人と人との関わりの中で、いわゆる交際費は重要な位置を占めています。とりわけビジネスの世界では、これの使い方一つでその後の展開は大きく変わることだってあり得る話。しかし、この”交際費”、個人と法人とでは税務の取扱いには大きな相違があるのです。そして、同じ法人でも大法人と中小法人では、若干の差が。と言うことで、今月のお品物は”交際費”です。
1.個人事業者は使い放題!
結論から先に言うと、何が何でも交際費を沢山使いたい方には、個人事業を立ち上げることをお勧めします。支払いの事実があり、事業に関連性があれば、金額的な制限はありません。ことの是非はともかく、金額的な面では文字どおり青天井の世界なのです。
但し、ここで言う個人事業とは、小売業や製造業等の額に汗する業態の事。不動産貸付業はたとえどんなに規模が大きくても、青天井の恩典はありません。何故なのでしょう。誤解を恐れずに言ってしまえば、税務署はいわゆる不労所得が嫌いだからです。所得税の条文にそんな事は書いてありませんが、額に汗した人にはそれなりの事を認めましょう、そんな考え方なのです。
税務署的には、不動産所得と言うものは、言ってみれば働かずに楽をしている不労所得。そのため、収入に対して厳格な関連性を必要経費に求めているのです。”ヒモ付き”と言う言い方をしますが、そんな世界観なのです。
所得税に限りませんが、筆者には相続税を含め個人に対する課税には、一種浪花節的な考え方があるように思えて仕方ありません。例えば、相続税で自宅に認められる80%引きの小規模宅地の評価減。原則として、配偶者か同居の親族が相続した時に認められる特例です。配偶者はともかく、『同居』が重視され、同居=親孝行、だからこそ80%も評価額を減額してやろうと言うお情け的な考え方があるのも事実。
話を不動産所得に戻せば、ほとんど交際費は認められない、と思って頂いてもいいでしょう。
2.それが法人になるだけで…
例えば、既存の賃貸物件を法人に売却し、従来の不動産収入が法人に帰属することになったとします。本来は法人の貸付事業と関連性がなければ、勿論法人が支出した交際費は、法人の経費とはなりません。が、現実には領収証があれば、交際費となる事が多いようです。個人と異なり、法人の活動は基本的には法人の業務のために行われると言う前提があるためです。実務的には個人の不動産所得のような”ヒモ付き”理論は存在しないのです。
3.大法人と中小法人の取扱いに差
その代わりと言ってはナンですが、法人の交際費には金額的な制約が課される場合があります。法人と言っても資本金や出資金が1億円超の大法人と、1億円以下の中小法人とで取扱いが若干異なります。
まず、中小法人においては、定額控除限度額と言って、年間800万円までの交際費が認められる制度があります。逆の言い方をすれば、これを超える交際費は経費になりません。そのため、交際費を使う法人としても、800万円までなら何に使っても良かろうと思っているフシがあります。税務署もそれを黙認しているのが実態と言っていいかも知れません。
但し、言うまでもなく、社長が銀座のクラブにご贔屓のホステスができ、夜な夜な一人で通っても、それは交際費にはなりません。理論的には社長に対する賞与となり、法人の経費には算入ができないのです。
また、大法人と中小法人の両者に共通する扱いとして、交際費の内、”接待飲食費”の半分までは金額の制限なく経費として認められる制度があります。これはあくまでも接待のための飲食費であるため、役員や従業員等だけの内部での飲食はこれに当たりません。これらは通常の交際費であったり、福利厚生費、会議費等になるでしょう。あくまでも、社外の人間の存在が不可欠なのです。中小法人が800万円までの定額控除限度額制度を選択するか、”接待飲食費”の半分までを経費とする制度を選択するかは、”接待飲食費”が1,600万円を超えるか否かで判断することになるでしょう。1,600万円を超えるなら、その金額の50%を経費とする扱いが有利でしょうし、超えないなら定額控除を選ぶのが賢明な選択です。
4.5,000円基準は生きている
なお、これも必ず社外の人間がいることが必須ですが、一定条件付きの一人当たり5,000円までの接待飲食費については、従来通り”会議費”等で経費となります。本来は交際費でしょうが、その程度は総額の規制のある交際費でなく、一般の経費として認めてやろうと言うお上のご配慮。総じて法人税は社内の人間との付き合いには厳格な姿勢が垣間見られます。慣れあいを許さず、浪花節が通用する世界ではないのです。