自宅を売却した際には税金の計算上いくつかの特例が用意されています。その中でも利用頻度が最も多いと思われるものは、居住用財産の3千万円控除の特例です。自宅が再開発事業の区域内にあった場合には事業にともなって建物が取り壊されてしまいますが、その権利を売却したときはどうなるのでしょう。
1. 再開発事業の権利を売却
駅前の土地などは、有効利用の一環として再開発事業が計画されることが多いでしょう。特に東京都内では盛んに行われている印象です。
このような背景のなか、駅前にある築50年の戸建住宅に住んでいたAさんは、ご多分に漏れず再開発事業の区域に指定されることになりました。そして、このたび権利変換が行われて自宅の建物も取り壊され、建築事業が開始されました。計画では、Aさんは新たに建築される高層マンションの1部屋を取得することができる予定です。新しいマンションに住むことができると最初はとても喜んでいたのですが、マンションの竣工は3年以上先になるとのこと。完成引き渡し後に再度引っ越しをしなければならない煩わしさ、その時の年齢などを後々考え直した結果、Aさんは新しいマンションに住むのをやめることにしました。そして、居住しないならと再開発事業の権利を現時点で第三者に売却して換金することにしたのです。
2. 土地建物の譲渡になるの?
Aさんはすでに権利変換を受けた後ですので、現在所有している資産は土地建物そのものではありません。新たに建築されるマンションを取得することが出来る権利を所有しているのであり、正しくは「施設建築物の一部及びその敷地の共有持分を取得する権利」と言われるものです。あくまで権利であり、法的には債権になります。それでは、この権利を売却した場合にはどのように取り扱われるのでしょう。
結論を申し上げれば、この場合は従前に所有していた資産を売却したとして税金計算を行うことになっています。つまり、権利変換前の土地建物を売却したとみなして譲渡所得の計算を行うというわけです。
3. 従前が自宅であれば居住用財産でOK
このようにAさんは、税金の計算上は従前所有していた土地建物を売却したことになります。そうすると、自宅の売却になりますから居住用財産の3千万円控除の特例を適用することが可能です。ただし、その売却は従前の建物を居住の用に供さなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに行わなければなりません。それまでの売却であれば、建物は取り壊されて今は存在しなかったとしてもこの特例を利用できます。また、10年超所有していた自宅であれば、税率の軽減特例の適用を受けることも可能です。
4. 売却すべきか否か
旧資産が自宅であり権利変換後に再開発事業の権利を売却するのであれば、住まなくなってから3年以内に行うのが良さそうです。しかし、再開発で取得する新しいマンションの新築竣工後の価格は、比較的高い値段で売買されることが多いでしょう。そうすると、再開発事業中に急いで権利を売却するよりも、待つことが出来るならば新しいマンションを取得して居住した後に売却した方が手取り金額は多くなりそうです。今売るべきか否か。今後の生活設計やお金事情、マンションの相場感なども良く考えて決めるのが良さそうです。
5. 再開発事業の権利の評価は?
再開発事業では、新しい建物が出来上がるまでに長期間を要します。もしも権利変換後の建物建築中に相続が発生した場合には、「施設建築物の一部及びその敷地の共有持分を取得する権利」を評価することになりますが、これは次のような計算になると考えられます。
① 施設建築物の一部を取得する権利
権利変換価額のうち建築施設部分の価額×70%×95%(工事完了まで1年超の場合)
② 敷地の共有持分を取得する権利
再開発事業地(施設建築物の敷地)の路線価評価額×共有持分×95%(工事完了まで1年超の場合)
権利変換価額そのものが評価額ではないのでまだ良いですが、従前の相続税評価額よりは高くなります。事業途中で相続が発生するリスクを回避したい、新しい建物にも魅力を感じない、などであれば権利を売却して早めに資産の組換えを考えるのもアリかもしれません。
6. マンション建替事業も同じ
マンションの建替え等の円滑化法による建替事業で権利変換を受けたときも同様です。建替事業の権利の売却は従前資産の売却として考えます。建替えのための決議要件はこれから緩和されそうですので、再開発だけではなくこれからはマンション建替事業も増えそうです。