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COLUMN

TOPATO通信借地権の有無と税務署の見解 5108号

ATO通信

5108号

2001年5月31日

高木 康裕

借地権の有無と税務署の見解

頭では何となく分かっていても、今ひとつ判然としない財産に借地権があります。
そもそも借地権が存在するのか否か、あるとすればどの位の評価か、今回はこの曖昧模糊とした借地権の存否がテーマです。


1.第三者なら判定は容易

親の代から借地人さんがいる場合、金額の多寡は別として、地代を貰っていればほぼ間違いなく立派な借地権が存在します。契約書があってもなくてもです。
相手が他人であれば、判断はそれ程難しいものではありません。一定の賃貸期間とただではない地代の収受がポイントです。


2.同族法人が問題です

問題は個人の土地に同族法人の建物が建っている場合です。『無償返還の届出書』と言う書類の提出があれば、若干の評価はするものの、理論的な話は別として、基本的には借地権はないと考えてよいでしょう。 この届けがない場合、色々なチェックが必要です。賃貸契約開始時に権利金の支払いはあったか、地代の水準は固定資産税の何倍か、賃貸期間はどれ程か、等々です。 相当程度グレーな問題で、税理士泣かせのテーマなのです。


3.借地権の有無で変わる相続評価と買戻し

法人に借地権がある場合、地主である個人は底地だけの評価です。借地権の割合が6割なら底地は4割、7割なら3割で足して1が基本です。 応用編として、相続時に個人の底地を物納する事も可能です。物納後、地主は国に替わるものの、地代さえ払えば法人の事業はそのまま継続。法人が賃貸マンションでも経営していれば、収益確保も十分可能。国は底地を第三者に売却はしないのです。法人に資金さえあれば、買い取り交渉は国側も望むところで、時価での売買。昨今のように地価が下落傾向なら、かつて高い評価で物納した底地を安く買い戻す絶好の機会なのです。


4.親子に借地権なし

親子の場合はどうでしょう? 親の家の庭先に子が建物を建て、世間並みの地代を払う、よくあるケースです。 基本的にはこの関係、何年続けても借地権は生じません。相当に高額な権利金を払ってまで借地契約をする親子はいないでしょう。 借地権が生じない代わりに、子が地代を払わなくても、また、権利金を払わなくても贈与税の対象にはならないのです。


5.来る人によって違う税務署の見解

さて、話は再び個人の土地に法人建物がある場合です。無償返還の届け出もなく、借地権の存否が不明なケース。仮に古くなった法人建物を取り壊し、今度は個人が建物を建てるとしましょう。知らない仲ではない両者。特に立ち退き料の支払がなくても不思議ではありません。が、ここで法人の調査があったとしましょう。法人に借地権はあることが大前提とされるでしょう。そして、本来当然に貰えるべき立ち退き料、借地権相当額を貰わなくても貰ったものとして受贈益。それに相当する金額を個人に寄付したとして、計算されます。一見、収益と費用でツーぺイですか、寄付金課税でほとんど経費にならないのです。一方、個人も法人からの寄付で一時所得の課税です。また、その個人が法人の役員であれば、その役員に対する賞与。個人はその金額の給与課税、法人は損金不算入となり、全額課税の対象というダブルパンチです。 今度は、個人の調査があった場合です。
理論的な話はさておくと、実務では何も言われません。法人に借地権があったのではないのか、あれば立ち退き料を払うべきだから、その分が必要経費となるはず。その分必要経費として申告額から控除しましょう、などとは口が裂けても言いません。 税務署もお役所です。縦割り行政のなせる技、自分の得にならないことは一切しないのです。逆に、法人部門に連絡し、法人で否認したら如何ですか、と耳打ちすることもありません。幸か不幸か税務署って、そう言う所なのです。

※執筆時点の法令に基づいております