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COLUMN

TOPATO通信税理士も損害賠償の対象です 5109号

ATO通信

5109号

2001年6月29日

高木 康裕

税理士も損害賠償の対象です

今回のテーマ、税理士である筆者にとっては、身につまされると言うか、何とも重苦しく悩ましいテーマです。ズバリ税理士の損害賠償責任。勿論、本音で迫ります。


1.税理士も人間です

税理士なる職業、いうまでもなくお客様から報酬を頂戴して生計を立てているのです。決して税務署から適正納税協力金を頂いている訳ではありません。 とは言うものの、建前上は『納税義務の適正な実現を図る』責務を負っている立場。脱税をお客様から頼まれれば、それを断るのは、なかなか勇気のいるものです。繰り返します。報酬を頂戴しているのはお客様からであって、税務署ではないのです。 良くないことと知りつつ協力した税理士の後始末が今回のテーマなのです。


2.当社の脱税に対する取り組み方

脱税を頼まれること、残念ながら時にはございます。当社の場合、バレた時のリスク、加算税、延滞税等の費用負担を総てお話しします。それでもと言われれば、これらの事を説明した旨を書類に残し、お客様にお渡しをします。当社の責任は皆無とは言わないまでも、ご依頼に従って書類を作成した事は明記します。決して積極的に荷担は出来ませんし、税理士としての署名・押印は致しません。考えてみれば当然で、僅かな報酬でこちらまで手が後ろに回っては、たまったものではないからです。(僅かでない時はどうしましょう?)


3.事案の概要

ある税理士が関与先の社長から、期末の売り上げの繰延べを頼まれました。本来今期末にあげるべき所、翌期のものとして処理をし、今期の税金を少なくしようとするためです。 よくある話で、期間をずらしただけと言えば、そのとおりではあるのですが、税務上は認められません。こんな事が数年続く内、つまり、毎期毎期売上げの繰延べをする中で、利益率が異常なものになってしまったのです。業種により、その利幅は概ね一定しているもの。それが極端な繰り延べをすれば、利益率が異常なものになるのも当然です。 ただ、社長に断りもなく、仕入れ金額まで調整してしまったのはちょっとやり過ぎ?税理士のミスまで重なって、大幅な利益調整をして(つまり脱税)申告書を作成したのです。 同業者の肩を持つわけではありませんが、一カ所ごまかすと、次々と辻褄合わせが必要なのも事実です。調査に選定されないようにとの彼の気持ちは痛い程理解できます。 一方、社長は内容を検討もせず、言われるままに署名押印。 さて、案の定、税務調査となりました。 税理士としての気遣いだったのでしょう。税務署に指摘される以前に、具体的な脱税の手口を記した上申書を作成し、社長に提出を勧めました。これで調査は終わるからと言われ、社長も渋々上申書に署名です。が、これで終わるほど税務署は甘くはない!通常、法人の調査は3年分です。が、税務署は相当な悪者と判断したのでしょう。あろう事か7年分も修正しろと言って来たのです。この時、社長は初めて事の真相を知ることに!


4.税理士の損害賠償責任

さて、脱税をした場合、差額の本税の他、重加算税と言う罰金が課されます。税理士が勝手に作成した申告書の内、社長の知らない部分はこれが免除されるかと言えば、答はNO。重加算税がしっかりかかってしまうのです。対税務署上、総ての責任は署名した社長にあり、が大原則。 元々悪いのは社長でも、税理士の対応に怒り心頭、どうにも収まりません。税理士の首を切り、当社に御鉢が…。嫌な役回りです。税理士に対して、どんな手段が講じられるか、ご質問を受ける羽目に。相応分の損害賠償のご説明をしながら、我身に置き換えると複雑な心境でした。ただ、このケースの様なことでお困りのお客様に対し、税務署との交渉をし、解決していくことも税理士としての仕事。お客様の結論はミスの分と税理士の勝手な操作分の請求です。 不名誉な話ですが、税理士に対する損害賠償は年々増加の一途。そんな不測の事態に備えるべく、税理士損害賠償保険があり、我々業界の常識になっている程です。 脱税のお手伝いは今後もしないつもりですが、ミスは本当に怖いもの。色々な言葉が脳裏をかすめます。明日は我が身、他山の石、月夜の晩ばかりではない、盛者必衰…。 でも、最後は決まってお気楽ムード、褌(ふんどし)ならぬパンツのゴムを引き締めて、ミスのないよう仕事仕事!

※執筆時点の法令に基づいております