来年の令和6年からマンションの相続税評価額の計算方法が大きく変更されます。いわゆるタワマン評価の見直しです。新聞報道等でも大きく取り上げられたことから、既にご存知の方も多いことでしょう。相続税関係で今年一番のホットなこの話題について、その影響を検証してみます。
1. 新たな評価方法
新たな評価方法は、令和6年1月1日以降の相続・遺贈・贈与により取得した財産から適用されます。適用対象は居住用の区分所有財産、いわゆるマンションです。居住用のものに限定されていますから、店舗や事務所などのテナント用途は対象外です。それでは、新たな評価方法はどのような手順で行うのか一応確認しましょう。なお、計算式等は執筆時点における情報によっています。多少変わる可能性がありますが、基本の考え方は次のとおりです。
①いままでの相続税評価額を利用
おそらく、評価方法自体を大幅に変えるのは難しかったのでしょう。新たな評価方法でも、まずは従来通りのマンション評価額を計算します。
②次に市場価格との乖離率(下記2参照)を調整
今回の目的は、相続税評価額が市場価格の60%相当となるように調整を行うことです。しかし、現実には市場価格がいくらなのかを個別判断するのは難しいため、割り切りをしました。具体的には、統計的手法により算定した数値を、評価対象マンションの市場価格との乖離率と仮定したのです。こうすれば、従来のマンション評価額にこの乖離率を掛けるだけで、理論的な市場価格が導き出せます。
【新たなマンション評価の考え方】
従来の相続税評価額×乖離率×0.6=新評価額
⇓これを理論的な市場価格と仮定する
令和6年からのマンション評価額は、理論的な市場価格の60%相当になると見立てた上記計算式により評価します。したがって、乖離率の数値が大きくなればなるほど、新たなマンション評価額は増加していきます。
ちなみに乖離率が約1.666以下の場合は、すでに市場価格の60%水準以上に達していることになります。そのため、今回は説明を割愛しますが上記計算式は利用しません。
2. 乖離率の計算式
今後はどのようになりそうか。新しい評価の肝は乖離率ですので、内容を確認しましょう。
乖離率 = 築年数×△0.033+総階数/33(1.0超は1.0)×0.239 + 所在階×0.018 +敷地利用権面積/専有面積×△1.195 + 3.220
小難しい計算式ですが、ポイントは黄色でマーカーした4つの指標を見れば良いのです。乖離率が大きくなる、つまり相続税評価額がより増加するのは次のような物件です。
①築年数が浅い、②総階数が高い、③所在階が高層、④敷地利用権面積/専有面積が小さい(容積率が大きい高層マンション)
3. 調整の限界値は2.5倍?
それでは、「乖離率×0.6」は最大でどれくらいになりそうか?検証してみました。
新築の高層マンションで所在階は50階、50㎡の専有床面積に対して敷地利用権はたった1㎡と仮定します。(容積率的に考えると5000%なので有り得ないと思いますが)この前提で計算したところ、「乖離率×0.6=約2.58」となりました。つまり、評価額が増加したとしても従来の相続税評価額の2.5倍が限界と言えるでしょう。
実際にいくつか計算をしてみましたが、ほとんどの物件はおおよそ2倍前後になりました。
4.影響実例を見る
① 都内のタワーマンション
築年数14年、43階建ての6階に所在する部屋は約1.80倍になりました。
・実際の市場価格 約1億3000万円 ・従来の相続税評価額 約1750万円(約13.4%) ・新たな相続税評価額 約3200万円(約24.6%) |
② 大阪のタワーマンション
築年数3年、42階建ての16階に所在する部屋は約2.09倍になりました。
・実際の市場価格 約6200万円 ・従来の相続税評価額 約1670万円(約26.9%) ・新たな相続税評価額 約3500万円(約56.4%) |
③ 都内のマンション(タワーマンション以外)
築年数7年、6階建ての5階に所在する部屋は約1.53倍になりました。
・実際の市場価格 約9800万円 ・従来の相続税評価額 約2600万円(約26.5%) ・新たな相続税評価額 約4000万円(約40.8%) |
5. 物件選びが益々重要
上記実例をみると傾向が良く分かります。タワーマンションは評価額が増加しますが、①都内のタワーマンションはそもそもの価格が高すぎるためか、調整をしても市場価格のまだ25%程度です。しかし、②大阪の物件は56%となり目論見通り60%相当になりました。③はタワーマンション以外ですが40%水準となり大きな影響を受けてしまいました。つまり、実際の影響度は物件次第なのです。今後は物件選びが益々重要になるでしょう。