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COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5246号
外国に行ったままなら事業税は非課税か?
税務上よく出てくる言葉で『非居住者』と言うのをご存知でしょうか。税務上の外国人とでも言えばご理解頂き易いかも知れません。詳細は本文をご覧頂くとして、要は原則として日本での課税がない個人のことです。
実は個人の不動産賃貸業においては、外国へ行ったままの場合、国内の賃貸物件からの所得について所得税は課税されても、事業税は課税されないのです。が、うっかりするとこんな事にも…
1.個人で不動産賃貸業を行う場合の事業税個人で不動産貸付を行えば、直ぐに事業税の対象になる訳ではありません。事業税の対象となる不動産の貸付は、所得税を参考にしながらも規模的な要件として、(1)戸建て以外のアパート・マンション等の住宅の貸付の場合、10世帯以上の貸付(2)戸建ての住宅の貸付の場合、10棟以上の貸付(3)住宅用の土地の貸付の場合、10件以上又は貸付面積が2,000㎡以上の貸付等々がその対象です。
そして、所得金額としては290万円を超える部分の金額が課税の対象となります。
2.誰がどこで課税をするのか?事業税は上記の事業を行う事務所や事業所の所在する道府県が課税する地方税です。東京都の23区の場合は、各都税事務所がその課税実務を行っています。製造業や小売業等の場合には、上記の事務所や事業所が比較的判然としています。しかし、不動産貸付業においては、特に個人の場合には、それほど判然と分かるような事務所、事業所が無いことも多いのではないでしょうか。そんな場合は、事業を行う人の住所や居所を事務所・事業所とみなして課税することになっています。
3.非居住者の場合には個人の事業税は所得税を考え方の基礎に置いているため、先ずは所得税の考え方を整理しておきましょう。問題の非居住者ですが、所得税においては非居住者を『居住者以外の個人』と定義しています。つまり、(1)国内に住所を有しない者で、かつ、(2)現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有しない者とされています。そして、国外に一定の職業を有することになった者は、その契約等で国外での居住が1年未満の場合を除き、国外での居住の日から非居住者と推定して取り扱われることになっています。また、非居住者の不動産貸付においては、国内に事務所・事業所とみなされる住所や居所が無いため、個人の事業税は課税されないのです。
4.国外に行ったきりで、戻る予定が無い場合こんなお客様がいらっしゃいました。ご主人は既に他界され、一人娘はイギリス人と結婚して渡英。年を重ねるに従い、日本での一人での生活が寂しく、また不安にもなったのでしょう。ご本人は若い頃、長年アメリカに留学なさっていた事もあって言葉の心配はありません。老後は一人娘の居る英国で暮らそうと決心をされたのです。
このお客様、不動産所得が相当額あり、長年当事務所で確定申告のお手伝いをさせて頂いておりました。渡英されたことにより、前述の非居住者になった訳です。非居住者の場合、国内源泉所得と言って国内での事業や不動産賃貸、利子・配当等の所得だけが課税の対象となります。今から10年ほど前に渡英後は確定申告時に帰国され、手続きが終われば再びイギリスと言う生活をなさっておられました。確定申告の住所地には勿論イギリスの住所を記載し、納税管理人と言う税務署との連絡係は当事務所を指定して頂き届け出をしていたのです。そして、その後5年して亡くなってからは一人娘が相続し、現在に至っています。
5.事業税は課税されない筈が…さて、個人の事業税と言う税金、所得税や相続税と違って自分で申告書を提出する、申告納税方式ではありません。道府県が所得税の申告書を見て、それをもとに課税してくる賦課課税方式のため、どうしても関心が薄くなる傾向にはあります。
それが災いしたのかどうか、非居住者になって以来、言われるままに納税をしてきてしまったのです。当事務所も年に一度確定申告をお手伝いしていたので、気付くべきではあったのでしょうが先日までそのままに。が、先般気がついてからは直ちに都税事務所に連絡です。地方税の規定では5年までは遡って是正し、還付をしてくれる仕組みです。しかし、それ以前の5年分は法律が無いので返還できないとの言い分です。ただ、同じ賦課課税方式の固定資産税においては、法律はないものの通達と言う形で(1)固定資産の所有者でない者に誤って課税していたり、(2)既に存在していない建物に課税していた場合等、本税のほか延滞金まで含めて10年分を返還しているのです。この事業税、確定申告書を見れば外国の住所で非居住者である事は明白なはず。固定資産税で法律を曲げてまで返還してくれるなら、事業税だって返還されてもおかしくはないのです。ついつい当局任せになってしまう賦課課税です。今後は課税の通知が来たら、目を皿のようにして隅々まで確認してから納税しましょう。残り5年分も頑張るぞ!2012年11月30日
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5245号
事業用資産の買換え情報と税務署の管理
事業用資産の買換えの特例については、この稿で何度か取り上げてきました。原則として税務では、売却代金で何を購入しても、売却だけに注目し、売却益が生じていれば課税される仕組みです。
しかし、一定の要件を満たしている場合、その売却益の課税を将来に繰り延べる特例が、買換え特例の考え方です。では、実際に課税ができるその"将来"を、税務署はどのように管理し、本当に何年経っても虎視眈々と狙っているのでしょうか。税務署の管理体制について考えてみました。
1.いつまで繰り延べられるのか課税の繰り延べとは、文字通り売却の時点で原則通りの課税をせず、将来に先送りする事を言います。いつまで繰り延べるかと言うと、土地を例に考えてみると、買換えで取得した土地を売却した時点まで、と言うことが言えるでしょう。その時点まで従前の既に売却した土地の取得価額を引き継ぐため、値上がりがあれば、それを売却した時はかなりの売却益が生じる事になるでしょう。逆に言えば、買換えで取得した土地を売却さえしなければ、永久に課税される事はないのです。
(厳密には8割部分が繰延べ対象となり、若干の課税はあります。)
2.パソコンが無い時代には…しかし、課税する側の税務署は、いつ売却するかどうか全く分からない"その時"をどのように管理するのでしょうか。今の時代なら、パソコンに入力さえしておけば、何年前の事実でも、それこそ操作一つで簡単に情報を検索し、入手することは可能です。ただ、税務署には申告書そのものは5年分しか保管されていません。重加算税の対象となる事案については、7年分まで課税を遡及できるため、古い分は各署の分をまとめて大きな倉庫に保管しているのです。ただ、その場合でも7年分が限度。税務署は今でこそKSKと呼ばれるシステムを導入し、パソコンを駆使して情報管理を行っています。が、パソコンが無い時代には、総て手作業の紙ベースで記録を残してきたのです。但し、申告内容総てを記録することなどできないため、引き継がれる価格だけではありますが。
3.さすが税務署!今から数年前のこと、事業用資産の買換え特例の適用を何十年も前に受け、買換え資産である土地を売却したお客様の例を紹介しましょう。お客様は特例を適用した旨を、当時の税理士から説明を受けたか否か曖昧な記憶がある程度でした。
もし、特例の適用を受けていれば、既に売却した古い土地の取得価額、つまり相当程度に低い価額を引き継いでいるため、今回の売却で多額の売却益が生じてしまう恐れがあるのです。
が、いかんせん古い話であるため、当時の資料もなく、申告作業は困難を極めました。引継ぎ価額が分からないためです。このような場合、通常は税務署に行って引継ぎ価額の閲覧申請をすれば、該当部分の数字を教えてはくれます。
しかし、お客様の要請により、勝負に出ようと言う事になったのです。つまり、引継ぎをせず買換え資産の実際の価格そのままで申告すれば、売却益が減って税額が抑えられる。税務署だって必ずしも昔の資料が保管されているとは限らない、それに賭けようと言う魂胆だったのですが、あえなく修正申告。流石に税務署はしっかり資料の管理をしていたのです。
4.瓢箪から駒?話は変わって別の案件。他の税理士が事業用資産の買換え特例を適用した買換え資産を、この度売却することに。その申告を当事務所がお手伝いする事中で、その計算に誤りを発見したのです。話はやや専門的になります。相続税の取得費加算の話です。譲渡税の計算の際、相続した財産を相続税の申告期限から3年以内に売却した場合には、売却益の計算上、相続税の一部が経費のような扱いになる特例があるのです。これが買換えの特例と組み合わさると、相当に複雑な計算に。結論として、その時の申告で過大な税金を納めてしまっているのですが、減額の手続きができる期限は既に徒過。しかし、悪い事ばかりではありませんでした。その計算が間違っているために、引継ぎ価額が過大になっており、今回の売却益は真実よりも過少になるのです。ただ、税務署はそれに気づいているのかいないのか…。
5.同じ轍は踏まない!当方の責任ではないにせよ、以前、税務署を甘く見て失敗した経験を今度こそ生かさねば。本来、税務署が引継ぎ価額の計算の誤りに気付けば、税額が減額されることになります。が、真偽は不明で税務署の処理を確認しなければなりません。今回は王道を行くべく引継ぎ価額の閲覧申請をし、該当部分の確認をしたのです。結果は、やはり誤りに気付いていないご様子。これで今回の申告は得をする事に。と言うより、前回納めなくてもいい税金を過大に納めた訳で、これで前回分を若干取り戻すだけ。まだまだ納め過ぎですので、今回はどうかお許し頂きたい
2012年10月31日
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5244号
新手の相続税対策 ~庭内神し~
"庭内神し"という言葉をご存知でしょうか。"テイナイシンシ"と読むのですが、屋敷内にあるお不動さん、お地蔵さん、道祖神等々の神様として祭ってあるその対象物、と言う事になるのでしょうか。今まであまり話題に上る事もなかったのですが、これがやり方一つで新手の相続税対策に使えそうなのです。税金のためとは言え、神様にもきっとお喜び頂けるシロモノかと…
1."庭内神し"とは先ずは"庭内神し"の意味をしっかりと確認しておきましょう。やや堅い表現にはなりますが、屋敷内にある神の社や祀等といったご神体を祀り日常礼拝の用に供しているものをいい、ご神体とは不動尊、地蔵尊、道祖神、庚申塔、稲荷等で特定の者又は地域住民等の信仰の対象とされているものを言う、と言う事になっています。
結論から言うと、この度相続税法の取り扱いが変わり、この庭内神しの敷地が非課税となったという事なのです。大した面積にはならないではないか、との声も聞こえてきそうですが、焦らずにこの先をお読み頂きたいと思います。
庭内神しとは、前述の通りお不動さんやお地蔵さんの事なのですが、特筆すべきは地域住民と言う広範なものではなく、特定の者、つまり我が家だけの祀りの対象も含まれるということです。
2.従前の取り扱い従来から、庭内神しそのものは相続税においては非課税との扱いをされていました。それに対し、墓所や霊びょうについては、その維持に要する敷地までをも含めて非課税とされてきた経緯があります。民法上は、墳墓とは墓石、墓碑、墓標等を言うものとされ、その設置されている相当範囲の土地(墓地)は墳墓そのものではないことになっています。しかし、実態としてはそれに準じて取り扱われているため、相続税法においても、墓所、霊びょうの類は民法上の墳墓に該当するものとして非課税となっているのです。
一方、庭内神しについては、その敷地は別個のものとして非課税とはなっていなかったのです。言ってみれば、相続税の世界では、民間の神様は亡くなった仏様より一段下に見られていたと言ってもいいでしょう。
しかし、この取り扱いに異を唱えた方と税務当局との訴訟による判決をきっかけに、税務署も庭内神しについての取り扱いを変更したのです。
3.変更後の取り扱い変更内容は前述の通り、庭内神しの敷地及び附属設備は、その設備と一体のものとして相続税法上は非課税とする、というものです。なぜ変更したかと言うと、裁判で税務署側が負けたからというのが直接の理由ですが、国税庁のHPからその理由づけをそのまま転載すると、
『(1)「庭内神し」の設備とその敷地、附属設備との位置関係やその設備の敷地への定着性その他それらの現況等といった外形や、(2)その設備及びその附属設備等の建立の経緯・目的、(3)現在の礼拝の態様等も踏まえた上でのその設備及び附属設備等の機能の面から、その設備と社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲の敷地や附属設備である場合には、その敷地及び附属設備は、その設備と一体の物として相続税法第12条第1項第2号の相続税の非課税規定の適用対象となるものとして取り扱うことに改めました。』となっています。
4.今後の具体的対応策ここで注目すべきは、 1 で述べたように他人を排除し我が家だけの祭祀であっても、設置の経緯や目的いかんによっては、その敷地の相当部分は非課税になると言う事です。
亡くなる直前に、相続税対策として下図のような極端な事までは、税理士としてお勧めもできませんし、実際非課税と認められるかどうかも定かではありません。しかし、アイデア、考え方としては面白いのではないでしょうか。
例えばご自宅敷地の半分を分筆した上で、図の左半分の土地を庭内神しの敷地にするのです。敷地の奥にお稲荷さんでも祀りましょう。そこに至るには整然とした参道を設け、砂利道でもすれば立派な庭内神しです。ご自宅200坪の内、半分の100坪が非課税になるとすれば、課税価格は半減で、残りのご自宅部分は小規模宅地の評価減で80%引き、はちょっとやり過ぎの相続税対策?2012年9月28日
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5243号
超過物納で税務署からおつりを貰うには
相続税の納税方法の一つに物納があります。平成18年の税制改正で60年ぶりに物納制度が大幅改正となって以来、世間では物納は難しいと言う評判がすっかり定着してしまいました。 何とか不要な財産を物納で引き取らせたい納税者、物納を断り可能な限り金銭納付を望む課税側。時に納税額以上の財産を物納し、おつりまで狙う戦略は、果たして上手く機能するのでしょうか。
1.相続税の納税方法と優先順位言うまでもなく、相続税の納税は現金による一括納付です。それが無理なら最長20年の分割払いの延納で、それでも納められない時に初めて物納が認められる事になっています。その意味では確かに物納戦略はそれなりに難しいかもしれません。とにもかくにも、現金納付ができない状況がなくてはならないのです。
2.どの財産を物納するかは納税者に選択権あり例えば相続財産の内、物納の候補となる土地が複数ある場合、どれを選択するかは納税をする側に選択権があります。土地Aを申請したら、土地Bの方が形も良いし駅に近いので、AをやめてBに変更せよと言う事は、原則的にはありません。
ただ、何らかの事情でAは物納として適格性を欠いている場合は事情が異なります。Aはこれこれの理由で物納は許可できないが、Bなら収納が可能と言うことはあり得るのです。いずれにせよ、税務署の方から物納するならBにしてくれと要請される事はありません。
3.収納価額が納税額を超える場合には物納の場合、いくらで収納されるかと言うと、申告書に記載したその財産の評価額です。しかし、財産の評価額がちょうど納税額に見合うとは限りません。例えば納税額が1億円で物納申請をした財産の評価額が1億5,000万円の土地の場合を考えてみましょう。その土地が分筆でき、1億円と5,000万円の二つの土地に分けられるのであれば、その分筆した1億円部分の土地は収納が可能でしょう。
それができない場合には、収納額が1億5,000万円となるため、税務署は5,000万円をおつりとして支給してくれるのです。夢のような話ではありますが、良い事ばかりではありません。
先ずその5,000万円は譲渡所得の課税対象となり、長期保有であれば住民税と併せ20%の譲渡税がかかります。しかし、不要な財産が処分できて国がおつりまでくれるのです。これを狙わない手はありません。
4.おつりはなるべく出したくないのが税務署ここで物納財産について、収納後の税務署の業務を考えてみましょう。実は税務署は単なる窓口で、実際には財務局が収納も、その後の処理も行います。基本的には収納財産は換価処分、つまり売却をする事になります。競売と言う手法で行うため、勿論財産の種類にも拠りますが、高額な換金化が見込めない事も多いもの。まして、収納に当たっておつりまで出していたのでは、税金の無駄使いと言われてしまいます。
彼らとしてはなるべくおつりは出したくないと言うのが本音なのです。金額にも拠りますが、多額のおつりはまず出しません。そんな場合はどうするのでしょう。土地Aは取れないが、土地Bなら検討しようと、このケースでは先方からこんな要請がなされてしまうのです。
5.賃貸建物があると…こんな事がありました。相続人は海外に住む長女一人です。財産の大半は日本国内にある不動産で管理は総て業者任せ。中でも外国人向けの高級賃貸マンションは、都内の一等地にあるものの、維持管理費と修繕費がかさみ、老朽化とも相俟って売却処分候補の筆頭です。場所柄路線価は異常に高く、実際の売買価格を大きく上回っています。土地だけを更地で売却なら言うまでもなく人気の場所、路線価以上で処分できるのは間違いありません。しかし、賃貸建物が有り、居住者が現実に居ると、不動産としては利回り計算をし、収益価格ベースで計算されてしまうのです。一方、相続税の評価額はそんな事はお構いなし。路線価に面積を乗じて計算です。こんな場合には相続税の評価額で収納してくれる物納が一番です。
6.換金するには順序がある!物納するのが一番とは分かっていても、納税額7億円に対し評価額は5億円、しかし、売却価格はなんと3億5,000万円にしかなりません。実は他に預金が4億円もあるのです。納税に先ずは預金の4億円を当てると残りは3億円、5億円の物件を物納するとおつりが2億円。果たして評価額の4割を税務署がおつりで返してくれるかどうか、かなり厳しいラインです。実際にはこれの他に簡単に売却できる物件もあるのです。が、それは物納が晴れて認められてから売却すればよいのです。
収益価格、利回りを全く考慮しない路線価評価とそれに基づく物納の収納価格。現実無視の相続税評価が悪いのか、おつりを狙う納税者が悪いのか、狐と狸のバカシ合いが始まります。2012年8月31日
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5242号
個人でも電子申告をしてみたら…
"電子申告"なる用語、既にご存知の方も多い事だと思います。紙ベースの申告書を使用せず、データだけを送信して申告する方式のことです。
我が事務所でも、法人税については昨年の春から既に実施しています。それを個人の所得税についても今年の確定申告から実施致しました。 その結果、私事ではありますが、こんなお問い合わせが税務署から…
1.電子申告に添付書類は不要です!電子申告の場合、従来は申告書に添付していた源泉徴収票や生命保険料控除の証明書、そして医療費控除のための領収書を提出する必要がないのです。現物を提出しないため、税務署はどうやってその内容を確認するのでしょうか。
勿論、その内容は従来以上に詳細な記載が必要にはなっています。しかし、どれだけ詳細に記載したところで、その気になれば架空の医療費をでっち上げ、真実以上に多額の還付金を受け取る事も可能です。
細かな税額を気にするより、事務の効率化、IT化を推進する事を目指しているのでしょうか。
2. 牽制球は用意されていますが性悪説の立場を取る税務署です。悪い輩がいることは先刻ご承知で、だからこそ税務調査が行われているのです。納税者の方を信用していますから、どうぞ原本の提出など気になさらずに電子申告をして下さいとは決して言わないのです。
『国税関係法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する省令』と言う舌を噛みそうな、よくもまあこんな長たらしい名前の法律を作ったと感嘆するのですが、その第5条第3項にこんな事が規定されているのです。
"……国税庁長官が定める添付書面等に記載されている事項又は記載すべき事項を入力するときは、税務署長等は、国税庁長官が定める期間、当該入力に係る事項の確認のために必要があるときは、当該添付書面等を提示又は提出させることができる。"
つまり、税務署が怪しいと思った場合には、原本の確認をするぞ、その時のために保管はして下さい、と言う仕組みになっているのです。
3.よりによって、税理士を確認するとは!さて、当事務所も税理士法人です。確定申告時には沢山のお客様の申告書を作成、提出しました。
しかし、この原稿執筆時点で上記の法律に基づく原本の提出を求められたケースは、ただの一件もありません。信頼できる(?)税理士法人が英知を結集し、複数の税理士がチェックをした上で申告書を作成しているのです。万に一つも架空の領収証や源泉徴収票を作成してまで不正な行為を働くとは思っていないのでしょう。
が、しかし、です。その税理士法人の代表者である筆者に、『保管されている書類の提出のお願い』つまり、確定申告時に添付を省略した原本を提出せよ、と言う命令が下ったのです。
私事で恐縮ですが、筆者は税理士法人からの給与のほか、公益法人の理事等も兼ねているため、僅少ではありますが給与があり、複数からの給与となって、確定申告が必要なのです。従って、(1)源泉徴収票(2)生命保険料控除の証明書(3)医療費の領収書等々の提出が求められたのです。
給与が倍増した訳でもなく、毎年ほとんど内容も金額も変わらない申告をしており、税理士を生業にしている、この筆者を疑っているのです。
4.原本は返却もしますが…これらの書類、郵送すれば済む話ではあります。ご丁寧に返信用の封筒まで同封で、一応の誠意は感じられました。しかし、何とも腹立たしく、一言モノ申したく、直接税務署にお届けしたのです。前述の"提出のお願い"には書類の返却を希望する場合、それに応じる旨が記載されていました。
税務署も職権で原本の提出を求めている事は、税理士として理解はしています。が、よりによって今まで何十年と真実の申告をしている実績もある、こんな真面目な税理士に提出を求めるとは何事だ、と一席ぶったのです。疑う根拠などない筈だ、と。これに対しては、無作為抽出で選んでいます、とだけの回答でした。
5.直ぐには返却できない?折角書類を持参したのです。その場で確認してもらい、書類の返却を求めると、直ぐにそれには応じられないと言うのです。筆者が持参したのは、源泉徴収票ほか全部でわずか数枚の書類です。数分で確認はできるはずなのですが、それができないとおっしゃる。怒り心頭に発して文句を言うと、第一部門統括官と言う個人課税部門の責任者のお出ましで、私を見るや『直ぐにやらせます!』
待つこと数分、提出資料の返却と同時に"平成23年分所得税の確定申告書の申告内容の確認結果について"と言う書類を渡されました。税務調査で言う是認通知のようなものでしょう。これを作らなくてはならないために、直ぐには返却できないと言う事か。ああ、疲れた。筆者を疑うなら、もう電子申告に協力なんかしてやらないぞ!2012年7月31日
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5241号
相続と贈与の損得は”税率”で考えよう!
相続税対策の一つとして、積極的な贈与をお勧めしています。この時の考え方は、何もしないで掛かる相続税の税率と、贈与した場合の税率との比較です。つまり、前者が30%の税率なら、30%未満でできる贈与をすれば、贈与の方が得である、と。確かに算数としてはそうなのですが、この"税率"をどう考えるかが実務では難しいのです。
1.相続税も贈与税も累進税率何故難しいかと言えば、相続税も贈与税も累進税率と言って、課税対象の金額が高くなればなるほど税率そのものが高率になっているためです。その税額を算出するためには、幾つかの段階の税率が適用されていて、単純な一つの税率ではないのです。下の相続税と贈与税の税率表(表イ、表ロ)をご覧下さい。例えば相続税の税率表で4,000万円を計算するとしましょう。この金額だと3,000万円超5,000万円以下のため、4,000万円に20%を乗じて200万円を控除し、600万円と言う税額が算出されることになります。実務ではこのような速算表と言われる表を用いて計算します。
が、法文上は1,000万円以下の部分は10%、1,000万円超3,000万円以下の部分は15%と分けて規定されているのです。そうすると、何段階もの計算が煩雑なので、実務では予めの計算で分かっている部分を控除額として算出しておき、最も高い税率を基に計算できるよう速算表を使うのです。
2.実効税率と限界税率具体例で考えてみましょう。相続財産が3億円、相続人は一人とします。この場合、基礎控除は5,000万円+1,000万円×1人で6,000万円となり、課税対象となる金額は2億4,000万円。税額は表イから40%を乗じ1,700万円を控除して7,900万円が得られます。前述のように、税率は40%だけでなく10%、15%、20%、30%の部分もあるのですが、簡便計算で最も高率の40%を基に計算しているのです。この場合の最高税率40%を限界税率と言います。他方、3億円の財産に対して7,900万円の税額ですので、7,900万円÷3億円で26%、これを実効税率という言い方をしています。
3.実効税率26%で贈与を考えるとでは、この26%の実効税率を贈与で考えると、どれ程の金額の贈与ができるのでしょうか。結論としては1,200万円で、表ロから(1,200万円-基礎控除額110万円)×50%-225万円=320万円が贈与税額です。これなら320万円÷1,200万円で贈与税の実効税率は26%となります。
つまり、相続財産が3億円の場合、相続税率は26%なのだから、同率の贈与を考えれば、贈与できる金額は1,200万円以下と考えるのでしょう。実は、そう考えるのが一般的というか、実効税率での比較が世の中の趨勢ではあります。
4.敢えて異論を唱えます!上述の説明は、一見いかにもまともな考え方のように思えます。実際の税負担を考えた"実効税率"での比較なのですから。
しかし、もう一度じっくり表イをご覧下さい。仮に1,200万円の贈与をした後の相続財産は3億円-1,200万円で2億8,800万円になります。この状態での税率は、1億円超3億円以下なので40%の限界税率が適用されることとなります。
繰り返しになりますが、限界税率とは何段階かの適用税率のうち、最も高い部分の税率を言うのです。3億円でも2億8,800万円でも、1億円超3億円以下の部分に40%が乗じられることに差異はないのです。つまり1,200万円の部分は40%の税率になっていると言う事なのです。
何を言いたいかというと、実効税率ではなく限界税率の部分の区分で考えるべきなのではないか、ということなのです。
5.贈与に当てはめてみるとこの40%を基準に考えると、贈与できるのは1,200万円ではなく、もっと多額の金額となるのは当然でしょう。2,800万円の贈与で(2,800万円-110万円)×50%-225万円=1,120万円が贈与税額。これなら贈与税の実効税率は1,120万円÷2,800万円でちょうど40%となり、実際に相続で適用される部分の税率と同じになるのです。
この考え方にご賛同頂ける方は、一般論に惑わされず、大いに積極的な贈与をお進め下さい。2012年6月29日
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5240号
借地権を巡る実務の対応と建前の悲劇
何事においてもそうですが、税務の取り扱いにおいても、建前と本音と言うか、理屈と実務の取り扱いが異なることはあるのです。
税務署に聞いた、税理士にも聞いた。聞く相手が悪かったのか、聞き方が悪かったのか、その結果2,400万円も余計(?)な税金を払ったお客様の悲しい悲しい物語です。…
1.借地権がタダで戻ってくる!借地権がタダで戻ってくる、よくある話なのです。私自身、今まで同じ質問を何度受けてきたことか。地主さんにとっては、これ以上ない嬉しい話なのですが、皆さんそれ程簡単にと言うか、単純に喜べない状況にあるようです。と言うのは、時価で計算したら年百万円、何千万円、時には何億円もの財産価値のある借地権です。
タダで返ってくるのは嬉しいけど、どんな種類の税金が掛かってくるのだ、そしてそれ以前に、一体いくらの税金が取られるのだ、とそれがご心配なのです。
2.以前も同じテーマで書いた反響か?実は、このご質問を相当数頂くため、以前も同じテーマをこの稿で書いたことがあったのです。HPでご確認頂くと、H19.11.30付5186号でご紹介をさせて頂いています。そこでは、借地人が個人である第三者、つまり他人の場合、明らかな贈与の意思がある場合を除いて、借地権がタダで戻ってきても、課税関係は生じないと言うもの。
で、それを執筆して数年を経た先般、初めてのお客様からのお問い合わせがあり、ご相談にいらしたのです。
3.難しい贈与の認定そのお客様、ご相談にお出でになるや否や、開口一番こうおっしゃるのです。『阿藤さん、借地権がタダで返ってきても、税金が掛からないって本当ですか?私は税務署にも、税理士にも聞いて、2,400万円もの贈与税を払ったのです。最後はその税理士に納めないと後で大変なことになる、と脅されるようにして、借金までして納税したのです。』ああ、これを悲劇と言わずに何と言うのでしょうか。何が悲劇なのでしょう、どうしてこのような事態になってしまったのでしょう。
先ずは贈与税の考え方から紐解いて検証してみましょう。贈与とは、本来は民法上の考え方です。つまり、一方が他方に上げましょうの意思を表明し、他方も貰いましょうとなって、初めて成立する契約です。ただ、税務の世界では、税法上一定のケースについては、贈与とみなして贈与税を課税することはままあるのです。
また、実務では贈与の事実の把握には難しいところがあります。外見上は贈与があったと見られる場合でも、実質的には贈与でないケースや、それとは逆の場合もあるでしょう。
4.結局は贈与の意思の確認、判断つまり、最終的な判断基準は、そこに贈与の意思があったのか、無かったのか、の一点に尽きるのです。さて、借地権の問題に戻ります。財産的な価値のある借地権です。表面的にはこれがタダで地主に戻れば、地主側に経済的な利益があったのは疑いのない事実でしょう。それでは、経済的な利益があれば、いかなる場合でも課税があるのでしょうか。法人税ならその答えは簡単です。利益があれば、どのような状況でも、特例がない限り間違いなく課税の対象です。が、問題は個人です。個人は法人と異なり、純粋に損得勘定だけで割り切れない部分があるのです。血も涙もあるのが個人、経済的な割り切りで判断するのが法人です。ただ、教科書的に回答するなら、地主に利益はあり、理論的な贈与税の課税対象にはなり得るでしょう。税務署に課税の対象かと問えば、課税の対象だと一般論としては答えるでしょう。
5.脅かした税理士を訴えられるか?前述のお客様、納税後も何となく腑に落ちず、当事務所を含め色々な所で同じ質問をしたのだそうです。その結果、課税無しとの判断も幾つかあり、それを基に脅かした税理士を訴えると言うのです。その課税無しとの理論的な根拠を、書面にして作成して欲しいと言うのが私共へのご依頼事項だったのです。
結論から言えば、その税理士を訴えるのは困難でしょう。理屈としては、地主に経済的な利益があったのは事実ですし、理論的には贈与税の課税対象だと言っても、あながち間違いではないからです。ただ、実務はどうでしょう。大半の借地契約は権利金の授受などなく、それ以前に契約書そのものも存在しない状況です。借地人本人や相続人がもう不要になったからお返しする、その程度なのです。従って、双方に贈与の意思など無いことがほとんどです。こんな事に、いちいち実務は贈与の事実があった、贈与税を課税する、などと野暮なことは言いません。が、教科書にはそのことがなかなか触れられてはいないため、前述の税理士も間違えたのでしょう。運が悪かったと言うべきか、それにしても、2,400万円は高過ぎる授業料でした。2012年5月31日
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5239号
税務署も注目、海外財産の所得・財産隠し
資産家の方は、もはや国内財産のみならず、海外へも投資の目は向けられているようです。それに伴い、近年は税務面でも所得隠し、財産隠しが横行しているようです。税務署がこれをただ黙って見逃すはずも無く、調書を提出させることで対応しようとしていますが、海外財産にはこんな問題も…
1.海外財産の保有の増大と申告漏れ少々古い話で恐縮ですが、日銀の資料によれば、平成12年においては外貨預金が3.8兆円、対外証券投資が6.3兆円だったそうです。それが平成22年には、それぞれ5.4兆円、9兆円にまで膨らんで、その後も増加の一途とか。
また、これに伴い国外財産に係る所得や財産の申告漏れが増加。国税庁資料によれば、前述の日銀資料と年度は異なりますが、平成18年度の国外財産の所得隠しが1件当たり1,841万円、相続財産の国外財産隠しが4,244万円。これが平成21年度にはそれぞれ、3,390万円と10,661万円にまで倍増以上の勢いです。
2.国外財産調書の提出義務化このような状況を受け、税務当局は平成24年度の税制改正案で新たな制度を導入しました。各年末に所有する国外財産の合計額が、時価または見積額で5,000万円超の場合、一定の調書を翌年3月15日までに税務署に提出をしろと言うものです。その調書には、種類、数量、価額等の記載が義務付けられ、『国外財産調書』と命名されています。
そして、これを提出しない場合、及び提出はしても申告漏れに係る国外財産の記載が無い場合、所得税においては、本来の加算税(過少申告加算税又は無申告加算税)に5%を上乗せした税率の加算税を課するというもの。逆に、所得税・相続税ではこの調書の提出があり、他の申告漏れがあっても、申告漏れに係る国外財産の記載があれば、本来の加算税から5%の減額を行おうと言うもので、正に飴と鞭。具体的には、国外財産から生じる利子や配当、貸付や譲渡による所得、相続時における国外財産自体の申告漏れが考えられます。
3. 『財産債務の明細書』と似て非?この調書で思い浮かぶのが、『財産債務の明細書』です。その年の所得が2,000万円超の場合、個人で所有する全ての財産と債務の洗い出しをして、税務署に提出せよと言うものです。
所得税の申告に際し、なぜ財産や債務の明細までを報告しなければならないのか、と疑問に思う方も多いようです。が、とにかく提出をしないと、電話や葉書で何度も督促をされるため、気の弱い方はこれに屈して真面目に記載をし、提出されるようです。
しかし、この明細書、金額の記載方法が何ともいい加減で、確たる基準がありません。例えば土地や建物については、以前から保有している場合、その年の年末の見積価額となっています。
従って、相続した土地や建物についてはどのような金額でもいいことに。また、固定資産税の課税標準の価額でも可、となっています。この課税標準とは、固定資産税の税率を乗じる対象となる金額のことで、評価額とは異なるのです。特に住宅用地の場合には、面積によって評価額の1/3,1/6に減額される訳で、適正な土地の金額を表しているとはとても思えません。
が、とにかく実務では、どんな数字でも記載して提出さえすれば認められるのです。
4.海外の土地に路線価は付されていない!話を国外財産調書に戻しましょう。土地や建物については、時価又は見積額によって記載することになっていますが、現実にはこれが結構難しい。最近取得したものであればともかく、以前から取得している物は、どうやってその価額を見積もるか、です。パリやニューヨークの土地に路線価は付されていないのです。
この調書だけならまだいいのですが、実際の相続の時は税理士も苦労をします。日本で言う不動産鑑定士のような資格者がいる国ばかりではありません。どの程度のものなら税務署が納得するか、甚だ疑問ではあります。が、考えてみれば税理士や納税する側にも分からないことは、税務署にも真実は分からないのです。
5.時代は益々国際化先般も相続税の申告案件で、フランスに賃貸マンションをお持ちのお客様が。前述の調書ではなくても、申告には時価での評価が必要です。幸いにも直ぐにお売りに出されるとの事で、とりあえず売り出し価格で申告。これなら税務署に文句を言われる筈もなく、正しく時価。実際の売却価格がこれを上回れば修正申告を、逆に下回れば更正の請求で税金の取り戻しを狙う作戦です。
まだホンの少数ではありますが、今や税務署にも国際税務専門官と言う海外財産を専門に調査するポストが用意されています。益々進む国際化に備え、我が事務所も会議もお客様との会話も、総て英語で行う事にしますか?????2012年4月27日
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5238号
適正な評価で税務署と対峙しよう
前号で贈与税の調査はほとんど無い、なんて書いたからでしょうか。2件連続で贈与税の調査に立ち会うことになってしまいました。
その2件とも、共通するのは鑑定評価で土地の評価を行っていることです。税務署が鑑定を嫌っているのは確かですが、だからと言って調査を恐れる必要はありません。適正な評価で適正な納税を!が、内容が適正でも、時にはこんな事情も…
1.税務署が贈与を把握するのはこんな時!資産の移動の事実が税務署に把握される最も典型的な例は不動産でしょう。売買や贈与により移転登記が行われると、必ず税務署の目に触れる事になります。税務署は定期的に登記所で登記情報の収集を行っているためです。
その他にも、税務署からの各種のお尋ねや法定調書、貴金属や高級品を扱う店舗での情報収集等贈与税の課税のための努力には事欠きません。
しかし、それでも全体から見れば、贈与の事実は極限られた部分でしか把握できていないと言うのが実態でしょう。税務署にバレなければ、申告などしなくてもいいと言うものではありません。贈与の時点で直ぐにその事実を把握されることは少なくても、後々問題になることも多いのです。とりわけ相続税の調査では、名義預金や贈与の事実が明らかになることが多いのです。相続税の申告書を提出すると、それを基に被相続人と取引のあった総ての金融機関に対し、相続人やその他の親族の預金の有無、取引状況の照会を行っているからです。
後々問題とされ、疑いの目で見られるようなことがないよう、正々堂々と計画的な贈与を実行することにより、着実な相続税対策を行いたいものです。
2.財産評価基本通達と不動産鑑定相続税でも贈与税でも、財産の評価は"時価"で行うことになっています。ただ、時価と言っても判断が難しいため、実務上は国税庁が定めた財産評価基本通達なるルールブックで評価計算を行うことが通常です。この通達、税務職員を縛るルールであるため、彼らがこれに拘るのも分からない訳ではありません。しかし、特に不動産、土地については様々なケースがあり、総てをこれで割り切る事の方が、理論的には無理があるのです。
ただ、そうは言っても現実には鑑定による評価を基に申告をした場合、税務署の課長職である統括官自らが調査を行い、その適否を判断する事になっています。分かり易く言えば、通達が正しく、それに従わない鑑定を疑ってかかるのです。
3.鑑定評価に基づく贈与の申告ATOでは将来の相続税対策として、毎年積極的な贈与をお勧めしています。現金や債権等はもとより、土地等の不動産についても、前述の財産評価基本通達では適正な評価が得られない場合、鑑定に基づく評価、申告を行ってきました。
相続税でも贈与税でも申告書を提出すれば、税務署はその内容を検討・審理し、疑義のあるものについて実地の調査をすることになります。
しかし、正直な話、その検討・審理は相続税におけるより贈与税ははるかに甘く、上記の鑑定評価に基づく申告も、贈与税では問題になることは極めて少なかったのです。前号で述べたとおり、30年近く税理士をやっていて、先般が初めての贈与税調査の経験。が、続いてまたまた贈与税の調査です。鑑定評価によることのみならず、金額的にも多額なためなのでしょうか。
4.税務調査は面倒ではあるけれどお客様にとっても、そして我々税理士も税務調査は決して楽しい作業ではありません。しかし、だからと言って、鑑定に基づく申告が必ず調査の対象になるとすれば、それを避けるため、評価通達で実態を反映しない申告をすることがあるべき姿なのでしょうか。適正ではない評価額でも、甘んじてそれに基づいて申告をするべきなのでしょうか。それは税理士としての筆者の信念には反する行為です。申告納税制度である以上、税務調査は避けられません。世の中には税務署を欺き、税金をごまかす輩は五万と存在します。そんな連中がいる限り、税務調査はなくなりません。
しかし、評価通達に基づく評価が適正ではなく過大な場合も、現実には相当数に上っています。脱税は断じて許されませんが、必要以上の税金を納めることもないのです。そのために鑑定評価が必要であれば、税務署には是々非々で対峙しなければならないのではないでしょうか
5.贈与税の税務調査の結果はこの原稿の執筆時点ではまだ調査の結論は出ていないため、現状報告です。鑑定書による申告の場合、想定の開発図面の添付を求められる事が多いのです。が、この事案、実測が困難なため開発図面を添付しなかったのです。現場を見て担当官も鑑定評価に納得のご様子。しかし、図面添付ができない事情を承知の上でそれを求めてきたのです。彼らには書面での報告義務が課されています。さてはこれを提出させて報告書にその旨を記載。担当官の対応から一件落着と筆者は睨んでいます。
2012年3月30日
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5237号
調査官もやる気が総てです!
何事についても言えることですが、対応する人によって、同じ行為でもかなりの差が生じます。
税務調査もその例に漏れず、ご担当の方次第では調査を受ける側も天国と地獄。調査担当者の資質もさることながら、こんな背景もあるようです。
1.まずは調査官の役職を理解しておこう社会人となり、各国税局から税務署に配属されると、通称"事務官"と呼ばれる税務職員に。個人や法人課税部門の場合、内部事務を経験の後、初めて税務調査を経験する事になります。
従って、この段階の事務官が調査に来た場合、まだまだ青二才。知恵も経験もないわけで、言ってみれば調査は楽勝です。が、彼らも数年して専門の研修を終えると、今度は晴れて"調査官"。知恵と経験を備え、かつまた同期との競争意識も手伝って、手強い若手の期待される星となります。
2.万年上席も狙い目ですその後、一般の会社で言う係長に当たる『上席』(正確には上席国税調査官)のポストを狙い、更には課長職である『統括官』。そこから特別国税調査官や副署長のポストを経て、税務署長へと昇り詰めていくのです。問題は誰もが出世街道を歩める訳ではないことです。係長、つまり上席までは誰もが必ず行ける道であるのは一般の会社と同じ。管理職である統括官になれない場合もあるのです。つまり、万年上席と言われる年配のベテランは、最早出世の道は無く、彼らの調査は単なる件数処理。頑張って成績を上げようとする意欲はないので、これも楽勝の調査です。万年上席大歓迎!
3.再任用制度も納税者の味方ですさて、世間では定年制の延長が叫ばれている中、公務員もその事情は同じです。但し、現時点での定年は60歳。が、その後も希望をすれば、再任用の途は開かれ、通常は1年ごとの更新で、年金の満額支給開始年齢との調整で、65歳までがその限度。ただ、再任用の場合、管理職から外されるのは言わずもがな。一般の調査官となってしまいます。かつては何人かの部下を従え、調査についてあれこれ指示を出していた人が、再び現場に出るのです。しかも、一般の調査官として、です。
再任用の制度自体には、彼らの経験を生かして若手を指導し、職場を活性化する意味もあるのでしょう。しかし、再任用の方々にどこまで調査に対する意欲があるかは甚だ疑問です。筆者も何度か再任用の方の調査を受けた経験があります。ギスギスすることもなく耽々と仕事を進め、やはり調査は楽勝、の感は否めません。
それもそのはず、給与は半減。実績を上げたところで誰にも評価されないとなれば、頑張れと言う方が酷な話なのかも知れません。
4.管理職たる統括官の調査かつては統括官(正確には統括国税調査官)ともなれば、部下に調査事案を渡し、その調査結果の報告を受けて指示を出してさえいればよい立場でした。勿論、自らも先頭に立って現場で陣頭指揮を執る統括官もいました。が、大抵は部下達が調査に出かけて行った後は、おもむろに新聞を広げ、夕方彼らが戻るまで、ゆったり過ごす方々が多かったのです。何と言っても公務員。更に、自らがやるべき報告資料の作成も上席にやらせ、人も羨むお立場だったのです。
しかし、時代は変わりました。公務員の定員削減の波を受けて調査人員は減少。しかも調査の効率化を余儀なくされ、期待される数字は従前のままとなれば、自らも動かなければノルマである調査件数はこなせません。
ただ、統括官=調査能力のある人 では決してありません。むしろ調査結果に責任を持てるお立場の方。見極めも早く、人にも依りますが調査を受ける側から言えば、前述の三者よりは要注意と言ったところでしょうか。
5.贈与税はやっぱり相続税より甘い?上記のように、今や公務員とは言え管理職になってもラクなポジションではないのです。例えば、資産税の場合、相続税や贈与税の申告にあたり、土地の評価を『鑑定評価』を用いて行なった場合には、特別なルールが適用されるのです。
通常、相続税・贈与税の申告に際し財産の評価については、『財産評価基本通達』と言うルールブックに則って計算をすることになっています。が、これに拠っては適切な評価が得られない場合、不動産については鑑定士の鑑定評価書をもとに申告することがあります。ただ、税務署は自分達の定めたルールに依らない鑑定は大嫌い。そこで、鑑定書に基づく相続税の申告については、必ず統括官自らが確認・処理をすることになっています。平社員に任せず、管理職が責任を以って厳正に対処せよ、と言うことでしょうか。
話は変わりますが、贈与税の申告については通常ほとんど実地調査はありません。が、先般、鑑定に基づいて行なった贈与税の申告に調査が。筆者20数年の税理士業務で初の経験です。てっきり統括官が来ると思いきや、上席、しかも万年上席のご登場。やっぱり贈与税は相続税より甘い?2012年3月1日
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5236号
自宅を建てたら長生きしよう!
建物を建築すると、相続税の計算においては、その評価は固定資産税の評価額をもとに行います。ご自身で使う建物なら、その評価額そのままですが、賃貸すれば更にその固定資産税の評価額の70%相当額。固定資産税の評価額は、実際の建築価額よりかなり低いので、相続税対策としては非常に有効な方法なのです。 が、建築後2~3年内にお亡くなりになると、その後の税務調査において意外な落とし穴が待っているのです。
1.預金の動きは必ずチェックされる!相続税の調査においては、本人の預金口座は勿論のこと、配偶者やお子さん名義の口座まで、大きな金額の入出金は必ずチェックをされる事に。
仮に過去の通帳を紛失していても、税務署は事前にそれらの動きを7~8年前まで遡り、銀行等への照会文書で確認済みなのです。つまり、税務調査があると知って、慌てて過去の通帳を隠しても、焼却処分しても無駄なのです。
そして、大きな金額の入出金はその使途や原資を問われる事になるわけです。一般論としては、100万円単位の動きと考えればいいでしょう。
ただ、それは夫々の方の生活状況によって異なるため、100万円、200万円程度の事は、いちいち何に使ったのか、何の入金なのかを覚えていない事もあるでしょう。それは税務署も心得ていて、調査初日の午前中に生活実態の聞き取りを行う中で、金額的なラインが上下する事はままあるもの。
2.自宅の新築をするとさて、ご自宅を新築後2~3年で亡くなった場合、その後の相続税の税務調査は、とりわけ要注意です。と言うのは、調査の対象となる程の方の場合、その建築価額等も相応のものになることでしょう。税務署としては、建築の請負契約書や請求書、領収証と入出金とを照合し、資金の原資や受払いの状況、取引口座等の一連の流れを確認する事になります。 それはそれで大抵の場合は説明のつくことが多いでしょう。資金の贈与でもない限り、建築そのものが問題になることは通常はありません 。
3.家具の新調問題は、建築に付随した様々な支出です。その一つに、ご自宅が新しくなると、それに合わせて家具を新調する事です。
通常、相続税の申告書上、生活用の家財を財産として計上する場合、概算で家財一式を数十万円。かなりの高級家具ではあっても、失礼ながら何年もすれば、財産価値など無いに等しいのです。それは特別にオーダーしようが、外国製の逸品であろうがお構いなし。時を経れば、少なくとも相続税法上の財産価値は、ひと山いくらの世界なのです。その意味では、高級家具も相続税対策に資するもの、と言えなくもありません。
しかし、それはあくまでも数年以上の時を経過した場合だけ。預金の動きから高級家具の購入はバレバレです。購入後何年経っていればいいのかは難しい問題ですが、少なくとも2~3年しか経過していなければ、それなりの金額での財産計上を要求されてしまいます。
彼らにはナン百万円もする家具など、想像もつかない物ですし、人間としての妬み嫉みがあるのかも知れません。兎にも角にも、新しい物にはそれなりの価値はあると覚悟しなければいけないのです。
4.庭園設備も相続財産か?もう一つ税務調査で問題になる可能性があるのは庭園設備です。こんな事例がありました。ご自宅を新築後、1年を待たずに亡くなられたのです。その翌年に相続税の調査があり、前述のようにご自宅の建築については入念な確認が行われました。 その過程で建物本体とは別に、庭園工事として800数十万円の支払いの事実が明らかになったのです。税務署はそれを財産価値のあるものとして、相続財産に加算せよと言うのです。
相続税において財産の評価を行う場合、相続税法と言う法律では、財産の評価は『時価』で行う旨の規定しかありません。これだけでは実務は行えないので、国税庁は『財産評価基本通達』と言う細かなマニュアルを作成し、税務職員が評価する際の指針を定めているのです。我々税理士も同じ土俵で作業を行うため、通常はこの通達に則って評価を行っています。が、庭園設備自体の具体的な定義はこの通達にも定めが無いのです。
と言うより、文化財的な価値があるものは別として、実務では一般の家庭の庭園を評価などしていないのです。問題は、庭園の評価より、竣工後間もない時期に亡くなられているため、その代金相当額を何がしか財産として計上しろとの要求なのです。税務当局の姿勢は毎度申し上げている"増差主義"の根性が見え見えです。現在も係争中ですが、過去にもこの手のケースはしばしば問題になっていて、結局は工事後の経過時間が争点。
ご自宅を建てたら、兎にも角にも元気で長生きをすること、これが何よりの解決策なのです。2012年1月31日
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5235号
分割協議と納税方法はセットで考える!
相続税の申告に際し遺言書が無い限り、分割協議で財産分けについて、意見の調整をしなければなりません。それに基づいて各人の納税額が確定される事になります。財産を多く相続すれば、納税額もそれに伴って多額になります。従って、分割協議の段階で税額を確認すると共に、納税方法までをも併せて考えておく必要があるのです。
1. 各人の税負担は財産の多寡による按分です相続税の計算は、財産の額を基に法定相続人が法定相続分で分けた事を前提に“相続税の総額”を算出します。この総額を実際に分けた財産の多寡に基づいて按分し納税するのです。納税に当たっては、税額もさることながら、どのような方法で納めるかを考えながら決めないと、納税段階で苦労をすることにもなってしまいます。
と言うのは、原則は現金による一括納付。それが駄目なら最長20年払いの延納ですが、これには延納金利の負担があり、担保も必要です。延納も無理な場合、初めて物納も選択肢になりますが、これはこれで事前に周到な準備が必要なのです。
2.分割が決まらないと、財産は共有状態こんな事例がありました。Xさんに配偶者はなく、3人の子A,B,Cが相続人です。分割協議は不調で、申告期限を迎えても成立せず、結局未分割の状態で申告をすることに。この三人は以前から不仲、兄弟喧嘩が絶えない状況でした。
財産の状況は下記の通りで合計6億円、相続税の総額は1億5,000万円でした。Xの自宅敷地・家屋 1億4,000万円 賃貸マンション敷地 3億2,000万円 同上の家屋 1億3,000万円 現預金 1,000万円 さて、財産が未分割のため、納税額はとりあえず均等となり一人当たり5,000万円。Aは自己資金で完納できました。しかし、BとCはそれぞれ1,500万円、400万円しか納税することができず、延納申請を考えたのです。Bは自宅を担保に何とか延納の許可を得ることができましたが、Cは担保に供する財産もありません。そこで、相続財産であるXの自宅敷地及び建物を担保に供する事を考えたのですが、未分割の状態です。
民法上この状態は、総ての財産が相続人全員の共有となるため、Cが相続財産を自己の延納の担保に供する場合、他の相続人の同意を取り付けなければならないのです。そこでCはA,Bに自己の延納の担保に供するため同意を求めました。Bは同意してくれたものの、Aは反対。結局延納の許可を得る事ができず、納期限までの手続きができなかったのです。担保の提供に協力をしてくれなかったAとの関係は益々悪化。3年を経過した今も未分割の状態が続いています。
3.共有財産も物納はできますが…これは私の駆け出し時代の失敗談です。従前からのお客様ではなく、相続税の申告だけのご依頼でした。相続人は甲さんの長男、長女の二人と次女がいました。が、次女は既に他界のため、代襲相続と言って次女の子、丙が加わり計3人でした。
相続財産に金融資産はほとんどなく、区画整理事業が行われている土地と、その隣地の山林が主な財産と言う状況です。区画整理事業については、仮換地と言って区画割りも終わった状態だったため、私はこれを区画ごとに3人で分割し、山林を共有にして物納に当てる提案をしたのです。
共有財産は原則として物納は認められないのですが、全員が物納申請する場合は別で、その他の条件をクリアーすれば認められる状況ではあったのです。実は、相続人らからその山林に隣接する土地が親戚の所有物件で、数年前の相続で物納が認められたばかりであることを聞いていたので、上記のような提案ができたのです。
さて、前述のとおり、物納は金銭及び延納での納付が困難な場合だけ認められるものですが、税理士としては、相続人各人の所得税の申告書を毎年作成している訳でもなく、詳細は把握していなかったのです。あくまで十分な資金の用意がある訳ではない事を承知していた程度でした。問題は丙の所得状況で、サラリーマンではありましたが、大手の損害保険会社に勤務。働き盛りで年収が1,400万円ほど。当時の平均的な給与所得者の平均水準から比べると、非常に恵まれたものでした。申告書や分割協議をまとめるのに必死だったため、事前に相続人各人の正確な所得状況を把握していなかったのです。いよいよ物納申請書の作成段階で、金銭納付が困難な状況に該当するか否かの判定をすることに。つまり、納税額全額とは言わないまでも、延納もできるのに物納が認められるかどうかの疑問がフツフツと…。
共有による物納で納税を主導したのは私で、今になって丙だけは認められないかも知れないとは言えません。結果は共有財産の物納と言う観点からOKでしたが、税理士としては、事前の準備が不足していたことは事実で冷や汗もの。今でも時折夢にみる、大いに反省しなければならない事案でした。2011年12月27日