皆様のちょっとした楽しみになっているふるさと納税。令和4年1月号でも取り上げましたが、最近また違う相談を受けたので、ちょっとしたお話をしようと思います。ふるさと納税をしようと思い立つと、いくらまでが税金上損をしないのか、その限度額が非常に気になるところです。だからこそ、特別に大きな収入があった年は、いつもより限度額が増加するのではと期待してしまうことでしょう。
1.ふるさと納税の限度額が気になる
ふるさと納税は、自己負担額2000円を除いた寄附金額を、所得税と住民税から控除するという仕組みです。したがって、納める税金が増えれば当然に限度額も増加します。
いつも納税額が多い方であれば気にしないのかもしれませんが、一般的にはふるさと納税の限度額が100万円を超えるような方は少ないことでしょう。だからこそ、臨時収入があり納税額が増えることが予想される年があったとすれば、ここぞとばかりに、いつもより多めに寄附ができるだろうと淡い期待をしてしまいます。
そこで、多額の臨時収入が発生する場合を考えるのですが、最も良くあるケースとしては、不動産の売却をしたときが考えられるのではないでしょうか。
2.不動産や株式の譲渡益があった時こそ
不動産を売却したといっても、居住していた自宅の場合には、たとえ売却益があっても3000万円控除などの特例があるため多額の税金が生じることは稀です。ふるさと納税の限度額が増えるためには、大きな譲渡益が生じて、かつ、納税額も多額にならなければダメなのです。したがって、該当するケースとしては、相続税の納税などのために相続で承継した不動産を売却したようなときが考えられます。また、株式等を売却して多額の利益が生じることもありえます。このようなときは、例年よりも納税額が増えることから、ふるさと納税の限度額も増加します。
いずれにしても、いつもよりも納税額が増加するのであれば、ふるさと納税の限度額を試算してみると良いでしょう。思ったより寄附をすることができるかもしれません。
3.多額の退職金をもらった年の限度額
不動産や株式の譲渡があればよいといっても、多額の利益が生じる方は現実にはそう多くはおられないことでしょう。そうすると、一般的には大きな所得が生じることは無いのでしょうか。
そこで考えてみると、サラリーマンの場合でも大きな収入を得る機会が1度だけあるのです。それは、ズバリ退職金です。終身雇用が崩れてきたと言っても、いまだ数千万円に上る金額の支給を受ける方も多いことでしょう。
退職金については、通常は源泉徴収をされて課税関係が終了することから、わざわざ確定申告をするようなことはありません。しかし、源泉徴収されたとはいえ大きな所得が生じていることは確かです。そうすると、確定申告書に退職金を記載すれば、ふるさと納税の限度額も増加するのでは?と思います。でも本当にそうなのでしょうか。
4.残念!退職金は対象外
ふと思うと、そういえば今年は定年退職で多額の退職金をもらったことを思い出しました。そこで、ここぞとばかりに、どこに寄附をしようかとふるさと納税の検討に入ります。所得が実質増加したのだから、ふるさと納税の限度額も当然に増加するのだろうと思いがちです。でも、それって実は落とし穴なのです。正解は、いくら多額の退職金があったとしても、住民税から差し引かれるふるさと納税の控除額にはまったく影響が無いのです。
ふるさと納税の寄附金額は、所得税と住民税からそれぞれ控除されて、その控除額を合算すると寄附金と同額(2000円を除いて)になるという仕組みです。つまり、所得税と住民税それぞれから控除されなくては意味がありません。退職金を確定申告書に記載すれば、確かに所得税の控除枠は増加するのですが、住民税の控除枠は一切変わりません。したがって、住民税を考慮した限度額が増えないことから、結果としてふるさと納税という観点からは影響が無いと考えた方が良いというわけです。
住民税では退職金は特別扱いされており、課税ルールが違うというのが原因です。退職金は他の所得とは区別して完全分離課税で計算するため、通常の住民税の計算には一切影響を与えません。ふるさと納税を活用しようといった淡い期待も、残念ながら面倒をみてくれないのです。
5.損得だけではないのかも
ふるさと納税の寄附金による住民税の控除は、寄附を行った翌年分からになります。もしも、ふるさと納税をした年に死亡をしてしまったらどうなるのでしょう。実は、翌年は住民税が課税されないので控除は受けられなくなります。損をしたような気になりますが、そもそも最後の年の所得については、住民税を納めなくて良いというメリットがあるのですから、残念がる必要は無いでしょう。
ふるさと納税は、その制度の宣伝もあってか、なぜか損得を考えがちになります。しかし、あくまで寄附なのですから、事前に計画を立てながらも、いっそ細かなことは気にしないぐらいが良いのかもしれません。