一般の方にはちょっとご理解が難しいことかもしれません。税理士の税務署に対する対応です。お客様の中には、税理士は何かあった時に税務署と対峙し戦ってくれることを期待している方も多いはず。一方で、実際の税務調査の際、税務署の言いなりになり、一体お客様と税務署、どっちの味方なんだ、と税理士を疑った経験をなさった方もいるようです。税理士と税務署、対応をめぐってこの不思議な関係にスポットを当ててみました。
1.税理士になるには
先ずはどうすれば税理士になれるのか、をご理解頂きたいと思います。基本的には税法3科目(所得税法又は法人税法のいずれかは必須)と簿記論、財務諸表論と言う会計科目2科目の計5科目を、1科目ずつでも良いので何年掛けてでも合格することです。これで税理士になった人達を”試験組”と呼んでいます。実は次が曲者で、税務署に何年か勤続すると”ほぼ”自動的に税理士になれてしまう制度があるのです。配属先にもよりますが、所得税や法人税等の課税部門なら10年で最難関の税法が総て免除。若干の研修を受ければ、20数年の勤続で税理士資格を得られる仕組みです。これが悪名高き(?)”OB税理士”。
2.同じ税理士でも…
どんな経緯で税理士になったって、税理士は税理士だろ、と言うご意見もあるでしょう。一見、仰せごもっともなのですが、これが大きな間違いで両者には決定的な相違があるのです。まず、試験組は勉強をしながら税理士事務所に勤め、実務を習得していきます。お客様からどんな資料を預かればよいか、どんな手順で決算を組み申告書を作成するかを、先輩から教えを乞いながら身に付けていくのです。言ってみれば、お客様側に立っての実務経験です。一方のOB税理士ですが、筆者のような僅かな税務署経験だけでドロップアウトするのは極わずか。大半は定年までじっと我慢で、憧れの税務署長を夢見てがんばるのです。定年後は退職金と年金で生計を立て、暇つぶし(?)に先輩のOB税理士事務所に税理士として勤務する方も多いのです。それこそかつては一定以上の要職を務めれば、退職後は当局が顧問先まで紹介してくれた時代もあったのです。
3.両者の相違点
同じ税理士で何が違うか、それは目線の置き方です。試験組は独立したら、とにかく食べていくのに必死です。必然的にお客様に寄り添い、100%お客様目線で仕事をすることが多いでしょう。それに引き替えOB組。特に税務署長まで経験してしまうと、もちろん全員ではありませんが、それでもお役所の体質が骨の髄まで浸み込み、身に付いています。上から目線で退職後いつまでも税務署の味方をする人も多いのです。彼らに今どき税務署への口利き、影響力など期待できませんが。ただ、実務を通じての理論派が多いのも事実。
4.税務調査での対応は?
税務署への対応の差が決定的に表に出るのが税務調査で、3通りの対応が見て取れます。先ず試験組。これはその税理士の性格もあるのでしょうが、処世術を勘案して更に2通りに分かれます。一つは税務署を敵視し、何が何でもお客様の味方。税務署との論争もいとわず、持論を展開していきます。が、惜しむらく税務署の内情を知りません。頼もしいのですが、引き際を間違ったり、税務署を甘く見て大やけどをするリスクをはらんでいます。二つ目は税務調査は必要悪と心得て、とにかく早く調査を終わらせることに必死のタイプ。自分のミスが明らかになったり、お客様の信頼を失うことを何よりも恐れています。自信のなさも手伝って、税務署が主張する多少の無理も聞き入れ、お客様に妥協を迫ります。あまり頼りにはならないタイプ。そして最後がOB組。これはもう言わずもがなで、税務署サマサマ。自らもかつては税務署側との考え方が抜けきれず、何でも税務署に同調し税務署に平身低頭。どちらを向いて仕事をしているのか分からない人もいる程です。
5.税理士本来の使命は?
基本的に税理士は税務署と敢えて喧嘩はしたくないと思っています。税理士自身も個人であれ、税理士法人であれ、税務調査の対象にはなり得る訳で、睨まれることを望んでいる税理士など皆無です。しかし、平成も終わったこの時代、税理士本来の使命は適正な税務行政の実現に関与することでしょう。税務署だって所詮人間がやることです。間違いがないとは言えませんし、それは申告をするお客様も同様です。その橋渡しをし、双方が納得する形で100兆円を超える予算実現のため、徴税を確保できるようにするのが、最終的な姿でしょうか。と、ここまで来て、いよいよ本題です。ではどの税理士がいいのか?とても自分の口からは申し上げられません。ただ言えること、税務署との喧嘩の仕方を熟知し、適正な税務知識を備えている税理士、となるのでしょうか。試験組もOB組も、とにかく税理士が多数在籍するどこぞの税理士法人がベスト?答えはお客様のみが…。