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TOPATO通信税務は実質で判断! 5326号

ATO通信

5326号

2019年7月31日

阿藤 芳明

税務は実質で判断!

 不動産の賃貸経営をなさっていると、様々な収入や経費の処理をめぐって疑問が生じることも多いもの。そもそも収入や経費に計上していいのか、するとしても一度で全額を計上するのか、それとも何年かに分けて計上するのか、そんな疑問の数々をご一緒に考えてみたいと思います。


1.敷金と権利金、礼金

 先ずは収入編です。これら3つの科目の性質については、今さら説明の要はないでしょう。これらは借家人が入居に際しオーナーに支払うものです。一般論として、敷金は退去の際には返却されるのに対し、権利金や礼金は返却されず、返却される場合でも全額は戻らないもの、と言う認識ではないかと思います。
 税務上の考え方はこれらの名称とは一切関係ありません。どんな名称を使っても、返却不要の部分は課税され、返却される部分は課税の対象外と言うことだけです。例えば『敷金の内、1ケ月分は償却する』となっていれば、償却分が収入で、総ては契約書から判断されるべきものなのです。科目や名称等に拘わらず、です。そうでなければ、課税されない名称を使うことにより、課税逃れが生じてしまうからです。
 また、これらの項目の収入すべき時期は、原則として契約によることになります。但し、その明示がなければ実際の支払い日です。もちろん期間計算等いくつかの例外はありますが、基本的にはその契約日に一括計上です。


2.修繕費か、減価償却の対象か?

 これに対し経費はいささか面倒です。最も頻繁に生じる問題は修繕費です。税務上は修繕費となれば、支払時に全額が経費となります。それに対し税務用語では”資本的支出”と言いますが、支払時に全額が経費にならないものがあります。いったん建物や設備等のように資産として計上し、その後何年かに分けて、減価償却の手続きを通じて費用としていくものです。
 減価償却とは、例えば建物本体で考えた場合、建物が経年劣化することによる価値の減少分、と考える事ができるでしょう。つまり、建物を取得するための支出は、将来の収入を生み出すための前払いと考えるのです。そのため支払時に全額を経費化するのではなく、耐用年数を考慮した期間で按分すると言う手続きなのです。
 この様に考えると、支払時に全額を経費化することが妥当でないことは理解ができても、実務はさらに複雑です。総論としては判断ができても、個別具体的には修繕費との峻別は容易ではないからです。ここでその詳細は述べませんが、あえて一言で言えば、その修繕によって寿命が延びるものは資本的支出と考えていいでしょう。なお、税法では上記のような考え方とは全く別に、各種の特例を設けて早期の償却を促す制度が用意されています。これは偏に政治的、政策的配慮に基づくものであるため、素人判断は極めて危険であることにご注意下さい。


3.交際費か、会議費か?

 これについては、税法は一般的な社会常識とは全くかけ離れた考え方をするのです。一般論として、交際費と言えば外部の人間との業務上の人間関係を円滑にするため、酒食、旅行、観劇等を通じて接待、供応するための費用です。営業活動を行う上で必須の費用ではあります。
 しかし、とりわけ法人税法では冗費の抑制と言う観点から、内容の如何に拘わらず、経費として認められる限度額を設けているのです。そのため、法人としてはその対抗策として、交際費ではなく会議費であるとか、交通費であるとかの経理処理を行いがちです。勿論、税務署もそこは承知をしていて、税務調査ともなれば周辺の科目については吟味検討が行われます。また、個人に係る所得税においては、そもそも不動産所得に交際費は不要であると考えているフシがあります。不動産所得は地主や建物のオーナーが得るべき所得です。貸す側の人間は接待される立場だとでも考えているのでしょうか。逆に法人税では、限度額までであれば、支払いの事実さえ確認できれば内容を問われることもあまりなく、アンバランスな取り扱いです。交際費は法人が絶対に有利???


4.経費と家事関連費との分かれ目

 ことは交際費だけではありません。個人を扱う所得税では、業務に関連するものだけが経費として扱われます。製造業や小売業等の事業所得であればいざ知らず、不動産所得の必要経費はその観点からは極めて限られたモノだけです。固定資産税や上述の修繕費、減価償却費、不動産業者への謝礼等程度でしょうか。税務調査では、業務に直接関連のなさそうな、いわゆる家事関連費が混入していないかどうかがポイントになります。
 勿論、法人であっても考え方は同じで、個人的な支出は認められません。ただ、法人が行う業務は基本的には法人の行為となるため、車両関連の費用、タクシー料金、新聞代、スマホの利用料等々まさしく日本は”法人天国”と言ったら言い過ぎ?

※執筆時点の法令に基づいております