相続がおこり、財産分けをめぐって親族間で血みどろの戦い、よくあるケースです。双方弁護士を立てて争うのは珍しくないにせよ、そんな時、相続税の申告書は別々に提出するのでしょうか?
同一の相続をめぐって内容の異なる複数の申告書、なんて事態が実際にあり得るのでしょうか?“争族”にまつわる税理士同士の熱い(?)戦いが本日のテーマ、お客様のご了解を頂いた上でのご紹介です。
1.相続人(?)がもう一人いた!
母が死に、数年後父が後を追いました。一人娘のΑ子さん、父親名義の土地200坪を何の疑いもなく、自分名義に変えようとしていた矢先です。同じ敷地内に住む叔父が公正証書になった『死因贈与契約書』を突き出しました。見れば、叔父の住む敷地部分、父が亡くなったら叔父に贈与すると言う内容です。この死因贈与契約書、遺言書みたいなものと考えて頂ければよいでしょう。 日頃不仲の二人です。当事者同士で直接話し合うこともなく、手続きはたんたんと進みます。 が、最後に相続税の申告の段になってひと騒動。通常、相続税の申告書は相続人全員が同一の申告書にそれぞれ署名捺印をして提出です。全部でどれ程の財産があり、誰が何を相続したか、一目で分かる仕組みです。Α子さんに代わり当方で叔父さんに申告の説明をしたものの、聞く耳持たずの状況でした。そこで申告書はΑ子さんだけの署名捺印で提出です。この場合、叔父さんだけが無申告の状態ですが、第一義的にはΑ子さんには何の責任もありません。果たしてその後、叔父さん側の税理士から当方に連絡が入りました。 こんな場合、先方の税理士もやり難いに違いありません。先方に資料はなく、計算のやりようもないからです。結果的にはΑ子さんの了解のもと、当方の申告書をコピーし、税理士の名前だけが違う同一の申告書を提出して一件落着。 素朴な疑問が残ります。あの税理士は何の計算もせず、コピーだけをして、いくらの申告書作成報酬を頂いたのでしょうか?
2.財産が解らないまま、相続税の申告!
前妻の子と後妻が相続人のケースです。後妻は財産の全貌を明らかにせず、財産の分割協議は当初よりドロ沼に。相続税の申告書も後妻は勝手に単独で提出です。困ったのは前妻の子、財産が解らないまま申告期限が近づきます。しかし、もっと困ったのは、その申告を依頼された当方です。先方の税理士は情報を提供してくれる筈もなく、解っている不動産だけでとりあえず申告。こんな場合、同じ被相続人について、異なる申告書が提出されるわけで、税務署も黙っているわけがありません。税務調査になれば、嫌でも財産の全貌が明らかになるため、むしろ早く税務署が来ることを期待さえしていたのです。双方弁護士を立て長期戦の様相でしたが、その後消息は不明です。税務調査になったら、どちらの税理士が立ち会うのか、その心配も杞憂に終わりそうです。
3.コピーで人助けも、情けは人のためならず
分割争いが決着せず、数年にわたって共有状態になっている事案です。これまた双方とも弁護士を立てて争う中、解決の糸口が何となく見え始めた頃、税務面のご相談を賜りました。当方より大がかりな交換を提案し、何とか話はまとまったのです。 さて、話が決まれば、あとは“交換”に係る税務の申告です。勿論相手方にも税理士はいるのですが、そもそもの提案、試算は総て当方です。膨大な資料を整理した上で、先方の税理士に面談することに。と言うのは、交換の申告、相手方と当方は同じ内容になるはずです。そこで、双方の申告に辻褄合わせが必要なのです。 弁護士の世界と違い、税理士同士で話し合うことなど非常に珍しいことではあるのです。当方から資料に基づきご説明したところ、『その資料、そのままコピーして申告してもいいですか?』『???』当方も膨大な時間をかけ、精密な検討を加えて作成した資料です。それを単にコピーをし、他人の褌で相撲ならぬ申告書の作成を行うとは……。ただ、これなら双方同内容の申告になり、税務署に文句を言われることはありません。結局は当方のためにもなることです。それに、今回は当方の提案でしたが、先方の提案にこちらが載せて頂くことだってあり得ます。『結構です』の快諾に先方はニッコリでした。
ただ、またまた素朴な疑問が残ります。あの税理士は何の計算もせず、コピーだけをして、いくらの申告書作成報酬を頂いたのでしょうか?賃貸物件を建築することは、相続対策として昔からつとに有名です。確かに採算さえ合えば、税務上有利なことではあるのです。問題は建築をする、しないの決断の時期というかタイミング。 意外な落とし穴もあるので注意が必要です。