『等価交換』と言う言葉、今ではすっかり市民権を得たものと言っていいでしょう。土地活用の一つとして、有用な方法だろうと思います。資産税を日々の業務とする税理士の目から見ても、お勧めできる手法だと推奨もできます。
しかし、手法としては優れていても、重要な税務上の問題点を含んでいるのです。安易な場当たり的な節税に目がくらんでしまうと、とんだ落とし穴が待っているのです。等価交換の税務の知識を身に付け、それを理解した上で”正しい”土地活用をしたいものです。
1.そもそも等価交換とは?
先ずは等価交換の仕組みから確認をしておきましょう。土地をお持ちの地主さんがいます。ここに土地活用として賃貸物件を建てようとすると、莫大な建築資金が必要です。借入が必要な場合もあるでしょう。基本的には建築資金が不足していても、資金なしで建物を建築できる仕組みが等価交換だと言っていいでしょう。
但し、タダで建物を建ててくれるお人好しが世の中にいる筈もありません。土地の一部をディベロッパー(以下、デベと言います)に売却し、そのお金で、建物代金を支払い、同じ敷地に共同で建物を建てるのです。一棟の建物を建築し、デベと建物をシェアーすると考えればいいでしょう。
デベとの共同作業で事業を進める方法で、これなら資金の心配はいりません。
2.税務上の考え方
ここで、先ずはこの手法を税務の観点から考えてみましょう。土地の一部を売却し、そのお金で建物を建てた訳で、現金は全く動いていません。土地が建物に変わっただけの話です。しかし、たとえお金が動いていなくても、税務は土地の売却に着目します。先祖伝来の土地を売却したのです。昔は100万円の土地が、今の貨幣価値では5億円だとしましょう。地主さん分の建物建築費が2億5,000万円なら、土地の半分を売却し、その資金が建物になったと考えるのです。原価50万円の土地を2億5,000万円で売却し、その2億5,000万円で建物を建築したと考えるのが税務なのです。つまり、この土地の売却で2億4,950万円が儲かったと考える訳です。そのお金で何を買っても、そんな事は税務では与り知らぬ話なのです。土地を5年超お持ちであれば、これに20%強の分離課税の税金が掛るのです。
3.税務の原則を無理やり曲げた特例
資金が要らずに建物が建てられる、こんな良い手法がと喜んでも、結局20%強の税金を用意するのでは、その分建物を取得できる面積は減ってしまいます。そこで税務の原則を無理やり曲げて、特例が用意されました。一定の要件を満たした場合には、お金が動いていない事実に着目し、税金を掛けないことにしたのです。
この特例を適用するための詳細な要件は省きますが、(1)土地が東京、大阪等一定規模以上の場所にあり(2)売却した土地等と同一敷地内に(3)3階以上の耐火構造建物を建築し(4)建物全体の1/2以上が住宅であること等となっています。決して難しい条件ではないので、使い勝手はいいでしょう。
この例では土地の半分が建物に変わっていますが、その結果、相続税の評価は激減すると言うオマケが付いてきます。これも詳述はできませんが、路線価による土地の評価より、固定資産税評価額に基づく建物評価が有利になっているためです。
4.特例適用後に問題が…
土地の売却時に税金が生じないのはいいのですが、問題はその後なのです。先の例では建物代金は2億5,000万円です。本来、賃貸建物であれば、この金額を基に建物の減価償却を行っていくはずです。しかし、土地の売却時に税金を掛けない代わり、この減価償却のもとになる金額を、売却前の土地の値段に抑えられてしまうのです。つまり、50万円しか減価償却ができないのです。
すると、どうなるのでしょう。個人の不動産所得の経費の中で、大きな割合を占める減価償却費がほとんど0円の状態になってしまうのです。経費がないと言う事は、利益が過大で税負担が増えることを意味しています。それも何十年の長期にわたり、です。
5.特例を使わずに等価交換
それでは、どうすればいいのでしょうか。優れた等価交換の手法は活用しつつ、税務上の特例は適用しなければいいのです。つまり、税務の上では単純に土地を売却し、20%強の税金を支払うのです。そうすれば、減価償却は2億5,000万円がスタートとなり、不動産所得も激減です。一時の20%強の税金を覚悟すれば、平成27年以降の最大55%強の個人の税負担は大幅に軽減できるのです。土地の売却時に税金は1円も掛りませんよ、と言う甘い罠にはまらず、相応の税金を覚悟することが必要です。相続税対策として、生前に贈与をし、贈与税を支払う事と、何もせずに高額な相続税を支払うのと、どちらが得かと言う話と基本的には同じ発想で、損して得取れ、なのです。