資産家の方は、もはや国内財産のみならず、海外へも投資の目は向けられているようです。それに伴い、近年は税務面でも所得隠し、財産隠しが横行しているようです。税務署がこれをただ黙って見逃すはずも無く、調書を提出させることで対応しようとしていますが、海外財産にはこんな問題も…
1.海外財産の保有の増大と申告漏れ
少々古い話で恐縮ですが、日銀の資料によれば、平成12年においては外貨預金が3.8兆円、対外証券投資が6.3兆円だったそうです。それが平成22年には、それぞれ5.4兆円、9兆円にまで膨らんで、その後も増加の一途とか。
また、これに伴い国外財産に係る所得や財産の申告漏れが増加。国税庁資料によれば、前述の日銀資料と年度は異なりますが、平成18年度の国外財産の所得隠しが1件当たり1,841万円、相続財産の国外財産隠しが4,244万円。これが平成21年度にはそれぞれ、3,390万円と10,661万円にまで倍増以上の勢いです。
2.国外財産調書の提出義務化
このような状況を受け、税務当局は平成24年度の税制改正案で新たな制度を導入しました。各年末に所有する国外財産の合計額が、時価または見積額で5,000万円超の場合、一定の調書を翌年3月15日までに税務署に提出をしろと言うものです。その調書には、種類、数量、価額等の記載が義務付けられ、『国外財産調書』と命名されています。
そして、これを提出しない場合、及び提出はしても申告漏れに係る国外財産の記載が無い場合、所得税においては、本来の加算税(過少申告加算税又は無申告加算税)に5%を上乗せした税率の加算税を課するというもの。逆に、所得税・相続税ではこの調書の提出があり、他の申告漏れがあっても、申告漏れに係る国外財産の記載があれば、本来の加算税から5%の減額を行おうと言うもので、正に飴と鞭。具体的には、国外財産から生じる利子や配当、貸付や譲渡による所得、相続時における国外財産自体の申告漏れが考えられます。
3. 『財産債務の明細書』と似て非?
この調書で思い浮かぶのが、『財産債務の明細書』です。その年の所得が2,000万円超の場合、個人で所有する全ての財産と債務の洗い出しをして、税務署に提出せよと言うものです。
所得税の申告に際し、なぜ財産や債務の明細までを報告しなければならないのか、と疑問に思う方も多いようです。が、とにかく提出をしないと、電話や葉書で何度も督促をされるため、気の弱い方はこれに屈して真面目に記載をし、提出されるようです。
しかし、この明細書、金額の記載方法が何ともいい加減で、確たる基準がありません。例えば土地や建物については、以前から保有している場合、その年の年末の見積価額となっています。
従って、相続した土地や建物についてはどのような金額でもいいことに。また、固定資産税の課税標準の価額でも可、となっています。この課税標準とは、固定資産税の税率を乗じる対象となる金額のことで、評価額とは異なるのです。特に住宅用地の場合には、面積によって評価額の1/3,1/6に減額される訳で、適正な土地の金額を表しているとはとても思えません。
が、とにかく実務では、どんな数字でも記載して提出さえすれば認められるのです。
4.海外の土地に路線価は付されていない!
話を国外財産調書に戻しましょう。土地や建物については、時価又は見積額によって記載することになっていますが、現実にはこれが結構難しい。最近取得したものであればともかく、以前から取得している物は、どうやってその価額を見積もるか、です。パリやニューヨークの土地に路線価は付されていないのです。
この調書だけならまだいいのですが、実際の相続の時は税理士も苦労をします。日本で言う不動産鑑定士のような資格者がいる国ばかりではありません。どの程度のものなら税務署が納得するか、甚だ疑問ではあります。が、考えてみれば税理士や納税する側にも分からないことは、税務署にも真実は分からないのです。
5.時代は益々国際化
先般も相続税の申告案件で、フランスに賃貸マンションをお持ちのお客様が。前述の調書ではなくても、申告には時価での評価が必要です。幸いにも直ぐにお売りに出されるとの事で、とりあえず売り出し価格で申告。これなら税務署に文句を言われる筈もなく、正しく時価。実際の売却価格がこれを上回れば修正申告を、逆に下回れば更正の請求で税金の取り戻しを狙う作戦です。
まだホンの少数ではありますが、今や税務署にも国際税務専門官と言う海外財産を専門に調査するポストが用意されています。益々進む国際化に備え、我が事務所も会議もお客様との会話も、総て英語で行う事にしますか?????