商売はお客様のニーズに合った物、サービスでいかに応えられるか、で勝負が決まります。実は、全く同じ事が税務調査にも当てはまるのです。税務調査においては、調査官のニーズを探ることが重要、ということのご紹介です。
1.調査官の実績とは?
調査官に絶対的なノルマは課されてはいません。ただ、件数の割り当てがあるため、基本的にはこれが最低限のノルマと言えるものかも知れません。既に何回かご説明したと思いますが、税務調査において、税務職員に要求されることは、基本的には”増差”です。増減差額のことで、調査により当初の申告よりどれくらい所得や財産の額を多く見つけたか、が彼らの実績になるのです。
ここで面白いのは、それが実際の納税額に結びつかなくても、非違(申告書上の誤り)を見つければ増差となり、手柄となることです。これが税務調査を考える際に非常に重要なポイントになるため、詳しくお話ししたいと思います。
2.課税部門と徴収部門
調査を行うのは相続税や所得税・法人税部門の課税部門と呼ばれる部署。この部署が申告内容を吟味し、所得金額等を調査によって左右するのです。
例えば、ある会社に累積の繰越欠損金が3,000万円あったとします。この会社の調査で1,000万円の非違が見つかり、修正申告をします。会社としては確かに所得が1,000万円増加はしますが、欠損金がまだ2,000万円もあり、実際の納税額はありません。会社にとって、この修正は痛くも痒くもないのです。
一方、調査官は1,000万円の非違を見つけ、増差としての手柄を挙げました。実際の納税額はありませんが、課税部門には関係がない話、とにかく手柄は手柄なのです。では、税金の徴収部門ではどうでしょう。この部門は、実際に納付すべき税額が期日までに納まっていない場合、取り立てを行うのがその仕事、手柄です。この例の場合には、修正申告により納付すべき税額が生じないため、そもそも彼らの仕事は生じません。と言うことで、こんな修正をするだけで、八方円満におさまってしまうのです。
3.相続税でも似たようなことが…
相続税の調査がありました。奥様名義ではあっても、実態は亡くなったご主人の預金(名義預金)と認定され、1億円の増差が出たとします。お客様としては財産の額が1億円増えますが、必ずしもこれに相当する税額を負担しなければならないとは限りません。配偶者の税額軽減と言って、配偶者には法定相続分(又は1億6千万円以下)までの取得財産であれば、税金がかからない特例があるためです。従って、この預金を奥様が相続し、特例の適用があれば、後述する重加算税の対象にならない限り、お客様にとっての実損はほとんどありません。もっとも、この場合でも財産の総額が増えるため、他の相続人への影響はあります。しかし、見た目の増差に比べ、実際の税負担ははるかに少ないため、お客様にとっては結構な話。また、調査官にとっても1億円のお手柄になる訳で、これまた結構な話なのです。実際の税収は少ないのに、これで良しとするとは、税務署の常識は一般人とは異なるのでしょうか。
4.増差だけではない手柄の項目
そして、増差の他に重要なお手柄項目は、重加算税を課したかどうかです。重加算税とは平たく言えば、脱税の意志があった場合に課されるペナルティー。これを課するとは、単なる計算誤り等を見つけることより、高度な調査のテクニックが必要という建前になっているため、大変なお手柄なのです。
5.手柄を立てさせ、こちらも得するには!
調査で色々な非違が見つかった場合、実務的には税務署と交渉の余地がある場合も多いもの。税務署とて、明らかな誤りは別として、特にグレーな部分については話し合いのテーブルに乗ってくれるのです。時間をかけたくないと言う理由と共に、後日、異議申立て等の面倒なことにならずに済むよう、修正申告という形で早く一件落着したいからです。
実は、ここの話し合いこそが税理士の腕の見せ所。調査官が調書をまとめ易くするため、相応の理由を作ってやり、しかも、お客様の税負担の軽減を図るのです。調査官が重加算税を強く望む場合には、ある程度の重加を覚悟し、その代わりに増差部分を大幅に減らす交渉を。また、配偶者の税額軽減で事が済むなら、重加算税を勘弁してもらうことにより、増差部分で妥協です。要は調査官のニーズを適格に掴み、お客様の負担を軽減させ、お守りすることが税理士の仕事なのです。まさに腹の探り合い、狐と狸です。といっても明らかな脱税は救いようがありません。調査がないことを願うのは、我々税理士もお客様と同じです。どうか、平和な一年でありますように!