令和5年10月、いよいよ消費税のインボイス制度が始まります。領収書はどうなるのか?取引慣行は変わるのか?など、新たな制度ですので不安なことも多いことでしょう。世間のうわさでは、インボイス発行事業者にならないと取引先から値下げ要求があるぞ!などとも言われていますが、本当でしょうか。
1. 免税事業者はインボイスを発行できない
まずはインボイス制度の概要をおさらいしておきましょう。ご存知の通り、インボイスは消費税の納税義務がある事業者、いわゆる課税事業者でなければ発行することができません。そして、これからはインボイス発行事業者以外からの仕入れは消費税を支払ったことにならない取引へと変更されます。
例えば、税抜10万円、税込11万円の取引を考えます。インボイス制度導入後も今までと同じ金額で取引を継続することにします。支払代金の総額は11万円です。
① インボイス発行事業者への支払い ・・・ 税抜10万円、消費税1万円の取引
② インボイス発行事業者以外への支払い ・・・ 11万円の取引( 消費税は認識できない)
代金総額は変わらなかったとしても、消費税の処理が異なります。インボイス発行事業者以外、つまりは免税事業者からの仕入取引では、取引先は納める消費税が1万円増加する可能性があります。仕入れの取扱いが激変するということです。そこで、社会への影響を緩和させるため実際には次のような
経過措置が設けられました。
第1期間:制度導入後3年間(令和8年9月30日まで)
上記②⇒税抜10万2000円、消費税8000円の処理可能
第2期間:第1期間後の3年間(令和11年9月30日まで)
上記②⇒税抜10万5000円、消費税5000円の処理可能
2. 免税事業者に取引価格の引き下げ要請!
このように、免税事業者からの仕入れは消費税的には不利になるため、取引の見直しを迫られる可能性があります。
そうだとしても、経過措置があるのでインボイスの影響が完全に現れるのは6年後です。特に3年間は消費税相当として8割を認めてくれます。政府としては、この期間にインボイス対応を考えて下さい、経過措置もあるので取引先は不当に(安易に)取引金額の引き下げ等はしないで下さい、というスタンスです。
それにも関わらず、免税事業者に対して11万円の支払いをしてもこれからは消費税1万円の処理ができなくなる。そのため、その分価格を1万円引き下げて下さいと要請する事業者が出てきています。貸家や駐車場などでも実際にチラホラと耳にするようになりました。
3. 慌てずに対応
免税事業者の方は、課税事業者となってインボイスを発行すべきか否かは世間の様子を見ながら判断したいという方が多いのではないでしょうか。
ところが、実際に取引価格の引き下げ要請があると、今後のこともあるし、相手はうちより大きい会社だからなど、様々な理由からどうしても弱気になりがちです。そして、もう課税事業者になるしかないか、というマインドになります。
でもちょっと待ってください。先ほど見たように経過措置が設けられていますから、消費税全額への影響が生じるのは6年後です。少なくとも3年間は消費税への影響は2割相当のはずです。なんとかならないものでしょうか。
4. まずは交渉すべき
実は、インボイス制度に絡んで取引価格の一方的な引き下げ要請を行うのは独占禁止法や下請法上の違反となっています。特に、6年間は経過措置もあることから消費税相当額の単なる価格引き下げを行ってはいけないとして問題視しています。
そのため、課税事業者にならないのであれば取引価格を引き下げると通告した事業者については、公正取引委員会が注意勧告をしているのです。
双方が協議して納得のうえで取引価格の見直しを行うのであれば良いのですが、一方的な見直しに応じる必要はありません。相手先は独占禁止法上の取扱いを知っていたとしてもわざわざ教えてはくれません。
ルールはどのようになっているかを良く知り、減額要請を単純に受け入れるだけではなく、納得した上での対応を心掛けるべきです。
5. 消費税増でも税効果分を考えてもらう
免税事業者から仕入れを行った事業者は納める消費税が増加する。このことだけを見れば消費税分は確かに損するでしょう。しかしながら、本来は法人税や所得税への税効果(減税効果)も測定しなければナンセンスです。事業者ですから、消費税の負担が増えればそれは経費が増えることになります。つまり、増えた消費税納税分だけ法人税や所得税が減ります。例えば適用税率が30%であれば、1万円の消費税が増加しても事業者全体での税負担影響額は7千円です。経過措置に加えて、ここまで考えたうえで減額要請をしてきたのでしょうか。価格引き下げの話があったら、まずは本当の影響額はどれ程なのかを知ってもらった上で交渉を行うようにしましょう。