読者の皆さんの中には、いわゆる同族会社の役員の方も多い事でしょう。役員としての給与はご自分で決めるケースもあると思いますが、一般のサラリーマンの方から見れば、何とも羨ましいご身分です。しかし、法人税法の規定では、役員だからと言って不相当に高額な部分は経費として認めては貰えません。では何が不相当に高額なのか、税務署はどんな目で見ているのか、実務での実態を確認してみましょう。
1.法人を作る最大の目的は所得の分散!
筆者もこの期に及んで綺麗事を言う積りはありません。税理士として正直に申し上げれば、個人から法人成りをする最大の目的は所得の分散です。小売業や製造業はもとより、不動産所得であっても、建物の所有型法人を作る事により、個人の所得を法人に移転させる事は可能です。移転後は法人の所得を役員報酬として複数の親族である役員に分散させることが可能に。その結果、超過累進税率の所得税の軽減につながる仕組みです。言うまでもなく、課税所得は1,800万円を超えると所得税・住民税の合計税率で50%の世界に入るため、所得の分散は直接節税に寄与する事になる訳です。
2.法人税法の規定では
法人税法では不相当に高額な役員報酬の判定方法として、①実質基準と②形式基準の二つの規定をしています。①はその役員の職務の内容、法人の収益や使用人給与の状況、同規模同業種の役員報酬との比較等々がその基準。他方②は定款の規定又は株主総会、社員総会等の決議により限度額や算定方法等を定めていれば、正しくそれが判定の基準となるため超過額部分は不相当と言う理屈です。
3.会社法の規定はちょっとウルサイ!
さて、どんなに小さな同族会社でも、会社と名が付く以上会社法と言う法律の適用を受けることになります。その会社法では、定款に役員報酬の規定が無い時は株主総会の決議によって定めることになっています。しかし、現実問題として定款に限度額を定めてしまうと、その限度額を変更する度に面倒な手続きをしなければなりません。そのため、通常は定款に限度額を定める事はしていません。また、上場もしていない普通の小さな会社は、株主総会だって実際には開いていないのが現実です。もっとも株主総会は開催しなくても、開いた事にして総会議事録だけを作っておく事が多くの会社で行われているのが実状です。
4.税務調査での指摘事項
従って、定款にも定めず、株主総会の決議もなしに役員報酬を決めることがあるとすれば、はっきり言って会社法違反ではあります。が、税法では現実問題としてそのようなケースも認め、その場合には前記2.①の実質基準のみで判断しているのです。ここで、実務における税務調査の実態を確認しておきましょう。親族数人の役員からなる中小の同族会社があったとしましょう。税務署がこの手の会社に来れば、過大な役員報酬を見ていくのは必須の作業。しかも、数人の役員が報酬を取っているとなれば、実際には名ばかりで何の職責も全うしていない役員がいるはずだ、と目をつけているのです。
5.形式基準での否認はたやすく実質基準は難しい!
そこで先ず初めの質問は、どう言うやり方で役員報酬を決めているのか、取り決めの書面なり議事録を見せて欲しい、と言うもの。前述の通り、定款に限度額を決めておくと変更手続きが面倒です。大半の会社は株主総会で総額の限度額を決め、各役員への配分は代表取締役が決めるというもの。ここで注意すべきは、何年も前に総会議事録に謳ってある総額を見直ししていないケースがよくある事です。税務職員は昔決めた限度額をちょっとでも超過していれば、すぐさま形式基準に則って超過部分を過大報酬として否認するのです。税理士が『変更後の増額した議事録がどこかにあったはずだ』などと言おうものなら、直ぐにその保管場所まで行きましょう、となって存在しない事をその場で確認させ、言い逃れをさせてはくれません。こんな事なら初めから何の記録も無い方が余程ラクなのです。無ければ実質基準で過大か否かの判断になり、こちらは税務署も否認するのがなかなか難しいからです。
6.そもそも論としての“形式的”な実態作り
結論から言えば、実質基準で過大を判定するのは無理があり、自ずと税務署とのお話し合いになるのがオチ。だからこそ、税務調査に際しては最低限の形式的な実態は整えておく必要があるのです。複数の役員がいるのなら、役員全員に先ずは報酬を支払っている事を明言した上で、各人の預金口座へ給与を振り込む事。税務署に問われれば、役員としての活動実績を報告できる事。各自の職務を説明できる事等々当たり前の事ばかりです。
この当たり前の事すらやらずに、名ばかり役員で報酬を取る事自体、否認されても仕方のないこと。役員報酬をお取りになるなら相応の覚悟と準備と心掛けが必要になるのです。