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TOPATO通信善意の”寄贈”も意外に苦労します 5134号

ATO通信

5134号

2003年7月31日

高木 康裕

善意の”寄贈”も意外に苦労します

 苦労をして築き守ってきた財産。その財産をめぐって相続人達が争えば、何とも見苦しい事に。また、必要以上に美田を残せば、相続人の人生を狂わせる結果になるかも知れない。そこで、いっそ財産をどこかに寄付しよう、世のため人のため、と考えたとしましょう。意外に厳しいのが無償で寄贈した場合の税務の世界。何か良い知恵はないものでしょうか?


1.原則は相続税は個人だけ!

 相続税が課税されるのは、言うまでもなく、原則としては個人だけです。例外はあるものの、本論ではないのでここでは省略です。
 さて、相続や遺贈により、個人が財産を貰った時だけ課税なら、遺言で法人に寄付をしたらどうなるのでしょう?


2.相続税はかかりませんが…

 確かに貰った方の法人に相続税はかかりません。
しかし、法人税が待っています。基本的に法人は、財産を無償で譲り受ければ時価での課税。貰った財産を時価で算定して、受贈益課税という形で法人税がかかることになるのです。
 例えば通常の相続税なら、土地を評価する場合、路線価で算定をした価格で計算です。建前としてはこの路線価、時価の8割相当と言うことになっています。しかし、法人が貰えばこの路線価は使えず、まるまるの時価。これに法人税率を乗じて法人税の課税です。


3.それなら堂々と同族会社へ寄贈したら

 ならば、我が未上場の同族会社を利用したい、こう考えるのが人情です。自らが社長であるX社に対し、遺言で死後10億円の寄付を残したとしましょう。勿論X社にはこの10億円に約40%の法人税等が課税です。
 これに対し相続税の最高税率は50%。適用される相続税の税率次第では、法人を利用するのも悪くはありません。今話題の法人税率の引き下げが実現すれば、有利性はより高まることになるでしょう。そして更に、もしこのX社に繰越欠損金が6億円あったなら、その欠損金と相殺される分には課税がなく、原則差し引き4億円だけに課税です。


4.ここなら法人税も非課税です

 話は寄贈に戻りますが、税務署もせっかくの人の好意を総て無にするわけではありません。税法に規定する公共法人は言を俟(ま)つまでもなく、公益法人等に対する寄贈も本来の公益活動に資するものであれば非課税なのです。
 これら公共・公益法人等として、税法では特定の団体を限定列挙しています。住宅金融公庫、首都高速道路公団、宇宙開発事業団等々がそれに該当するものです。ただ、注意すべきは財団法人と社団法人です。財団も社団も共に公益法人等と言う範疇に入ってはいます。しかし、ここで言うのは、あくまで民法という法律に則って設立されたものだけ。例えば世間によくある財団法人○○病院は、民法ではなく特別法である医療法の規定によるため該当はありません。前述の同族会社の場合と同様です。
 さて、人生の最期をお世話になった○○病院。感謝の意を表して死後は3億円の寄贈をしたい、なんて話はよくあること。しかし、それを貰った病院も、3億円全額を使うことはできません。ここでもしっかり法人税が口を広げて待っているからです。現金ならまだしも、無味乾燥な病院の壁に秘蔵のゴッホを贈ろうとしたら、課税を嫌った病院にマンマと断られた、なんて話も聞いたりします。笑えないような困った話です。


5.自ら財団、社団を作ったら…

 最後に昔からある伝統的手法をご紹介しましょう。それは、自ら民法上の財団や社団を作ってしまう方法です。これなら確実に自分の名前と名誉を遺(のこ)し、無税で財産も残せます。しかし、昨今この手の財団や社団の設立を許可して貰うのは至難の業。あわよくば設立が認められたとして、理事のポストは役人の恰好の天下り先。許可の実権を握る関係省庁から理事就任の打診があるとかないとか。
 仮に設立が認められても、一族で主要ポストを占めることなどハナから無理。節税にはなっても財産は自由にはならなくなってしまうのです。
 奥の手は既存の財団、社団で休眠中のものを買収するのだそうな。蛇の道は蛇で、仲介ブローカーの活躍で、天下り先の餌食からも免れるとか。
 いずれにせよ、世のためも人のためも難しそう。そもそも税法は、税金を取り立て、税務署を喜ばすための法律なのです。で、どうするか?例によってここから先は個別に、有料でのご相談です。

※執筆時点の法令に基づいております