相続情報とは別に養子の戸籍謄本等の提出が必要と抜け目なく書いてあるのです。
2024年8月30日
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5386号
未利用土地には手厳しい税の世界
相続税の納税資金用としてすぐに売却できるようにと、土地を更地のままで所有している方がいます。駐車場等で利用しているのであれば良いのですが、特に困っていないからと未利用のままにしている土地があるとすれば、税金では結構な損をしているはずです。
1.固定資産税は非住宅用地扱い
住宅の敷地である土地は、固定資産税では住宅用地という扱いになります。住宅用地であれば、住宅1戸当たり200㎡までの土地はその課税標準が固定資産税は1/6・都市計画税は1/3になります。200㎡を超えたとしても家屋の床面積の10倍までは固定資産税は1/3・都市計画税は2/3の負担です。このように、住宅用地として利用されている土地は毎年の維持費である固定資産税・都市計画税の負担が軽減されるのはご承知のとおりです。
■住宅用地の取扱い
区分 固定資産税の課税標準 都市計画税の課税標準 小規模住宅用地 住宅1戸につき200㎡まで 価格×1/6 価格×1/3 一般住宅用地 家屋の床面積の10倍まで(小規模住宅用地以外) 価格×1/3 価格×2/3 建物が建っていない未利用土地は非住宅用地と同じ扱いですから上記のような取扱いはありません。駐車場などと同じように固定資産税・都市計画税の負担が高くなります。また、今は空き家で未利用だが以前は住宅として使用していたので大丈夫と思っていたとしても、管理が不適切であるとして特定空家等に該当すると住宅用地としての軽減が使えなくなる取扱いがあるので注意しましょう。
ちなみに、市街化区域にある農地はそれが生産緑地でなければ、固定資産税の負担感は実質的には一般住宅用地と一緒です。2. 所得税の特例が使えない
未利用土地を売却したときに適用できる所得税の特例は実質何も無いと考えてよいでしょう。確かに、収用等があった場合の5000万円の特別控除や、低未利用土地等を譲渡した場合の100万円の特別控除という特例はありますが、これはレアケースです。
居住用財産であれば、3000万円の特別控除や税率の軽減制度、買換えの特例などが用意されています。また、事業用資産であれば、事業用資産の買換えの特例を検討することができます。駐車場などで利用しさえすれば事業用資産になりますから、維持費を賄うためにも未利用土地として放置しておくのは何らメリットがありません。3. 相続税評価額が高い
未利用土地は相続税評価額が高くなります。いつでも売却ができる自由度の高い土地であるとして、いわゆる自用地評価額になるからです。他人の権利が付いていないのだから仕方がないといえばそれまでですが、もしも駐車場用地として貸し付けていたらどうなるでしょう。コインパーキング業者に土地を貸し付けた場合、それは賃借権という権利が付いた土地になります。そのため相続税評価額は自用地評価額より低くなります。減額される割合は賃貸借期間によって異なるのですが自用地評価額の2.5%~10%減になります。
■駐車場など(堅固な構築物以外の場合)の減額割合
賃借権の残存期間 減額割合 5年以下 2.5% 5年超 10年以下 5% 10年超 15年以下 7.5% 15年超 10% コインパーキング用地の賃貸借期間は一般的には3年前後の契約が多いでしょうから、この場合は自用地評価額の2.5%減になります。貸家の敷地などでなくても多少の減額ができるわけです。贈与税の計算でも同じ相続税評価額を利用しますから、生前贈与を考える際も同じことが言えます。
4. 小規模宅地等の特例適用がない
相続税では影響が大きな特例があります。それは小規模宅地等の特例による土地の評価減です。自宅の敷地であれば330㎡まで80%減額ができますし、不動産貸付業用の土地であれば200㎡まで50%減額ができます。もちろん、適用できる面積には限度がありますが適用面積にまだ余裕があるのであれば、未利用土地かそれとも駐車場などで利用したのかで相続税の負担に大きな違いが生じるのです。
5. 活用してこその財産
物理的に利用ができない、買い手が付かない、などの土地は致し方ありませんが、利用や売却ができる未利用土地であれば、有効活用や組換えを考えるのが税金的には有利です。
納税資金用の土地なのだから面倒なことはせずに未利用のままで良いのだ、という考えが必ずしもベストな選択肢であるとは限りません。2024年7月31日
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5385号
事業用資産の買換えは届出を忘れずに
事業用の土地建物等を売却して譲渡益が生じたときは、買換えの特例制度を適用することで譲渡益を繰延べることができます。この制度ですが、令和6年4月1日以後に譲渡をした方からは、あらかじめ届出書の提出が必要になるケースがあります。特例の適用を考えるのであればこれからは届出の有無がポイントです。
1. 事業用資産の買換え
事業の用に供している土地建物等を譲渡して、新たに事業用の土地建物等を取得(買換え)した場合には、事業用資産の買換え特例という制度が適用できます。この制度を適用すれば、譲渡益の60%~90%を将来へ繰り延べることができるため、その分の税負担が減少します。ちなみに、繰り延べ割合は80%になることが多いです。
譲渡資産と買換資産には組み合わせの要件があり、一昔前はいくつものパターンが用意されていました。しかし、最近は制度そのものが縮小傾向で現在は4つの組み合わせが残るだけです。このうち一般的に利用されるものは、10年超所有する国内の土地・建物・構築物を譲渡して、国内の土地(300㎡以上)・建物・構築物を取得する制度です。2. その1 譲渡年の前年又は翌年の買換え
買換えですから、譲渡と取得という2つの取引きがあります。譲渡をしてから取得するのか、それとも先に取得してその後に譲渡するのか、様々な事情もあるでしょうから一定の期間内であればその順番に制限はありません。譲渡が先でなくてもいいのです。ただし、譲渡年と取得年が異なっている場合には買換えの特例を適用する予定なのか否か、税務署には分かりません。そこで、このような場合には特例適用に関する届出をしなくてはならないことになっています。
① 買換資産の取得が、譲渡の翌年の場合
⇒譲渡年の翌年3月15日までに届出
② 買換資産の取得が、譲渡の前年の場合
⇒取得年の翌年3月15日までに届出
つまり、譲渡年と取得年が異なるのであれば、譲渡か取得のいずれかの取引きをした年の翌年3月15日までに、特例適用を予定している旨の届出書を提出しておくのです。3. その2 同一年内の買換え(新しい届出制度)
令和6年3月31日までは上記2の届出があるだけでした。なぜなら、譲渡年と取得年が同一年の場合には譲渡年の確定申告内容を見れば、特例適用の有無やその内容が分かるはずだからです。
これが、令和6年4月1日以後の譲渡で、かつ、買換資産の取得も同日以後の方からは、譲渡年と取得年が同一年であっても新たに届出が必要になったのです。
取得が前年や翌年の場合には届出が必要ですから、同一年のときもあらかじめの届出(報告)をさせて足並みを揃えようという意味もあるのでしょうが、意地悪く要件を増やしただけのように感じます。
この新たな届出の期限は次のようになっています。譲渡の日(又は先行取得の日) 届出の提出期限 1月1日から3月31日まで 5月末日 4月1日から6月30日まで 8月末日 7月1日から9月30日まで 11月末日 10月1日から12月31日まで 翌年2月末日 すなわち、1年を四半期に分けてその間に譲渡又は取得があれば、これからは四半期経過後2カ月以内に届出書を提出しなくてはなりません。
例えば、事業用の土地建物等の譲渡をしたが、具体的な買換資産はまだ決まっておらず、事業用資産の買換えの特例を適用するかどうかも検討中の方がいたとしましょう。このような場合で、もしかすると良い物件があれば譲渡年に買換資産を取得する可能性が1%でもあるのであれば、とりあえずこの届出書だけは提出しておくのが良いでしょう。提出しておいて結局は特例を適用しなくてもそれはそれでOKです。提出をしておかなければ確定申告で特例の適用を選択することはそもそも出来ません。選択肢を広げておきたいのであれば、届出を忘れてはいけないのです。4. 届出を忘れたら翌年取得?
もしも同一年の事業用資産の買換え特例に関する届出を忘れてしまったらどうなるのでしょう?確かにこの場合は、同一年の譲渡と取得による特例適用はできません。ただし、買換資産の取得が譲渡後を予定しているのであれば、取得を翌年に繰り越せばよいのです。買換資産の取得が翌年であれば、その届出期限は譲渡年の翌年3月15日までですから、確定申告期限まで大丈夫です。年内に買換資産の売買契約を締結していたとしても、引渡しが翌年であれば適用が可能になります。
5. 新届出は事業用資産の買換えだけ
買換え制度は他にもあります。自宅の場合の居住用の買換え、収用等の場合の代替資産の取得などです。ただしこれらの制度では上記3の改正がされておらず、買換えが同一年の場合の届出制度はありません。事業用資産の買換えだけが不運にも目を付けられたのです。
2024年6月28日
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5384号
法定相続情報一覧図の実務ポイント!
相続手続きに必要な戸籍の取得ができたならば、次は法定相続情報一覧図を作成しましょう。この書類を作っておくことで様々な相続手続きがスムーズに行えるようになります。ただし、例外として全ての戸籍が揃わないケースでは利用ができないことになっています。
1. 法定相続情報一覧図を活用
相続がおきると相続人や遺産額を確定して、不動産の名義変更や預貯金の解約などの様々な手続きをしなければなりません。被相続人が不動産を所有していたのであれば、相続を原因とする所有権の移転登記が必要です。令和6年4月1日からは、いよいよ相続登記の申請義務化がスタートしました。これからは、費用が生じるから、面倒だから、などと相続登記をしないで放置することができなくなります。登記まで忘れずにしっかりと手当てしましょう。これらの相続手続きを行う際には、戸籍や除籍・原戸籍などの書類の束を手続きごとにその都度提出しなくてはなりません。特に相続人が兄弟姉妹の場合など、関係者が多岐にわたると戸籍の枚数が物凄い量になることもあります。色々な窓口で何度も書類の束を出しては返却をしてもらう、この手間に時間が取られて煩わしいこと、これが相続手続きを億劫にさせる大きな理由の1つでしょう。
そこで、みなさまは是非とも法定相続情報一覧図を活用しましょう。法定相続情報一覧図とは、戸籍の記載から判明する被相続人と法定相続人の情報をまとめた一覧図で、その内容が正しいと法務局が証明したものです。法務局がお墨付きを与えていますから、分厚い戸籍の束の代わりとして様々な相続手続きに利用できます。当然、銀行や証券会社の手続きにも用いることができます。そのため、これを作成しておくことが実務ではもはやスタンダードです。2. 住所の記載は必須
法定相続情報一覧図の作成は、相続人が一覧図を用意してそれを法務局に申出(申請)して証明してもらう流れなのですが、そのときは相続人の住所を必ず記載しましょう。実は、相続人の住所を一覧図に記載するのかどうかは任意事項なのですが、住所が無い書類では実務的にはまったく意味がありません。相続手続きを行うときは、相続人の住所確認がなされるのが一般的なため、これを考えれば至極当然のことです。相続人の住所記載をしないで法定相続情報一覧図を作成したものの、手続きの都度に住民票の写しなどの確認を求められて面倒なため、結局は作り直しをしたケースを見たことがあります。
そもそもこの制度は、相続登記の促進のために創設された制度です。手続きのために必要となる相続人の住所情報は記載条件にしても良かったのではないかと思います。3. 日本国籍を喪失していると使えない
法定相続情報一覧図を作成するときは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍等を用意する必要があります。また、相続人の戸籍も必要です。したがって、日本国籍を有していない方がいるとこの制度は利用できません。例えば、国際結婚をして配偶者の国籍に帰化したため、日本国籍を喪失した相続人がいる場合があります。国際結婚をしても、日本国籍のままであれば戸籍があるので利用できるのですが、日本国籍を喪失しているとダメなのです。また、次のようなケースがありました。被相続人は国際結婚歴があり、その際に一時期だけ日本国籍を喪失していました。なぜ一時期なのかと言うと、その方は数年で離婚をしたため再度日本に帰化、日本国籍をまた取得していたのです。つまり、戸籍はあるものの途中に空白の時期があるため、出生から死亡までの連続性が無いわけです。結局、この相続手続きでは司法書士と相談して、他の相続人はいない旨の上申書を法務局へ提出することで相続登記を進めました。
ちなみに、火災などにより戸籍等が滅失しているため謄本の交付を受けられないという場合がありますが、この場合はその旨の市町村長の証明書を添付すれば大丈夫です。国籍喪失とは異なります。4. 海外居住者は在留証明が必要
相続人は国際結婚をして海外に居住しているが日本国籍は保有している、この場合には法定相続情報一覧図が利用できます。ただし、海外居住をしている訳ですから国内に住所は無いため住民票を取得することができません。そのため、相続人の住所を記載したいのであれば在留証明を添付しないといけません。海外にいる相続人にお願いをして、総領事館などの在外公館で取得をしてもらう必要があるでしょう。国際郵便で書類を揃えなければならないため、時間的な余裕を持って手続きを進めるようにしましょう。
5. 代理人による申出
法務局へ申出ができる人は原則として相続人ですが、一定の資格者は代理人として手続きを行うことができます。税理士もこの代理人になれますので、手続きが面倒なときはご相談ください。戸籍取得から相続税申告まで一気通貫でお手伝いします。
2024年5月31日
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5383号
戸籍の取得が便利になったらしい?
令和6年3月1日に改正戸籍法が施行され、戸籍制度が利用しやすくなりました。相続手続きのときに必要になる戸籍も今までより取得しやすくなったと言われています。確かに間違いありませんが、相続実務を考えた場合に果たしてどこまで便利になったのでしょうか。
1.最寄りの役所窓口で取得できる
今までは、戸籍を取得するのであれば本籍地の役所に請求する必要がありました。これが戸籍法の改正によって、今年の3月からは本籍地以外の役所でも取得することができるようになっています。戸籍の広域公布制度と言い、戸籍の取得について便利になった点は次の2点です。
① どこの役所でも取得可能
本籍地が遠くにある方でも、最寄りの市区町村の窓口で請求・取得ができます。
② まとめて取得可能
取得したい戸籍の本籍地が全国各地にあったとしても、1か所の市区町村の窓口でまとめて
請求・取得ができます。
取得ができるのは、「戸籍と除籍の全部事項証明書(以下、戸籍証明書等)」です。したがって、戸籍の一部事項証明書、いわゆる抄本の取得はできません。
また、戸籍証明書等の請求は本人が窓口に出向く必要があり、郵送や代理人による請求はできないことになっています。そして、窓口では運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどの顔写真付きの身分証明書を提示する必要があります。
郵送では請求することが出来ないため、役所に行かなければならないのが不便な点でしょう。2.自分以外のものも取得できる
戸籍証明書等は、本人のものを取得できるのは当然ですが、次の方の分も取得が可能です。
① 本人
② 夫または妻(配偶者)
③ 父母、祖父母など(直系尊属)
④ 子や孫など(直系卑属)
したがって、相続手続きで必要となる関係者分も同時に取得ができるというわけです。ただし、兄弟姉妹の戸籍証明書等は取得が出来ません。兄弟姉妹は必ずしも相続人になるわけでは無い立場だからなのでしょう。3.本当に便利になった?
いままでの説明を聞くと、本籍地以外で戸籍の取得ができるようになったのでとても便利になったと思うはずです。法務省のパンフレットでも、「最寄りの窓口で戸籍が取得できるので相続登記もばっちり!」などとアピールしています。
しかし、よく考えてみましょう。相続のときに必要な戸籍としては、被相続人が生まれてから死亡するまでの全ての戸籍を集めなくてはなりません。そうすると、何十年も前の戸籍や除籍、改製原戸籍と言われるものを取得する必要があるのです。それのどこが問題なのか、ここでピンと気付かれた方は相当察しが良い方です。
改正戸籍法で取得ができるようになったのはあくまでも「戸籍証明書等」です。戸籍証明書等であって戸籍謄本や除籍謄本そのものではありません。つまり、コンピュータ化前の従前の戸籍、いわゆる紙作成の戸籍謄本等は含まれていません。全国の市区町村とデータ連携して行うサービスですので、コンピュータ化されていないものは相変わらず本籍地に請求するしかないのです。閉鎖された古い不動産登記簿をインターネット登記情報サービスで閲覧できないことと一緒です。
■ 広域公布制度で取得できるもの
コンピュータ化された戸籍証明書等
■ 広域公布制度で取得できないもの
コンピュータ化されていない一部の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、戸籍の附票
相続のときに集めなければならない戸籍は、コンピュータ化されていないものもまだ多くあるのではないでしょうか。特に現在はシステムが不安定なため暫定運用中です。将来は全ての戸籍情報を最寄りの役所で取得できるようになるのでしょうが、もう少し先のことなのかもしれません。4.今のところ便利な手続き
この改正戸籍法によって便利になるのは、今のところは現在の戸籍情報が必要な手続きと理解しておくのが良いでしょう。本籍地ではない役所窓口で行う婚姻届などは戸籍添付が不要になりました。今後は、児童扶養手当認定の手続やパスポートの申請にあたって戸籍証明書等の添付が省略される予定になっています。
5.税理士は職権で取得可能
相続のときに必要となる戸籍は、相変わらず全国各地の本籍地に郵送で請求をする可能性もある、これが当面の現実かもしれません。
税理士は相続税申告などに必要な場合には、職権で戸籍を取得することが可能です。相続手続きで戸籍の取得に困ったときや、煩わしいときなどは、相続税の申告依頼とあわせて是非ご相談ください。委任状無しで代理取得ができます。
2024年4月30日
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5382号
源泉徴収義務者の仕事は増えるばかり
給与の支払者は源泉徴収事務を負わなければならない決まりです。月々の給与における手続きはもちろんのこと、年末になれば年末調整も行います。法律で定まっているのですから仕方ないとはいえ、最近は税制改正を経るごとに事務負担は増すばかりです。
1. 源泉徴収と年末調整
給与の支払者は、源泉徴収義務者として月々の給与計算を行う必要があります。そして、源泉所得税を給与から天引きして税務署へ納付をしなければなりません。さらに年末になれば、年末調整事務を行って税金の精算手続きまでを本人に代行して行います。
これはまさに、給与支払者が徴税代行を行うという制度そのものと言えるでしょう。税務署としては徴税コストを民間に押し付けられるという大きなメリットがありますから、この制度を今後も手放すことはないでしょう。源泉徴収事務は仕方ないとしても年末調整はどうにかして欲しいものです。2. 年末調整の負担が多すぎる!
12月末までの正確な情報を年内最後の給与支払時までに把握することが難しいからなのでしょう。医療費控除や、ふるさと納税などの寄附金控除は年末調整では計算対象外です。逆に言えば、それ以外は全て年末調整で調整可能です(雑損控除は除く)。このように、給与所得者はできるだけ確定申告をしなくても大丈夫なようにと設計されているのが年末調整制度です。ただし、給与が2000万円超の方は年末調整の対象外です。税務署が個別に把握・補足したい高額所得者と見ているのかも知れません。
年末調整の確認内容を要約すると次のようになります。
・配偶者(特別)控除や扶養控除・障害者控除など、いわゆる人的所得控除を全て確認
・生命保険料控除、地震保険料控除や社会保険料控除、小規模企業共済・ideco・国民年金基金などの支払額を確認
・所得金額調整控除の対象者か否かを確認
・基礎控除に制限がない方かを確認
・住宅ローン控除の有無を確認
このように、いくつもの確認・調整項目があり事務手続きが複雑すぎる!と感じるのは私だけでは無いはずです。3. 基礎控除の確認はナンセンス
基本的には、今後も事務手続きが減るようなことは無いでしょう。年末調整時に行わなければならない事項は増え続けていくと思われます。
特に制度としてナンセンスだと思うのが基礎控除額の確認です。従前、所得税の計算をするときには誰もが基礎控除額を差し引くことができました。これが令和2年分からは控除に制限がかかりました。所得が2400万円以下の方は満額の48万円を控除できますが、2400万円超になると次のように減額されます。
2400万円超2450万円以下・・・基礎控除32万円
2450万円超2500万円以下・・・基礎控除16万円
2500万円超・・・基礎控除0円(適用無し)
例えば、給与収入が1000万円で年末調整を行う必要がある方がいたとします。ただしこの方は、給与以外にも別の所得があるためそれを加算すると所得が2400万円を超える見込みであるとしましょう。この場合、その他の所得状況も踏まえて年末調整を行うのが事務上の取扱いになっているのです。
つまり、勤務先に対して勤務先以外の所得までを伝えなさい。そうすれば正しい税金計算ができるはずだという制度設計をしたのです。現実的に考えれば、勤務先に他の所得状況を正直に答える人がどこまでいるのでしょうか?甚だ疑問です。そもそもこのような方は自ら確定申告を行っていると思われますから、年末調整で把握する必要がどこまであるのでしょうか。お節介すぎる制度だと感じてしまいます。4. 令和6年は定額減税で負担増
今年は岸田首相肝いりの定額減税が行われる予定です。給与がある方は6月以降の給与・賞与から本人分3万円が最低でも差し引かれることになっています。どんなに多額の給料がある方も一旦は控除することになります。しかし、この定額減税は所得制限がありますので、所得が1805万円を超える見込みの方は年末調整時にその分が徴収されます。また、年末調整対象者ではない給与が2000万円超の方は確定申告時に納税させられます。またもや給与支払者の手間を増やす無駄な制度ができたと思ってしまいます。そもそも今回の定額減税は国会の討論でも言われていましたが、給付金として支給すれば良かっただけです。誰かの見栄?で導入された制度に周りが振り回されているだけに見えるのは私だけでしょうか。
5. 簡素でシンプルが一番
そもそも税金は簡素でシンプルが一番のはずです。徴税コストを肩代わりしている会社の事務作業をこれ以上増やさないで欲しいものです。
2024年3月29日
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5381号
不動産賃貸業の法人成り、考え方を整理しよう
まだ法人を活用していない方は、今年こそは!と思っている方もおられることでしょう。個人事業のままか、それとも法人成りするか。どちらが良いかは所得水準が大きな判断ポイントですが、課税体系を踏まえると分かり易くなります。すでに法人を活用している方も再度整理しておきましょう。
1. 個人所有は?
個人で不動産賃貸業を行っていれば、まずは所得税を考えなくてはなりません。所得税の大きな問題は、所得つまり利益が増えると適用税率がすぐに高くなることです。所得税と住民税の合計税率は、所得控除後の所得が695万円超で33.483%、900万円超で43.693%、1800万円超で50.84%です。4000万円超になると55.945%に達します。更に、事業税がかかる方は5%の課税が上乗せされます。1800万円超で五公五民を超えますから、時代が時代なら不満が増えてもはや一揆が起こりそうなレベルです。これでも、昔は最高税率が80%を超えていたときもあったので相当良くなりました。
次に考えるのは相続税です。先ほどとは異なり、相続税では個人所有が有利なことがあります。相続税評価額は、建物は固定資産税評価額、土地は路線価評価額です。取引相場に比べればかなり低い金額で済むので評価差額が生まれます。特に建物新築時は評価差額による相続財産圧縮効果が大きく、これを直接享受できます。(法人所有でも原則同じ評価ですが、影響は間接的です。)また、土地を所有していれば小規模宅地等の特例が使えるため、評価額を更に減額できます。
このように賃貸不動産の個人所有は、所得税では所得が高い方はとても不利になります。一方、相続税では一概に不利とはならず評価面で有利に働きます。2. 法人所有は?
法人で不動産賃貸業を行えば、所得に対する税負担が所得税よりもかなりお得です。法人税・住民税・事業税の合計税率は、所得が800万円以下であれば約25%、800万円超でも約38%で済みます。個人とは最高で20%前後の税率差が生じます。つまり、所得が高い方ほど賃貸不動産は法人所有にした方がお得なのです。また、給与支払いなどを通じて所得分散ができるため、ある程度は所得のコントロールが可能です。また、経費計上面でも個人より有利です。
3. まとめると
所得に対する税、つまりフロー課税である所得税と法人税はどちらが良いか。これは税率構造から見れば、ある程度の所得がある方は法人税に軍配が上がります。つまり、事業活動に対する課税面を考えると法人成りをした方が有利になります。
財産に対する税、つまりストック課税である相続税は不動産の評価面で個人所有の方が有利になります。
おおまかですが、ざっくりとイメージすれば次のような感じでしょうか。
>> 事業を行っている期間を見た場合
⇒ フロー課税は法人所有が有利
>> 相続という一時点だけを見た場合
⇒ ストック課税は個人所有が有利
賃貸建物は個人で建築した方が相続税対策になるから良いというのは、フロー課税の期間が短いであろう高齢者向けです。建築から期間が経過すればその間に利益が蓄積されてしまいます。相続まである程度の期間がある方は、法人活用をした方が結局は良いでしょう。
4. それでは自宅はどう考える
自宅又は事業用の土地については小規模宅地等の特例が使えます。賃貸建物は法人所有であっても、個人が土地を賃貸しているのであれば貸付事業用宅地等に該当し200㎡まで50%引きの対象です。
これに対し、自宅敷地の330㎡まで80%引きの特例は建物が法人所有になっていると対象外です。建物は、被相続人かその親族が所有していなければなりません。したがって、社宅として建物を法人所有にしている場合にはこの特例が利用できません。相続時にはぜひとも自宅敷地の80%引きを活用したい!とお考えの方は相続が発生する前に個人所有に戻しておきましょう。
良いとこ取りをしたいのであれば、元気なうちは社宅にして法人で減価償却費や維持管理費を経費計上します。そして、相続が想定される頃になったら法人から個人へ売却して相続に備えましょう。ただし、相続はいつ起きるのか誰にも分かりません。あくまでもご自身の責任の範囲内で。5. 法人なら健康保険料の節約も可
法人を活用すれば医療に係る社会保険料を抑えることもできます。国民健康保険料は個人の所得水準に応じて徴収されるため、所得が高いとその負担は介護保険料と合わせて年間100万円超になります。しかし、法人からの給与がある方は、給与水準に応じた健康保険料を納めるだけでよいのです。個人の所得がいくらであろうと、月額給与を低めに設定すればその水準の負担で済みます。ちなみに、75歳以上は所得水準による後期高齢者保険の対象になるため75歳未満の方限定の選択肢です。
相続という「点」ではなく、相続までの間の「面」で考えるのであれば、法人は使い勝手が良さそうです。2024年2月29日
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5380号
再開発事業の権利、居住用の3千万円控除は?
自宅を売却した際には税金の計算上いくつかの特例が用意されています。その中でも利用頻度が最も多いと思われるものは、居住用財産の3千万円控除の特例です。自宅が再開発事業の区域内にあった場合には事業にともなって建物が取り壊されてしまいますが、その権利を売却したときはどうなるのでしょう。
1. 再開発事業の権利を売却
駅前の土地などは、有効利用の一環として再開発事業が計画されることが多いでしょう。特に東京都内では盛んに行われている印象です。
このような背景のなか、駅前にある築50年の戸建住宅に住んでいたAさんは、ご多分に漏れず再開発事業の区域に指定されることになりました。そして、このたび権利変換が行われて自宅の建物も取り壊され、建築事業が開始されました。計画では、Aさんは新たに建築される高層マンションの1部屋を取得することができる予定です。新しいマンションに住むことができると最初はとても喜んでいたのですが、マンションの竣工は3年以上先になるとのこと。完成引き渡し後に再度引っ越しをしなければならない煩わしさ、その時の年齢などを後々考え直した結果、Aさんは新しいマンションに住むのをやめることにしました。そして、居住しないならと再開発事業の権利を現時点で第三者に売却して換金することにしたのです。2. 土地建物の譲渡になるの?
Aさんはすでに権利変換を受けた後ですので、現在所有している資産は土地建物そのものではありません。新たに建築されるマンションを取得することが出来る権利を所有しているのであり、正しくは「施設建築物の一部及びその敷地の共有持分を取得する権利」と言われるものです。あくまで権利であり、法的には債権になります。それでは、この権利を売却した場合にはどのように取り扱われるのでしょう。
結論を申し上げれば、この場合は従前に所有していた資産を売却したとして税金計算を行うことになっています。つまり、権利変換前の土地建物を売却したとみなして譲渡所得の計算を行うというわけです。3. 従前が自宅であれば居住用財産でOK
このようにAさんは、税金の計算上は従前所有していた土地建物を売却したことになります。そうすると、自宅の売却になりますから居住用財産の3千万円控除の特例を適用することが可能です。ただし、その売却は従前の建物を居住の用に供さなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに行わなければなりません。それまでの売却であれば、建物は取り壊されて今は存在しなかったとしてもこの特例を利用できます。また、10年超所有していた自宅であれば、税率の軽減特例の適用を受けることも可能です。
4. 売却すべきか否か
旧資産が自宅であり権利変換後に再開発事業の権利を売却するのであれば、住まなくなってから3年以内に行うのが良さそうです。しかし、再開発で取得する新しいマンションの新築竣工後の価格は、比較的高い値段で売買されることが多いでしょう。そうすると、再開発事業中に急いで権利を売却するよりも、待つことが出来るならば新しいマンションを取得して居住した後に売却した方が手取り金額は多くなりそうです。今売るべきか否か。今後の生活設計やお金事情、マンションの相場感なども良く考えて決めるのが良さそうです。
5. 再開発事業の権利の評価は?
再開発事業では、新しい建物が出来上がるまでに長期間を要します。もしも権利変換後の建物建築中に相続が発生した場合には、「施設建築物の一部及びその敷地の共有持分を取得する権利」を評価することになりますが、これは次のような計算になると考えられます。
① 施設建築物の一部を取得する権利
権利変換価額のうち建築施設部分の価額×70%×95%(工事完了まで1年超の場合)
② 敷地の共有持分を取得する権利
再開発事業地(施設建築物の敷地)の路線価評価額×共有持分×95%(工事完了まで1年超の場合)
権利変換価額そのものが評価額ではないのでまだ良いですが、従前の相続税評価額よりは高くなります。事業途中で相続が発生するリスクを回避したい、新しい建物にも魅力を感じない、などであれば権利を売却して早めに資産の組換えを考えるのもアリかもしれません。
6. マンション建替事業も同じ
マンションの建替え等の円滑化法による建替事業で権利変換を受けたときも同様です。建替事業の権利の売却は従前資産の売却として考えます。建替えのための決議要件はこれから緩和されそうですので、再開発だけではなくこれからはマンション建替事業も増えそうです。
2024年1月31日
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5379号
税法って実は古い考え方?家制度的な多くの取扱い!
税法では、その取扱いごとに細かな要件が定められています。特に所得税や相続税では、生計一親族や同居親族などといったキーワードがとても重要になります。実は、税法には家制度的な考え方がまだまだ色濃く残っているのです。今回は、この視点から要件を見てみましょう。
1. 所得税に残る家制度
戦後まもなく家制度は廃止され、戸主を中心とした家督相続の考えは無くなりました。所得税においても、家族を1つと捉えて合算課税するような計算は行いません。あくまで個人単位で課税するのです。現代からすれば至極当然なことでしょう。しかし、税法には古い考え方が一部に残っており、家制度的な取扱いが散見されます。そこで、まずは所得税の取扱いから確認してみます。
事業者が、生計一親族に対して給与や地代などの対価を支払ったとしてもその金額は必要経費になりません。家族内での給与などの支払いを通じて、所得の分散や利益調整ができないようにするためです。ただし、例外として青色専従者給与などに限っては特別に経費計上できることになっています。生計一親族の射程範囲は、実務上は家単位で考えるのがミソです。
1 生計一親族が対象
同じ家に住んでいる家族は、その全員を1つの生活単位と考えます。よって、同居親族は生計一の範疇です。
2 同居は原則生計一
扶養しているか否かは関係ありません。家族それぞれに稼ぎがあり経済的に独立しているから生計一ではないと主張しても、それだけでは認められ ません。寝食を共にしているのであれば基本は1つの家族という考えです。家単位で判断しますので、同居家族は結び付きがとても強いのです。逆に別の家に住んでいると結び付きが弱いため、今度は生計一と主張することが難しくなります。家が違うからです。つまり、生計一にしたければ同居する、生計別にしたければ別居すればよいのです。この関係があれば基本的に税務署は文句を言わないことになっています。
なお、医療費控除や社会保険料控除などの計算も家単位です。同居家族分の支払いをしたのであれば、それは合算して控除可能ですので忘れないようにしましょう。2. 小規模宅地等のポイント
相続税はどうでしょう。家制度の話ですから、自宅の特例である特定居住用宅地等の評価減を見てみます。
自宅敷地の相続税評価額を最大で330㎡まで80%減にできるこの特例、次のように考えるととても分かり易くなります。ポイントはいずれも家族の結び付きです。
1 被相続人の自宅の場合
(ア)配偶者は無条件
民法では夫婦は同居が大前提です。したがって、現実には別居していても配偶者はこの特例を利用できます。
(イ)同居親族は常に対象
被相続人と同居していれば、家族がその家を引き継ぐものとして特例の対象です。別居してしまうと分家したとして対象外です。出戻りして同居すれば対象です。
(ウ)家なし親族
通称、家なき子と言われている方です。配偶者も同居親族もいない場面では、家を引き継ぐ方がいません。そこで、このようなときは別居親族であっても家を引き継いで守ると特例の対象になります。ただし、すでに自分の居宅を所有しているような方は対象外です。分家独立後の家があり、実家を守る可能性が低いからです。
2 生計一親族の自宅の場合
被相続人と生計一の親族は、被相続人と同じ生活単位で暮らしていた方です。そのため、生計一親族が住んでいた自宅敷地も同一視して特例の対象地に含めます。
家制度的に考えるとその生活単位を引き継ぐ必要がありますので、特例が適用できる人は配偶者か、その生計一親族自身です。3. 事業承継税制は隠居
一定の要件を満たす非上場株式を引き継ぐ場合には、相続税と贈与税について納税猶予の特例があります。事業承継税制と言われている制度です。
贈与税の特例は隠居制度をイメージすると良いでしょう。贈与では、代表取締役であった先代経営者は代表者から退いたうえで、株式を贈与しなくてはなりません。引き続き代表者に留まりながら後継者を補佐することは認められないのです。つまり、生前に隠居して家督を引き継がせるイメージです。4. 家制度的な取扱いを賢く使う?
税法では、家制度的な考え方が特に強い部分があります。それは、同居家族を1グループと捉えて制度設計がされることです。譲渡所得においてもこの傾向が見受けられます。同居なのか別居なのか、これにより取扱いがまったく反対になるケースが多いです。それならば、これを上手く利用するのもひとつです。ただし、税金のために引っ越しするのが苦で無ければですが。
2023年12月27日
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5378号
会社を分けて簡易課税を活用!
消費税の計算方法には2種類あることをご存知ですか。原則課税と簡易課税です。どこかでは聞いたことがあることでしょう。この簡易課税による計算、上手に使えばいろいろなメリットがあります。また、新たに始まったインボイス制度への対応でも簡易課税の利用価値があります。
1. 簡易課税のメリット
消費税が課税される売上げ、この売上規模が5000万円以下であれば簡易課税方式によって消費税を計算することができます。ちなみに売上規模の判定は、原則として基準期間という2年前の売上げを用います。
この簡易課税を選択すると消費税の計算が簡単になるばかりではなく、税メリットが生じることが多いです。
例えば、貸店舗や貸事務所などの不動産賃貸業で課税売上げが4400万円(うち消費税400万円)、課税仕入れが880万円(うち消費税80万円)の場合を見てみましょう。
1 原則課税での納税額
売上消費税400万円 - 仕入消費税80万円 = 320万円 ⇒ 320万円の消費税
2 簡易課税での納税額
売上消費税400万円 - 売上消費税400万円 × 40% = 240万円 ⇒ 240万円の消費税
(原則より80万円お得!)
簡易課税では実際の仕入れに係る消費税は計算せず、売上げに係る消費税の何割かを納めるだけです。割合は事業の業種区分ごとに定められていて、不動産賃貸業であれば上記のとおり売上げの40%を差し引いて、残りの60%を納めれば良いのです。
つまり、実際の仕入れに係る消費税よりもこの割合が有利であると得をするわけです。特に不動産賃貸業の場合には、消費税を支払う仕入れが通常は売上げの40%も生じませんので簡易課税の方がお得になるはずです。なお、簡易課税では消費税還付を受けることができないため、多額の修繕費が見込まれるときなどは注意です。2. 簡易課税を利用
簡易課税の方が有利なケースだと分かったら是非利用しましょう。しかし、先ほどのとおり年間売上高が5000万円超の方は利用できません。それならば、売上高を5000万円以下にすれば良いのです。
1 法人の場合なら
会社を分けて売上高5000万円以下の法人を作りましょう。事業を切り分けることになるため現実には難しい面もありますが、不動産賃貸業の場合であれば比較的簡単です。物件ごとに考えればいいですし、もし1物件であるのならばビルを区分所有にしてフロアごとの所有にする、共有にするなどを行えば1社当たり5000万円以下にできるはずです。年間売上高が税込1億円であれば、2社に分ければ良いのです。
2 個人の場合なら
生前贈与をする、一部を法人化する、などをして年間売上高を5000万円以下にできないか探ってみましょう。
いずれにしても、不動産賃貸業の方は他業種に比べて実行し易いはずなので、消費税が課税される売上げが5000万円超の方は検討です。どれくらいの節税ができるのかをあらかじめ試算しましょう。新会社を作ると申告の手間が増えることになるため税理士報酬も増えるのではないかという心配が出てきそうですが、消費税のお得分が勝つのであればWin-Winです。さらに売上げが複数に分散することになりますから、法人税や所得税の観点からも有利に働くことでしょう。3. インボイス制度だって乗り切れる
簡易課税になれば、今話題のインボイス制度への経理対応も必要ありません。
インボイス制度で最も厄介で面倒なことは、原則課税では領収書や請求書などからインボイス登録番号を1つ1つ確認して処理をしなくてはならないことです。簡易課税はそもそも仕入れに係る消費税を計算しませんので、インボイス登録事業者に支払ったかどうかなどは関係ありません。インボイス制度が導入されてもお構いなしというわけです。4. 新会社の設立方法は要検討
会社を分けるのであれば、新会社を兄弟会社とするのか、それとも子会社とするのか。この際ですので、相続時の分割対策も踏まえておくのが良いでしょう。1人に承継させたい不動産であれば子会社を設立する、子ども2人に承継させたいのであれば兄弟会社を設立するという具合です。
また、設立手法には気を配る必要があります。通常通り新たに出資をして会社を設立するのか、それとも会社分割という方法を用いて設立するのか。設立後2年間の免税メリットが取れるか否か等に違いがあります。また、どちらを選択するにしても上手に計画実行しないと免税や簡易課税が利用できなくなる可能性があります。想定していた消費税の節税効果が無くなってしまっては元も子もありません。検討するのであれば税理士へ相談して進めましょう。2023年11月30日