お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5261号
受益者連続型信託を活用すれば…
自分の財産を誰にどのように相続させるか、遺言書さえ作成すれば、それは基本的に自由です。遺留分の問題はありますが、極端に特定の人に総ての財産を相続させることも、勿論可能ではあります。ただ、当座はAに相続させるが、Aの後はBにと言う事は、遺言書を作成しても一般的には不可能だと言われています。が、信託を活用すれば、それも可能と言うのが今回のテーマです。
1.子のいない夫婦の心配事二人姉妹の姉からの相談でした。100坪ほどの土地の一角に姉夫婦の自宅はありました。土地は姉妹で等分の共有です。姉には子がなく夫と二人暮らし。妹には子が一人いて、姉も最終的にはその土地は妹の子にと思ってはいました。
この段階で自分の死後はその子にと言う遺言書の作成は可能です。しかし、そうすると夫が自分より後まで残った場合、夫は妹の子が所有している土地建物に住むことになってしまいます。意地悪をして追い出されるようなことは無いにしても、決して居心地のいいものではないでしょう。
2.共有関係を解消しても先ずは姉妹の共有関係を解消し、姉の土地と妹の土地を分けておくのも一法です。共有物の分割と言う言い方をしますが、分割後のそれぞれの土地の価格が等価であれば、課税上の問題はありません。申告の手続きも不要です。そして、姉が夫より先に亡くなった場合、それを遺言によって夫だけに相続させるのです。
妹も姉の相続人にはなりますので、土地については遺言によって確実に夫が相続できるようにしておけば安心です。
しかし、一度夫の財産となれば、今度は夫の一存で誰に相続させるかは夫が判断することになります。理屈の上では夫の兄弟や場合によっては後添えを迎え、それらの人達に相続させることもあり得るでしょう。
ただ、通常はこのような事情を承知の上でこの土地を相続した夫です。そのようなことはないでしょうが、姉がそれを心配して、夫にも遺言書を作らせることも可能は可能です。
しかし、それをしたとしても遺言書を書き換えることなど至って簡単なこと、何度だってできてしまいます。夫が自分の親兄弟へ相続させることは無いにしても、万一再婚でもしたら、後妻へ相続させたいと思うのが人情です。
そこで、様々な状況を想定して、夫の次は妹の子がその土地を取得できる方法を確立しておかなければなりません。
3."信託"をもう一度復習しておくとそれを可能にする方法が"受益者連続型信託"なのです。この説明に入る前に、もう一度信託についての基礎知識を整理しておきましょう。登場人物は3者、財産を預ける人が委託者、それを責任を持って預かる人が受託者、その財産から得られる利益を享受する人が受益者です。
委託者である姉が信頼できる妹にこの土地を信託します。つまり妹を受託者、そして自分自身を受益者とする信託契約を結ぶのです。委託者と受益者を両方とも同一の姉にするのは、この土地が信託により登記簿上は受託者である妹名義になっても、譲渡税や贈与税の課税がないからです。
なお、妹に信託しなくても、"自己信託"と言って自分自身を受託者とすることも可能ではあります。しかし、説明がやや複雑になってしまうため、ここでは妹に委託したケースで考えてみましょう。
4.受益者連続型信託ならこの受益者連続型信託とは、姉が亡くなった時にはそれまで自分が持っていた受益者としての地位、つまり受益権を夫に相続させるのです。そして、夫が亡くなった時には、それを妹の子に相続させる旨の信託契約書を作成しておけばいいのです。このような信託契約をしておけば、結局は遺言書を作成するのと同じ効果が得られる事にもなります。信託契約は、原則として委託者、受託者、そして受益者全員の合意がなければ、その内容の変更はできません。その意味では、遺言書のように後日の書き換えを心配する必要はないのです。
但し、信託契約も無期限に効力があるものではありません。信託から30年を経過した時の受益者が死亡して、その次の受益者が死亡した時点で終了です。あまり早過ぎる時期に信託契約をして、長生きすると目的が達成できないかも知れません。2014年2月28日
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5260号
相続税における建物評価に警告?
相続税においては、建物の評価について独自の基準はなく、固定資産税の評価を借用しています。相続時に個別の評価は事実上困難だからなのか、固定資産税の評価が適正ではないと分かっていながら、割り切りでそれに頼るしかないのだと思います。が、相続の直前に増改築を行うと、話はちょっと違ってきます。国税庁がご丁寧にもHPを使ってこんな警告を発しているのです。
1.固定資産税の賦課期日ご存じのとおり、固定資産税はこちらが申告をしなくても、市町村が勝手に評価額を決めて課税してきます。この手の方法を賦課課税方式と言いますが、毎年1月1日現在の所有者に、その時点での状況で課税をすることになっています。
従って、建物については、相続時に付されているその年の固定資産税の評価額で計算を行うことになります。確かに原則的な考え方はこれでいいのですが、問題は必ずしも固定資産税の評価額では解決しない例もある事なのです。それが、建物の増改築を行った場合に、固定資産税の評価額に反映されていないケースです。
2.税務署が行う照会ある相続税の税務調査でのことです。相続開始の6ケ月前に、およそ1,700万円を掛けて自宅の改装を行っていた事案です。その改装の内容は、システムキッチンに1,200万円、台所の床工事に200万円、居間のフローリングと床暖房で300万円と言うものです。
そもそも何故こんな工事を行ったことが税務署に分かるかと言えば、普通預金の動きを税務署は事前に精査しているためです。このことは今回のテーマではないので、少しだけ触れておくに留めます。相続税の申告書を提出すると、その申告書から分かる範囲内の総ての金融機関に照会文書を発送するのです。残高は勿論のこと、普通預金の動きを職権で5~10年程度に遡って復元させています。それも被相続人だけではなく、相続人やその他申告書から分かる関係者総てについてなのです。
その照会文書の回答を検討し、不審な預金の動きがあれば、解明するために実際の調査に着手。調査に来た時点で、古い預金通帳を隠しても破棄しても、内容は先刻ご承知なのです。勿論、そんなことはおくびにも出さず、通帳の提示を求め、初めて支出の事実を知った"振り"をしてこれは何ですか、と質問するのですが…。
3.税務署の指摘と固定資産評価基準話は税務調査に戻ります。『相続直前に1,700万円もかけて自宅を改装している。支出額そのものとは言わないまでも、相応の価値の増加があるはずだ。その分の財産の計上がないのはおかしい。』と言う指摘をされたのです。
しかし、1.でも述べたように建物についての相続税の評価は固定資産税の評価額です。その評価額は相続後2度も賦課期日を経て、なお改築前と変更がないのです。感情論としては税務署の指摘も理解はできます。が、固定資産評価基準と言う評価方法についてのマニュアルの中に、家屋の建築設備の評価上の取り扱いについて、次のような規定がなされているのです。『家屋の所有者が所有する電気設備、給水設備、空調設備…等々で家屋に取り付けられ、家屋と構造上一体となって、家屋の効用を高めるものについては、家屋に含めて評価する』と。家屋に含めて評価した結果、評価額に変更がないのだから1,700万円については価値の増加はないと考えられるのです。
ただ、これで引き下がるほど税務署も甘くはありません。建物内部の改築なので固定資産税の係りが気付いていないだけだ、と主張。舞台は固定資産税の係りの判断に委ねられることになったのです。
4.固定資産税の評価を踏まえて果たして、固定資産税の担当者は、この手の改築は評価を変更する程のものではないとの回答。確かにシステムキッチンに関しては、金額的にも高額で資産価値の増大がない訳ではないのだろうと思いますが、考え方としては修繕費扱いだと言うのです。理論的には価値の増大は否定できないのでしょうが、実務としては、評価額の変更にまでは及ばないと言う考え方のようでした。
5.税務署の警告結果としては家屋の評価が変わらない以上、相続税への影響はありませんでした。しかし、こんな事案が多かったのか、先般11月1日付で国税庁のHPにこんなQ&Aが掲載されたのです。家屋の増改築後、評価額が改定されていないため、増改築にかかる状況を反映していない場合の取り扱いについてです。その回答は、減価償却を行った後の残額の70%相当額で計上すべきとのこと。実はこの考え方、以前からあったのですが、わざわざHPにまで掲載するのは警告と言うか脅かしと言うか…。相続直前の増改築は今後は要注意ですが、工事後どれ位の年月が経過していればいいのか、状況を反映していないとは具体的にはどんな事なのか、未だ不明点は山積しています。
2014年1月31日
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5259号
成年後見制度によらず、”信託”を活用すれば…
『成年後見制度』をご存知の方も多いと思います。認知症や知的障害、精神障害等によって正常な判断ができなくなった場合、成年後見人と言う援助者を選ぶことにより、ご本人を法律的に支援する制度です。制度自体はご本人の保護にとって有用です。が、実情は甚だ制限が多く、使い勝手が悪くお勧めできません。しかし、この制度によらず、今話題の"信託"を活用すれば、確実に同等以上の効果を得られるのです。
1.成年後見制度のデメリットこの制度を選択すると何が面倒かと言うと、被後見人保護の趣旨に反する一切の支出ができないことです。例えば、本人ではなく配偶者が介護の必要な状況になり、老人ホームに入居させようとしても、入居のための保証金や権利金等の支出はままなりません。相続税対策としてタワーマンションの購入などもってのほか。また、昨今の駐車場の利用率低迷を改善すべく、そこに賃貸物件を建設しようにも、とにかく本人の財産を減らすことは一切認められません。結果として収益性が増し、財産が増える可能性があっても、です。
後見人の候補者は申請者が申請しますが、最終的には家庭裁判所から選任されます。が、家庭裁判所によってその取扱いはかなり異なります。少なくとも霞が関の家裁では、身辺の介護をする"身上監護"は親族が選任されても、肝心の財産管理の部分はこちらの意に沿った身内や息のかかった弁護士を後見人とすることが認められません。家裁に登録されている弁護士等から、先方の都合で後見人が選任されてしまうのです。
2.大切なのは財産の運営・管理身辺の介護ももちろん確かに大切なのですが、将来の相続税を考えた場合には、財産の運営や管理をないがしろにする訳にはいきません。
上記の賃貸建物の建築のように、結果として収益性が増すことになったとしても、一度は建築資金として預貯金を取り崩し、又は負債を抱えることは許されないのです。地域の再開発や道路拡張等で土地等を売却しようにも、土地等の財産を減らすことになるので、それすらも認められない場合があるのです。
財産を処分し減らす行為が法律の趣旨に反することになってしまうためです。もっとも抜け穴もあって、以前ご相談を頂いたお客様には、駐車場に賃貸建物を建てる際、次のような工夫をして認められたこともあります。
本人名義で建物を建てるのではなく、親族が営む所有型法人に土地を貸すのです。賃貸建物自体はその法人名義で建築し、法人が支払う地代を従前の駐車場収入を上回るようにしたのです。こうすれば、本人の預貯金を減らすこともなく、負債を負わずに収入は確実に増えるため、後見制度の範囲内で建築することができるのです。
3."信託"を活用すれば…所有型法人の活用は別として、もっと根本的な解決策は"信託"です。ご本人の判断能力のある時点で、信頼できる親族や親族の主催する法人に全財産を信託するのです。信託銀行に財産を預ける商事信託ではなく、個人的に身内に対して行う民事信託のため、免許も登録も不要な誰でもできる信託です。
もちろん、信託するに当たっては、その目的や信託する財産を明示し、信託契約を結ぶことが必要です。その契約の中に財産の売却処分を含めた有効活用、相続税対策をも加えておけば、信託を受託した親族や法人は、本人に代わってほぼ全てのことが実行可能になります。
4.銀行が行う後見制度支援信託ここでご注意頂きたいのは、銀行が行っている'後見制度支援信託'と言うものとは違うという点です。これは前述の成年後見制度を前提とするものです。ご本人が銀行に財産を信託し、信託された金銭の中から後見人が管理する口座へ生活費等の定期的な交付を行う制度です。余剰の資金については金銭信託等で運用するようですが、家庭裁判所の指示書に基づいて行われるもので、民事信託とは全く別のものだと考えて下さい。
5.委託者=受益者が絶対条件!信託についての説明が若干前後してしまいますが、絶対に忘れてはならないことがあります。信託契約には、委託者(財産を預ける人)、受託者(その財産を預かる人)そして受益者(その信託財産から利益を享受する人)の3者が登場します。本来、その財産は委託者の物ですが、所有権自体は信託をすると受託者に移ります。そうでないと受託者が自分の名前でその財産を運用、処分することができないためです。
しかし、名義自体は変わっても、本来は委託者の財産であるため、委託者が死亡した場合、委託者が受益者と同じであれば、相続財産となります。しかも、財産の移転に際しても譲渡税や贈与税等の課税の対象とはならないのです。委託者=受益者を絶対条件として、後見制度によらず安心、確実な"信託"の積極的な活用を是非ご検討下さい。2013年12月26日
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5258号
実効税率と限界税率2
前号では、相続税対策として生前の贈与を活用する場合の"実効税率"の話を致しました。相続税の実効税率より低い税率の贈与であれば、結局は相続税より負担は少ないと言う考え方が一般的な議論である、と。
結論として、この議論は間違っている事を述べるのが、本日のテーマです。お手数ですが、今月に限り、前号ともう一度見比べながらご一読頂けますと幸甚です。
1.実効税率で贈与をしても…ここで、前号での相続税の実効税率と贈与税率との比較をもう一度簡単に復習します。相続財産が3億円、相続人1人であれば、相続税額は9,180万円。9,180万円÷3億円で相続税の実効税率は30.6%です。
2,200万円の贈与で贈与税の実効税率が30.7%ですので、この水準だと相続税と贈与税の税率がほぼ同じだと申し上げました。そのため、2,200万円までの贈与であれば、相続を待つより贈与の方があくまで"一見すると"お得です、と。
それでは、実際に相続財産の3億円から2,200万円を生前に贈与したとします。残った財産は2億7,800万円。基礎控除額3,600万円を引いて2億4,200万円が課税の対象です。この金額の場合の速算表(B表)を見てみると、3億円以下ですので、適用税率は贈与前と同じ45%で控除額が2,700万円です。つまり、相続時に適用される相続税の税率は変わっていないのです。
2.相続税への影響は"限界税率"ここでもう一度相続による取得分と税率の表(A表)を見てみましょう。生前の贈与で2,200万円を減らしたところで、適用される最も高い部分の税率、つまり限界税率は結局2億円を超え3億円以下の部分であるため、同じ45%なのです。
これはどんな事を意味しているのでしょうか。贈与した後も相続税の税率が45%のままであると言うことは、もっと贈与をしたら相続税の税率が下がるのではないか、と考えられるでしょう。相続税の限界税率が一段下がって、初めて相続税の節税効果が出たと言うことなのです。
3.限界税率を下げてこその効果つまり、前述の2,200万円の贈与を行っても、相続税率を下げて税額を減額させる余地が、未だ残されている事を意味するのです。と言うより、限界税率そのものを下げてこそ、初めて相続税の負担が下がるのではないのでしょうか。では、どれ位の贈与なら相続税の負担を減らすことになるのでしょう。
上記のケースで相続税の限界税率は45%です。これを別の視点、贈与税の視点から見てみると、贈与をした場合のその贈与税の実効税率が45%になるまでの贈与を行うことが可能だと言うことができるのではないのでしょうか。
贈与税の実効税率が45%になるのは、税額から逆算をすると、6,400万円の贈与と言う結果が得られます。つまり、前号で述べた2,200万円までの贈与ではなく、更に約3倍の6,400万円までの贈与がお得になると言う計算です。
4.限界税率での贈与の確認法結論から言えば、どれ位の金額の贈与なら相続税より有利になるかは、限界税率の幅にもより個別性が強いものとなっています。そこで、概ねの目安としては、相続税の実効税率ではなく限界税率のランクを下げる金額で判断する、と言うことになります。そして、最終的には下記の方法でそれを確認して頂くことで、贈与の効果を万全なものにし、安心することができます。更なる安心のためには、やはりATOへの相談でしょうか。
1 相続税額を算出する。 2 限界税率(A%)が適用されている部分の金額(B円)を求める。
→最大でB円までの贈与が本当に相続税よりもお得であることを確認するため3 B円を贈与した場合の贈与税額を算出する。 4 贈与税の実効税率(C%)を求める。 5 C%<A%であることを確認する。 2013年11月29日
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5257号
実効税率と限界税率
相続税の負担が重い場合、ATOでは将来に備え、生前に積極的に贈与を行いましょう、と言う提案をしばしば行います。確かに生前に財産を減らしておけば、相続税の負担は軽くなります。しかし、そこに立ちはだかるのが贈与税です。相続税より負担の軽い贈与を行えばいいのですが、その限界を見極めようと言うのが本日のテーマです。
1.累進税率の考え方相続税にしても贈与税にしても、税率は一つではありません。相続や贈与をする財産が大きくなれば、それに従って税率そのものが高くなっていきます。例えば、改正後の相続税では1,000万円まで10%、1,000万円超3,000万円以下15%、3,000万円超5,000万円以下20%と言う具合です。
これを累進税率と言って、財産の額によって納める税金の割合は漸増する仕組みになっているのです。財産を持てる者から沢山の税金を徴収して財産を減らし、税引き後の状態では持てない者に近付けて、社会全体を公平化、均一化していこうと言うのです。まさに資産家いじめですが、対抗策は贈与による財産減らしです。
2.速算表の考え方そこで、何の対策もせず坐して死を待った場合の相続税と、多少の贈与税と言う血は流した上で、財産を減らした場合との比較が必要になってきます。一般にはその税負担を考える場合、それを"実効税率"と言う考え方で判断をしています。上記1.の累進税率は、この金額からこの金額までの部分は○○%、と部分、部分により税率が異なって漸増するものでした。下のA表をご覧頂くとその仕組みがお分かり頂けると思います。
ただ、これでは金額が小さい場合はともかく、例えば5億円の計算をする場合、何段階もの計算をしなければならず、作業は煩雑です。そこで実務では、速算表と言って先ずは最も高い税率を適用し、その税率が適用されない低税率部分を予め計算して"控除額"として調整しているのです。
3.実効税率と贈与税さて、話は相続税と贈与税の損得ですが、簡単な例で検証してみましょう。先ずは相続財産が3億円、相続人は1人と言う前提です。改正後の基礎控除額は3,000万円+600万円で3,600万円のため、これを3億円から控除した2億6,400万円に相続税が課税される訳です。これをB表に当てはめて計算すると、税率は45%、控除額が2,700万円ですので、相続税額は9,180万円と算出されます。3億円の財産に対して9,180万円の相続税額であるため、9,180万円÷3億円=30.6%の負担となり、これが実効税率なのです。何の対策もせず相続を迎えた場合、この30.6%の税率が適用されるなら、これより低い贈与税の負担であれば、相続税が課税されるより結果として"得"をすると言うのが一般的な考え方なのです。
4.いくらの贈与までなら得なのか?それでは、いくらの贈与であればこれよりお得な贈与になるのでしょう。計算の詳細は割愛し、結論だけを申し上げれば、一見、2,200万円の贈与となりそうです。と言うのは、この金額の贈与で110万円の基礎控除額を控除し、C表の速算表に当てはめて計算してみます。2,200万円-110万円=2,090万円となるため、贈与税の税額は6,755,000円。贈与額の2,200万円に対して6,755,000円÷2,200万円=30.7%となり、3.で求めた相続税の30.6%とほぼ符合するからです。これが従来からある実効税率の考え方ですが、果たしてこれが真実かどうか、次号でこれの真偽を検証してみたいと思います。
2013年10月31日
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5256号
“行政指導”と言う名の税務調査?
税務署もかなりお忙しいようです。なりふり構わず『決算書(収支内訳書)の内容についてのお尋ね』を濫発し、修正申告を期待しているのです。
このお尋ねが、かなりの数のお客様のところに届いているようで。これは一体何ものなのでしょうか。しかも、面白い事に、"税務調査"ではないと言うのです。調査ではなくて、行政指導?
それでは早速、その疑問、ナゾを解き明かしていきましょう。
1.『決算書(収支内訳書)の内容についてのお尋ね』とは…7月に行われる税務署の定期異動の前後くらいからです。個人で不動産所得のある方に対して、このお尋ねがかなりの数の方宛に発送されているのです。税務署のお尋ねは、不動産所得の経費のうち、租税公課、修繕費、借入利子、減価償却費等々の内訳を回答しろと言うもの。支払先の名称や修繕の内容、物件の所在地、支払金額の欄に続き、ご丁寧にもその金額の内、経費に算入した額を記載しろと言うのです。支払った金額の内、経費に算入した金額は本当にそれでいいんですか?自宅部分が混入していませんか、税務署はそこを疑っているんですよ、と言うものなのです。
2.このお尋ねの注目すべき点はこのお尋ねの冒頭に、こんな文章が添えられています。『この"お尋ね"は調査として実施しているものではなく、行政指導としてお尋ねしているものです。なお、お尋ねに伴う自主的な見直しにより、修正申告書等が提出された場合については、加算税が免除されます』と。
これをご覧になって、直ぐにその意味がお分かりになった方は、ほとんどいらっしゃらないでしょう。相当に奥が深いのです。
通常、税務署が一般の方向けに質問する場合、それは質問検査権という職権に基づく税務調査なのです。しかし、これはわざわざ税務調査ではないと言っています。実は、ここがこの文書のミソなのです。
3.税務調査であれば平成23年度の税制改正で、国税通則法と言う法律の改正が行われ、税務調査のやり方がかなり変更されているのです。調査を実施するに当たっては、事前に調査の対象となる方と税理士の双方に、色々な項目を連絡しておかなければならないのです。具体的には、調査の日時や場所の他、目的、対象となる期間や帳簿書類等々、結構面倒な仕組みになっています。滅多やたらには、調査ができない仕組みなのです。
従って、今までのように、安易に軽い気持ちで経費の内訳を提出せよ、相手先を明示せよ、とは言えなくなってしまったのです。そうは言っても、少ない税務職員の数で、最大の調査結果を期待したいのが税務署の本音でしょう。
まして、このようなお尋ねが書面で来れば、一般の方はビックリです。脛に傷のある方は、筆者が見ただけでも相当数に上ることは間違いないのですから。
4.便利な"行政指導"そこで考え付いたのが、税務調査ではなく"行政指導"なのです。これなら調査の目的から始まって、対象となる期間だの帳簿だのと面倒なことは必要ありません。調査の対象となる方と税理士双方に連絡する必要もないのです。
つまり、お手軽に『税務署はあなたの申告内容、疑ってますよ!』と、軽いジャブを繰り出すことが可能なのです。"行政指導"とは、何と便利な言葉なのでしょう。
5.便利さの代わりに失ったもの税務署だって、これで総てが円満に解決できた訳ではありません。調査でないと言い切ったからには、修正申告が提出された場合にも、『加算税』と言うペナルティーが課せられないのです。
通常、税務署に『あなたの申告内容疑っていますから、内訳を教えて下さい。』と言われるのは、既に述べたように、質問検査権と言う権力の発動なのです。従って、税務署に言われて修正申告を提出すれば、調査に基づく修正申告になる訳で、ペナルティーが課されるのが自然な道理。
しかし、です。その修正申告は納税する方が、税務署から言われたからではなく、自らの意思で、良心や善意から湧き出た感情で申告内容を訂正した物なのです。だからこそ、ペナルティーは無し。
6.損得勘定で考えれば…はっきり言って、税務署は損得勘定で考えたのでしょう。このようなお尋ねは、実は以前から行われていたのです。大口資産家と言われる高額な不動産所得の方を除き、自宅と小さなアパートだけの方を相手に、わざわざ税務調査を行う程、税務署は暇でもないし、第一人数不足なのです。調査は行い難くなる、人員は不足する、不動産所得の調査までやっていられない、そんな諸般の状況を考えれば、ペナルティーは諦めよう。但し、少しでも脛に傷ある人から修正申告を取ってやろう。と、これは筆者のうがった思い込みでしょうか?
2013年9月30日
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5255号
こんな複雑な税法に誰がした!
税法と言う法律、所得税も法人税も基本的にはそれぞれに個別の思想や背景があり、それに基づいて規定が作られています。しかし、中には他の税目の規定をそのまま利用して法律にしてしまうこともあるのです。その場合、当然ですが両方の法律と規定をよく理解していないと、思わぬ落とし穴にはまることもあるようで…。
1.借用概念、借用規定例えば、簡単な例をあげれば、相続税法と言う法律の中で、建物の評価についてです。相続財産の評価については、国税庁が『財産評価基本通達』と言うマニュアルを用意し、これに基づいて計算するのが一般的な実務です。その中で、建物については、相続税法独自の評価方法を定めてはいないのです。結論を言えば、固定資産税の評価額を基本とし、それを自分だけで使用しているか、他人に賃貸借の形で利用させているか、で評価に差を付けているに過ぎません。基本的には固定資産税の評価の考え方に頼っているのです。
他にも、取引相場のない中小企業等の会社の株式評価を行うに当たり、"同族株主"の考え方は法人税法の規定を借用したりと色々です。
2. 贈与税の住宅資金贈与にも非課税規定さて、贈与税には父母又は祖父母から、子又は孫へ住宅資金の贈与をした場合、非課税の特例が用意されています。その限度額は一定の省エネ耐震住宅なら24年中で1,500万円、25年中は1,200万円、26年の贈与なら1,000万円です。上記以外の住宅でも、24年、25年、26年でそれぞれ、1,000万円、700万円、500万円までの金額なら、贈与税の課税はありません。厳密に言うと、この金額に加えて、暦に基く1年を単位として計算する通常の贈与の場合には、110万円の基礎控除が用意されています。そのため、上記それぞれの金額+110万円までの贈与が非課税となる訳です。
さて、この規定、そもそもの趣旨は、財産を持っている高齢者から、無税で資金を若い世代へシフトさせ、住宅取得を通じて経済を活性化させる事がその狙いです。贈与を受ける側の若い子や孫世代は、一般論としてはお金を持っていないため、住宅取得に際してこのような贈与を受けられれば、有り難いことこの上ないはずです。
しかし、これらの若年層が総てお金を持っていない訳ではありません。職業や職種によっては、若くても贈与を受けずに十分資金的な余裕がある方もいるのです。そう言う方に対する税務職員のひがみもあるのか、所得を2,000万円で線引きし、それを超える場合には、この贈与税の非課税規定は使わせない、との厳しい態度で臨んでいます。
話はもともと贈与なのですが、その中に所得税法に規定する"所得金額"の考え方を持ち込んでいるのです。実はそれが右記のような、悲惨なケースを生み出してしまったのですが…。
3.所得税法2条1項30号の合計所得金額上記で所得2,000万円と簡単に書きましたが、税法はこの辺のところが実に厳密、巧妙、複雑にできているのです。一般の世の中では収入も所得も区別はしていないのですが、同じ所得でも所得税の世界では、総所得金額、合計所得金額、課税所得金額等々それはそれは大変な峻別を設けています。で、問題は住宅資金の贈与が所得税法2条1項30号の『合計所得金額』と言う考え方で、この規定での所得金額が2,000万円を超えるか否かで天国と地獄の分かれ道になるのです。
4.具体的な事例上記の非課税での贈与を申告した方から、申告後に御相談を受けたのです。どんな事例かと言うと、所得税の申告を依頼した税理士に、この贈与の申告も依頼したそうです。因みにATOではありません。所得金額が2,000万円以下である事が条件であることは教えてくれたそうですが、その税理士も詳細は詳しくないので、業務としては引き受けなかったとか。そこで、そのお客様はご自身で必要書類を調べた上で贈与税を申告。その結果、税務署から指摘があり、合計所得が2,000万円を超えているので、贈与税は非課税にならず、約470万円の税額の修正申告を求められ、ATOに何とか助けてくれと言うのです。
5.合計所得金額とは実は、このお客様、申告書を拝見すると確かに給与所得の金額は1,600万円なので2,000万円以下。適用がありそうなのです。が、他に源泉徴収口座での株式の売却益600万円があり、前年の株の繰越損失800万円と通算して、今年分としては株式売買による所得はありません。しかし、この合計所得金額、株の繰越損失を利用するため申告してしまった場合には、売却益600万円を加算して判断する金額なのです。繰越損失との通算などとケチらずに、源泉分離のままにしておけば問題はなかったのです。結論として救済策はありません。こんな複雑な税法を作った国を怨むべきか、はたまたケチった事が悪かったのか…。それとも、税理士のために税法をわざわざ難解にでもしてあるのでしょうか?
2013年8月30日
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5254号
親族間の貸借は要注意!
親子間でお金の貸し借りをする。親しい仲だし、特に利息は付さない。よくある話ですし、それはそれで結構ですが、問題は税務上の取り扱いです。
本当に返済するのか、それ以前に返済する気持ちと言うか予定があるのか。更に言えば、返済できるだけの経済力があるのか。親子間の貸し借りは、時によっては贈与税が課税され、場合によっては債権債務自体が認められないことも…。
1. 税務署の基本的な考え方親族間の取引や金銭の貸し借りについて、税務署は基本的に疑いの目で見ています。親族間のことだ、どうせいい加減なことをやっている、と思っているのです。まあ、確かに現実にはそう言うことも多いので、税務署に疑いの目で見られても、文句を言えた義理ではないかも知れません。
つまり、特に親子間の金銭の貸し借りは、形式的には貸借でも、経済的な利益があり、ズバリ"贈与"だと睨んでいるのです。
2.最後の決め手は実態と返済能力上記のような税務署の目を払拭し、上手くやりたいと思うのが税金を納める側の心理です。そのため、先ずは金銭消費貸借契約書を作成。返済条件、返済期日を記載して実印で押印。ご丁寧にそれを、公正証書にまでするかも知れません。そして返済事実を税務署に説明のため、毎月子は親の銀行口座へ振り込みまですれば、これで完璧でしょうか。その答えは、しないより、した方がいいでしょうと言う程度です。これで完璧などと言うことはないからです。書面を作成してもしなくても、真実の返済の有無が最も大切なのです。"真実の"とは、形だけ整えて、振り込みの直後に親が引出して子に戻すと言う事ではいけません。文字通り実際に返済すると言う意味です。税務署は預金口座の動きまで確認します。体裁だけ繕って税務署を欺こうなど、決して考えてはいけないのです。
例えば毎月の手取り収入が25万円の子が住宅ローンを組み、銀行ローンと親への返済合計が20万円と言う事態があれば、毎月5万円で生活をしなければなりません。これでは現実の生活は成り立つはずもなく、税務署は親への返済を疑ってかかるのです。つまり、返済能力こそが税務署にとって、最も重要な確認事項なのです。
3.借入金は負の財産子が親から借りるのではなく、逆に親が子から借り入れる場合はどうでしょう。子の方が親よりお金を持っていることだって勿論ある訳で、それ自体が問題ではなく、この場合も真実の返済や贈与の有無だけが税務上問題になるだけです。
そうではなく、親が子より預金を含めた資産があり、資金的に困窮していないのに子から借り入れることが想定されるでしょうか。多額の借り入れであれば、それだけで税務署に??と思われる可能性があります。何故でしょう。借財を作ることは負の財産となり、相続税対策を疑われるためです。無論、何かの事情で一時的に親が子から借りることがあっても不思議はありません。そうではなく、そもそも論として、このケースでは親が子から借り入れる必要性がないためです。税務では、法律の文言も大切ですが、もっと大切なのは常識論、必然性、経済合理性なのです。"形だけ整える"は限りなく黒に近いのです。
4.裁決事例が教える教訓税金の世界では、原則として裁判の前に国税不服審判所と言う黒白を判定する機関があり、そこでの判断結果を裁決と言います。その裁決における上記借入れについての考え方は以下の通りです。相続税法上の債務として認められるための条件として、(1)相続時に被相続人の債務として現に存在し(2)被相続人が負担すべき金額で確実なもの、の2点を上げています。更にこの確実な債務を極々簡単に言えば、(a)債権者に債務の履行を求める意思が客観的に認識できること、又は(b)債務者がその借入れをするに至った経緯等を考えた時に、法律論及び常識論として返済を行う事が義務付けられていること、と言っています。
親族間の貸し借りについては、返済を求める意思が客観的に認められないことが多いのです。つまり、ある時払いの催促無しは贈与。"いつもニコニコ現金払い"を税務署は期待しているのです。
5.建物の価値は何処にあるのか?親族間、親子間の貸し借りは、何もお金ばかりではありません。親の土地や建物を子に貸す事もよくある話。事実上の貸借についてもお金の場合と税務の考え方は基本的には同じです。タダで貸せば経済的な利益がある訳で、本来は課税の対象です。実際、かつては借地権の設定に際し、都市部のような権利金の支払慣行がある地域においては、権利金相当の支払がなければ相応分の利益を受けたとして、贈与税が課税されていました。
現在は庭先に子の建物を子に建てさせ、権利金など貰わなくても贈与税の課税はありません。賃貸マンションを子のためにタダで貸しても同様です。ただ、相続税の評価にあたり評価減がないだけで、それを狙った賃貸借の仮装は許されません。2013年7月31日
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5253号
相続における建物評価の問題点
我々税理士が財産の評価を行う場合、通常は国税庁が定めた『財産評価基本通達』と言うマニュアルに従って作業を行います。国税庁が定めたものなので、これに従って評価を行えば、勿論税務署には何の文句も言われずに済むからです。
しかし、この通達には沢山の問題点があり、従って矛盾する事柄も多いのです。その一つが不動産、とりわけ建物やマンションの評価です。どんな問題点があるのか、ご一緒にお考え頂きたいと思います。
1.『財産評価基本通達』って何だ?相続税法の規定では、財産の評価は"時価"で行う事になっています。ここで、ただ時価と言われても、方程式を解くのと違い答えは一つとは限りません。そうは言うものの、財産評価に当たりあれもこれも時価であり、人によって価格が異なれば、課税関係は不公平になり安定しません。
従って、どうしても何らかの基準が必要となり、課税庁としての立場から定めたものがこの通達なのです。この中で土地は路線価を時価とし、建物は固定資産税の評価額をもってその時価と定めているのです。当局もこれが唯一絶対のものでないことは承知をしており、場合によっては鑑定評価やその他の手法で評価したものを認めることもあり得ます。しかし、基本的には彼らが定めたこの通達、その矛盾点や問題点を素直には認めたがらないのが実情なのです。
2.マンション評価の怪!筆者がこの通達の中で最も問題があると思っているのは、マンションの評価です。マンションをどう言う風に評価するかと言うと、もうこれは噴飯ものなのですが、土地と建物の二つの財産に分解するのです。まず土地ですが、マンションの敷地全体を評価します。勿論、路線価に基づいて計算する事になります。その上で、各部屋の持ち分割合を乗じて、マンションの土地部分を算出しようと言う考え方なのです。
次に建物部分ですが、建物の評価については、国税庁は完全に自らの考え方を放棄してしまっています。固定資産税の評価をそのまま採用し、自分で使っている場合にはその評価額、他人に賃貸している場合にはそこから借家権である30%相当額を控除した金額で評価を行っているのです。
不動産の実態を何もご存じない方にとって、ここまでの説明はなるほど、と思いの方も多いのではないでしょうか。マンションを土地と建物に分解し、土地は各部屋の持ち分割合で按分する考え方に、実は筆者も初めて勉強した時は、一種感動さえ覚えたものです。極めて理論的だ、と。
3.本当に土地と建物に分解できるのか?しかし、本当にマンションは土地と建物に分解できるものなのでしょうか。通常の分譲マンションの場合、土地と建物の名義は一致していますし、土地だけ、又は建物だけを他の者に売却する事はできません。土地は敷地権と言って、建物と切り離して考えること自体ができない仕組みなのです。
考えてみればこれは至極当然で、マンションは土地と建物がセットになって初めてマンションなのです。法律的にも分解ができないものを、相続税では敢えて別々の財産としているのです。
4.評価誤りの最たるものはタワーマンション!マンションの建物の固定資産税の評価は、勿論建物全体で行います。その全体の評価額を、部屋ごとの持ち分割合に応じて按分し課税しているに過ぎません。と、ここまでお読み頂くと勘の鋭い方はお分かりになるのですが、タワーマンション50階と1階の部屋、同じ面積同じ間取りであれば、必然的にその評価額は同じになる訳です。実際の販売価格も果たして同じでしょうか?マンションにも拠りますが、価格は上層階程高く1フロアー当たり100万円以上違う例もあるとか。眺望の良さが価格の差なのでしょうか。もっとも取得時の価格差ほど売却時に差は出ないそうですが、それにしても、この価格差が相続税評価にはいっさい反映されないため、タワーマンションの高層階は絶好の相続税対策になるのです。
5.建物の価値は何処にあるのか?もう少し掘り下げて考えてみましょう。建物の価値とは何から生まれるのでしょうか。例えばオフィスビルを筆者の事務所のある渋谷駅前に20億円を投じて建てたとしましょう。これと全く同じビルを同額で乗降客が少数の郊外の駅前に立てた場合を想定してみて下さい。まず、賃料収入は明らかに渋谷の駅前の方が郊外よりは多いでしょう。さて、ここで建物の評価です。同額で同一の建物なので、勿論固定資産税評価額は同額です。
しかし、この同じ建物から生じる収益には大きな差が生じています。それでもこの二つの建物は価値が同じなのでしょうか。建物の価値とは、何処に建っているかによって異なるのではないのでしょうか。だとすれば、建物の評価を固定資産税評価額で行うこと自体、意味の無い事にもなりかねません。土地と建物は一体です。建物の単独評価自体に無理があるのではないのでしょうか?2013年6月28日
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5252号
改めて”交際費”を考える!
本年度の税制改正では贈与を含め、相続税ばかりが取り上げられています。正に世の中は相続増税の話題一色です。しかし、そんな中で目立たないものの、いぶし銀のようにキラリと光る朗報もあるのです。法人税における"交際費"の課税負担の軽減がそれ。と言う訳で、今回は改めて交際費についてその実態を考えてみました。
1.従前の法人税の取り扱い法人税においては、交際費は全額が損金と言われる経費になる訳ではありません。言うまでもなく、本来交際費は全額が経費になるべきものではあります。しかし、中小法人においては、年間600万円までの金額について、その90%相当額だけが損金とされていました。つまり、600万円以下であっても、その10%は経費として認められていなかったのです。これは、本来の法人税法ではなく、租税特別措置法と言う期間限定の法律で特別にこのように定められているのです。
それでは中小法人以外の法人はどうかと言うと、これはもう悲惨で全額が損金算入を認められていません。1円の交際費も認められていないのです。ここで中小法人とは、平たく言えば資本金が1億円以下の法人を言います。実務としては資本金は1億円以下に、と言うのが大きなポイントです。
2.改正の内容その取り扱いが次のように変わります。600万円までと言う上限が800万円までに引き上げられ、更にその800万円までの部分については、何らの規制もなくなります。つまり、800万円までの交際費は全額が経費となり、800万円を超える金額だけが経費として認められないと言う意味です。
しかし、あくまでこれは中小法人に限った制度。本来相当多額な交際費のある大法人は従前通りで改正なし。日本経済の活性化のため、ここは中小法人を含め、大法人も交際費の全額損金算入を認めて欲しいところです。上記の改正は平成25年4月1日以降に開始する事業年度から適用されます。
3."会議費"等の活用法交際費とひと口に言っても、その範囲は広範にわたるもの。実務では、社内交際費を除き一人当たりの金額が5,000円以下の飲食費については、交際費としての扱いから除外されています。つまり、その全額が会議費等として経費となるのです。
ただ、それなら何でもかんでも会議費等にすれば良さそうですが、そこは税務署の考える事。厳しい条件が付されています。次の事項を記載した書類を保存する事が必要で、(1)飲食がなされた年月日(2)参加した得意先、仕入先等の関係者名とその関係(3)参加人員(4)金額、飲食店名及び所在地等々です。単に領収証があれば良い訳ではなく、上記の事柄を記載しておかなければなりません。
逆に言えば、ちょっと面倒でもこれらをきちんと実行していれば経費とされる訳で、これを活用しない手はありません。また、この5,000円基準ですが、その会社が消費税について税込処理か税抜き処理かによって判断します。消費税の増税も予定されている昨今、これを機に税抜き処理をしている方が消費税分だけお得にはなるのかと。
4.個人の不動産所得での交際費の取り扱いここで個人の不動産所得における"交際費"について考えてみましょう。結論から言えば、個人についてはご商売をやっている事業所得は別として、不動産所得についてはほとんど交際費は認められません。税務署では『ひも付き』と言う言葉を使うのですが、収入を得るために直接結び付くものだけに経費性を認めると言う姿勢なのです。
そうすると、家賃収入や地代を得るために、どうしてオーナーである家主、地主が交際費を使う必要性があるのか、と言う議論になってしまうのです。ところが、同じ事を法人として支出する場合はどうでしょう。理論的な話は別として、実務的には家族旅行のような極端なもの以外、金額的に少額なら大半のものが認められてしまいます。だからこそ、できれば個人の不動産所得を所有型法人を利用して、法人に所得を移転する事をお勧めしてきた経緯もあるのです。
5.法人における交際費調査の実態それでは、法人にさえすれば、実務的にはどんなものでも、領収証さえあれば交際費として認められるのでしょうか。前述のように家族旅行は言うまでもなく不可ですが、実態としては通常の飲食費は領収証と支払の事実があれば否認される事はありません。友人との飲食も子供の誕生祝いでも、多少であれば細かい事を追及されることはまずないのです。理論的には認められる筈もありませんが、調査の実態としてはそこまでやらないのが普通なのです。何故か?法人の行動は基本的には法人の事業活動のためであり、法人がそれなりの経理処理をしていれば、それを否認するのは一義的には課税する側に立証責任があるためです。とってもおかしな話ですが、交際費は目を着けられないよう、ほどほどを心掛けて上手な活用を!
2013年5月31日
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5251号
亡くなった方の申告は誰がいつまでに?
個人にしろ法人にしろ、税金の申告と納税には必ず期限が設けられています。所得税は3月15日、法人税は決算後2ケ月と相場は決まっていますが、勿論例外もあります。本来申告すべき方が亡くなった場合です。所得税は御存じの方も多いでしょうが、今回は贈与税、相続税についても確認をしておきましょう。
1. 所得税は通称"準確"と言いますが…年の途中で亡くなったからと言って、その年の所得税が免除される訳では決してありません。亡くなってから4ケ月がその期限です。本来の2、3月に行う確定申告に準ずると言う意味で、一般には"準確"などと呼ばれています。年の前半でお亡くなりになると、初夏や秋にはその期限が到来しますので、のんびりしている訳にはいきません。逆に11月16日以降の場合は期限が3月15日以降になって、余裕があることにもなる訳です。ただ、年が明け確定申告の期限前に亡くなると、本来の前年分の他、その年の2~3ケ月分も併せ一緒に申告する事に。その亡くなった日から4ケ月ですので、大幅に期限は延長します。但し、2年分を一度に提出となってしまいます。
2.誰が亡くなった方の申告をすればいいのか?それでは誰がその亡くなった方の申告をすればいいのでしょう。言うまでもなく相続人です。しかし、亡くなった後で誰が納税義務と言う負の財産の責任を負うのか、直ぐには決まらない場合もあるでしょう。申告期限は待ったなしです。そこで、責任の帰属が決まるまでは民法の原則に戻り、とりあえず法定相続人が共同で責任分担。所得税の申告書に付表を添付し、相続人全員の印鑑を押す必要が生じます。そして、分割協議が整った時点で、特定の相続人がその債務を引き受ける事になるのです。
他方、遺言が残されていれば作業は単純です。納税と言う債務を引き受ける方は決まっているため、被相続人とその方の名前を併記し、付表も省略、といとも簡単なのです。
3.贈与税の申告はどうなる?亡くなった方の申告は所得税だけではありません。贈与を受けた方がその申告前に亡くなってしまう事もあるでしょう。その場合には、亡くなった日から10ケ月以内にその相続人がその責務を全うしなければなりません。
贈与税の場合も所得税と同様で、申告書に付表を添付し、法定相続人が共同で責任分担する事になります。贈与を受ける方の遺言書がある場合は極めて少ないでしょうが、遺言書があれば勿論納税の債務を引き受ける方が申告手続き一切を行うことになります。
ただ、もともと贈与税の申告件数は所得税と比較して少数です。ただでさえ亡くなったことで慌てていて、贈与税の申告手続きにまで気持ちが廻らない事も多いでしょう。納税手続きは冷徹に事務的に期限が定められていますので、くれぐれもお忘れにならないよう注意が必要です。
これは一般の方のみならず、税理士にとってもついうっかりしがちな事柄です。と言うより、決して日常頻繁に出てくる業務ではありません。贈与を受けた方が申告期限までに亡くなること自体、極めて異例な事態なのです。自戒の念も込めて注意をしたいものです。
4.相続税の相続人の相続人の場合には?相続税だって問題は結構複雑です。原則として相続税の申告期限は亡くなってから10ケ月です。その10ケ月の間に相続人の方が亡くなってしまったらどうなるのでしょう。分割協議を整え、その後に亡くなった場合には、代襲相続と言って、その方の相続人の方が単純にそれを引き継ぐことになります。ただ、代襲相続人が複数いる場合、単純に引き継ぐとは言っても、誰がどのように引き継ぐかはまた別の問題になります。直ぐに決まらなければ、とりあえず法定相続分での共有の状態。その後のお話合いで決着です。
また、場合によっては、分割協議が整う前に亡くなってしまう事もあるでしょう。そうなると、代襲相続をした相続人が、その相続人に代わって分割協議にも参加する事に。これが結構問題で、年端もいかない若者ならば、叔父や叔母を相手にはたして丁々発止の交渉が、どれだけできるものかできないものか。
5.未成年者の場合は特別代理人その若者が未成年者の場合には、更に問題を複雑にします。未成年者は法律行為ができません。普通は親権者が特別代理人として、未成年者に代わって各種の手続きを行うことになります。が、代襲相続をした相続人が複数いる場合には、一人の親が複数の子全ての代理とはなれません。子の間での利害が相反するためです。親の他に特別代理人として信頼できる方を選任し、子の代わりに協議にも参加して貰うことになります。ただでさえ簡単にはまとまらないのが相続です。毎度毎度の結論ですが、"争族"を防止するのは先ず遺言、更に工夫をして"信託"の活用がお勧めです。
2013年4月30日
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5250号
益々高まる贈与の重要性
政権交代の影響で、1月も後半になってやっと平成25年度の税制改正大綱が公表されました。来月号でその全体像をご紹介しますが、中でも目を引くのが贈与税の優遇策。高齢者が持っている金融資産を吐き出させ、消費に回して経済を活性化させようと言う狙いです。その意気や良し、時代は相続税の増税を見据え、益々贈与の重要性が増すものと確信しています。
1.税率構造は2本立て先ずは基礎控除が年間110万円の通常の暦年課税。贈与税の税率が、2つに区分され、一部を除いて負担の軽減が図られています(下図参照)。
2つの区分とは(1)20歳以上の子や孫が父母又は祖父母から贈与を受けた場合と(2)それ以外、の2種類です。(1)の場合、310万円までの贈与は従来と同じで税額は20万円ですが600万円で68万円、800万円で117万円、1,000万円で177万円となり、従来よりは割安に。
2.相続時精算課税制度の適用範囲の拡大上記の通常の暦年課税の他に、贈与税には相続時精算課税制度があります。ここで制度の概略だけをお話すると、2,500万円までの贈与が非課税で、それを超えても一律20%の税率が適用される制度です。但し実際の相続時には贈与がなかったものとして相続税が計算され、既に納めた贈与税は相続税から控除されると言うもの。一般論として節税を図れる相続税対策になるものではありません。しかし、贈与時の評価額をそのまま相続税にも適用するため、将来値上がりが見込める財産であれば、早目の贈与は相続時には奏功します。
さて、この相続時精算課税制度、従来は贈与を受ける側は原則として20歳以上の子、贈与をする側は65歳以上の父母となっていました。それがそれぞれ20歳以上の子と孫、60歳以上の父母と祖父母まで適用範囲が拡大。相続税対策とは別の観点から行う場合には使い勝手は改善です。
3.教育資金は1,500万円までが非課税30歳未満の子や孫に親や祖父母が教育資金を一括で贈与する場合、1,500万円までなら贈与税が非課税と言う制度が新設されます。詳細はこれからですが、学校以外の塾その他については500万円が限度とされています。
但し、この制度、金融機関にこの金銭を信託し、払い出しの都度領収証等で確認を受ける事が必要です。平成25年4月1日~27年12月31日の期間限定で、贈与を受けた側が30歳になった時点で残額があれば、贈与税が課税されるため注意が必要です。一見すると良さそうな制度ですが、手続きが結構面倒そうです。また、もともと扶養義務者相互間であれば、通常の生活費や教育費は通常必要な範囲は贈与税も非課税です。が、1,500万円が一括で贈与できる点は評価できます。なお、贈与を受けた側が30歳を前に死亡した場合も非課税とは、嬉しいような悲しいような…。
4.事業承継税制も緩和の方向上場されていない、いわゆる中小企業のオーナーは、自社の株式こそが最大の相続財産である事が多いのです。オーナー社長が頑張って、業績を伸ばせば伸ばすほど、結果として株価が上がり相続税の負担が重くなっていく仕組みなのです。
それをなんとかしようと考案されたのが、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度です。
一定の要件を満たした場合、本来納めるべき相続税・贈与税が猶予され、最終的には猶予された税額が免除される仕組みです。制度の詳細はかなり複雑なため、ここで全てはご紹介できません。
ただ、この制度は適用要件が非常に厳しく、現実にはとても機能しているとは言い難い状況でした。それを緩和しようとするもので、概要だけを記すと(1)事業を承継する人間が、従前は親族に限定されていたのがその要件を廃止。(2)贈与者は役員を退任しなければならなかったのが、代表者でなければ役員に留まる事ができ、給与の受給も認められる事に。(3)業員の雇用確保条件を、5年間を通し8割維持すべきを、5年平均で8割に緩和。(4)この制度適用に当たっては、経産大臣の事前確認が必要であったものを廃止、等々です。
5.結論としては積極的な贈与がお勧め!結局のところ、これらの贈与税の特例や緩和措置を利用するばかりでなく、相続税の負担と贈与税の負担を税率、税額で比較考量する事が大切なのです。毎度申し上げている通り、一滴の血も流さずに肉は切れないのです。益々負担の重くなる相続税です。坐して死を待つ前に、積極的な贈与でこの難局を乗り越えましょう。
2013年3月29日