税務上、個人と法人はどちらが得か、昔から幾度となく議論されてきたテーマです。昨今の法人税率の引き下げと、所得税率の引き上げを較べれば、一般論として法人有利は間違いなし。経費に認められる項目も、確かに法人に有利な面も。が、万が一にも売上をもらしたり、架空の経費を計上すれば、個人よりは数倍重い処分が法人には待っています。しかし、税理士が変な理屈をこねると、税務署も時には応じてくれる変な世界のお話です。
1.税率だけの比較なら
法人と言ってもここでの話は資本金が1億円以下の中小企業、いわゆる同族会社が前提です。所得が800万円以下であれば、その実効税率は22%台、将来は21%の声も聞こえてきます。それに引き替え個人の方は、累進課税とは言うものの、住民税と合わせ最高税率は55%。更に所得税額の2.1%が復興特別所得税として加算です。法人税率を引き下げれば、財源確保で狙われるのが個人になるのは必然か。
2.経費も厳しい所得税
個人に対する所得税でもとりわけ厳しいのは経費面。いわゆる”家事関連費”には税務署も目を光らせます。法人名義の車なら、実務的には本体は減価償却を通じてもちろんのこと、ガソリン代も自動車税も車検代だって法人経費。個人はそうはいきません。遊びや個人的な利用もあるだろうと言うことで、事業に使用する割合だけが経費です。とりわけ個人の不動産所得には、車も交際費も大半は経費には認められません。
3.貸付金の考え方
面白いのが貸付利息。個人は血も涙もある存在です。法人に貸す場合、ン10億円でもない限り無利息貸付はOKです。が、逆に法人は利益を追求するための存在で、法人が無利息で貸し付けるなど論外なのです。法人は利益追求の存在なればこそ、無利息借入なら、その分経費が減少し課税所得は増加。税務署にとっては好都合だと言う理屈です。ある意味経済合理性もあるのでしょう。
4.社長が売上や経費を故意にごまかすと
売上や経費をごまかすのは、個人でも法人でも勿論誉められた話ではありません。調査でその事実が明らかになれば、当然のこととして修正申告となり、本税の他にも加算税・延滞税等の附帯税が。ここで問題なのは、法人の場合は個人ほど単純ではないと言うことです。個人の所得税では、そのごまかした金額が所得金額に加算され、増えた分だけ税負担が増すだけです。ところが法人は、決算で締めた帳簿自体を、その期に遡って訂正はさせないのです。それを法人税の申告書の第4表・5表と言って、申告書上で調整をすることになります。会計上の帳簿と税務上の帳簿と2種類の帳簿があると考えてもいいでしょう。会計上の決算書には、基本的には当期の経営成績を表す損益計算書、財政状況を示す貸借対照表等から成り立っています。法人税法上のそれぞれに対応するものが、申告書の第4表、第5表と言うこともできます。
そして、ここが法人税の面倒な所なのですが、売上や経費をごまかしたお金が最終的にどう言う形で何処へ行ったのか、それを明らかにしなければならないのです。例えば、社長が真実は1,200万円の売上を1,000万円だけで計上し、200万円を自分の懐に入れてしまった場合を考えてみましょう。税務調査でこれが判明すれば、当然、法人は差額200万円を売上もれとして所得に加算します。問題はこの200万円がどんな形で何処に行ったかです。いったん社長の懐に入ったのはいいのですが、社長がそれを返却するのか否かによって、その処理は異なります。返却しない場合は認定賞与と言う扱いになります。社長に対する賞与です。賞与ですから、社長個人としては、それに対する源泉税を負担することになるのです。法人と個人双方でその責任を負うことになる訳で、非常に重たい処分なのです。
5.返却することにすれば”貸付金”
こんな時、税理士は少しでも税負担を軽くすべく税務署と交渉をするのです。認定賞与を”貸付金”に変更して貰うのです。貸付金となれば、社長は会社に返済しなければなりません。しかし、もらいっ放しではないため、源泉税の対象にはならないことになります。但し、先程の3.で述べたように、会社が社長個人に貸す訳で、利息が付されることにはなります。現在は低利率のご時世なので年率1.8%ですが、かつては10%と言う高利の時代もあった程です。高利の時代ではあっても、認定賞与と較べれば月とスッポン。
一方、認定賞与となれば、中小企業の社長はそれなりの給与を取っているはず。本来の給与に上乗せされれば、相応の負担になることは間違いありません。だからこそ、こんな場合には税理士に税務署との交渉力、力量が問われるのです。真実は社長が使ってしまったのに、貸付処理とは『泥棒しても返せばいいんだろ!』と言う考え方。お客様のためではありますが、何とも変な理屈です。