個人の不動産所得の金額が多額な方に、今まで盛んに法人化を勧めてきました。昔ながらの管理会社を作る手法ではなく、法人自体が建物を所有する所有型法人です。個人形態と比べ税務上かなりのメリットがあるからです。それでも慎重な方は、止めた時に発生する課税関係が分からない不安で二の足を踏んでおられるようです。そんな方のために、今回は法人化を止めた時のご説明です。
1.所有型法人にも2種類ある
通常お勧めする法人化では、所有型法人と言っても法人は建物だけを取得。土地は従前どおり個人所有のままです。土地までを法人に譲渡すると、多額の譲渡税がかかってしまうためです。
しかし、実際に相続が現実化した場合、”相続税の取得費加算の特例”と言う譲渡税の優遇策を活用し、法人に土地を売却する事もままあります。この特例をここで詳述はしませんが、相続税の申告期限後3年以内、つまり亡くなってから計算すると3年10ケ月以内の売却についての特例です。
これを活用すると、譲渡税の計算上納めた相続税の一部が土地の取得費(原価と考えて下さい)に加算され、譲渡税が軽減されるか、場合によっては全くゼロになってしまうと言う優れもの。
その結果、売却した個人である相続人は相続税の納税資金を確保する事が可能に。また、取得した法人の方は、土地の取得資金の借入れであれば、その利息は勿論経費扱いです。つまり、本来相続税支払いのための個人の負担を、法人に転嫁することによって経費化しようと言う企みなのです。
法人に土地があるか否かで法人を解散、清算する手続きが異なるため、二つに分けてご説明することにしましょう。
2.土地が無く、建物だけの場合、これなら簡単です!
まず、上記の特例を使わない建物だけを所有する法人を考えてみます。この場合はいたって簡単で、法人が個人から建物を取得した時の逆のパターンにすれば良いだけです。法人が個人から既存の建物を取得した際、その時点での帳簿価格、つまり減価償却が未だ未済の残額で移行したはずです。移行時の価格として税法上”時価”である事が求められますが、未償却残高である簿価もこの時価の一つであるからです。これによって簿価と売却価格が同額である事から、課税対象の利益を生まず譲渡税無しで法人化が可能だったはずです。
法人を止め、個人に再度移行する場合も同じで、その時点での簿価で売却すれば譲渡税は無し。法人にはそれ以外に財産は無いことが多いでしょうが、あった場合には残余の財産を分配する手続きがあります。例えば100万円を出資して、会社が利益を生み、その持分が500万円になったら差額400万円は株主の配当となり、所得税の課税対象。考えてみれば儲かった訳ですから、課税されるのは当たり前と言えば当たり前の話です。勿論、残余の財産が何も無ければ特段の課税はありません。
3.土地がある場合、一工夫、必要です
法人に土地がある場合、法人を閉じるには建物のみならず総ての財産を換金、処分する事が必要です。処分をし、出資額以上の残余の財産があれば、上記で述べたとおりです。従って土地があれば、この土地を売却処分する事になりますが、この時の価額が帳簿価額以上なら売却益に対して法人税が課税される事に。その上での清算手続きになります。法人の実効税率が仮に約35%にまで引き下げられたとしても、個人の場合の20%(長期保有を前提)よりかなり高い税率です。つまり、土地を譲渡することが前提であれば、明らかに個人所有より法人所有は税率面で不利にはなってしまうのです。
しかし、だからと言って法人化が総て不利になる訳ではありません。それなりの工夫をすれば解決不能な問題ではないからです。
4.売却益に相当する経費を作れば解決できる!
結局のところ、土地を処分して売却益が生じると、その利益に対して法人税等が課税される事が問題なのです。つまり、その利益を補って余りあるような経費か繰越欠損金が存在すれば、実際の課税の問題は生じません。繰越欠損金が無い場合、例えば、役員への退職金を支払う事です。数人の役員がいれば、会社の清算に対し全員が退職と言う事態になる訳で、役員全員に退職金を支払う事は可能です。実務ではまとまった金額の経費として、この退職金の他になかなか良い方法は見当たりません。ただ、退職金なら何でも良いと言う訳ではないのです。過大な部分は経費として認められませんが、従前の役員報酬とも連動しますので、事前の準備が大切ということではあります。
5. 法人化のメリットを再検証してみよう!
上記述べた方法で確実に清算時の法人税を一定の程度回避する事は可能です。しかし、そもそも何のために法人化をしたのでしょう。個人の不動産所得にまつわる数々の制限や、税務上不利な点を解決するためだったのではないのでしょうか。それを考えた時、そもそも法人化を止める事自体、考えるべき事も多いのではないでしょうか。