前々号で”信託”を使った所有型法人の変形版をご紹介しました。実は、更にその先の話があるのです。信託の活用もいいけれど、通常の株式会社ではなく、”一般社団法人”を使おうと言う提案です。その心は、一般社団法人を使えば、そこで生み出された税引き後の余剰部分には、相続税が課税されないからです。そんな夢のような話が本当にあるのかないのか、暫しお付き合い下さい。
1.社団法人の変貌
まず、社団法人と言うと、何やら公益事業でもやりそうな、一般の方には縁遠い存在の様な気がします。確かにかつては公益性をその要件とし、厳しい主務官庁の認可が必要な存在でした。
しかし、平成20年施行の『一般社団法人及び一般財団法人に関する法律』で、すっかりその様相は変わっています。通常の会社と同様、特別な認可が無くても登記だけで設立ができるのです。
その上で、一定の要件を満たせば従前のような公益社団法人にもなり得る仕組みになっています。
つまり、一般社団法人自体は不動産賃貸業でもどんな業種でも、公益性などと全く無関係に設立は可能なのです。
2.出資がないのが一般社団法人の特徴
この一般社団法人の特徴ですが、まずは出資と言う概念がないため出資者が存在せず、法人の支配権がないのです。一般に法人への出資は、資本を形成すると同時に法人に対する持ち分権となり、経営支配権につながります。が、一般社団法人では、誰にも支配されずに経営が行われるのです。
但し、出資と言う概念はなくても、最低限の設立費用や法人の維持費用の負担金は必要で、設立者が金銭その他の財産を拠出しなければなりません。ただ、この財産の拠出は、一般社団法人への贈与となり、金銭以外の財産で拠出すると、時価で譲渡したものとして、譲渡益課税がなされます。
また、受け入れる法人側では、無償で金銭その他の財産を収受するため、受贈益として法人税の対象になってしまいます。そのため、これらの課税を避けるためには、例えば一般社団法人を受託者として、財産を贈与ではなく信託する方法も考えられます。信託であれば、前々号でお話した通り、贈与税も法人税も課税されること無く財産の移転が可能になるからです。
ただ、この方法では、信託した財産自体は相続税の課税対象となってしまいます。そこで所有型法人を応用し、例えば建物だけを簿価を時価として拠出する方法もあるでしょう。これなら拠出した側に譲渡益課税はなく、受け入れ側の一般社団法人には購入代金としての債務が生じるだけです。
3.”基金”の考え方
話は一般社団法人の仕組みに戻ります。出資が不要とは言いましたが、資金調達の手段として金銭その他の財産での”基金”とすることもできます。非常に理解に苦しむところなのですが、この基金、法人の財産でありながら最終的には拠出者への返還義務があるため、法人としては隠れた債務でもあるのです。
そして、拠出者の返還請求権は、まさしく債権として、将来の相続財産を構成するものとなってしまいます。基金制度の採用は任意です。相続税対策としてなら考える必要はないかも知れません。
4.これが夢の、究極の相続税対策だ!
さて、一般社団法人を設立し、不動産賃貸業を行ったとしましょう。一般社団法人と言っても、法人税法上は通常の株式会社と同じ扱いです。利益が出れば、その利益に対しては法人税が課税されてしまうのです。
但し、ここから先が正に一般社団法人の真骨頂。利益に対する法人税を納付した残額を法人内部に留保したとしましょう。前述のように、この法人には出資も出資者も存在しません。
つまり、一般社団法人の財産に対しては、出資持ち分として相続財産とならないため、相続税が課税されないのです。信じられないような事実が、確かに存在するのです。それなら財産は全て一般社団法人のものにしてしまおう!そうなのです。これが究極の相続税対策なのです。
5.不当な租税回避行為には…
但しです。悪い事を考える輩に対しては、税務署も対策を練っています。一般社団法人に対して贈与を行った場合、2.で述べたように受贈益に対する法人税の他、法人であるにも拘らず贈与税までもが併せて課税されてしまうのです。ただ、贈与者の親族等の贈与税又は相続税の負担が不当に減少する場合だけです。が、不当でない事の要件は非常に厳しいものになっています。また、一般社団法人への二重課税を防ぐため、贈与税から受贈益に課される法人税は控除されます。
つまり、贈与で移転させる事は実質的に不可能なので、ここでも所有型法人で培った知恵を生かすのです。売買で一般社団法人へ財産を移し、売却債権は早期の贈与で解消、財産の蓄積は一般社団法人で行うのです。この蓄積財産に相続税はかからないのです。財産の蓄積は一般社団法人で!