お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5286号
相続放棄をしないと妻と子がこんな事に…
ある税理士の話である。相続税法についての無知か税務署を甘く見たツケなのか、死んでもなお、相続人がその責任を追及された事例である。被相続人に過大な借金がある場合だけでなく、ヤバイ事があったら、とにかくやるべきは"相続放棄"である。これで総てから解放されるが、放棄をしなければ、その責任は相続人に未来永劫ついて来ると言う怖い話である。
1.相続税法における海外財産の取り扱い日本人であれば、何がナンでも総ての財産について日本の相続税が課税される訳ではない。被相続人が日本に住所があるのかどうか、そして相続税を納めるべき人が日本に住所を5年超有しているのか、日本国籍はあるのか等によって、課税される財産の範囲は異なる。ここでは話を最も一般的な場合に絞って考えてみよう。つまり、被相続人も相続人も総て日本国籍を有し、日本に住所のある場合である。この場合の話は簡単で、ワールドワイド、つまり世界中の財産について、日本の相続税がかかることになっている。従って、スイス銀行の預金も、ハワイの別荘も、エーゲ海に浮かぶコンドミニアムも総て相続税の対象なのだ。
2.今なら"国外財産調書"があるが…平成25年分から、その年の年末に合計額で5,000万円を超える国外財産をもっている場合、確定申告の期限までにその種類や数量、価額等を税務署に提出しなければならない。『国外財産調書』と言われるもので、税務署はそれまで課税漏れが多かった国外の財産に、現在は非常に目を光らせている。かつては諸外国との税務情報の交換が密にはなされておらず、結果的に国外財産についての申告漏れ、課税漏れが多かったのだ。従って、現在ではこれからお話するような事態は起こらないかも知れない。では、どんな事件だったのか、その概要からお話しよう。
3.税理士の誤った指導相続税の申告を、毎年の確定申告を依頼していた税理士に依頼した、仮にX一族としておこう。相続人の一人がその税理士に、海外にも財産がありそうなのでどうしたらいいのか、と相談をした。それに対し税理士の回答は何と、「海外の件は調べなくてよい」と答えたそうだ。同じ税理士として、開いた口が塞がらず、目まいで倒れそうになるような驚くべき回答である。相続人もそれならと言うことで、海外の財産約3億5,000万円を計上せずに相続税の申告を行った。そして、それが相続税調査で日の目を見ることに。結論を先に言うと、税務用語で仮装・隠ぺいと言うのだが、俗に言う"脱税"に当たりその行為が悪質であると言う認定を受けたのだ。このような場合には、本税の他に35%の重加算税が課税。さらには本来配偶者には一定額まで相続税がかからない特例も、その部分については適用されない。結果、相続人は重加算税を含め1億円を超える損害を被ったと言うことで、この税理士を訴えたのだ。
4.裁判所の判断その結果、一審では税理士に総額1億円超の損害賠償が命じられた。その理由として、原告(X一族)は相続税の申告に際し、税理士に海外の財産の取り扱いを尋ねている。それに対する回答、指示が適切でなかったことが直接の原因だが、更にa.税理士は被相続人の所得税の確定申告に際し、海外での医療費の資料を受け取っている。そのため、被相続人が海外に財産を有していることを認識していた可能性が高い。b.上記a.にもかかわらず、海外の財産について資料も求めず確認もしなかった。c.原告は被相続人が海外に財産を有していること自体は認識していたが、具体的な資料は手元になかった、等々がその理由だ。ただ、二審では、原告も海外の財産についての認識があったため、納税者としての過失を認定。3割の過失相殺を命じ賠償金を約7,000万円に減じて判決が確定した。
5.税理士は裁判途中で死亡したが…ここまでの話で、筆者は同業者としてこの税理士の心中は察するに余りある。このケースでは確かに税理士の指導や対応には非常に疑問が残る。ただ、実は数年前になるが、筆者もある相続事案で相続人の一人から逆恨みをされ、裁判にまで発展した経験があるのだ。筆者の場合は当方の言い分が通ったため、裁判費用等を負担することもなく、相応の報酬も頂いているので実害はなかった。
しかし、裁判沙汰はやはり相当に精神的な負担が大きい。鈍感で心臓に毛が生えているとまで言われる筆者においてさえ、である。実は、上記の事案、渦中の税理士は裁判途中で亡くなっている。詳細な事情は分からないが、被告の死後、相続人である妻や子が、その債務を継承しているのだ。税理士自身の相続に際し、相続人は相続放棄さえすれば、このような債務まで引き受けることはなかったのに、である。税理士の名誉のためか、勝訴の確信があったのか、はたまた税理士に多額の財産があったためかは不明である。私の知る限りでは、この稼業、税理士如きで1億円を超える財産を蓄財できるとは思わないが…。2016年3月31日
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5285号
税務署にも難しい”お庭”の評価
相続や贈与をする場合、財産の評価は死亡時や贈与時の"時価"で行うことになっています。土地や建物は、通常は路線価や固定資産税評価額で行うため、分かりやすいことが多いでしょう。難しいのはそれなりの"お庭"です。問題は"それなり"の程度。理屈と税務署の考え方と、実際の実務のせめぎ合いを考えてみました。
1.ある会社役員のご自宅の庭ズバリ、具体例から。某会社役員の世田谷区にある80坪のご自宅の評価です。相続税の税務調査で指摘を受けたのが庭の『造園工事』をめぐる評価です。亡くなる1年半前に隣地から越され、ご自宅を新築なさったのです。その際に旧宅にあった庭木や庭石を一部移設され、新たな庭を設けたことが問題にされたのです。
相続税の調査では、普通預金の通帳の動きから、100万円単位の入出金はその経緯を質問されます。そこで注目されたのが、金額として450万円ほどの"造園設備工事"。ご自宅の敷地は路線価で、そして建物は固定資産税評価額を基に適正に申告をしています。しかし、この450万円は"庭"として特段の申告をしていませんでした。税務署はそれが気にくわないご様子。亡くなる僅か1年半前に450万円もかけたのだから、それなりに財産価値があるはずだと言うご主張なのです。
2.『庭園設備』の評価の考え方税務署には財産の評価に当たり、"財産評価基本通達"と言うルールブックがあり、税務職員はこれに基づいて評価の作業を行っています。公表もされているため、我々税理士も通常はこれに従って作業を行います。このルールブックには、次のように記されています。『庭園設備(庭木、庭石、あずまや、庭池等を言う)の価額はその庭園設備の調達価額(中略)の100分の70に相当する価額によって評価する』。つまり、この設備を作る場合の価額の7割相当で評価すると言う趣旨なのです。ここでは、はっきりと450万円掛ったことが分かっているので、これの7割の評価額を庭園設備として計上しろと言うのです。
3.相続直前の多額の支出は…結論から言います。もし、この造園工事が亡くなる10年前に行われていたら、税務署はこのような事を絶対に言いません。何故なら、例え某会社役員のご自宅でも、世田谷に80坪の敷地です。一般のサラリーマンのレベルで考えれば確かに立派ではありますが、決して"豪邸"と言う程のものではありません。この手の庭を敢えて評価することは実務的にはあり得ないのです。庭石に価値があると言っても、購入時に限ったこと。売却を考えても運搬の費用の方が上回るのが実態なのです。従って、実務では普通の庭は評価など、ほとんど行わないのです。今回のように、相続直前だと文句を言いたくなるのが税務署の常。徹底抗戦でこちらも譲らず、結果オーライでした。
4.地方都市の武家屋敷の庭園は…具体名は伏せますが、地方都市にある某武家屋敷をご自宅になさっていた方の相続です。地方都市とは言え敷地面積は2,500平方メートル、聞けば室町時代からのものとか。庭も流石に立派で庭園だけで550平方メートル。池あり築山あり禅僧が修行のために座る特別な石まである代物です。さて、これをどう評価するのか、税理士の腕前をお見せできる千載一遇のチャンス?とんでもない!こんな庭園を評価したことは、長い税理士人生でも初めての経験。では、税務署に聞いたらなんと答えるのか。先程の通達どおり調達価額の100分の70に相当する価額、としか答えようがありません。では、具体的な金額はどのように算出するのでしょう?庭石がいくら、銘木は1本いくら、池を造成するのに幾らの計算をするのでしょうか。何しろ広さが広さです。莫大な金額になってしまうでしょうし、何よりそんな金額で売買ができるのか、と言うことが問題なのです。
5.悩みに悩んでATOが出した答えはこんな時は税理士も困りますが税務署だって状況は同じです。理屈は前述のとおり"再調達価額の70%相当額"ですが、実際に売買もできない金額で評価してよい筈はありません。例えばダイヤの指輪を100万円で購入します。翌日業者に売ったらいくらで買い取ってくれるのでしょうか。決して同じ金額ではない筈です。商品として売却した後は、翌日であってももはや中古品。購入時には原価の他に運搬料、広告宣伝費、保管料、支払利息、人件費、販売手数料、そして何よりその業者の利益が加算されているのです。その金額だけの価値がある訳では決してないのです。
また、相続人にとっては今後の維持管理が何より頭痛の種とか。1円の利益も生まない大庭園。さりとて維持管理するだけでも年間相当額が掛るとか。固定資産税は課税されていないため、評価額不明な立派な茶室まである庭園。苦肉の策として、この茶室の建築費から割り出した適正額にプラスαをし、"茶室及び庭園一式"として申告。これなら税務署も文句はないでしょう。2016年3月1日
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5284号
マイナンバー制度で何が変わるか?
年が明け、今年はいよいよマイナンバーが開始されます。この制度、表向きは税と社会保障と災害対策に効果的だと言うことになっています。が、本当の目的は目こぼしのない税金と社会保険料の取立てです。とりわけ税務署は調査の手法まで変わってくることが予想されます。これからは内偵も反面調査も必要がなくなるかも知れません。机上のパソコンで取引総てが把握され……。
1.現状では贈与がばれるのはまずは現状のお話から。親が子や孫へ贈与をします。現金はもちろんの事、贈与の意思をもって子や孫の預金口座へ振り込んでも、その時点で税務署にはバレません。子や孫がそのお金で不動産や高価な物でも購入しない限り足は付かず、一つ一つの銀行取引まで、税務署は把握していないからです。では、いつバレるのか?相続税の調査の時です。相続税の申告書を提出すると、税務署は被相続人のみならず、相続人等の預金の動きまで金融機関に照会します。
そこで、父から子への振り込みが判明し、贈与があったのでは?とのご質問となります。贈与税の申告があれば問題はありませんが、無申告だと慌てて心臓がドキ!でも、ここは
6年で時効なので双方に贈与の意思があった事を強弁すれば、お咎めがない事もしばしばです。6年経っておらず、単なる口座への移動なら次に述べる"名義預金"だと言われ相続財産として相続税が追徴に。
2.名義預金とはではここで、名義預金とは何かについてお話をしておきましょう。前述のように、親が子や孫名義の口座へお金を振り込んだとします。贈与と言うのは、贈与をする側の親と、貰う側の子や孫にあげましょう・貰いましょうと言う意思が双方にある場合に初めて成立する行為なのです。つまり、極端な場合、貰う側の子や孫にそのことが知らされていなければ、たとえ親が子や孫の名義で贈与税の申告までを勝手にしていた場合でも、贈与があった事にはならないのです。つまり、贈与税の申告だけでは、贈与があったことの証明にはならないと言うことなのです。
相続税の調査時には、双方に贈与の意思があったかどうかが問題です。子や孫に貰った認識がなければ、それは一方通行なのでお金が動いていないことになる訳です。つまり、子や孫の名義を借りただけの借用行為。預金そのものは親の物だとするのが名義預金なのです。これが株式であれば名義株式、同様の扱いです。但し、その時には既に被相続人はアチラの世界。双方に贈与の意思があったかどうかは税務署には分かりません。その時に相続人が『確かに贈与されました』と言えるかどうか、言ってみれば演技力の勝負になるのが実務なのです。
贈与税の申告期限から6年経っていれば"時効"を主張し無税、経っていなければ相続税と贈与税のどちらが得かその時に判断すればいいでしょう。
(影の声:先生、そこまで言っていいんですか?)
筆者も真面目な税理士です。資産家にとって、ほとんどの場合、数年に分け、更に子や孫の頭数を増やして贈与をすることは、簡単で確実な相続税対策になるはずです。目先で損をして(贈与税を払い)、後で相続税で得をした方が賢明です。
3.マイナンバー導入後は?さて、話はマイナンバーに戻ります。制度の導入後も直ぐに激変はないでしょう。預金については一応平成30年からの導入ですが、直ぐに強制はされません。それから3年後を目途に実施したい意向なのです。現在、税務署は一つ一つの銀行に、それぞれ関係者の氏名を記載して照会し、書面での回答を待っています。とても時間がかかるのです。それが預金に強制された暁には、それこそ、その気になればリアルタイムで全口座の動きが手に取るように分かってしまいます。つまり、贈与税の疑いがあれば直ぐに質問され、申告漏れは大幅に減少することが予想されるのです。
4.証券口座なら安心か?銀行が駄目なら証券会社に預けることを考える方も多いと思います。税務署はそんなあなたの心を見透かすように、ちゃんと備えをしています。平成27年の年末までに証券口座をお持ちの方は、平成30年の年末までに通知することになっています。平成28年からは口座の開設時に通知です。つまり、基本的には証券会社を使っても、その効果は銀行と同じと考えた方がいいでしょう。
5.これからの相続税対策それでも税務署に余計な(?)税金を取られずに済む方法はあるのでしょうか。一つはタンス預金でしょう。これなら絶対バレませんが、火事と泥棒には勝てません。地震や津波も心配でしょう。そんな方にはいっそ核戦争にも耐えられる"核シェルター"でもお作り頂く事をお勧めします。
折角ここまで読んで頂いたのに、本当に恐縮です。結局、今後は真実の申告をするより他の方法はありません。もっとも、正直者が損をするような日本では、これからの展望はありませんぞ!2016年1月29日
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5283号
税務調査はいつ来るのか?
税務調査の手続きに係る税法の改正等で、税務署は手間がかかるようになり、昨今の調査件数は大幅減少。納税者にとっては嬉しい話です。が、申告書を提出した以上、それでも避けられないのが税務調査。では、どの時点で調査事案は選定され、実際に我が社、我が家に来るのはいつ頃なのでしょう。気になる調査の時期について考えてみました。もちろん、署に依って若干状況は異なるため、あくまで一般論としてご理解下さい。
1.所得税は5月の連休明けから話を申告件数が税目の中で最多の所得税から始めましょう。今やコンピューター全盛の時代です。電子申告をせず紙の申告書で申告しても、それが直ちに国税庁自慢のKSKシステムで入力、管理。3月15日の確定申告が終了すると、間髪を入れずにデータの確認が可能です。既に入手済みの様々な個人に係る調査資料と突き合わせ、数年間の申告状況の対比から、怪しげな事案をピックアップ。
ただ、昨今はデータに頼り過ぎ、脱税の匂いを嗅ぎ分けて選定する職人気質はなくなっています。5月の連休明けには調査を開始する一方、簡易な計算誤りや税法の適用誤りは、修正申告を勧めて是正させます。7月10日前後の恒例の人事異動を前に、ほぼその年に調査すべき事案を選定。異動後は直ぐに本格的に調査を開始し、一般部門は年末までが調査の最盛期です。大口・困難事案を担当する特別国税調査官(通称、特官)はその後も確定申告時期以外はずっと調査を継続ですが。
2.法人税は6月に粗選定、年中調査個人と異なり、法人は会社によって決算、申告時期が異なります。従って、1年中が調査の時期。ただ、そうは言うものの、調査件数が減ったため、とにもかくにも確実な件数を確保する必要があるのです。そのため調査事案と件数を異動前にある程度選定し、予定しておきます。粗選定とでも言えるでしょうか。その上で、従来通り毎月上がってくる決算・申告書を精査し、追加、差し替え等を行っていくのです。
さて、かつては異動前の6月に1年分を概ね選定しておき、決算期と無関係に調査が行われることは原則としてはありませんでした。選定は毎月行われていたのです。申告書を提出すると、申告審理と言って申告書上の誤りや、計算誤りをチェックし、調査部門に渡るのが約1~2ケ月後。調査部門はその中から毎月調査事案を選定し、調査に着手すると言うやり方だったのです。この方法では何が問題かと言うと、決算月によって調査が実施される時期が概ね決まってしまうことでした。前述の日程でいけば、申告から2~3ヶ月後が調査時期になるでしょうか。一見するとこのこと自体に問題は無いように思われます。
しかし、調査実績が調査官の勤務評定に結びつく事が問題なのです。勤務評定は毎年3月末までの勤務成績で行われます。現実にはそれ程単純ではないのですが、とりわけ法人課税部門の場合、調査で実績を残せば評定も良くなると調査官達は思っているのです。そのため3月末までの調査は必死。逆に4~6月は件数合わせの消化試合、気楽なものです。つまり、逆算をして会社が4~6月に調査が行われるような決算期にしておけば、調査官は本気モードにならずに済んだ???
3.相続税は遅れ気味?ご存じのとおり、相続税の申告期限は原則的には亡くなってから10ケ月。人によって異なります。申告書が提出されれば、まず初めに行うことは金融機関に対しての残高や普通預金の動き等の照会です。被相続人だけではありません。相続人も含まれるため、いわゆる名義預金と言われる名義は家族名義でも、被相続人のものと想定される預金探しをするのです。この回答が金融機関から返って来るまでは、絶対に税務署は動きません。
回答がきても、その都度一つ一つ選定作業を行っていたのでは効率が良くありません。ある程度の目星は着けておきながらも、7月の異動前に一気に選定、異動後には直ちに調査に着手できる態勢を整えます。若干の準備もあるでしょうが、8月から11月いっぱいは相続税の調査を予定しなければなりません。つまり、もし8月に申告書を提出しても、その年の内に調査があることは通常はないのです。この例なら翌年の8月から11月となっていました。しかし、冒頭にも述べたように、今は調査手続きに時間がかかるせいでしょうか。さらに1年後の8月から11月になるケースも多くなっています。文字どおり、天災は忘れた頃にやって来ます。
しかし、これは一般的な方の相続の場合です。個人課税部門にも法人課税部門にもありますが、相続税を扱う資産課税部門の特官。ここは大口・困難事案を扱う部署です。資産家、富裕層の方々はここで管理されています。亡くなる前から目を付けられていますので、選定段階から注目され、調査も確定申告期間を除き、いつやって来ても不思議はありません。資産家の宿命とは言え、税務署は富裕層であるあなたを狙っています!2015年12月24日
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5282号
個人と法人でこんなに違う”交際費”
人と人との関わりの中で、いわゆる交際費は重要な位置を占めています。とりわけビジネスの世界では、これの使い方一つでその後の展開は大きく変わることだってあり得る話。しかし、この"交際費"、個人と法人とでは税務の取扱いには大きな相違があるのです。そして、同じ法人でも大法人と中小法人では、若干の差が。と言うことで、今月のお品物は"交際費"です。
1.個人事業者は使い放題!結論から先に言うと、何が何でも交際費を沢山使いたい方には、個人事業を立ち上げることをお勧めします。支払いの事実があり、事業に関連性があれば、金額的な制限はありません。ことの是非はともかく、金額的な面では文字どおり青天井の世界なのです。
但し、ここで言う個人事業とは、小売業や製造業等の額に汗する業態の事。不動産貸付業はたとえどんなに規模が大きくても、青天井の恩典はありません。何故なのでしょう。誤解を恐れずに言ってしまえば、税務署はいわゆる不労所得が嫌いだからです。所得税の条文にそんな事は書いてありませんが、額に汗した人にはそれなりの事を認めましょう、そんな考え方なのです。
税務署的には、不動産所得と言うものは、言ってみれば働かずに楽をしている不労所得。そのため、収入に対して厳格な関連性を必要経費に求めているのです。"ヒモ付き"と言う言い方をしますが、そんな世界観なのです。
所得税に限りませんが、筆者には相続税を含め個人に対する課税には、一種浪花節的な考え方があるように思えて仕方ありません。例えば、相続税で自宅に認められる80%引きの小規模宅地の評価減。原則として、配偶者か同居の親族が相続した時に認められる特例です。配偶者はともかく、『同居』が重視され、同居=親孝行、だからこそ80%も評価額を減額してやろうと言うお情け的な考え方があるのも事実。
話を不動産所得に戻せば、ほとんど交際費は認められない、と思って頂いてもいいでしょう。
2.それが法人になるだけで…例えば、既存の賃貸物件を法人に売却し、従来の不動産収入が法人に帰属することになったとします。本来は法人の貸付事業と関連性がなければ、勿論法人が支出した交際費は、法人の経費とはなりません。が、現実には領収証があれば、交際費となる事が多いようです。個人と異なり、法人の活動は基本的には法人の業務のために行われると言う前提があるためです。実務的には個人の不動産所得のような"ヒモ付き"理論は存在しないのです。
3.大法人と中小法人の取扱いに差その代わりと言ってはナンですが、法人の交際費には金額的な制約が課される場合があります。法人と言っても資本金や出資金が1億円超の大法人と、1億円以下の中小法人とで取扱いが若干異なります。
まず、中小法人においては、定額控除限度額と言って、年間800万円までの交際費が認められる制度があります。逆の言い方をすれば、これを超える交際費は経費になりません。そのため、交際費を使う法人としても、800万円までなら何に使っても良かろうと思っているフシがあります。税務署もそれを黙認しているのが実態と言っていいかも知れません。
但し、言うまでもなく、社長が銀座のクラブにご贔屓のホステスができ、夜な夜な一人で通っても、それは交際費にはなりません。理論的には社長に対する賞与となり、法人の経費には算入ができないのです。
また、大法人と中小法人の両者に共通する扱いとして、交際費の内、"接待飲食費"の半分までは金額の制限なく経費として認められる制度があります。これはあくまでも接待のための飲食費であるため、役員や従業員等だけの内部での飲食はこれに当たりません。これらは通常の交際費であったり、福利厚生費、会議費等になるでしょう。あくまでも、社外の人間の存在が不可欠なのです。中小法人が800万円までの定額控除限度額制度を選択するか、"接待飲食費"の半分までを経費とする制度を選択するかは、"接待飲食費"が1,600万円を超えるか否かで判断することになるでしょう。1,600万円を超えるなら、その金額の50%を経費とする扱いが有利でしょうし、超えないなら定額控除を選ぶのが賢明な選択です。
4.5,000円基準は生きているなお、これも必ず社外の人間がいることが必須ですが、一定条件付きの一人当たり5,000円までの接待飲食費については、従来通り"会議費"等で経費となります。本来は交際費でしょうが、その程度は総額の規制のある交際費でなく、一般の経費として認めてやろうと言うお上のご配慮。総じて法人税は社内の人間との付き合いには厳格な姿勢が垣間見られます。慣れあいを許さず、浪花節が通用する世界ではないのです。
2015年11月30日
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5281号
結果的に税額が算出されなければお咎めなし!
法人税でも所得税でも、そして勿論相続税でも申告期限は決められています。その期限までに申告書の提出がない場合、税務署から指摘されれば無申告加算税なる最低でも算出税額の15%のペナルティーが。さらに実際に納税した時までの日割り計算で、利息に相当する延滞税の対象にもなってしまいます。但し、です。結果的に例えば特例の適用をする等の工夫をして、税額が算出されなければどうなるのでしょう。加算税も延滞税も、もともとの本税の税額がゼロなので、その対象にならずお咎めなし。申告期限ギリギリでご相談にいらしたお客様にこんな工夫をしたのです。
1.事案の概要相続税の申告案件です。相続税においては時折りこんなケースがあるのですが、税務についての相談相手がいないのです。ご商売をやっていらっしゃれば、大抵は税理士が付いているもの。その税理士に相談するのが普通でしょう。しかし、このお客様はサラリーマンで、しかも、にわか勉強で自宅や事業所の敷地の評価は8割引きになる事を知っていたのです。相続財産に金融資産はなく、ほぼ自宅と同居の息子がやっている事業所の土地だけのため、結果的に相続税は掛らない、と高を括っていたのでしょう。
しかし、相続税の申告期限が近付いて、流石に心配になったようです。年明け早々に私共の事務所に相談にお見えになったのです。聞けば、申告期限は3月12日。確定申告の真っ最中です。いくらATOが相続税の申告業務に慣れているとは言え、いくらなんでも税理士事務所の最繁忙期にそんな事はやっていられません。そこで一計を案じて、この急場を凌いだと言うのが今回のお話なのです。では、どんな工夫をしたのでしょうか?
2.とにかく税額が算出されなければ失礼ながら、実はこの手のお客様が一番タチが悪いのです。税法を一応は知っている積りだからです。確かに一定の要件を満たしていれば、当時はご自宅の敷地は240平方メートルまで、事業用敷地は400平方メートルまでは8割引きになります。しかし、これは相続税の申告書を提出することが条件なのです。従って、何もしなければこの適用は受けられません。
そうは言っても、期限後に提出しても結果的にはその時点で適用になります。そこで、ここは腹をくくって申告期限は敢えて無視することにしたのです。ただ、税務署からは相続税の申告書も既に送付されているとのこと。黙って無視をすれば必ずや問い合わせがあり、税務調査にまで発展しかねません。そのため、次の状況を説明した上申書を税務署に提出し、理解を求めたのです。期限を過ぎてはしまうが、状況が整い次第速やかに税額0の申告書の提出を約束する事を。
3.相続人として利益が相反する場合実はこの事案、ちょっと厄介な事があったのです。相続人は配偶者である妻の他、長男と長女の計3人。ただ、長女は難病で何年も寝たきりの状態。意識もなく、税務上は特別障害者と言う扱いなのです。そして、分割協議をするに当たり、長女の意思確認が難しいことから、長男は自らが長女の成年後見人となる手続きをしていたのです。
ただ、そうすると長男は自身の相続人の立場と長女の後見人としての立場が相反するものになってしまいます。つまり、相続人として利益が相反するため、分割協議で後見人となり得ないのです。
こう言う場合、長男以外の特別代理人を選任するか、後見人を監督する後見監督人を選ぶ必要があるのです。
4.上申書に記載したある事情とはここで話は上申書に戻ります。税額が算出されないことが大前提であると申しました。そのためには、例えば配偶者である妻が全財産を相続すればよいのです。配偶者の場合、税額軽減策と言って、法定相続分か1億6,000万円までの金額の相続であれば、相続税は課税されないからです。
問題は長男と長女。長男は上記のような状況下、いずれ総ての財産を相続する立場です。従って今回は何の財産を相続しなくても構いません。長女の方は特別障害者のため、その年齢から420万円が税額から控除されるのです。つまり、この税額に相当する財産2,000万円を相続しても、実際には納税額が算出されないのです。ただ、相続財産は自宅と事業所の敷地だけ、現預金はありません。
そこで、母からの代償分割(相続財産は何も取得しない代わりに、母からその代償として金銭等を貰うこと)で預金を2,000万円受け取ることにしたのです。母の方は金融資産も若干あり、これが減れば、母自身の二次相続の対策にも役に立つことになります。それに何より、長女の特別代理人の選任を申請するに当たり、長女は2,000万円を代償分割で取得するとなれば、家庭裁判所にも納得してもらえる財産の分割案になる訳です。
以上で母は配偶者の税額軽減で、長女は障害者控除で、両人とも相応の財産を相続するにも拘らず税額なし。晴れて無申告を貫き、確定申告後の暇な時期の申告で、事なきを得たのでした。2015年10月30日
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5280号
実子と養子の税法上の相違点
相続税の話で"養子"が出てくると、多くの方が反射的に養子が認められるのは1人だけ、と思うようです。確かに実子がいる場合はそうですが、それはあくまで相続税の計算の中で、それに係る幾つかの例外があると言うだけの話です。養子自体は何人でも縁組することは可能です。そもそも、養子縁組をするとどんな効果があるのか、税務上の扱いには実子とどのような相違があるのか、そんな事をテーマに考えてみました。
1."養子は一人"だけの誤解そもそも養子縁組と言う制度は、民法に規定されている制度です。その民法には人数制限などありません。それを相続税法と言う税法で何らかの規制をしようなど、できる話ではないのです。ただ、相続税法ではそれを無制限に認めると、極端な場合は10人の孫を総て養子にし、相続人を増やすことで過度な節税対策につながる可能性も出てきます。そのため、一定の項目の計算では実子がいる場合は1人、いない場合には2人までを法定相続人として扱う、と言うだけなのです。
2.どんな節税ができるのか?それでは、相続人の数が増えるとどんな節税対策ができるのでしょうか。まず第一に基礎控除額が増えることがあげられます。基礎控除額とは、この金額までは相続税の課税対象とならないと言う最低限の金額で、これを超える部分に税金が掛ることになるのです。現行では3,000万円+法定相続人の人数×600万円で計算します。つまり、夫婦に子が2人で夫が死亡した場合、法定相続人は3人なので3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除の金額となる訳です。従って、民法上は養子は実子と同じ扱いになるので、もし相続税でも養子を無制限に認めると、妻と養子が10人いれば基礎控除額は何と9,600万円にまでなるのです。つまり、課税される財産総額が9,600万円減額されることになります。
3.相続税の総額にも影響さらに、相続人が増えれば、全員で納めるべき税額(これを「相続税の総額」と言います)が減少することも考えられます。その理由は、相続税の計算方法にあります。基礎控除額を控除した残額が相続税の計算のもとになる金額です。この金額を法定相続人が法定相続分通りに分けたと言う前提で、各人の税額を計算するのです。例えば、前述の例で夫の相続が開始された場合、相続人は3人です。法定相続分は妻が1/2、子が各々1/4なので、その金額に各人ごとに税率を乗じて計算。各人の合計額が相続税の総額です。法定相続人の数が多ければ多いほど、一人当たりの課税される金額は少なくなります。その結果、適用税率は低いものになるため、相続税の総額は低くなる訳です。相続税の税率は最低の10%から最高55%までの累進税率。財産が増えれば増えるほど税率は上がり、負担は重くなるのです。但し、この計算にも養子は実子がいれば1人だけのカウントです。
4.非課税の枠も増える!退職金や被相続人が被保険者となっている生命保険金については、本来、民法の上では相続財産ではありません。従って、分割協議の対象となるものではないのです。しかし、相続税の上では相続財産と見なして課税の対象となっています。但し、これらはいずれも法定相続人一人当たり500万円は非課税とされています。従って、前述の夫婦に子2人の場合には、法定相続人が3人のためそれぞれ1,500万円までは課税されないのです。生命保険と退職金で併せて3,000万円までが非課税となる計算です。実務では、生命保険に入っていない方に、亡くなる直前でもこのケースで1,500万円の預金を下ろして一時払いの1,500万円の保険に入ることをお勧めします。1,500万円を掛けて1,500万円の保険金です。損も得もしませんが、非課税になる事が特典です。また、退職金なんて会社も経営してないし、無関係だと思っていませんか?小規模企業共済に入っていれば、亡くなってもらうお金は退職金扱い。これも1,500万円までは非課税です。しかし、ここでも養子は実子がいれば1人だけしか非課税の計算には算入されません。
5.養子の最大の功績は一代飛ばしの相続今まで見てきたように、養子を増やして節税しようと言う試みは、なかなか難しいものになっているのです。かつて極端な数の養子縁組をして相続税を節税する手法が取られた経緯があり、現在はこのような仕組みになっているからです。それでは、もはや相続税の節税を考えた場合、養子はその対策にはならないのでしょうか。必ずしも養子ではなく、遺言書に記載すれば同様の効果は得られますが、子ではなく一代飛ばして孫に相続又は遺贈させればいいのです。この場合、"2割加算"と言って相続税の割り増しはあるものの、同じ財産に子、孫と2回も相続税が課税されることは防げます。また、養子にすれば、遺言がない場合でも実子と同じ"子"の扱い。分割協議で子ではなく、養子に財産を継がせることも可能です。
2015年9月30日
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5279号
こんなに怖い”相続時精算課税制度”!!
相続時精算課税の制度をご存じの方も多いでしょう。生前に2,500万円までは贈与税が課税されずに贈与ができると言うものです。一見お得そうな制度です。が、実際の相続時には相続財産として課税されるため、多くの場合は相続税の節税にはなりません。特殊な場合を除いて、お勧めしてはいないのですが、実は、世間であまり知られていない、こんな驚きの実態が隠されているのです。
1.制度の概要初めに復習を兼ね、そして初めてお聞きになる方のために、簡単にこの制度の概要に触れておきましょう。暦年で計算し、1年あたり110万円の基礎控除があるのが普通の贈与税です。これに対し、相続時精算課税では、総額2,500万円までの贈与が非課税で、贈与の対象や回数は無制限となっています。この金額を超えた場合、一律20%の税率で課税されるため、以降は僅か10万円の贈与でも2万円が課税される計算です。
問題は相続の時で、贈与したにもかかわらず、相続財産に取り込まれ相続税が課税されることでしょう。もっとも、それまでに納めた贈与税があれば、それは相続税から控除されるため、損得なしと考えられなくもありません。強いて問題点と言えば、贈与した時点での評価額で相続税も計算されることでしょうか。贈与した時点では1,000万円と評価された物が、相続時に300万円になっていても、逆に1億円になっていても、相続時には1,000万円での評価なのです。値上がりしていれば得、値下がりは損と言ったところです。
2.どんな使い道があるのか?この制度、評価額の増減で多少の影響はあるものの、それを除いてどんな損得があるのでしょうか。相続税の心配のない方なら、例えばアパートと言う収益物件の贈与が考えられます。土地はそのままで建物だけを子に移せば、その賃貸収入は建物の所有者である子のもの。収入の少ないサラリーマンの息子や嫁に行った娘の生活が楽になるでしょう。相続や贈与の時の建物の評価額は固定資産税の評価額を用います。もともと低い建物の固定資産税の評価額が、賃貸物件の場合はさらにその70%相当で済んでしまうため、贈与税の負担も比較的軽いのです。勿論、相続税の心配がある方でも活用できない訳ではありませんが、一定規模以上なら建物を法人化する方がお得でしょう。
3.年功序列とは限らない!ここで結論を申し上げておきましょう。恐いのは、相続時精算課税制度で贈与を受けた子が親より先に亡くなるケースです。子が亡くなった時点で、子に特別な財産などない場合でも、相続時精算課税で贈与された財産は、既に子の財産。当然のことながら、子の相続税の対象となる訳です。そして、その金額が相続税の基礎控除額を超えていれば、その財産について相続税の負担が生じることになってしまいます。贈与されたのだから、それはそれで仕方がないのかも知れません。
しかし、その後で贈与をしてくれた父親が亡くなるとどうなるか。もう一度この制度を思い出して下さい。相続時精算課税制度とは、贈与をした父親が亡くなった時に、既に贈与をした財産をもう一度父親の財産として相続税を課税する、そんな制度だったはずです。つまり、一度、子の財産として課税された物が、今度は父親の相続財産となるのです。同じ財産について、一度のみならず二度までも相続税が課税されてしまうのです。課税当局はそう言う言い方を認めませんが、まぎれもなく、これは二重課税です。これを避ける方法はありません。子が早く死ぬのが悪い、と言わんばかりの制度なのです。
4.親の相続時に課税されなければ…しかし、もし親の相続時に相続財産から除外することが認められるとしたら、一体どうなるのでしょう。誰もがとりあえず生前にこの贈与をして、積極的に財産を移転してしまうのではないでしょうか。相続税は最高税率55%の累進税率です。決して幸せな事ではありませんが、万が一にも子が先に亡くなった場合、思わぬ節税効果が生まれることになります。親の財産が20%の贈与税だけで移転できることになるからです。それを防ぐために、子の相続時にも親の相続時にも、相続税を課税するのです。税法とは、税金を召し上げるための法律です。致し方ないのかも知れませんが、何らかの軽減策があってもいいとは思います。
ただ、この制度にはこんな恐怖が内在していることを覚えておいて頂きたいのです。昔から子が親より先に逝くのは親不孝な事だと言われています。しかし、親不孝だと言われようと何と言われようと、こんな事もあるのが現実の世の中。必ずしも年の順序通り逝くとは限りません。
ゆめゆめ、子たる者、親孝行を忘れてはなりませんぞ!2015年8月31日
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5278号
税務署は実態で判断する!
不動産を売買や贈与によって名義変更するとします。その情報は登記所から税務署にそのまま流れます。不動産の移動については、隠し事はできないのです。登記が動くと、税務署は売買や贈与の申告の有無、資金の出所等の確認を行います。が、登記された事項は必ず真実なのでしょうか。登記の内容と真実が異なる場合、税務署は何を信じるのでしょうか。登記は絶対なのかどうか検証してみましょう。
1.お寺は土地(底地)を売らないこんな事例がありました。あるお寺が境内とは別に、周辺に広大な土地を所有していたのです。それ自体、決して珍しいことではありません。土地を借地人に貸しているのですが、多くの場合、お寺は土地と言うか、底地を売ることはしないのです。その代わり、借地権の売買は条件付きで認めています。このお寺の場合、その条件は承諾料を支払う事の他に、売却先が法人ではなく"個人"であることとなっていたのです。
しかし、この土地上にある借地権付きの建物の購入を検討していた買主は、はたと困ってしまいました。法人として賃貸事業を行なう積りで、また、法人名義でなら信用もあったので、銀行からの融資も受けられたからです。借地人が個人でないと許可されない理由は定かではありませんが、買主としてはそれに従わざるを得ません。
2.建物の登記名義は個人ですが…買主は場所を気に入り、物件の収益性を好感していたので、仕方なく個人名義でこの借地権付き建物を購入しました。建物の登記名義は勿論、代表者"個人"です。ところが、登記簿謄本を見ると、『乙区』と言って抵当権の設定状況等が示される部分に驚愕の事実が。そこには何と、債務者として法人の名前が記載されているではありませんか。この手の融資の仕方は、債権者である金融機関さえ納得していれば済む話です。お金の使い道は、言うまでもなく個人名義で購入予定の建物代金でしょう。個人名義での購入を知っていながら、それでも法人に融資するのです。銀行はあくまでも名義上の購入者である個人ではなく、信用力のある法人に融資をします。但し、担保の対象となるのは個人所有の借地権付き建物、と言う仕組みです。代表者個人としてもそれに異存はない筈です。同族関係者間の話ですから。
3.問題は申告の方法と税務署の対応!さて、この事実を踏まえ、一体誰の名前でこの建物からの賃貸収入を申告するのでしょうか。
結論から先にお話ししましょう。登記簿上は所有者でもなんでもない"法人"です。法人が真実の所有者であるとして、その賃貸収入を申告するのです。しかし、そんな事が許されるのでしょうか。また、税務署はそれを認めるのでしょうか。
確かに銀行からの融資は法人宛となっています。銀行はそれが個人名義の建物取得に充てられることも知っています。と言うより、地主の都合で個人にせざるを得ない事実を、銀行も了解しているのです。従って、あくまでも法人に対する融資であって、その後、個人口座をスルーして個人名義で地主への支払いが行なわれることも承知をしています。言ってみれば、名義上だけは個人所有となってはいても、これは仮の姿であり、真実の所有者は法人なのですから。
4.登記に公信力はない!そもそも登記に『公信力』などないのです。仮に登記名義人が真実の権利者でない場合でも、一定の要件の下で、その権利を取得することが認められるというのが、不動産の「公信力」です。
しかし、日本の登記には公信力が認められていません。そのため、登記簿を信頼して、登記上の所有者から不動産を買い取っても、本当の所有者に対しては権利を主張できないのです。不動産登記に「公信力」がないのは、登記官が現地調査を行わず、書類だけで登記を処理しているので、取引の実態を把握できないためだと言われています。
5.税務署に対し用意すべき補完資料問題は税務署です。税務署に対しては、登記だけで判断しないよう、真実の実態を説明できればいいのです。上述のように、登記に公信力はないためです。税務はあくまでも実態に課税するものなので、それを裏付ける疎明資料を作成するのです。この疎明とは法律用語ですが、『一応確からしいとの推測を裁判官が得た状態、また、…(中略)…真実らしいと裁判官に確信を抱かせること』とされています。"証明"よりは軽く効力も低いものと言えるでしょう。
具体的には、地主の都合で法人名義では購入できない旨を謳った取締役会議事録の作成、融資を受ける銀行とのやり取り、その他一連の経緯等を説明できる資料を揃えておけば、ほぼ完璧な疎明資料となるでしょう。登記に限らず、税務は実態で判断です。本来の必要書類が提出できない場合でも、税務署に認められるケースが多い事を、覚えておいて損はありません。2015年7月31日
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5277号
退職金はいくらまでなら認められるか?
会社の規模の大小に関わりなく、役員に退職金を払うことは珍しいことではありません。特に同族会社の役員については、節税対策にもよく利用されています。ただ、法人税では過大な退職金は経費とならない旨が規定されています。過大かどうかはまさにケース・バイ・ケース。 一体、いくらまでなら税務署に認められるのでしょうか。
1.法人税法の規定法人が役員に対して支給した退職金については、基本的にはその支給額が確定した日の事業年度の経費になります。但し、「不相当に高額な部分」、"過大"な部分は現実にお金は出ていくものの、経費とは認められないのです。しかし、この過大とは何とも曖昧で具体性に欠ける規定です。
実はこの規定が抽象的であるために、実務では結構問題になる事も多いのです。と言うより、税理士も税務的な適正額を決めるに当たり、逡巡することが多い規定になっているのです。
2.どんな時に活用するのか?最も簡単な使い方は、実際に退職する時に支給する事です。しかし、実務では恣意的に行う事もあり、例えば予定より多額の利益が生じてしまった場合です。退職金と言えば、それなりの金額になります。それが経費になるとなれば、節税策としてはそれなりの効果を発揮する事でしょう。
これの応用編としては、株価を引き下げる場合に用いる方法です。極く簡単に言うと、株価計算の方法として"類似業種比準価額方式"と言うのがあります。この評価方法は3期分の会社の利益金額等を用いて計算するのですが、利益の金額が低ければ結果として株価が低くなるのです。
そして、株価が低くなった時点をとらえて一気に株式を贈与するのです。上場会社の株式と異なり、ご自身で所有しているいわゆる同族会社の株式なら、こんな方法で株価対策をし、来るべき相続に備えることもできるのです。
ただ、一度退職金を支給したら、原則として再び役員に復帰することはできません。実際に陰で指揮を執るかどうかは別として、役員報酬は取れなくなりますので注意が必要です。
3.適正額の考え方と税理士の対応話は戻って役員退職金の過大にならない適正額とはどんな金額なのでしょうか。教科書的な説明をすると、A.最終の月額報酬×B.在職年数×C.功績倍率 と言われています。例えば月額100万円の役員が20年在職したとすれば、100万円×20年×Cで算出されます。AとBは説明を要しないでしょうが、問題はCの功績倍率なのです。この倍率が大きくなればなるほど、適正とされる退職金の金額は跳ね上がるからです。裁判や国税不服審判所等で争われた事例での結論は、概ね、2~3倍と言う事で落ち着いているケースが多いようです。但し、これらはそれぞれ個別の事情もあり、十把一絡げに括ることはできません。
そうなると、税理士としてはどんな事情があっても2~3倍で計算することになりがちです。税務署に否認されることが怖いからです。
4.2~3倍に捕らわれることはない!しかし、よく考えてみましょう。最終月額報酬一つにしても、たまたま最終期の業績がその期だけ悪く、月額報酬を下げていたとしたら、それまで何十年の長きにわたって支給された報酬は加味されないのでしょうか。また、同じ報酬額、同じ在任期間であっても、苦労して1から築いてきた創業者と、既に地盤ができた上でそれを引き継いだ2代目、3代目は同じなのでしょうか。
こんな事もありました。あるお客様がお父様と一緒に会社を立ち上げました。お父様は個人で所有していた賃貸マンションをその法人に売却。ご子息はコンピュータ関係の業務を、それまでの個人事業から法人に移行して代表者に就任し、一緒に始められたのです。30歳を過ぎたばかりのバリバリの現役です。しかし、不幸なことにご子息は急病で、突然亡くなってしまったのです。会社を立ち上げて僅かに2年です。
このケースでの適正な退職金は最終月額報酬が100万円として、100万円×2年×2.5=500万円なのでしょうか。若くして亡くなられ、節税対策でも何でもなく、遺族に少しでも死亡退職金を渡したい。この人情を税務署は果たして否認できるのでしょうか。個人的には倍額程度は認められると思いますが、如何なものでしょう。
5.何より目立つのは絶対額税務署は決算書に記載された退職金を見て、最初に考えるのは退職金の絶対額です。実際の調査になれば別ですが、一つ一つ月額報酬と在任期間を調べる訳ではありません。他の会社と較べて、目立つほどの金額でなければ調査にも選定されないでしょう。日本一の麹町税務署、筆者の事務所を管轄する渋谷税務署や新宿、日本橋署等々は億円単位の退職金は珍しくありません。田舎の税務署ですか?1,000万円でも目立ちますよ!それへの対応策や如何に?麹町税務署他、都心の署への本店移転が手っ取り早い???
2015年6月30日
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5276号
相続後の手続きも、早過ぎるとアダ!
遺言書があり、誰にどの財産を相続させるかが、具体的に示されていたとします。すると今度はそれに基づいて、不動産の名義の変更登記をしたり、預金の解約をしたりする実務の手続きが始まります。相続後、早く始めれば早いほど、その効果は早期に相続人に及びます。しかし、その意味を考えず手続きを始めたばっかりにこんな事も…。
1.遺言書と遺産分割協議書遺言書がある場合でも、相続人全員の同意があれば、遺言書に拘束されることなく遺産分割協議を行い、財産分けをすることは可能です。これは決して珍しいことではなく、実務の中でも結構見受けられる事柄です。
ただ、ご注意頂きたいのは、やり直しはできないと言うことです。遺言書の通りに登記名義を変更したら、たとえその後に全員の同意が得られても、分割協議により名義の変更はできないと言うことです。贈与と認定されてしまうからです。
2.総ての財産を妻にと言う遺言書こんな遺言書がありました。"総ての財産を妻A子に相続させる"。いたって簡単明瞭な遺言書です。自筆証書遺言であったため、家庭裁判所の検認手続きも済ませました。相続人は妻A子の他に娘が二人いましたが、その段階では二人とも、特別に異は唱えませんでした。
娘二人には、言うまでもなく"遺留分"と言う権利が残されています。ただ、状況が理解できなかったためか、表立っての主張はしないまま、相続税の申告についてのご相談にお出でになったのです。しかも、相続人ではなく、次女の夫が相続人に代わって、です。娘二人は手続きを面倒がり埒が明かないのでこの方が調整役をかって出たのでしょう。お話から遺言書の存在がわかったため、ATOとしては申告の必要書類の説明の中で、遺言書のコピーも依頼しました。
3.検認さえ済ませれば手続きは可能相続財産はご自宅の他に預金と有価証券で、若干の相続税がかかりそうです。残された妻のいわゆる二次相続を考えた場合、今回の相続で総ての財産を妻が相続するのは、税務上は必ずしも得策ではありません。また、娘二人には何らの財産取得も遺言されていませんが、本音としては預金を幾ばくかは相続したい意向もあるようでした。
そこで、遺言書に依らず1.で述べたように、相続人全員の合意による分割協議の方法をご説明したのです。しばしの時間を置いて、書類が揃ったとのこと。今度は相続人に面談したのですが、驚きの事実が判明したのです。妻のA子さん、さして深い考えもなく、現金も必要であったため、直ちに換金できるものを換金しているのです。手続きは簡単です。検認済みの遺言書があるため、それにより総ての財産を自分名義にするだけですから。元来、A子さん自身、独り占めをする積りもなく、深い考えはなかったのです。ただ、ここまでの手続きを行ってしまっては、もはや分割協議を行うことができない旨のご説明をしました。
4.素人判断はやけどの原因ここで娘たちの不満が爆発です。これでは、何らの相続もしないまま手続きが法律的にも完了してしまうからです。こうなったのも、娘二人が相続について、他人任せで積極的に知ろうとしなかったことが最大の原因です。
相続の手続きについて、通常は総ての人が素人同然で、詳しい知識など持ち合わせていないのです。だからこそ我々を含め、専門家にご相談なさるのでしょう。それもできる限り早い段階からご相談頂く方が良いのです。
素人判断で自筆証書の遺言があったため、とりあえず家庭裁判所で検認の手続きをするところまでは良かったのです。裁判所では『これで直ぐに各種の手続きができますよ』と言われたそうです。そう言われたので、直ぐに手続きをした、それだけの話で、それが法律的にどういう意味を持つのか、何らの考えもなく進めたと言うのが真相。他意も悪意もなかったのでしょう。
5.手続き後に残された道事態がここに至っては、もはや残された道は一つしかありません。娘二人が遺留分の侵害があったことを理由に、母親に対し遺留分の減殺請求と言う手続きをすることだけです。原則的には亡くなった日から1年以内にすれば、このケースでは法定相続分の半分、つまり娘一人当たり財産全体の1/8は相続することが可能になるのです。
しかし、本来この手続きは取り分について争う場合に行うもの。遺留分減殺請求のやり方に特別な決まりはなく、権利を侵害している母親に対して意思表示するだけで効力は生じます。必ずしも裁判を起こさなければならない訳ではありません。2015年5月29日
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5275号
贈与税にも源泉徴収?
贈与税は言うまでもなく、贈与を受けた方に課税される税金です。せっかく貰ったにもかかわらず、そこから税金が取られてしまうのが我が国の税制なのです。それはそれで仕方のない事なのですが、こんな工夫で重税感を和らげることもできるのではないでしょうか。
1.手元に残るのは贈与を行う場合、贈与税の最低税率は10%です。これは課税される金額が200万円まで。贈与税には基礎控除額が110万円あります。従って、結論として310万円までの贈与なら10%の税率が適用できる計算です。つまり、310万円-110万円=200万円で、これに最低税率の10%を乗じると20万円。これが贈与税の負担額と言うことがお分かり頂けるでしょう。従って、実務では310万円までの贈与を行うことが多いのです。
ただ、贈与を受けた方は、この310万円から20万円も税金で取られてしまいます。手残り額は290万円。計算としては当たり前ですが、心情的にはどうでしょう?折角300万円を超す金額の贈与をして貰ったのに、手元に残ったのは300万円を切った金額です。贈与など、本来は棚からボタ餅なのですが、正直な気持ちは20万円を取られたような気持ちの方が強いのです。
2.初めから20万円を取られていたら贈与と言う代物、大抵の場合は贈与をする側が考える行為です。勿論、中には放蕩息子がおねだりすることもあるでしょう。が、一般論としては相続税対策や子や孫の将来を考えて、親や祖父母の側から提案するものなのです。貰う方はただただラッキーで、有り難く頂戴するだけです。
で、ここが問題なのですが、いったん310万円を渡してしまうからこそ、前述の"税金取られた感"が生まれてしまうのです。ここは、310万円とはっきり記載した贈与契約書を作成した上で、税引き後の290万円だけを渡したらどうでしょう。贈与の申告も、差し上げる方でやってあげるのです。もともと、贈与をする程の方は、税金の手続きも税理士を通じて慣れています。また、税に対する意識も高いのです。反対に贈与をされる側は、税理士との付き合いなんてありません。税に対する意識だって、ほとんどない場合も多いのです。
従って、総額としては310万円の贈与をするけれども、事前に20万円は贈与税がかかること、そして、差し引き290万円が手元に残ると言う旨の説明をしてあげればいいのです。贈与税の申告手続きは本人に代わって、こちらでしておくと言うことも言い添えて。そうすると、贈与を受ける方は、290万円を貰った事だけが心に残るのです。
3.考え方は給料の源泉徴収同じことは、給与から天引きされる源泉所得税にも言えるでしょう。30万円の給与から2万円の源泉と1万円の社会保険料を引かれて手取りは27万円になっても、それ程重税感はないのです。手元には初めから27万円しかないのですから。一度でも福沢さんの顔を見てからお別れすると、取られた感が生じてしまうのでしょう。人間の心理は複雑です。でも、この心理を利用することは非常に大切なのです。
結果としては全く同じ290万円が残ります。しかし、310万円貰った上で20万円を払うのと、初めから290万円だけを貰うのとは、貰う側の嬉しさは、倍以上違うこと、請け合いです。
4.贈与はアベノミクスにも貢献する!昨年から贈与税については追い風が吹いています。1,500万円までの教育資金贈与から始まって、今年は1,000万円までの結婚・子育て資金贈与の創設です。政府はあの手この手で贈与税の非課税枠を拡大しているのです。積極的な贈与の活用で、経済を活性化させようと必死で、アベノミクスを果敢に実践しています。お金を持っている高齢者から、お金を持っていない子や孫へ、お金を回せば世の中は動き始めるからです。
ただ、ここで問題なのは、贈与をする側の心配の種。いくら貯めても心配なのは"老後"の生活資金と言うのが大多数の考え方のようなのです。それでは、いくらあったら老後の生活を心配しなくても済むのでしょう。上を見ればきりはないものの、優雅に暮らせる一つの基準は、老夫婦二人で月に100万円だと言う説もあります。確かにこれだけあれば普通以上の生活はできるでしょう。好きな時に外食ができ、海外旅行も年に2~3回、孫が遊びに来たら相応の小遣いもあげられる、こんな生活ができると言うのです。1年で1,200万円ですから、これに100歳まで生きる計算をすれば、先ず間違いはないでしょう。
今年から、贈与税の税率も親や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与は、一部の例外を除けば引き下げです。贈与税の負担も減少することに。積極的な贈与を活用し、相続税対策を進めると共に、子や孫を喜ばせようではありませんか。子孫には美田を、そして死後には美女を残さないことが、有終の美を飾る秘訣であるとか、ないとか…。2015年4月30日