昨今は”ふるさと納税”が大流行です。返礼品についての各自治体への自粛通達で、昨年よりは減少した気もします。が、弊社でも今年の確定申告でかなりのお客様が活用なさっておられました。
中には”やらなきゃ損!”とばかりに、返礼品目当てに多額の寄付をなさる方も。このふるさと納税、実行するとしないでどれ程の差があるのでしょうか。その損得勘定を検証してみましょう。
1.まずは所得税の考え方を知ろう!
ふるさと納税をすると、返礼品は別として税金が安くなる事はご存じだと思います。なぜ安くなるのか、その仕組みを所得税、住民税の順に整理をしてみましょう。
所得税の計算は、所得の種類分けをすることから始まります。馴染みのあるところから給与所得、不動産所得、配当所得、事業所得等々合計10種類。なぜ法人税のように収入は益金、支出は損金と簡単に割り切らないのでしょうか。所得税は義理と人情の世界で、額に汗した所得に優しく、寝ていても入る不労所得には厳しいからです。
例えば実現可能性は別として、低い利率で借り入れができ、金融機関に預けたら高い利息収入が得られたとしましょう。これは利子所得となりますが、ここでの借り入れに係る利息は1円も考慮されません。額面通りの利息収入に課税なのです。
とにもかくにも所得税の世界では、それぞれの所得の区分ごとに、額面の収入から控除できる項目や金額を規定しているのです。その上で、総ての所得を合計するのですが、株式や不動産の売買等は分離して課税するものも用意されています。
2.課税所得の考え方
説明の都合から分離課税は除き、各種の所得を合算した合計所得で話を進めます。この合計所得金額から個人的な要因である扶養控除や配偶者控除、生命保険料控除や医療費控除を差し引きします。この控除後の金額を課税所得金額と言いますが、まさしくこれが実際の課税のもととなる金額です。実はふるさと納税もこの段階、このシーンで寄付金控除として登場します。つまり控除される金額が多ければ多い程、結果として税金は減額される仕組みです。これらの各種控除の合計額を上記1の合計所得から差し引くと、前述の課税所得金額が導かれます。
これに税率を乗じて税額を算出するのですが、この税率が曲者なのです。ご存じのとおりの累進税率になっているからです。最低5%から最高は45%、高額所得者は住民税まで加えると手許には半分も残らない計算です。
3.医療費控除もふるさと納税も考え方は同じ
ここまでの説明で勘の良い方はピンと来たと思います。同じ金額の医療費控除でもふるさと納税でも、節税効果は人により天と地ほど異なるのです。課税される税率が5%と45%では算出される税額が違うからです。所得税は同じ100万円のふるさと納税をした場合、最高税率の方は45万円が減額され、最低税率の方は5万円しか節税効果はありません。それに何よりふるさと納税をすれば、それだけお金が支出され手残りは減っています。あとは返礼品が寄付の金額に見合うかどうかの判断でしょう。ここで寄付をする側は返礼品の売価で判断します。つまり、自分で買ったらいくらなのかが基準です。一方寄付を受ける側の支出額は地方の特産物なら、原価に近い金額なのでしょうけど。従って、その差が大きければ大きい程、ふるさと納税による”お得感”はあるでしょう。
4.住民税はちょっとお得?
一方、住民税は所得税とは考え方が異なります。税額控除と言って、いったん算出された税額から直接減額される仕組みです。所得税で配当がある場合の配当控除や住宅ローンを組んだ際の住宅ローン控除と同じ考え方です。先ずは寄付金から2,000円の足切り額を控除した残額の10%部分が本則の控除額。これに加えて計算式はちょっと複雑なのですが、特例控除額が加算されます。例えば所得税の税率が最低の5%の場合、100%からこの5%と住民税の税率10%を差し引いた85%が特例控除の対象額です。但し、この特例控除額には限度額が設けられていて、所得金額の多い方が有利にはなっています。
なお、住民税は前年の所得に対し翌年の6月から徴収されることになっています。つまり、ふるさと納税をすると、翌年納付する税額が減少する訳で、1年遅れの課税です。その意味ではふるさと納税は住民税の前払いとでも言えるでしょうか。
5.ふるさと納税の本来の目的は
ふるさと納税は、本来はその地方を応援し、少しでもそのお金を各自治体に役立てて欲しいと願って行うものです。我が国では寄付の文化はあまり浸透しておらず、その意味ではこれを契機に寄付に対する理解が高まれば、大いに結構なことではあります。ただ、寄付は本来見返りを求めるものではありません。返礼品目当てではなく、誰かに役立てるためにこそ、設けられている事を忘れてはなりません。