贈与税は基礎控除が110万円あるため、この金額までは税金が生じず実質非課税のようなものです。そして、この基礎控除110万円の計算を利用した贈与の事を、一般的には暦年課税贈与といいます。この暦年課税贈与、最近ちらほらと制度が無くなりそうだという噂が流れていますが、真相はいかほどでしょう。
1.贈与に対する課税制度
個人間の贈与に対する課税制度には、(1)暦年課税贈与と(2)相続時精算課税贈与の2つの方法があります。暦年課税贈与は1月1日から12月31日までの1年間の贈与、これを暦年贈与といいますが、この間に贈与を受けた金額を合計して税額計算する方法です。それぞれの年ごとに税の精算をするため、贈与した金額は1年ごとに切り離されていくようなイメージでしょうか。これに対して相続時精算課税贈与は、生前贈与分を相続時に取り込み合算して相続税を計算するものです。そのため、相続税と贈与税を一本化した制度であり、生前贈与によって切り離しをすることはできません。また、相続とセットで考えるため、贈与を行う人と受ける人ごとにこの制度を利用するかどうかを選択します。なお、相続時精算課税贈与を1回でも選択してしまうと、その贈与者からの贈与について暦年課税贈与を利用することができなくなりますので注意しましょう。
2.税制改正の動向
このように贈与についての課税制度を見比べてみると、相続財産を減らすという側面では、暦年課税贈与が優れているわけです。
ところが、この暦年課税贈与を利用して富裕層が相続税の負担を回避していることが問題視されており、メスが入りそうです。令和3年度の税制改正大綱では、「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて・・・中立的な税制の構築に向けて本格的な検討を進める」とされています。ちなみに、この話題は前々から言われており、何も令和3年度に始まったものではありません。令和2年度の大綱にも似たような記述があります。いずれにしても、見直しの検討をしているということです。
3.諸外国はどうなっている?
諸外国の制度は実際にはどのようになっているのでしょう。
アメリカでは、遺産税と言って被相続人の遺産全体を対象にしており、生前贈与は全て相続時に取り込まれます。生前贈与による切り離しができないため、完全なる相続時精算課税制度という感じでしょうか。とても厳しく見えるのですが実はカラクリがあり、基礎控除がなんと約10億円あります。そういう意味では、基礎控除が3000万円程度の日本と単純に比較するのはナンセンスなのだと分かるでしょう。ドイツやフランスはどうでしょう。日本では、暦年課税贈与であっても相続開始前の3年間は相続税に合算されます。これに対して生前贈与の合算対象は、ドイツは10年、フランスは15年となっています。これらからすると、すぐに暦年課税贈与を無くすのではなく、まずは生前贈与の合算対象とする年数を伸ばすのが現実的な落としどころではないでしょうか。個人的な予想ですが、暦年贈与の相続税への合算年数を5~10年程へと延長させるのではと思うところです。
4.暦年課税贈与を活用しよう
生前贈与を行って財産を切り離し、相続財産を減少させることができるのが暦年課税贈与です。見直しの検討がされているとはいえ、現時点ではお手軽に利用することができる制度です。毎年使うことができますので、複数人を対象に、かつ何年間も続ければ、その効果は雪だるま式に増えていくことでしょう。
そして、暦年課税贈与を利用するのであれば、あとで税務署から疑義を持たれないように、贈与の事実をしっかりと残しておくことがポイントです。金銭であれば贈与先へ振り込みを行って、その事実を残しましょう。当然ですが、贈与を受ければそれは受けた人のお金です。その通帳は自分で管理するようにして下さい。たまに、贈与者が振込先通帳を管理していることがありますが、これでは税務署から贈与の事実自体に疑いを持たれてしまいます。あくまで自分のものは自分で管理をするということです。また、できれば贈与契約書を作成しておくのが後々のトラブル回避にもつながります。
5.相続税を意識すればお得になる!
相続税は累進税率を採用しており、相続財産が多ければ多いほど適用される税率が高くなります。例えば、相続税に適用される税率が40%まで達している方がいるとしましょう。相続税を減らしたいのであれば、この40%より低い贈与税率となるように暦年課税贈与を利用すれば良い訳です。相続税の試算を行って、適用される税率をしっかりと予想したうえで、暦年贈与を行う、これが賢い活用方法です。
6.いまからでも遅くない
さてさて、暦年課税贈与が改正されるとしてもそれは数年先かもしれません。また、マイナンバーも普及半ばである現実を考えると、改正内容は生前贈与の合算年数を延長させる程度ではないでしょうか。詳細はそのときにならなければ分かりませんが、いまメリットがある方は暦年課税贈与を利用して損があることはありません。
まだ利用していない方は、考える良いきっかけでしょう。暦年課税贈与の肝は、「ご利用は計画的に」です。