既報のとおり、今年度の税制改正により相続時精算課税制度の使い勝手が向上しました。令和6年の贈与からは110万円の基礎控除が設定されることになったからです。これを機に、相続時精算課税を活用した贈与を考えてみましょう。
1. 相続時精算課税を検討?
いままでは、相続時精算課税を一旦使ってしまうと毎年110万円までの基礎控除枠が無くなってしまう、という大きなデメリットがありました。これが利用を躊躇する理由の1つであったことは間違いないでしょう。
この点について、税制改正により相続時精算課税を利用していたとしても110万円の基礎控除枠が設けられることになりました。令和6年からは、相続時精算課税を利用するか否かで毎年の贈与税の基礎控除に違いが生じなくなるのです。
そこで、この機会に相続時精算課税の利用法を考えてみましょう。暦年課税では贈与税が多額になるので難しかった不動産の贈与も、相続時精算課税を利用すれば上手くいくかもしれません。
2. 賃貸建物の贈与
相続時精算課税を使うのであれば、値上がりしそうなものや収益を生むものを贈与するのが良い!ということは幾度となく伝えているとおりです。そこで、アパートなどの賃貸不動産である土地建物を親が子に贈与するケースを考えます。収益を子に移転することが目的ですから、まずは建物のみの贈与で考えます。
贈与時の賃貸建物の評価額は固定資産税評価額の70%です。建築費に比べると相当低い金額になっているはずです。それでも数千万円の評価額になることもあるので、贈与税のことを考えると暦年課税では難しい場合が多々あります。
そこで相続時精算課税による贈与を活用します。「基礎控除110万円+特別控除2500万円=2610万円」までは贈与税がかかりません。2610万円を超える部分は20%の贈与税が生じますが、相続の際には精算されますので相続税の前払いのようなものです。
贈与を受けた建物の評価額に対して、毎年の収益はどのくらいになりそうですか?この場合、土地は地代ゼロの使用貸借で借り受けるので、子からすれば建物評価額に対する家賃の割合がそのまま利回りになるという見方も出来そうです。贈与税の評価額は建築費の半分以下になるケースが多いので、利回りは10%でしょうか、はたまた20%でしょうか。物件次第では魅力ある贈与になりそうです。
3. 借入金があると難しい
これも以前に伝えていることですのでご存知の方が多いかもしれませんが、借入金付きの賃貸建物の贈与は実務的には要注意です。借入金は当然建物とセットで移さなくてはならないので、借入金の負担を付けた贈与になります。このような場合は、賃貸建物の評価額は固定資産税評価額の70%で計算することが出来ず、時価相当額になります。固定資産税評価額を用いた贈与が出来ないので、贈与のうま味は大幅に減少します。
また、税務上は贈与をした親は引き継がせた借入金額を対価として子に建物を売却したと考えるため、譲渡所得の計算まで登場します。
このように、借入金付きの賃貸建物は贈与にはあまり向いてなさそうです。こんなときは、発想を転換して土地を贈与するのはどうでしょう。
4. 土地の贈与ではどうなる?
土地は建物に比べて評価額が高くなることが多いですが、相続時精算課税を利用するからこそ、また納めた贈与税が相続時に最終精算されるからこそ、土地の贈与が行い易くなります。借入金付きの賃貸建物の敷地が担保提供されていたとしても、土地自体には借入金が付いていないことが多いのではないでしょうか。それならば、この土地を贈与します。賃貸建物の敷地の評価額は貸家建付地となり、路線価評価額×(1-借地権割合×30%)になります。
ここでのポイントは、贈与された土地から収益を得るようにすることです。地代を設定して親から地代収入を得るようにすれば収益物件化できます。地代は借地権課税の問題を回避するため、土地の路線価評価額の約6%、いわゆる相当の地代で設定します。ここでの路線価評価額は、貸家建付地の(1-借地権割合×30%)をする前の自用地評価額で計算します。そうすると利回りは約6%ではなくて、実質的には約7.5%になりそうです。さらに言えば、地代の設定は路線価評価額ではなく土地の時価ベースでも構わないので、もっと高額に設定することも可能です。このように、賃貸建物を贈与せずとも親から子へ収益を移すこともできるのです。
5. 小規模宅地への影響
贈与するのであれば、小規模宅地の特例との兼ね合いも考える必要があります。贈与前の賃貸建物の敷地は、貸付事業用宅地として減額対象になりますが、建物の贈与後はこの特例が利用できなくなる恐れがあります。また、土地を贈与すれば、その土地は当然に対象外です。
つまり、贈与をすると相続税にどう影響するかまで把握しておく必要があります。内容は千差万別ですので、悩むのであれば一度弊社へご相談を。