お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
年度:
タイトル:
-
5282号
個人と法人でこんなに違う”交際費”
人と人との関わりの中で、いわゆる交際費は重要な位置を占めています。とりわけビジネスの世界では、これの使い方一つでその後の展開は大きく変わることだってあり得る話。しかし、この"交際費"、個人と法人とでは税務の取扱いには大きな相違があるのです。そして、同じ法人でも大法人と中小法人では、若干の差が。と言うことで、今月のお品物は"交際費"です。
1.個人事業者は使い放題!結論から先に言うと、何が何でも交際費を沢山使いたい方には、個人事業を立ち上げることをお勧めします。支払いの事実があり、事業に関連性があれば、金額的な制限はありません。ことの是非はともかく、金額的な面では文字どおり青天井の世界なのです。
但し、ここで言う個人事業とは、小売業や製造業等の額に汗する業態の事。不動産貸付業はたとえどんなに規模が大きくても、青天井の恩典はありません。何故なのでしょう。誤解を恐れずに言ってしまえば、税務署はいわゆる不労所得が嫌いだからです。所得税の条文にそんな事は書いてありませんが、額に汗した人にはそれなりの事を認めましょう、そんな考え方なのです。
税務署的には、不動産所得と言うものは、言ってみれば働かずに楽をしている不労所得。そのため、収入に対して厳格な関連性を必要経費に求めているのです。"ヒモ付き"と言う言い方をしますが、そんな世界観なのです。
所得税に限りませんが、筆者には相続税を含め個人に対する課税には、一種浪花節的な考え方があるように思えて仕方ありません。例えば、相続税で自宅に認められる80%引きの小規模宅地の評価減。原則として、配偶者か同居の親族が相続した時に認められる特例です。配偶者はともかく、『同居』が重視され、同居=親孝行、だからこそ80%も評価額を減額してやろうと言うお情け的な考え方があるのも事実。
話を不動産所得に戻せば、ほとんど交際費は認められない、と思って頂いてもいいでしょう。
2.それが法人になるだけで…例えば、既存の賃貸物件を法人に売却し、従来の不動産収入が法人に帰属することになったとします。本来は法人の貸付事業と関連性がなければ、勿論法人が支出した交際費は、法人の経費とはなりません。が、現実には領収証があれば、交際費となる事が多いようです。個人と異なり、法人の活動は基本的には法人の業務のために行われると言う前提があるためです。実務的には個人の不動産所得のような"ヒモ付き"理論は存在しないのです。
3.大法人と中小法人の取扱いに差その代わりと言ってはナンですが、法人の交際費には金額的な制約が課される場合があります。法人と言っても資本金や出資金が1億円超の大法人と、1億円以下の中小法人とで取扱いが若干異なります。
まず、中小法人においては、定額控除限度額と言って、年間800万円までの交際費が認められる制度があります。逆の言い方をすれば、これを超える交際費は経費になりません。そのため、交際費を使う法人としても、800万円までなら何に使っても良かろうと思っているフシがあります。税務署もそれを黙認しているのが実態と言っていいかも知れません。
但し、言うまでもなく、社長が銀座のクラブにご贔屓のホステスができ、夜な夜な一人で通っても、それは交際費にはなりません。理論的には社長に対する賞与となり、法人の経費には算入ができないのです。
また、大法人と中小法人の両者に共通する扱いとして、交際費の内、"接待飲食費"の半分までは金額の制限なく経費として認められる制度があります。これはあくまでも接待のための飲食費であるため、役員や従業員等だけの内部での飲食はこれに当たりません。これらは通常の交際費であったり、福利厚生費、会議費等になるでしょう。あくまでも、社外の人間の存在が不可欠なのです。中小法人が800万円までの定額控除限度額制度を選択するか、"接待飲食費"の半分までを経費とする制度を選択するかは、"接待飲食費"が1,600万円を超えるか否かで判断することになるでしょう。1,600万円を超えるなら、その金額の50%を経費とする扱いが有利でしょうし、超えないなら定額控除を選ぶのが賢明な選択です。
4.5,000円基準は生きているなお、これも必ず社外の人間がいることが必須ですが、一定条件付きの一人当たり5,000円までの接待飲食費については、従来通り"会議費"等で経費となります。本来は交際費でしょうが、その程度は総額の規制のある交際費でなく、一般の経費として認めてやろうと言うお上のご配慮。総じて法人税は社内の人間との付き合いには厳格な姿勢が垣間見られます。慣れあいを許さず、浪花節が通用する世界ではないのです。
2015年11月30日
-
5281号
結果的に税額が算出されなければお咎めなし!
法人税でも所得税でも、そして勿論相続税でも申告期限は決められています。その期限までに申告書の提出がない場合、税務署から指摘されれば無申告加算税なる最低でも算出税額の15%のペナルティーが。さらに実際に納税した時までの日割り計算で、利息に相当する延滞税の対象にもなってしまいます。但し、です。結果的に例えば特例の適用をする等の工夫をして、税額が算出されなければどうなるのでしょう。加算税も延滞税も、もともとの本税の税額がゼロなので、その対象にならずお咎めなし。申告期限ギリギリでご相談にいらしたお客様にこんな工夫をしたのです。
1.事案の概要相続税の申告案件です。相続税においては時折りこんなケースがあるのですが、税務についての相談相手がいないのです。ご商売をやっていらっしゃれば、大抵は税理士が付いているもの。その税理士に相談するのが普通でしょう。しかし、このお客様はサラリーマンで、しかも、にわか勉強で自宅や事業所の敷地の評価は8割引きになる事を知っていたのです。相続財産に金融資産はなく、ほぼ自宅と同居の息子がやっている事業所の土地だけのため、結果的に相続税は掛らない、と高を括っていたのでしょう。
しかし、相続税の申告期限が近付いて、流石に心配になったようです。年明け早々に私共の事務所に相談にお見えになったのです。聞けば、申告期限は3月12日。確定申告の真っ最中です。いくらATOが相続税の申告業務に慣れているとは言え、いくらなんでも税理士事務所の最繁忙期にそんな事はやっていられません。そこで一計を案じて、この急場を凌いだと言うのが今回のお話なのです。では、どんな工夫をしたのでしょうか?
2.とにかく税額が算出されなければ失礼ながら、実はこの手のお客様が一番タチが悪いのです。税法を一応は知っている積りだからです。確かに一定の要件を満たしていれば、当時はご自宅の敷地は240平方メートルまで、事業用敷地は400平方メートルまでは8割引きになります。しかし、これは相続税の申告書を提出することが条件なのです。従って、何もしなければこの適用は受けられません。
そうは言っても、期限後に提出しても結果的にはその時点で適用になります。そこで、ここは腹をくくって申告期限は敢えて無視することにしたのです。ただ、税務署からは相続税の申告書も既に送付されているとのこと。黙って無視をすれば必ずや問い合わせがあり、税務調査にまで発展しかねません。そのため、次の状況を説明した上申書を税務署に提出し、理解を求めたのです。期限を過ぎてはしまうが、状況が整い次第速やかに税額0の申告書の提出を約束する事を。
3.相続人として利益が相反する場合実はこの事案、ちょっと厄介な事があったのです。相続人は配偶者である妻の他、長男と長女の計3人。ただ、長女は難病で何年も寝たきりの状態。意識もなく、税務上は特別障害者と言う扱いなのです。そして、分割協議をするに当たり、長女の意思確認が難しいことから、長男は自らが長女の成年後見人となる手続きをしていたのです。
ただ、そうすると長男は自身の相続人の立場と長女の後見人としての立場が相反するものになってしまいます。つまり、相続人として利益が相反するため、分割協議で後見人となり得ないのです。
こう言う場合、長男以外の特別代理人を選任するか、後見人を監督する後見監督人を選ぶ必要があるのです。
4.上申書に記載したある事情とはここで話は上申書に戻ります。税額が算出されないことが大前提であると申しました。そのためには、例えば配偶者である妻が全財産を相続すればよいのです。配偶者の場合、税額軽減策と言って、法定相続分か1億6,000万円までの金額の相続であれば、相続税は課税されないからです。
問題は長男と長女。長男は上記のような状況下、いずれ総ての財産を相続する立場です。従って今回は何の財産を相続しなくても構いません。長女の方は特別障害者のため、その年齢から420万円が税額から控除されるのです。つまり、この税額に相当する財産2,000万円を相続しても、実際には納税額が算出されないのです。ただ、相続財産は自宅と事業所の敷地だけ、現預金はありません。
そこで、母からの代償分割(相続財産は何も取得しない代わりに、母からその代償として金銭等を貰うこと)で預金を2,000万円受け取ることにしたのです。母の方は金融資産も若干あり、これが減れば、母自身の二次相続の対策にも役に立つことになります。それに何より、長女の特別代理人の選任を申請するに当たり、長女は2,000万円を代償分割で取得するとなれば、家庭裁判所にも納得してもらえる財産の分割案になる訳です。
以上で母は配偶者の税額軽減で、長女は障害者控除で、両人とも相応の財産を相続するにも拘らず税額なし。晴れて無申告を貫き、確定申告後の暇な時期の申告で、事なきを得たのでした。2015年10月30日
-
5280号
実子と養子の税法上の相違点
相続税の話で"養子"が出てくると、多くの方が反射的に養子が認められるのは1人だけ、と思うようです。確かに実子がいる場合はそうですが、それはあくまで相続税の計算の中で、それに係る幾つかの例外があると言うだけの話です。養子自体は何人でも縁組することは可能です。そもそも、養子縁組をするとどんな効果があるのか、税務上の扱いには実子とどのような相違があるのか、そんな事をテーマに考えてみました。
1."養子は一人"だけの誤解そもそも養子縁組と言う制度は、民法に規定されている制度です。その民法には人数制限などありません。それを相続税法と言う税法で何らかの規制をしようなど、できる話ではないのです。ただ、相続税法ではそれを無制限に認めると、極端な場合は10人の孫を総て養子にし、相続人を増やすことで過度な節税対策につながる可能性も出てきます。そのため、一定の項目の計算では実子がいる場合は1人、いない場合には2人までを法定相続人として扱う、と言うだけなのです。
2.どんな節税ができるのか?それでは、相続人の数が増えるとどんな節税対策ができるのでしょうか。まず第一に基礎控除額が増えることがあげられます。基礎控除額とは、この金額までは相続税の課税対象とならないと言う最低限の金額で、これを超える部分に税金が掛ることになるのです。現行では3,000万円+法定相続人の人数×600万円で計算します。つまり、夫婦に子が2人で夫が死亡した場合、法定相続人は3人なので3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除の金額となる訳です。従って、民法上は養子は実子と同じ扱いになるので、もし相続税でも養子を無制限に認めると、妻と養子が10人いれば基礎控除額は何と9,600万円にまでなるのです。つまり、課税される財産総額が9,600万円減額されることになります。
3.相続税の総額にも影響さらに、相続人が増えれば、全員で納めるべき税額(これを「相続税の総額」と言います)が減少することも考えられます。その理由は、相続税の計算方法にあります。基礎控除額を控除した残額が相続税の計算のもとになる金額です。この金額を法定相続人が法定相続分通りに分けたと言う前提で、各人の税額を計算するのです。例えば、前述の例で夫の相続が開始された場合、相続人は3人です。法定相続分は妻が1/2、子が各々1/4なので、その金額に各人ごとに税率を乗じて計算。各人の合計額が相続税の総額です。法定相続人の数が多ければ多いほど、一人当たりの課税される金額は少なくなります。その結果、適用税率は低いものになるため、相続税の総額は低くなる訳です。相続税の税率は最低の10%から最高55%までの累進税率。財産が増えれば増えるほど税率は上がり、負担は重くなるのです。但し、この計算にも養子は実子がいれば1人だけのカウントです。
4.非課税の枠も増える!退職金や被相続人が被保険者となっている生命保険金については、本来、民法の上では相続財産ではありません。従って、分割協議の対象となるものではないのです。しかし、相続税の上では相続財産と見なして課税の対象となっています。但し、これらはいずれも法定相続人一人当たり500万円は非課税とされています。従って、前述の夫婦に子2人の場合には、法定相続人が3人のためそれぞれ1,500万円までは課税されないのです。生命保険と退職金で併せて3,000万円までが非課税となる計算です。実務では、生命保険に入っていない方に、亡くなる直前でもこのケースで1,500万円の預金を下ろして一時払いの1,500万円の保険に入ることをお勧めします。1,500万円を掛けて1,500万円の保険金です。損も得もしませんが、非課税になる事が特典です。また、退職金なんて会社も経営してないし、無関係だと思っていませんか?小規模企業共済に入っていれば、亡くなってもらうお金は退職金扱い。これも1,500万円までは非課税です。しかし、ここでも養子は実子がいれば1人だけしか非課税の計算には算入されません。
5.養子の最大の功績は一代飛ばしの相続今まで見てきたように、養子を増やして節税しようと言う試みは、なかなか難しいものになっているのです。かつて極端な数の養子縁組をして相続税を節税する手法が取られた経緯があり、現在はこのような仕組みになっているからです。それでは、もはや相続税の節税を考えた場合、養子はその対策にはならないのでしょうか。必ずしも養子ではなく、遺言書に記載すれば同様の効果は得られますが、子ではなく一代飛ばして孫に相続又は遺贈させればいいのです。この場合、"2割加算"と言って相続税の割り増しはあるものの、同じ財産に子、孫と2回も相続税が課税されることは防げます。また、養子にすれば、遺言がない場合でも実子と同じ"子"の扱い。分割協議で子ではなく、養子に財産を継がせることも可能です。
2015年9月30日
-
5279号
こんなに怖い”相続時精算課税制度”!!
相続時精算課税の制度をご存じの方も多いでしょう。生前に2,500万円までは贈与税が課税されずに贈与ができると言うものです。一見お得そうな制度です。が、実際の相続時には相続財産として課税されるため、多くの場合は相続税の節税にはなりません。特殊な場合を除いて、お勧めしてはいないのですが、実は、世間であまり知られていない、こんな驚きの実態が隠されているのです。
1.制度の概要初めに復習を兼ね、そして初めてお聞きになる方のために、簡単にこの制度の概要に触れておきましょう。暦年で計算し、1年あたり110万円の基礎控除があるのが普通の贈与税です。これに対し、相続時精算課税では、総額2,500万円までの贈与が非課税で、贈与の対象や回数は無制限となっています。この金額を超えた場合、一律20%の税率で課税されるため、以降は僅か10万円の贈与でも2万円が課税される計算です。
問題は相続の時で、贈与したにもかかわらず、相続財産に取り込まれ相続税が課税されることでしょう。もっとも、それまでに納めた贈与税があれば、それは相続税から控除されるため、損得なしと考えられなくもありません。強いて問題点と言えば、贈与した時点での評価額で相続税も計算されることでしょうか。贈与した時点では1,000万円と評価された物が、相続時に300万円になっていても、逆に1億円になっていても、相続時には1,000万円での評価なのです。値上がりしていれば得、値下がりは損と言ったところです。
2.どんな使い道があるのか?この制度、評価額の増減で多少の影響はあるものの、それを除いてどんな損得があるのでしょうか。相続税の心配のない方なら、例えばアパートと言う収益物件の贈与が考えられます。土地はそのままで建物だけを子に移せば、その賃貸収入は建物の所有者である子のもの。収入の少ないサラリーマンの息子や嫁に行った娘の生活が楽になるでしょう。相続や贈与の時の建物の評価額は固定資産税の評価額を用います。もともと低い建物の固定資産税の評価額が、賃貸物件の場合はさらにその70%相当で済んでしまうため、贈与税の負担も比較的軽いのです。勿論、相続税の心配がある方でも活用できない訳ではありませんが、一定規模以上なら建物を法人化する方がお得でしょう。
3.年功序列とは限らない!ここで結論を申し上げておきましょう。恐いのは、相続時精算課税制度で贈与を受けた子が親より先に亡くなるケースです。子が亡くなった時点で、子に特別な財産などない場合でも、相続時精算課税で贈与された財産は、既に子の財産。当然のことながら、子の相続税の対象となる訳です。そして、その金額が相続税の基礎控除額を超えていれば、その財産について相続税の負担が生じることになってしまいます。贈与されたのだから、それはそれで仕方がないのかも知れません。
しかし、その後で贈与をしてくれた父親が亡くなるとどうなるか。もう一度この制度を思い出して下さい。相続時精算課税制度とは、贈与をした父親が亡くなった時に、既に贈与をした財産をもう一度父親の財産として相続税を課税する、そんな制度だったはずです。つまり、一度、子の財産として課税された物が、今度は父親の相続財産となるのです。同じ財産について、一度のみならず二度までも相続税が課税されてしまうのです。課税当局はそう言う言い方を認めませんが、まぎれもなく、これは二重課税です。これを避ける方法はありません。子が早く死ぬのが悪い、と言わんばかりの制度なのです。
4.親の相続時に課税されなければ…しかし、もし親の相続時に相続財産から除外することが認められるとしたら、一体どうなるのでしょう。誰もがとりあえず生前にこの贈与をして、積極的に財産を移転してしまうのではないでしょうか。相続税は最高税率55%の累進税率です。決して幸せな事ではありませんが、万が一にも子が先に亡くなった場合、思わぬ節税効果が生まれることになります。親の財産が20%の贈与税だけで移転できることになるからです。それを防ぐために、子の相続時にも親の相続時にも、相続税を課税するのです。税法とは、税金を召し上げるための法律です。致し方ないのかも知れませんが、何らかの軽減策があってもいいとは思います。
ただ、この制度にはこんな恐怖が内在していることを覚えておいて頂きたいのです。昔から子が親より先に逝くのは親不孝な事だと言われています。しかし、親不孝だと言われようと何と言われようと、こんな事もあるのが現実の世の中。必ずしも年の順序通り逝くとは限りません。
ゆめゆめ、子たる者、親孝行を忘れてはなりませんぞ!2015年8月31日
-
5278号
税務署は実態で判断する!
不動産を売買や贈与によって名義変更するとします。その情報は登記所から税務署にそのまま流れます。不動産の移動については、隠し事はできないのです。登記が動くと、税務署は売買や贈与の申告の有無、資金の出所等の確認を行います。が、登記された事項は必ず真実なのでしょうか。登記の内容と真実が異なる場合、税務署は何を信じるのでしょうか。登記は絶対なのかどうか検証してみましょう。
1.お寺は土地(底地)を売らないこんな事例がありました。あるお寺が境内とは別に、周辺に広大な土地を所有していたのです。それ自体、決して珍しいことではありません。土地を借地人に貸しているのですが、多くの場合、お寺は土地と言うか、底地を売ることはしないのです。その代わり、借地権の売買は条件付きで認めています。このお寺の場合、その条件は承諾料を支払う事の他に、売却先が法人ではなく"個人"であることとなっていたのです。
しかし、この土地上にある借地権付きの建物の購入を検討していた買主は、はたと困ってしまいました。法人として賃貸事業を行なう積りで、また、法人名義でなら信用もあったので、銀行からの融資も受けられたからです。借地人が個人でないと許可されない理由は定かではありませんが、買主としてはそれに従わざるを得ません。
2.建物の登記名義は個人ですが…買主は場所を気に入り、物件の収益性を好感していたので、仕方なく個人名義でこの借地権付き建物を購入しました。建物の登記名義は勿論、代表者"個人"です。ところが、登記簿謄本を見ると、『乙区』と言って抵当権の設定状況等が示される部分に驚愕の事実が。そこには何と、債務者として法人の名前が記載されているではありませんか。この手の融資の仕方は、債権者である金融機関さえ納得していれば済む話です。お金の使い道は、言うまでもなく個人名義で購入予定の建物代金でしょう。個人名義での購入を知っていながら、それでも法人に融資するのです。銀行はあくまでも名義上の購入者である個人ではなく、信用力のある法人に融資をします。但し、担保の対象となるのは個人所有の借地権付き建物、と言う仕組みです。代表者個人としてもそれに異存はない筈です。同族関係者間の話ですから。
3.問題は申告の方法と税務署の対応!さて、この事実を踏まえ、一体誰の名前でこの建物からの賃貸収入を申告するのでしょうか。
結論から先にお話ししましょう。登記簿上は所有者でもなんでもない"法人"です。法人が真実の所有者であるとして、その賃貸収入を申告するのです。しかし、そんな事が許されるのでしょうか。また、税務署はそれを認めるのでしょうか。
確かに銀行からの融資は法人宛となっています。銀行はそれが個人名義の建物取得に充てられることも知っています。と言うより、地主の都合で個人にせざるを得ない事実を、銀行も了解しているのです。従って、あくまでも法人に対する融資であって、その後、個人口座をスルーして個人名義で地主への支払いが行なわれることも承知をしています。言ってみれば、名義上だけは個人所有となってはいても、これは仮の姿であり、真実の所有者は法人なのですから。
4.登記に公信力はない!そもそも登記に『公信力』などないのです。仮に登記名義人が真実の権利者でない場合でも、一定の要件の下で、その権利を取得することが認められるというのが、不動産の「公信力」です。
しかし、日本の登記には公信力が認められていません。そのため、登記簿を信頼して、登記上の所有者から不動産を買い取っても、本当の所有者に対しては権利を主張できないのです。不動産登記に「公信力」がないのは、登記官が現地調査を行わず、書類だけで登記を処理しているので、取引の実態を把握できないためだと言われています。
5.税務署に対し用意すべき補完資料問題は税務署です。税務署に対しては、登記だけで判断しないよう、真実の実態を説明できればいいのです。上述のように、登記に公信力はないためです。税務はあくまでも実態に課税するものなので、それを裏付ける疎明資料を作成するのです。この疎明とは法律用語ですが、『一応確からしいとの推測を裁判官が得た状態、また、…(中略)…真実らしいと裁判官に確信を抱かせること』とされています。"証明"よりは軽く効力も低いものと言えるでしょう。
具体的には、地主の都合で法人名義では購入できない旨を謳った取締役会議事録の作成、融資を受ける銀行とのやり取り、その他一連の経緯等を説明できる資料を揃えておけば、ほぼ完璧な疎明資料となるでしょう。登記に限らず、税務は実態で判断です。本来の必要書類が提出できない場合でも、税務署に認められるケースが多い事を、覚えておいて損はありません。2015年7月31日
-
5277号
退職金はいくらまでなら認められるか?
会社の規模の大小に関わりなく、役員に退職金を払うことは珍しいことではありません。特に同族会社の役員については、節税対策にもよく利用されています。ただ、法人税では過大な退職金は経費とならない旨が規定されています。過大かどうかはまさにケース・バイ・ケース。 一体、いくらまでなら税務署に認められるのでしょうか。
1.法人税法の規定法人が役員に対して支給した退職金については、基本的にはその支給額が確定した日の事業年度の経費になります。但し、「不相当に高額な部分」、"過大"な部分は現実にお金は出ていくものの、経費とは認められないのです。しかし、この過大とは何とも曖昧で具体性に欠ける規定です。
実はこの規定が抽象的であるために、実務では結構問題になる事も多いのです。と言うより、税理士も税務的な適正額を決めるに当たり、逡巡することが多い規定になっているのです。
2.どんな時に活用するのか?最も簡単な使い方は、実際に退職する時に支給する事です。しかし、実務では恣意的に行う事もあり、例えば予定より多額の利益が生じてしまった場合です。退職金と言えば、それなりの金額になります。それが経費になるとなれば、節税策としてはそれなりの効果を発揮する事でしょう。
これの応用編としては、株価を引き下げる場合に用いる方法です。極く簡単に言うと、株価計算の方法として"類似業種比準価額方式"と言うのがあります。この評価方法は3期分の会社の利益金額等を用いて計算するのですが、利益の金額が低ければ結果として株価が低くなるのです。
そして、株価が低くなった時点をとらえて一気に株式を贈与するのです。上場会社の株式と異なり、ご自身で所有しているいわゆる同族会社の株式なら、こんな方法で株価対策をし、来るべき相続に備えることもできるのです。
ただ、一度退職金を支給したら、原則として再び役員に復帰することはできません。実際に陰で指揮を執るかどうかは別として、役員報酬は取れなくなりますので注意が必要です。
3.適正額の考え方と税理士の対応話は戻って役員退職金の過大にならない適正額とはどんな金額なのでしょうか。教科書的な説明をすると、A.最終の月額報酬×B.在職年数×C.功績倍率 と言われています。例えば月額100万円の役員が20年在職したとすれば、100万円×20年×Cで算出されます。AとBは説明を要しないでしょうが、問題はCの功績倍率なのです。この倍率が大きくなればなるほど、適正とされる退職金の金額は跳ね上がるからです。裁判や国税不服審判所等で争われた事例での結論は、概ね、2~3倍と言う事で落ち着いているケースが多いようです。但し、これらはそれぞれ個別の事情もあり、十把一絡げに括ることはできません。
そうなると、税理士としてはどんな事情があっても2~3倍で計算することになりがちです。税務署に否認されることが怖いからです。
4.2~3倍に捕らわれることはない!しかし、よく考えてみましょう。最終月額報酬一つにしても、たまたま最終期の業績がその期だけ悪く、月額報酬を下げていたとしたら、それまで何十年の長きにわたって支給された報酬は加味されないのでしょうか。また、同じ報酬額、同じ在任期間であっても、苦労して1から築いてきた創業者と、既に地盤ができた上でそれを引き継いだ2代目、3代目は同じなのでしょうか。
こんな事もありました。あるお客様がお父様と一緒に会社を立ち上げました。お父様は個人で所有していた賃貸マンションをその法人に売却。ご子息はコンピュータ関係の業務を、それまでの個人事業から法人に移行して代表者に就任し、一緒に始められたのです。30歳を過ぎたばかりのバリバリの現役です。しかし、不幸なことにご子息は急病で、突然亡くなってしまったのです。会社を立ち上げて僅かに2年です。
このケースでの適正な退職金は最終月額報酬が100万円として、100万円×2年×2.5=500万円なのでしょうか。若くして亡くなられ、節税対策でも何でもなく、遺族に少しでも死亡退職金を渡したい。この人情を税務署は果たして否認できるのでしょうか。個人的には倍額程度は認められると思いますが、如何なものでしょう。
5.何より目立つのは絶対額税務署は決算書に記載された退職金を見て、最初に考えるのは退職金の絶対額です。実際の調査になれば別ですが、一つ一つ月額報酬と在任期間を調べる訳ではありません。他の会社と較べて、目立つほどの金額でなければ調査にも選定されないでしょう。日本一の麹町税務署、筆者の事務所を管轄する渋谷税務署や新宿、日本橋署等々は億円単位の退職金は珍しくありません。田舎の税務署ですか?1,000万円でも目立ちますよ!それへの対応策や如何に?麹町税務署他、都心の署への本店移転が手っ取り早い???
2015年6月30日
-
5276号
相続後の手続きも、早過ぎるとアダ!
遺言書があり、誰にどの財産を相続させるかが、具体的に示されていたとします。すると今度はそれに基づいて、不動産の名義の変更登記をしたり、預金の解約をしたりする実務の手続きが始まります。相続後、早く始めれば早いほど、その効果は早期に相続人に及びます。しかし、その意味を考えず手続きを始めたばっかりにこんな事も…。
1.遺言書と遺産分割協議書遺言書がある場合でも、相続人全員の同意があれば、遺言書に拘束されることなく遺産分割協議を行い、財産分けをすることは可能です。これは決して珍しいことではなく、実務の中でも結構見受けられる事柄です。
ただ、ご注意頂きたいのは、やり直しはできないと言うことです。遺言書の通りに登記名義を変更したら、たとえその後に全員の同意が得られても、分割協議により名義の変更はできないと言うことです。贈与と認定されてしまうからです。
2.総ての財産を妻にと言う遺言書こんな遺言書がありました。"総ての財産を妻A子に相続させる"。いたって簡単明瞭な遺言書です。自筆証書遺言であったため、家庭裁判所の検認手続きも済ませました。相続人は妻A子の他に娘が二人いましたが、その段階では二人とも、特別に異は唱えませんでした。
娘二人には、言うまでもなく"遺留分"と言う権利が残されています。ただ、状況が理解できなかったためか、表立っての主張はしないまま、相続税の申告についてのご相談にお出でになったのです。しかも、相続人ではなく、次女の夫が相続人に代わって、です。娘二人は手続きを面倒がり埒が明かないのでこの方が調整役をかって出たのでしょう。お話から遺言書の存在がわかったため、ATOとしては申告の必要書類の説明の中で、遺言書のコピーも依頼しました。
3.検認さえ済ませれば手続きは可能相続財産はご自宅の他に預金と有価証券で、若干の相続税がかかりそうです。残された妻のいわゆる二次相続を考えた場合、今回の相続で総ての財産を妻が相続するのは、税務上は必ずしも得策ではありません。また、娘二人には何らの財産取得も遺言されていませんが、本音としては預金を幾ばくかは相続したい意向もあるようでした。
そこで、遺言書に依らず1.で述べたように、相続人全員の合意による分割協議の方法をご説明したのです。しばしの時間を置いて、書類が揃ったとのこと。今度は相続人に面談したのですが、驚きの事実が判明したのです。妻のA子さん、さして深い考えもなく、現金も必要であったため、直ちに換金できるものを換金しているのです。手続きは簡単です。検認済みの遺言書があるため、それにより総ての財産を自分名義にするだけですから。元来、A子さん自身、独り占めをする積りもなく、深い考えはなかったのです。ただ、ここまでの手続きを行ってしまっては、もはや分割協議を行うことができない旨のご説明をしました。
4.素人判断はやけどの原因ここで娘たちの不満が爆発です。これでは、何らの相続もしないまま手続きが法律的にも完了してしまうからです。こうなったのも、娘二人が相続について、他人任せで積極的に知ろうとしなかったことが最大の原因です。
相続の手続きについて、通常は総ての人が素人同然で、詳しい知識など持ち合わせていないのです。だからこそ我々を含め、専門家にご相談なさるのでしょう。それもできる限り早い段階からご相談頂く方が良いのです。
素人判断で自筆証書の遺言があったため、とりあえず家庭裁判所で検認の手続きをするところまでは良かったのです。裁判所では『これで直ぐに各種の手続きができますよ』と言われたそうです。そう言われたので、直ぐに手続きをした、それだけの話で、それが法律的にどういう意味を持つのか、何らの考えもなく進めたと言うのが真相。他意も悪意もなかったのでしょう。
5.手続き後に残された道事態がここに至っては、もはや残された道は一つしかありません。娘二人が遺留分の侵害があったことを理由に、母親に対し遺留分の減殺請求と言う手続きをすることだけです。原則的には亡くなった日から1年以内にすれば、このケースでは法定相続分の半分、つまり娘一人当たり財産全体の1/8は相続することが可能になるのです。
しかし、本来この手続きは取り分について争う場合に行うもの。遺留分減殺請求のやり方に特別な決まりはなく、権利を侵害している母親に対して意思表示するだけで効力は生じます。必ずしも裁判を起こさなければならない訳ではありません。2015年5月29日
-
5275号
贈与税にも源泉徴収?
贈与税は言うまでもなく、贈与を受けた方に課税される税金です。せっかく貰ったにもかかわらず、そこから税金が取られてしまうのが我が国の税制なのです。それはそれで仕方のない事なのですが、こんな工夫で重税感を和らげることもできるのではないでしょうか。
1.手元に残るのは贈与を行う場合、贈与税の最低税率は10%です。これは課税される金額が200万円まで。贈与税には基礎控除額が110万円あります。従って、結論として310万円までの贈与なら10%の税率が適用できる計算です。つまり、310万円-110万円=200万円で、これに最低税率の10%を乗じると20万円。これが贈与税の負担額と言うことがお分かり頂けるでしょう。従って、実務では310万円までの贈与を行うことが多いのです。
ただ、贈与を受けた方は、この310万円から20万円も税金で取られてしまいます。手残り額は290万円。計算としては当たり前ですが、心情的にはどうでしょう?折角300万円を超す金額の贈与をして貰ったのに、手元に残ったのは300万円を切った金額です。贈与など、本来は棚からボタ餅なのですが、正直な気持ちは20万円を取られたような気持ちの方が強いのです。
2.初めから20万円を取られていたら贈与と言う代物、大抵の場合は贈与をする側が考える行為です。勿論、中には放蕩息子がおねだりすることもあるでしょう。が、一般論としては相続税対策や子や孫の将来を考えて、親や祖父母の側から提案するものなのです。貰う方はただただラッキーで、有り難く頂戴するだけです。
で、ここが問題なのですが、いったん310万円を渡してしまうからこそ、前述の"税金取られた感"が生まれてしまうのです。ここは、310万円とはっきり記載した贈与契約書を作成した上で、税引き後の290万円だけを渡したらどうでしょう。贈与の申告も、差し上げる方でやってあげるのです。もともと、贈与をする程の方は、税金の手続きも税理士を通じて慣れています。また、税に対する意識も高いのです。反対に贈与をされる側は、税理士との付き合いなんてありません。税に対する意識だって、ほとんどない場合も多いのです。
従って、総額としては310万円の贈与をするけれども、事前に20万円は贈与税がかかること、そして、差し引き290万円が手元に残ると言う旨の説明をしてあげればいいのです。贈与税の申告手続きは本人に代わって、こちらでしておくと言うことも言い添えて。そうすると、贈与を受ける方は、290万円を貰った事だけが心に残るのです。
3.考え方は給料の源泉徴収同じことは、給与から天引きされる源泉所得税にも言えるでしょう。30万円の給与から2万円の源泉と1万円の社会保険料を引かれて手取りは27万円になっても、それ程重税感はないのです。手元には初めから27万円しかないのですから。一度でも福沢さんの顔を見てからお別れすると、取られた感が生じてしまうのでしょう。人間の心理は複雑です。でも、この心理を利用することは非常に大切なのです。
結果としては全く同じ290万円が残ります。しかし、310万円貰った上で20万円を払うのと、初めから290万円だけを貰うのとは、貰う側の嬉しさは、倍以上違うこと、請け合いです。
4.贈与はアベノミクスにも貢献する!昨年から贈与税については追い風が吹いています。1,500万円までの教育資金贈与から始まって、今年は1,000万円までの結婚・子育て資金贈与の創設です。政府はあの手この手で贈与税の非課税枠を拡大しているのです。積極的な贈与の活用で、経済を活性化させようと必死で、アベノミクスを果敢に実践しています。お金を持っている高齢者から、お金を持っていない子や孫へ、お金を回せば世の中は動き始めるからです。
ただ、ここで問題なのは、贈与をする側の心配の種。いくら貯めても心配なのは"老後"の生活資金と言うのが大多数の考え方のようなのです。それでは、いくらあったら老後の生活を心配しなくても済むのでしょう。上を見ればきりはないものの、優雅に暮らせる一つの基準は、老夫婦二人で月に100万円だと言う説もあります。確かにこれだけあれば普通以上の生活はできるでしょう。好きな時に外食ができ、海外旅行も年に2~3回、孫が遊びに来たら相応の小遣いもあげられる、こんな生活ができると言うのです。1年で1,200万円ですから、これに100歳まで生きる計算をすれば、先ず間違いはないでしょう。
今年から、贈与税の税率も親や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与は、一部の例外を除けば引き下げです。贈与税の負担も減少することに。積極的な贈与を活用し、相続税対策を進めると共に、子や孫を喜ばせようではありませんか。子孫には美田を、そして死後には美女を残さないことが、有終の美を飾る秘訣であるとか、ないとか…。2015年4月30日
-
5274号
ジュニアNISAの注意点!
前号で、今年の税制改正で新設される『結婚・子育て資金贈与』の意味の無さを指摘しました。今回のテーマであるジュニアNISAも、やはり新設される項目です。『結婚・子育て資金贈与』ほど意味がないとは言いませんが、ちょっと注意が必要です。とりわけ生前贈与の計画がある方は、これも通常の贈与であり、110万円の贈与税の非課税枠を使ってしまうことを、忘れてはならないのです。
1.制度の概要基本的には現在実施されているNISAと同様の仕組みです。ただ、対象が乳幼児を含む20歳未満の子供であるため、その運用にあたっては、親権者等の代理人が行うか、又はその同意が必要となります。平成27年から同35年の間に口座を開設し、非課税の期間は最長5年です。年間80万円まで投資ができるため、最大で400万円までの預け入れが可能です。そして、従来からのNISAのように、上場株式等の売却や配当については、非課税となる制度です。
2.子供名義の2つの口座ジュニアNISAは、子供名義の2種類の口座が必要になります。まずは両親や祖父母が、子や孫のために資金の受け皿口座を開設しなければなりません。これを『課税J-NISA口座』と言いますが、この口座あてに資金を入れることになります。そして、この資金を基に上場株式等を購入すると、もう一つの口座である『J-NISA口座』で管理されることになります。この口座は、あくまで特定口座のように、管理するためのものであり、実際の株式の売却代金や配当金等は『課税J-NISA口座』に入金されます。
そして、株式等の売却を行わない場合には、20歳となって最初に迎えた1月に、同じ金融機関に今度は大人版の『NISA口座』が自動的に開設され、移管されるのです。
3.勝手には引き出せない!大人版と大きく違う点は、"基準年"と言うのが設けられていて、引き出しが制限されることでしょう。この基準年とは、その年の3月31日に18歳である年の事を言います。原則として、上記2つの口座から、基準年の前年12月31日までは引き出しができないことになっているのです。
これに違反して引き出してしまうと、本来非課税であるはずの、払出日までの株式の譲渡益や配当金について、払出日に20%の税率で課税されてしまうのです。
それだけに留まらず、(1)保有中の上場株式等について、譲渡があったものとされ(2)譲渡損があった場合でも、その損失はなかったものとされる等不利な扱いを受ける事になってしまうのです。
4."贈与"であることを忘れてはならない!ここで、課税J-NISA口座へ資金を入れる事の意味を考えてみましょう。子や孫名義の口座を開設し、そこに毎年最大で80万円の資金を投入するのです。これはまさに子や孫へ80万円の贈与をすることにほかなりません。勿論、80万円と言う金額が贈与として扱われても、この金額なら基礎控除額である110万円の範囲内。贈与税が課税される訳ではありません。
問題は、この80万円が贈与税の計算をする場合、何か特別な扱いをされる訳ではないと言うことなのです。通常の1年間の暦年を基準とする贈与であれば、前述のとおり110万円が基礎控除額。もしこの制度を利用して、毎年80万円を課税J-NISA口座へ入れたら、30万円しか非課税枠は残っていないのです。課税J-NISA口座への贈与で非課税枠を使い切っていいのか、と言う問題なのです。
5.名義預金等であるとの疑いからは免れるが…この制度を使えば、公明正大に父母又は祖父母から子や孫へ資金が流れることが証明されます。相続税の調査でいつも問題になる、本当に贈与があったのかどうか、名義を借りているだけの名義預金・名義株なのではないか、等々の疑念は払拭されます。その意味では使い勝手は非常に良いでしょう。
贈与を考える場合、最も大切なことは贈与を行う側と貰う側の双方に、贈与と言う行為に対する認識があることです。贈与をする本人はあげた積りでいても、それを子や孫には黙って貯金をしている。これでは"贈与"にはならないのです。
しかし、この制度の場合、貰う側にその意識や認識が無くても、歴とした"贈与"と認定されます。それが最大のメリットではあるでしょう。
ただ、将来子供が大人になった時、これが相応の価値のある財産になっているかどうかは分かりません。こんなのを貰うなら、現金で残しておいて貰った方が余程うれしかったのに、と言うことになるかも知れません。大切な110万円の非課税枠です。適用にあたっては、慎重な判断が求められそうです。2015年3月31日
-
5273号
利用価値のない結婚・子育て資金贈与の非課税制度
今年の税制改正、法人税の税率軽減の他には、大きな目玉はありませんでした。もっとも、世間では非課税の贈与の特例が注目されています。結婚・子育て資金として1,000万円までが贈与税なしと言うものです。ただ、これも平成25年4月から始まった教育資金贈与の非課税制度と同じで、特別な手続きをしなくても、もともと大半のものが非課税。ただ、教育資金より更に使い勝手は悪くなっており、誰が何のために使うのか…。
1.制度の概要先ずはこの制度の概要から。贈与を受ける人(受贈者と言う)が20歳以上50歳未満で結婚や子育て資金に充てるため、父母又は祖父母等から資金等の提供を受けた場合、1,000万円までは贈与税を非課税とするものです。面倒なのは、これも教育資金の場合と同様、その使途を明らかにする領収証等をその都度、金融機関に提出することです。
そして、受贈者が50歳に達するか死亡した時、又は贈与のために預けた金額が0になり、終了の合意があった時に終了となります。但し、受贈者の死亡により終了した場合を除き、終了時点で残額があれば、それには贈与税が課税です。
ここで結婚資金とは、披露宴を含む婚礼に際して支出する費用で住居や引っ越しに要するものまでが含まれます。また、子育て資金とは、妊娠・出産に要する費用、子の医療費や保育料の内一定のものとされています。
2.税法を知らない人の感想と行動税法を全くご存じない方にとっては、教育資金が1,500万円、この結婚・子育て資金が1,000万円も贈与税が非課税とは、かなりの朗報。金融機関への手続きはちょっと面倒かも知れないが、併せて2,500万円も相続財産から減額されるなら、是非ともやってみよう。と思われるかも知れません。事実、教育資金贈与の非課税制度が始まって以来、相当数の手続きが信託銀行等を通じてなされたそうです。高齢者はお金をお持ちの方も多く、それを贈与と言う手段で使えば、経済が活性化するため、それを目論んでの政策だったのです。その意味で、日本の国家的には良かったのかも知れません。
3.税法の規定次は、税法を業務としている税理士の感想です。どうしてこんな制度が国民に喜ばれるのでしょうか。結論から言うと不思議でたまりません。何故なら、わざわざこのような手続きをして、その都度金融機関へ書類を届けなくても、もともとこれらの項目は非課税なのです。贈与税は相続税法と言う法律に、非課税になるものを限定して列挙しています。その中に"扶養義務者から生活費又は教育費として贈与を受けた財産のうち通常必要と認められるもの"とあります。所得税でも扶養義務を履行するための金品は非課税とされているのです。ここで扶養義務者とは、所得税の扶養控除の条件とは全く関係なく、所得制限はありません。実務的には配偶者、親子のような直接の血縁関係者、兄弟姉妹、3親等内の親族で同じお財布で生活している者とされています。つまり、通常の家族関係なら、これらのものは元来何の手続きをしなくても非課税なのです。
そして、もう一つ"社交上必要と認められる香典等"の非課税。これは常識の範囲内での香典、贈答、ご祝儀等を言います。国民感情を考慮しての規定ですが、当然と言えば当然の規定。筆者がまだ若く、就職1年目で結婚した時のこと。自慢にもなりませんが、貯金もなく給料も低いのに、結構派手にホテルで挙式、全額親の負担、ご祝儀です。当時は税務職員でしたが、特段の課税もなく…。立場は変わり、娘の出産に際しては、全額当方の負担。常識の範囲内なら、もともと非課税なのです。
4.結婚・子育て資金贈与の最大の欠点それではこれらの非課税規定、何のメリットもないのでしょうか。あるとすれば教育資金贈与の方でしょう。生前に一括で1,500万円を贈与し、直後に死亡した時です。まだ100万円しか使っておらず、残額は1,400万円あったとしても、これには贈与税も相続税も掛りません。従って、亡くなりそうになったら、慌てて1,500万円の贈与をしても、直前3年内の贈与が相続財産へ加算される規定も適用されません。これに対し結婚・子育ての方は、贈与の残額がある場合、相続で取得したものとみなされて、相続税が課税されます。
5.亡くなりそうなら教育資金贈与、健在なら…結論としては、これら両方の特例は、今にも亡くなりそうなら慌てて1,500万円の教育資金贈与。健在なら特例を使わない贈与がお勧めです。但し、その資金が本当にその目的に使われたことを示す証拠は必要です。祖父の預金から孫の入学資金と同額を引き出すとか、学業に係る費用の領収証を祖父が保存しておくとか、その程度の工夫は必要です。相続税の調査では、必ず生前の資金の動きは預金通帳でチェックされるのです。大きな金額の入出金の動きだけは、生前から分かるようにしておく事をお勧めします。
2015年2月27日
-
5272号
“総収入金額”の考え方
今回は、昨年末に受けた所得税の調査でのお話です。税務調査では、調査官は何としてでも誤りを見つけ、修正申告に持ち込もうとします。それを必死に体を張って、お客様をお守りするのが我がATOの仕事です。とは言うものの、結局は税法をめぐる攻防です。どちらの言い分に理があるか、税法の知識と日本語の国語力と常識論を駆使し、頭の体操をして頂ければ幸甚です。
1.管理型法人とはかつて一世を風靡した不動産所得の節税策、と言えば何と言っても管理会社方式でしょう。親族だけで管理会社を設立し、その会社にご本人の賃貸物件を"管理"させるのです。その管理料相当分が不動産所得の経費となり、所得税の節税が図れると言う仕組みです。その管理料が問題で、中には収入の50%なんて、とんでもない強者までもが現れる始末。流石に税務署も行き過ぎた節税策に腹を立て、当初は20%がその料率の限度と規制したのです。しかし、この20%と言う料率は、法律でも通達でもないため拘束力がありませんでした。そのため、当局と税金を納める側で、常に争いが絶えなかったのです。結局、最後は国税不服審判所と言う大岡裁きで実質的にほぼ決着が。何%と言う料率ではなく、"管理の実態"で判断をし、実態があれば料率が不当に高いか否かを判断することで体勢は決まったのです。
2.所有型法人の登場ここで節税を諦めては男がすたると言うもの。合法的に不動産所得を減らし、所得税の負担を軽減させる秘策をATOでは考えました。それがいわゆる"所有型法人"で、お陰様で「相続財産は法人化で残しなさい」なる本まで出す始末。管理ではなく建物そのものを、帳簿価額で法人に売却しようと言うものです。こうすれば、法人自体が建物のオーナー。管理の実態など問われることもありません。そして、法人に集まった賃貸収入は、ご本人ではなく親族を役員にして役員報酬で分散します。こうすれば、賃料の分散効果で所得税は激減し、ご本人に財産の蓄積もできないために、相続税対策にもなるのです。
3.事案の概要前置きが少々長くなりました。問題の所得税の調査では、初めに述べた"管理料"の料率のみならず、その計算方法が問題だと指摘されたのです。実は、総ての物件を所有型法人に移すことは難しい場合があるのです。ここで詳述はしませんが、法人に移せない物件についてだけ、管理料を徴収していたのです。そして、その管理契約書には『賃貸収入総額の10%相当額』が同族法人への支払い管理料である旨が規定されていたのです。税務署の具体的な指摘事項は、(1)この10%と言う料率が高過ぎる点。(2)10%を乗じる"基になる金額"に問題があると言う2点です。つまり、賃貸収入総額の中に、水道光熱費等のいわゆる共益費が入っているが、これは実費の預かり分であり、賃貸収入ではないと言う指摘なのです。共益費部分にまで管理料を徴収している管理会社など、一般的な管理形態ではない。賃貸収入と言うのは、不動産等のモノを貸す事によって生じる収入である、との主張なのです。
4.ATOの主張まず、(1)については、料率そのもので判断すべきではなく、管理の実態で判断すべきだと考えています。ご本人は80歳を過ぎたご高齢で、外部の管理会社に一部管理業務を任せてはいるものの、実質的な活動は総てご子息の営む管理会社が行なっているのです。金額的には年間で約600万円、専従者給与と考えれば、規模や業務量を勘案した場合、決して高過ぎる金額ではないと反論しました。そして問題なのは(2)の点です。確かに多くの管理会社では、共益費にまで管理料を徴収することはないかも知れません。しかし、法律論としては、どの部分に料率を乗じても、税務上の問題がなければ、契約の両当事者の任意です。更に、不動産所得用の青色決算書の収入金額の欄には、賃貸料、礼金・権利金・更新料、共益費等と記載され、その合計額を収入金額として計上しているのです。契約書上『賃貸収入総額の10%相当額』となっており、"総額"の中に共益費が入っていても、何ら問題はないと考えています。
5.屁理屈には屈しないぞ!冒頭にも書いたように、税務署と言うところは何が何でも修正申告をさせたいのです。当方が修正に応じない場合、税務署は「更正」と言う職権で強制的に課税することも可能です。しかし、更正されればこちらは「異議申立」をして、あくまで戦う覚悟です。修正申告をした場合には、後でこの「異議申立」はできないのです。だからこそ、税務署は"修正申告"を迫ってくるのです。そして彼らはプライドに掛けても負ける喧嘩はしたくないので、この程度のことでは「更正」はなかなかできないのです。共益費収入は賃貸収入ではないのでしょうか。"家賃の"とは書いてありません。どこまでも争うつもりだったのですが、当初修正しろとあれだけ言っていた税務署は一転「これで結構です!」。最終的に当方の主張が通って終結。ホッ!!
2015年1月30日
-
5271号
納税方法まで考えていますか?
相続が"争族"にならないために、遺言で財産の分割を決めておくのは非常に有用です。しかし、財産分けの他に、もう一つ忘れてはならないことがあるのです。それは相続税の納税方法で、相続人ごとの手当てが必要です。何故なら延納も物納も、実態はそれ程甘くありません。また、その可否は、相続人ごとに判定されるからです。と言う訳で、本日のテーマは相続税の納税方法です。
1.相続税の納税方法納税方法としての原則は、言うまでもなく現金による一括納付です。これは何も相続税に限ったことではなく、所得税、法人税、そして消費税に至るまで、納税方法としての大原則です。
しかし、特に相続税については、相続した財産によっては必ずしも換金化が容易でない場合もあります。そこで、相続税には特別な納税方法が認められているのです。それが延納であり、物納です。延納は他の税目にも認められていますが、物納は相続税だけに認められている、特異な納税方法で、その条件も確かに厳しいものがあります。
2.物納の前に『延納』が物納は本当に特別な納税方法なのです。従って、いきなり物納を選択できる訳ではありません。その前に、様々なテストが用意されているのです。初めのテストは、相続財産と相続人固有の財産で、どれ位の現金納付ができるか、と言う判定です。それで不足する場合には、次に延納を考えて下さい、と言うことになります。最長20年の分割払いになりますが、延納とは、いわば税務署に借金をするようなもの。従って、担保が必要になりますし、金利も掛ります。但し、延納は返済方法が年賦となっているため、1年に1度の返済で、しかも元金均等払いです。通常の金融機関からの借り入れのように、元利均等ではありません。従って、例えば1億円を10年で納税する場合、毎年の返済は元金の1,000万円と金利との合計額になります。そのため、年を経るごとに利息込の返済額は少なくなりますが、当初の負担は非常に重いものと覚悟した方が良さそうです。
3.延納する額を自由には決められない!実は、延納が認められる金額は、納税をする側で自由に決めることはできません。あくまでも現金で納税ができない部分だけです。しかも、その算出に当たっては、『金銭納付を困難とする理由書』と言う書式で細かく決められています。この中で、まずは納期限までに、いくら納付ができるのかを算出します。その過程で毎月の生活費を記載するのですが、これが驚愕の算定方法なのです。一律に申請者である相続人が月100,000円、配偶者その他の親族が一人当たり45,000円です。つまり、相続人に妻と二人の子がいる場合、生活費は100,000円+45,000円×3で月額235,000円、1年で282万円。これに各種の税金や社会保険料の負担額を記載し、1年間の収入からこれらの金額を控除した残額が、納税に充てられますね、と言う訳なのです。
4.それでも駄目な部分が物納ですが…ここまでのテストでも、どうしても相続税が納められない場合に限って、初めて認められるのが物納です。日常は贅沢をせず、つましく質素に暮らして下さい。残ったお金は先ず税金に充当です。それでも納税ができないなら、仕方がありません。その時の最後の手段が物納で、不動産等の現物で納めて下さい、とこんな順序、考え方なのです。
物納となれば、どの土地にするかですが、その最有力候補は、不良資産である借地人の居る底地でしょう。ここは税金を納める側の勝手です。税務署に駅前の土地の方が嬉しいです、とは言わせません。選択権は我にあり、です。
5.事前の準備が何より大切但し、土地の場合、まずは実測に基づく確定測量が必要です。面積を求める事と同時に、敷地境界を確定させなければなりません。そのため、必然的に隣接地の所有者の立会いが必要となります。また、民有地同士の境界確定(民民査定)だけでなく、公道や水路等の公有地との境界についても、役所立会いの上で確定させること(官民査定)になるのです。が、これが結構時間のかかる、いわゆるお役所仕事。併せて借地人との借地境も確定させましょう。また、地代が周辺相場並みであることも重要な条件の一つです。その他にも、建物が越境している、上下水道の埋設場所が適正でない等々の問題を整備しておく必要があります。これら諸々の事柄を、相続税の申告期限までに、原則的には総てクリアーしておかなければなりません。相続後に動き始めても、到底間に合うものではないのです。物納は以前より認められるのが難しくなったと言われています。しかし、決して難しくなった訳ではありません。物納に適した財産かどうかの基準が明確化され、原則的には、申請時点で必要書類がすべて整っていることが要求されるようになっただけ。延納は使い難い制度ですし、物納は事前準備が大変です。いずれにせよ納税方法の準備は相続人ごとに、しかもお早目に!
2014年12月26日