相続において配偶者の地位が非常に強いものであることは、ご存じだろうと思います。民法においては、配偶者は”常に”相続人となるのです。敢えて平たく言えば、配偶者以外の相続人は先ずは子で、子がいなければその親、子も親もいなければ兄弟姉妹と、順序が決まっています。が、配偶者は別格なのです。実は、その配偶者の地位を、少々変えようと言う動きがあるようなのです。
1.民法における相続の順位と相続分
民法では、誰が相続人になるのか、そしてその場合の法定相続分がどれ位有るのかが規定されています。誤解のないように申し上げておくと、法定相続分とは、民法上これだけ相続をする権利があることを示した割合のこと。この通りに財産を分けなければならない訳ではありません。
A.相続人が配偶者と子(厳密には直系卑属と言い、子が既に亡くなっていれば孫)の場合、配偶者1/2、子が1/2。子が2人ならその1/2を2人で分けるので各々1/4となります。B.配偶者と親(厳密には直系尊属と言い、親が既に亡くなっていれば祖父母)の場合、配偶者が2/3、親が1/3。C.子も親もいなければ、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となっていて、兄弟姉妹が死亡していれば、その子までで孫に相続権はありません。
2.配偶者となるための条件と期間
このように、配偶者であれば必ず相続人となり、しかもそれなりの相続分が約束されています。法的に配偶者となるためには、『入籍』が絶対条件で”事実婚”は民法でも相続税法でも考慮されません。しかもその効力は入籍したその日から生じることに。つまり、結婚をして入籍の翌日に相手方が亡くなったとしても、僅か1日でも婚姻期間があれば配偶者として相続人となり、相続権を得られるのです。だからこそ夫の財産目当てで結婚したり、中には保険金を狙って殺害するような事件までも起こるのでしょう。
3.相続に係る民法の改正試案
配偶者の相続分が現行のようになったのは、昭和55年でそれ以降ずっと変更はされていません。実は、これを改正する動きが法制審議会でなされているのです。婚姻期間が20年とか30年とか一定期間を経過した場合、配偶者の法定相続分を引き上げようと言うものです。確かに婚姻期間が一日だけでも何十年でも同じと言うことに、問題はあるかも知れません。試案では前記A.の場合に配偶者は従来の1/2を2/3にC.の場合は従来の3/4を4/5にまで引き上げようとしています。
その他にも、ア)亡くなった夫が遺言で自宅を誰かに贈与しても、妻には住み続ける権利を与えるとか、イ)相続や遺贈の対象となっていない人でも、看病や介護をすれば相続人に金銭を請求できる権利を与えるとか、ウ)自筆証書遺言の形式を緩和し、自筆でなくワープロでも可とすること等が検討されているようです。
4.財産目当てを防ぐ法
かつて奥様に先立たれた方の長男から、ご相談を頂いたことがありました。財産目当てで女性が同居を始めたため、その女性の入籍を恐れているとのこと。世間にはよくある話で、その女性とは男性が夜な夜な通い詰めた飲み屋のママだそうです。男性が高齢のため、子の立場では入籍されてしまえば、財産の半分を相続されてしまうからです。
こんな時には役所の戸籍係に対し『不受理の申し出』と言って、婚姻届を受理しないよう、事前に届出をしておく制度があるのです。これは、”婚姻届のように届出をして初めて法的効力が発生する場合に、届出の意思のない者、又は一度は届出書に署名したが、その後その意思を翻した者が自己の意思に基づかない届出をされる恐れがあるとして、予め申し出をすることによりその受理を防止する制度”とされています。
ただ、この事例、一度は不受理の申し出によって受理を阻止できたのですが、この女性はそれ程簡単には諦めませんでした。今度は夫となる男性本人と一緒に役所へ出頭したため、無事(?)入籍を果たしたのでした。いくらこの防衛策があっても、本人が行けば、そりゃ何でもできます。
5.相続税でも配偶者はこんなにお得!
最後に相続における特典の話をしておきましょう。大きく3つの特典があります。1つは配偶者の税額軽減の制度で、配偶者には相続した財産額が1億6,000万円までなら税金はかかりません。これを超えても法定相続分までの金額であれば、やはり相続税の負担はないのです。残された配偶者のその後の生活を考えての優遇策なのです。2つ目は小規模宅地の評価減の特例と言って、ご自宅の敷地を相続した場合、面積制限はありますが配偶者が相続すれば評価額が80%引きになると言うもの。更に婚姻期間が20年以上であれば、贈与税の配偶者控除と言うものがあります。居住用の土地建物等又はそれを取得するための資金の贈与は2,000万円まで非課税と言う制度です。民法改正で配偶者は益々優遇され、力を付けてきそうです。