お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5210号
ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!
親子間でお金の貸し借りをする。決して悪い事ではありません。しかし、税務署の見方、考え方をご存知でしょうか。貸し借りの陰に贈与あり、と睨んでいるのです。こちらがそこまで読んで更なる工夫をしても、かえってアダになることも。サラ金のCMではありませんが、ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!
1. 形式ではなく、返済能力親子間でお金を貸し借りした場合、贈与と疑われないために契約書を取り交わし、公正証書にする。更に毎月親の銀行口座に振り込み、返済状況を外見上も明らかにしておく。こう言っては叱られそうですが、いかにも素人の方が考えそうな手口です。結論から言うと、こんな浅知恵で税務署を欺く事はできません。彼らが見るのは真実の返済能力だけ。公正証書など公証人役場に行けば簡単に作成でき、預金口座へ振り込んでみても後で現金での返還も容易、何の証拠にもなりません。
2. 抵当権の設定は余計だった!子が土地を取得した後、建物を建築するに際して、親から資金の一部を借り入れたお客様の事例です。上述のように利息を付した借り入れの契約書を作成し、ご丁寧に建物に抵当権まで設定したのです。第三者からの借り入れであればこれも当然なのでしょうが、親子間でここまでなさったようです。想像ですが、その当時の税理士の入れ知恵ではないのでしょうか。この借り入れが贈与ではなく、真実返済する事を税務署にも知らしめたかったのでしょう。だからこそ第三者間であればする筈の抵当権の設定までをなさったのだと推測しております。
3.登記情報は税務署に税務署と登記所が大の仲良しである事をご存知でしょうか。売買や贈与で不動産の移転登記がなされると、その情報が登記所から税務署に伝わる事になっているのです。税務署はそれを見て、売った人には申告の必要性を牽制し、買った人には資金の出所を質問します。前述のように資金が親からの借り入れの場合、本当に返済するのか、疑いの目で見ながら。勿論登記の原因が贈与と記載してあれば、贈与税の申告書を予め送付する事までのサービスまでしてくれます。もっとも昨今は税務署も忙しいのでしょう。売却し譲渡税の対象者には申告書の送付があるのに、贈与の場合は必ずしもここまでのサービスは無いようです。
4. 所得税の調査で発覚話は抵当権設定の親子に戻ります。ここまで用意周到な準備で臨んだわけで、当然ながら毎月キチンと親の口座に返済も実施です。しかし、所詮は人間のやる事、緊張感は続かなかったのでしょう。いつしか元金も利息も梨の礫、返済がなくなってしまったのです。もっともそこは親子間のやりとり、親の方も催促もせず、もう返済はいいよ、位の会話があったのかもしれません。
さて、それから何年か経過したある日、と言ってもつい先だっての事、この親御さんに所得税の調査が入りました。今や私共の大切なお客様です。当方も万全の態勢で立会いに臨みました。が、親御さんとしてはすっかり忘れていた例のお金の貸し借りの問題が浮上したのです。
5. 資産家なればこその宿命か?一定以上の資産家の方は、税務署では超大口資産家と言って管理が厳重になっています。通称マル超と呼ばれますが、一般の納税者とは別に一族全員の資料や情報を長期にわたって保管し相続税や所得税の調査時に活用しているのです。前述のお客様もこのマル超であったため、子が家を建てた時の登記の記録がしっかりと残っていたのです。
そして、現在の返済状況を確認され、親御さんの貸付残高があることを把握されたのです。もし抵当権さえ付いていなければ、貸付の事実はいつまでも残らずこんな話にはならなかったのに…
結果、貸付利息計上漏れで3年分の修正申告。貸付金が相続財産を増加させるオマケ付です。
6. 同族法人との金銭の貸し借り話は変わりますが、親子ではなく同族会社との間でも金銭の貸し借りはよくあるもの。ご注意頂きたいのは、個人と法人では税務上の取り扱いが異なる事です。法人が貸主、個人が借主の場合、必ず利息を支払わなければなりません。法人は税務上あくまで利益を追求するための組織。無利息で特定の個人のために利益を放棄するなど許されないのです。しかし、逆に個人が貸主、法人が借主なら必ずしも利息は必要ありません。何億円もの多額の場合は別として、法人が無利息で得をすることについては、特段のお咎めは無いのです。むしろ経費となる利息が無い分、利益が出て課税対象額が増えるので税務署も喜ばしい位です。が、こんなお客様も。ご丁寧に会社として資金繰りに窮しながらも何年にもわたり利息を計上なさっていたのです。結果、会社の未払い利息分が個人としては未収金として相続財産を形成していたのです。借りても貸しても税務上は色々な問題が出てきます。ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!
2009年11月30日
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5209号
税理士として安易には勧められない相続税の納税猶予
事業承継に関連して、相続税の納税猶予の制度が新設されています。とりあえず税金が少なくなるのは結構な事、と言いたいところですが、残念ながらそれ程単純な話ではありません。結論として、税理士としては積極的にはお勧めができません。リスクをご承知で実行されるのなら、敢えて反対はしませんが、制度に改良の余地はまだまだありそうです。
1. 制度の概要まずは制度の概要から。原則として、一定の事項を実際の相続前に、経済産業大臣に確認を受ける事が必要です。これにより、相続した同族会社の株式について特別の計算がなされ、相続税の納税を一部猶予してくれると言うものです。但し、これは猶予であって、一定の条件を満たして初めて税金が免除される事になります。何やら農地を相続した際の納税猶予を彷彿とさせるものがありますが、基本的な考え方は同じです。中小企業対策として、相続税が原因で事業承継がスムーズに行かなくなる様な事態を回避するために、今年から設けられた制度なのです。
2. 猶予される税額は?では、どの位の税額が猶予されるかですが、ケースにもよりますが、意外に少額な事が多いようです。解り難いのですが、敢えて書けば“相続により取得した議決権株式の内、相続開始前から既に保有していた議決権株式を含めて、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分の株式”と言う事になります。計算の詳細は省きますが、納税猶予を受けようとする株式の他に、不動産やら現預金が多額にあると、その効果は半減され、がっかりするような金額になる事もあり得るのです。
3. 更にがっかりは、資産管理会社等は対象外さて、本当に生きた会社の株式なら勿論問題はないのですが、読者の中にはいわゆる製造業や小売業ではなく、不動産をお持ちの会社やそれを管理している、言ってみればペーパーカンパニーの方も多いと思われます。残念ながら①『資産保有型会社』や②『資産運用型会社』は対象外になっています。正確な表現ではありませんが、敢えて簡単に言い切れば、①は現預金や自ら使用していない不動産(貸付用等)、有価証券等の財産が全体の財産価額の70%以上の会社。②は上記①の財産の運用収入が総収入金額の75%以上である会社を言います。つまり、会社の財産の大半が貸付用の不動産で、その運用で賄っている会社の株式については、この制度の適用はないことになる訳です。但し、次の総てを満たす場合には、①や②に該当しない事とされています。(ア)常時使用する従業員の数が5人以上である事(イ)常時使用する従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他これに類するものを所有し、又は賃借している事(ウ)相続開始の日までに引き続き3年以上にわたり、商品の販売等を行っている事。形式で判断するのではなく、あくまで事業の実態があれば、認定の対象にはなるのですが、どんなに規模が大きくても、単純な賃貸業では適用はありません。
4.更に厳しい条件がつきます!更に厳しいのは、この規定、事業を承継し継続する事が本来の趣旨。従って相続後にも様々な条件が待っています。もし条件を満たせなくなれば、当初経済産業大臣から受けていた認定は取り消され、猶予されていた相続税を納めなければならないのです。で、その条件ですが、相続税の申告期限から5年間、代表者の氏名から始まって、常時使用する従業員の数、株主構成、会社としての該当性等々を経済産業大臣に報告し、その後は3年毎に税務署への報告が義務付けられています。
中でも厳しいのが事業継続条件ですが、次のいずれか一つに該当すれば、認定取り消しとなります。主なものとして、当初5年間に①事業を承継した相続人が代表者を退任②常時使用する従業員数が80%未満になった事③事業を承継した相続人とその同族関係者で有する議決権割合が50%以下となった事。④事業を承継した相続人が猶予を受けた株式の全部又は一部を譲渡した事⑤事業を承継したその会社が解散や倒産した事等々です。
とりわけ注意すべきは②で80%の雇用を維持しなければならず、5人の場合2人辞めた時点でアウトです。また、何かの事情で会社が資産保有型や運用型の会社になっても適用除外。
5. 税理士が何処まで責任をもてるのか?もし相続税の申告にあたり、税理士が気軽にこの制度を勧め、お客様が実行していたらどうなるのでしょう。その後の会社を取り巻く状況の変化に社長が交替する、従業員数をやむなくリストラで減少させる等々認定取り消しの要因が現実化した時を考えて下さい。こんな細かな条件をお客様である事業承継者が知るはずもなく、“先生が教えてくれなかったからだ!”となるのは必至です。
納税猶予が認められなくなれば、その時点で猶予されていた相続税額を一時に支払い、併せてそれまでの利子税相当分も納める事を意味します。税理士として、安易にはお勧めできません。2009年10月30日
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5208号
税務署の手打ち?
今までこの稿で何度か取り上げた『広大地』評価。この適否をめぐり、税務署の態度が迷走しています。今回は一度は駄目だと言って更正処分までしておきながら、こちらが本気だと知ると、態度を豹変。広大地の適否は良くも悪くも担当者次第のようで…。
1.事案の概要埼玉県の、とある税務署に相続税の申告をした時の事です。お客様は農家の地主さんで、郊外でもあることからお持ちの土地は総て広大なもの。そのどれもが相続税法で言うところの『広大地』に該当しそうなものばかりでした。外野からの情報も色々お持ちなのでしょう。相続人の方も、申告に当たってこちらから広大地のご説明をするまでも無く、先刻ご承知でした。図Aを含み自信のある3件についてだけ、想定される開発図面を添えて広大地として申告を行ったのです。
2. 土地の特徴ここで広大地を適用した土地の特徴を簡単にご説明しておきましょう。3件の内2件は2,000㎡を超え、他の1件も900㎡で周辺はいずれも住宅地です。鑑定士の力も借り、精緻な現地調査を終えて作成したのが図Aの図面なのです。ご覧頂ければお分かりの通り、極めて常識的、合理的で無理なものではありません。全体としてもこれなら綺麗な町並みを保てます。ただ、3件とも2方ないし3方を道路に囲まれていて、税務署に付け込まれる余地はあったのかも知れません。結論から言うと、図Bのような旗竿地にすれば、多少見かけは悪くても、道路を全く入れずに開発ができると言うのが税務署の主張です。このように開発道路が不要な土地は広大地に該当しないのです。
3.当初は1件否認で決着の兆し、が…そんな中、財産規模も大きいため想定どおりに税務調査です。当方も自信満々で臨んだ調査でした。が、広大地を3件も適用したのが気に食わなかったのか、遠慮がちに1件だ けを否認する形で修正申告のお勧めです。1件だけでも修正させて実績を作りたかったのでしょう。勿論ガンとしてはねつけました。そうこうしている内に担当者が転勤です。運悪く新任者は端から聞く耳持たず、1件どころか3件総て否認の態度です。理由を聞いても根拠は不明、図Bの区画割で対応できる、の一点張り。修正しなければ更正するだけと高飛車な態度です。取り付く島がないとはこのことでした。
4.異議申立ては?セレモニー〝?売られた喧嘩は買うのが江戸っ子、すぐさま〝異議申立て?です。が、これは更正処分をした税務署に対してするもの、担当官が変わりはするものの、所詮同じ穴のムジナです。結論が変わる事などほとんどなく一種のセレモニー、全く期待もしていませんでした。本当の戦いは、次の段階である『国税不服審判所』での審査請求だと腹をくくっていたのです。ところが何と初めから話し合いの様相、当方に擦り寄ってくるではありませんか。実は異議申立ての段階で、仮に広大地が適用できない場合でも、減価要因となる面大地としての鑑定書を添付し評価が下がる事を指摘しておいたのです。
5.メンツに拘る税務署の手口ないと判断したのではないでしょうか。更正処分は税務署長の名で行うものの、真に納得しないまま、現場責任者の勢いに押され判を押す事もあるもの。しかし、万一審判所で負けでもしたら、それこそ沽券にかかわります。そこで、増差が1/3に減額するものの、当初の申告と更正処分の額の間の鑑定価格で手打ちをしませんか、と言うお申し出です。矢尽き刀折れるまで戦う覚悟ではありましたが、お客様のご意向で戦いはここまで。但し、最後までメンツに拘るのが税務署です推測の域をでませんが、税務署もこんな根拠のない強引な更正では、不服審判所では勝て。当方の主張を一部認める形ではなく、一旦異議申立書を取り下げさせ、税務署の自主的判断で新たな更正という体裁。税金が戻れば、ま、良しとするか!
2009年9月30日
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5207号
申告も、納税までもしていても…
税務署に適正な申告をし、納税も済ませていた事案がありました。本来はこれ以上、何のお咎めもないはずなのですが、税務署の論理は通常人にはとても理解が出来ません。こんな状況下で更なる納税を強いられたお客様のお話です。
1.源泉徴収制度の概要源泉徴収制度は読者の皆さんも良くご存知の事と思います。サラリーマンの場合なら、給料から天引きされる例の徴税方法のことです。実は源泉徴収の制度は給料の天引きだけではないのです。 個人事業の形態の税理士や弁護士に報酬を支払う際にも一定額を源泉として徴収し、税務署に納めなければならないのです。仮に源泉の税率が10%だとしましょう。本来の報酬が10万円だとしたら、その内1万円を源泉徴収し、差し引きの9万円だけを支払うことになるのです。勿論1万円は支払う人が税務署に源泉税として納めるのがこの制度なのです。お給料については会社がそれをやってくれているのです。
2.海外在住時に国内の土地を売却したら…仕事や勉学で海外に1年以上在住するケースも昨今では珍しくありません。税務上それらの人を『非居住者』と言い、通常とは別の扱いをすることになっています。いわば、税務上の外国人扱いなのです。非居住者の場合でも、日本の国内で得られた所得については我が国の税務署への納税が必要です。更に海外在住中に日本国内の土地を売却した場合、損得に関係なく売買価額の10%の源泉徴収が売却時点で必要なのです。もっとも買主がご自身の居住用等のために購入する1億円以下の場合、その必要はないのですが…。つまり、非居住者になってしまうと、上記1の税理士・弁護士等のように、土地の売却時点では代金の満額は手に出来ず、確定申告をして税額を精算する事が義務付けられてしまうのです。
3.非居住者の申告のご依頼を頂いてさて、昨年のことになりますが、母子で共有の土地を売却され、その申告のご依頼を頂いたときのこと。ご子息がお仕事の関係で海外赴任され、正しく上記の非居住者だったのです。つまり母の分は別として、ご子息分は源泉の対象となる売買だったにも関わらず、通常の代金決済をしておられた事案でした。既に契約も代金の決済もお済で、申告手続きだけをご依頼頂いたのです。税金を納める母子の側からすれば、源泉徴収がなされていなくても、相応の譲渡税を払えば済むだけの話。 当方としても何らの躊躇もありませんでした。
適正な申告をした上で納税も済ませたのです。法律に違反したことと言えば、買主である会社が非居住者であることを知りながら、源泉税の徴収を失念したことでしょうか。くどいようですが、源泉はなされなかったものの、結果的には適正な税額が納税までなされ、問題はないものと思っていました。
4.源泉徴収の本来的な意味ここでちょっと、源泉徴収の意味を考えてみましょう。結論から言えば、予定通りの納税がなされればこんな制度は不要です。しかし、世の中は正直者ばかりではありません。となれば、給与が支払われた時点、非居住者が土地を売却した時点で最低限の税収は確保しておいた方が無難と言うものです。勿論源泉税額は確定した税額ではありません。事後の調整が必要ではありますが、とにもかくにも最低限の税収が確保できる利点はあります。また、国庫に税金が納入される時期としても、確定申告を待たず、年の途中で入る訳でその意味でも国側にとって優れた制度ではあります。
5.買主の法人の税務調査前述の母子の申告が終わって1年以上経過したある日、買主の法人から当社へ連絡が入りました。 その法人に対し税務調査があったようなのです。そして調査の課程で源泉徴収がなされていないことが発覚、税法に抵触し源泉徴収義務違反との指摘を受けているとの事なのです。従って、今からその法人として、本来の源泉税を税務署に納める事を要請されているそうです。
そして非居住者であるご子息には、源泉された旨の書類を添付した上で申告のやり直しをし、還付された税金をこの法人へ戻して欲しいと言うのです。ただ、この法人の資金繰りの悪化から、とりあえず源泉税額を立て替えて欲しいと言うのがご依頼の趣旨でした。
6.信じられない税務署の実績主義何で税務署はこんなことを要請するのでしょう。事は全て適正に完了し、納税まで確認されているのに、です。その心は税務署の実績主義だけです。
つまり、この法人に対し、源泉徴収義務違反として源泉税の不納付加算税及び延滞税の課税ができ、それがこの調査官の調査の実績となるからなのです。こうなると源泉徴収の意味も、本来の申告納税制度への信頼も何もありません。
税理論としては税務署のおっしゃる通りですが、こんな事を続けていたら税務署への信頼感の喪失を助長させるだけにならないのでしょうか。2009年8月31日
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5206号
消費税の還付は調査を呼び込むが…
建物を建てたり、機械設備を導入した場合、それに伴って高額な消費税を支出することになります。しかし、申告の仕方によっては、その消費税が還付されることもよくあること。税金が戻って来るのは嬉しいのですが、その前には確認の税務調査が待っています。調査とは言っても、適正な処理をしていれば恐れる必要はありません。むしろこんな具合に還付額が増えることだって…
1.税務署の懐事情か、近頃は少額でも調査が税務署は税金を取るばかりが仕事ではありません。事前に納めた税額が本来の税額より多ければ、当然の事として差額は還付されます。しかし、還付となるとどうも必要以上に税務署の神経を刺激するのでしょうか。いくら詳細な説明資料や証拠書類を消費税の申告書に添付しても、近頃は数十万円を越えると確認のための調査になっているようです。消費税の確認だけなら問題は無いのですが、そこは税務署。実際には通常の法人税や所得税の調査に発展し、余計な部分も確認の対象となってしまうことは覚悟しなければなりません。
2.消費税が適正でも他の間違いを探すのが仕事消費税の還付をめぐり、ある法人の調査があった時の事です。個人の賃貸建物5物件を表イのとおり、自分の法人へ売却し建物を法人所有にしたのです。その際の法人として還付される税額が900万円を超えることから調査に選定されたようです。消費税自体には何も問題は無かったのですが、これでは彼らも仕事になりません。次は法人税の確認で、何とか誤りを探すべく必死の作業。
その結果、物件Eについて次の指摘がなされました。収入の計上が5月からなのに減価償却の開始が4月なのは不都合。1ケ月分の償却費を訂正しろとの仰せです。もう開いた口がふさがりません。減価償却は賃貸業務を実際に開始できる状態になってからできるもの。空き家になっていても、賃貸できる状況で実際に募集もしていれば、当然に償却はできるのです。
3.売買時期の問題点不動産の実務を知らず、税法についての正しい知識も欠如している調査官でした。単なる“増差主義”(調査で当初申告の間違いを発見し、税収を増加させることが税務職員の実績となること)のために1ケ月分の是正を迫る姿は痛々しいほど。こんな不毛な議論は避けたいというのが当方の品格、と言うか大人としての対応です。それならもう一度原点に立ち戻る意味で、問題の物件Eの売買時期を再考したのです。売買契約書上では『売買代金の授受を行った日』となっているにも関わらず、収入の計上はそれより早い5月、そして前述の償却の開始は4月です。
何故このような処理をしたかというと、4月に頭金も充当し、入居者へは通知済み。当時借入れ利率の関係で、融資の実行を先延ばしにした方が有利だとの銀行の助言もあったのです。しかし、当方にもミスがあったことは否めません。
4.課税売り上げ割合のマジック上記のような状況を踏まえて、総てを契約書記載のとおり所有権移転、賃貸人の地位の変更月を売買代金授受の9月で再計算を行ってみました。すると、法人としては収入も減る代わりにほぼ同額の経費が減少し、差し引き数万円の差額しか生じませんでした。更に、これが決定的なことなのですが、消費税の還付金額が増えてしまうのです。そのからくりは次のとおりです。
細かな仕組みは一般の方には退屈な話なので、ここで詳細は申し上げません。ただご理解頂きたいのは、消費税には同じ家賃であっても、店舗や事務所等のように課税の対象となるものと、住宅用のように非課税のものとがあることです。そして、両者が混在している場合は、課税の対象となるものの割合を算出。その割合が多ければ多いほど、還付金の金額も増えるという仕組みなのです。そこで、問題の物件Eですが、これは全室居住用のため消費税は非課税。9月にすると課税割合が増加し、何と還付金が200万円も増えるのです。
5.税務署の不思議な対応これに気づいてからは、当方も方針を大転換。税務上適正な9月に訂正するから還付金を増額してくれるように要請したのです。税務署とは面白い所で、こうなると減価償却を含め当初のままで結構ですとの主張。いやいや、間違ったのはこちらです、適正な処理に直しますので還付を!以来、攻守ところを変えた戦いが半年も続いています。
2009年7月31日
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5205号
夫婦や親子でも、やっぱり共有は避けた方が…
一般的に相続財産を分割する際、共有は避けた方がいいと言われています。特に兄弟間の共有は、将来意見の対立も予想され、禍根を残すことにもなるからです。親子や夫婦の共有はそれに較べれば、対立は少ないかも知れません。そのため兄弟間の共有より安易に考えがちです。が、とんだ落とし穴が待ち受けていることも。
1.夫婦で財産を共有の事例女性ばかり4姉妹のお父様の相続です。通常は父親である一家のご主人に財産があることが多いのですが、このケースはご主人が養子という立場。財産の大半は土地なのですが、総ては奥様との共有でした。この状態、つまり相続人は奥様と4姉妹の構成でご主人が亡くなられたのです。多額の相続税を前に、相続人に残された道は駐車場用地の売却処分だけでした。と言うより、納税資金確保のため更地の駐車場にしておいたのが実状です。
2.相続財産を売却すると…相続財産を売却すると、売却の時点で今度は譲渡税が待っています。相続税と譲渡税で二重課税のような感じもしますが、そうではありません。相続したことと、それを売却することは、税務上別々の事柄なのです。それはともかく、相続財産を相続税の申告期限から3年以内に売却すると、相続税の一部が譲渡税の経費になるような取り扱いがあります。その結果、譲渡税の負担が軽減することになるのです。ここで計算の詳細には触れませんが、目安として売却価格が売却した相続人の負担する相続税額の内、土地に相応する額以下なら、譲渡税は課税されないと考えていいでしょう。これを相続税の取得費加算の特例と言います。
3.奥様の持ち分は適用外!さて、この特例、あくまでも対象となるのは相続財産です。駐車場の土地もご夫婦の共有。つまりご主人の持ち分は確かに相続財産ですが、奥様持ち分については、売却してもこの特例の対象とはなりません。売却した土地の半分は、何の特例もなく単純に譲渡税が課税されてしまうのです。
4.売却の前に工夫が出来ないか?そこで、はたと考えます。『共有物の分割』をし、その後『交換』と言う手は使えないのだろうか。つまり、売却の前に駐車場の共有状態を解除してご主人分と奥様分を分筆し、完全に二つの土地に分けてしまうのです。更に駐車場以外の土地(甲土地とする)もご夫婦の共有になっているため、こちらについてもご主人分と奥様持ち分を分割。ここまでの作業をして、もし価格が見合うなら、駐車場の奥様持ち分と甲土地のご主人分を交換すれば、駐車場は完全にご主人分だけのものになります。その上でご主人分の土地だけを処分すれば、総てが相続財産。晴れて取得費加算の特例が使える事になるわけです。
しかし、この時点では既にご主人は他界しており、分筆作業に関わることは出来ません。亡くなった方と協力して共有物を分割し交換することなどできないのです。つまり、とにかくいったんはご主人分を相続人が相続をし、その上で奥様分と相続人分を分筆し、分割しなければなりません。
ただ、それでは駐車場の内、交換した部分については取得費加算の特例の適用は受けられません。その形態になってしまうと、もはや相続財産ではないからです。
5.配偶者が適用する場合には要注意!ここで、この特例を適用するに当たって、注意すべき事があります。それは、譲渡税が軽減されるためには相続税の納税があることが前提、ということです。特例の趣旨には、相続税を負担しているのだから、売却時には少しでもその負担を軽減しようと言う狙いがあるからです。従って相続税の負担をしていない場合には、譲渡税の特例の適用がないと言うことなのです。具体的には、配偶者の場合、この事例では法定相続分である財産の1/2までは相続税の負担はありません。そのため、仮に配偶者にも特例を適用させるためには、奥様も1/2以上の財産を相続し、相続税の税負担を負う必要があるのです。
6.物納なら可能性も…ここでもう一捻りしてみましょう。売却ではなく、物納という手段はどうでしょうか。物納が出来る財産は、原則としては勿論相続財産です。しかし、相続財産の他に『転得財産』でもいいことになっています。転得財産とはあまり馴染みのない言葉ですが、要は相続財産その物ではなく、相続財産が転じて形を変えたもの、と理解すればよいでしょう。そうだとすれば、前述の甲土地と駐車場の交換の後、駐車場を4姉妹の物にすればよいのです。この交換によって駐車場は相続財産と、相続財産からの転得財産と言うことなり、物納が出来る財産となり得るからです。
いずれにせよ、共有状態は後々面倒な手続きが必要です。相続財産の分割に際しては、相続の時点ではっきりと各人の取り分を決めておくべきなのです。共有はあくまで問題解決の先送りに過ぎないと認識しておく必要がありそうです。2009年6月30日
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5204号
知っているとちょっと得する申告の知識
本年分の確定申告作業も終了しました。申告に当たり、税理士にとっては当たり前でも、一般の方々があまりご存じない事をトピックス的にまとめてみました。来年以降の申告に生かし、ちょっと得が出来そうな項目もあるかも知れません。ご参考になれば幸いです。
1.賃貸収入の期間と経費に出来る期間は同じか?家賃収入がある場合を考えてみましょう。常識的に考えれば、収入に対応する支出だけが必要経費になるはずです。だとすれば、収入のある期間と経費に出来る期間は一致しなければなりません。
しかし、例えば平成19年に今までの自宅を賃貸に転用し、自宅は別の場所に設けたとしましょう。賃貸するために500万円の経費を掛けました。直ぐに賃貸活動を開始したものの、なかなか借家人が決まりません。そうこうする内に年が明け、確定申告時期になってしまいました。経費倒れで収入もないので申告をせず、20年になってやっと借家人が決まったとします。前述の500万円は20年分の経費に出来るのでしょうか。
結論を先に言えば、19年分の収入を0で計上し、この経費も入れたところで赤字の申告をするべきなのです。収入は0ではありますが、それは結果論で、賃貸事業は19年に開始しているからなのです。現金での収入がなくても、募集活動を開始し、実際に賃貸できる状況であれば、19年から申告開始です。もし他の所得がなければ、初年度の赤字を青色申告でない場合は繰り越しができず、その損失は切捨てになってしまいます。青色の申請は絶対に絶対に必須です。
2.減価償却の考え方上記の1に関連して、税務職員でも時々変なことを言う人がいるものです。先般も法人税の調査で、収入の計上月数が減価償却をして費用化している月数より少ないのはおかしいとの指摘。そこで、筆者はトクトクと“フリーレント”の説明を致しました。フリーレントとは、テナントを誘致するため、例えば本来4月入居にも拘わらず、家賃の徴収は6月からとし、2ケ月分は家賃をサービスするものです。特に買い手市場の場合には、広く世間に知れ渡った方法で、募集活動どころか実際の賃貸までが行われているのです。こんなケースでは収入と経費の月数が一致するはずもなく、不一致が逆に当然なのです。税務調査ではとんでもない勉強不足の調査官もいるのです。そんな税務職員に負けないことも税理士の重要な仕事です。
3.こんな場合は扶養親族!話は一転して扶養控除に移ります。税務上扶養親族に該当すると、一般的な場合でお一人当たり38万円。障害をお持ちであれば最高98万円までもの控除が受けられます。非常に有利な制度ですが、条件は所得金額が38万円以下という金額の制限のみ。いい年のオジサンでもオバサンでも適用があるのです。しかも、年度毎の判断です。先般もこんな事がありました。70才を超えたお母様、いつもの年は相応の家賃収入がお有りのため、扶養にはなっていませんでした。が、20年分は古い建物の取り壊しで除却損が生じ、関連費用も多額になったのです。結果、不動産所得は赤字で年金を考慮しても所得金額は38万円以下。この年だけは同居の息子さんの扶養親族として58万円の控除が受けられたのです。年分毎の判定なので、うっかりすると税理士でも忘れがちな項目。毎年の注意が必要です。
4.医療費控除は誰から引くかで税額は変わる次はご存じ医療費控除の話題です。ご夫婦共に所得があり、例えばご主人が1,000万円、奥様が600万円だったとしましょう。この状況で奥様に300万円の医療費の支出があったとします。医療費控除はどの様に適用すればよいのでしょう。
税額を最少にするという意味での正解は、先ずは、ご主人から210万円、奥様から90万円を適用する方法です。医療費控除は本人又は生計を一にする配偶者等の親族の医療費の支払いについての控除です。夫婦双方に所得がある場合、どちらからいくら控除しても特段のルールはありません。先ずは所得の多い方から適用し、200万円の限度額まで使い切ったら、残額を他から控除すればよいのです。この所得では医療費控除には10万円の足切りがあるため、ご主人に210万円で限度額まで適用するのがベストなのです。
5.小規模企業共済等掛け金簡単に言えば、毎月の貯金額が所得金額から控除できる結構な制度です。国の制度なので倒産はまずなし、死亡時にも退職時にも受給できますが、退職金課税も選べるため、税務上も極めて有利な扱いになっています。これに加入できる出来る方は自営業者か法人の役員。不動産所得については、事業的規模と言ってある程度大規模の方だけですが、小規模でも法人にすれば加入が出来ます。
筆者も勿論加入していますが、月額で最高7万円が限度、年額84万円のため税率が50%の方は42万円の節税が可能。未加入の方はお早目に!2009年5月29日
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5203号
先妻の子が考える相続時精算課税
『相続時精算課税制度』は既にご存じの方も多いのではないでしょうか。2,500万円までなら贈与税の課税がなく、それを超えても一律20%の税率で済む贈与税の制度です。必ずしも相続税の節税目的には合致しませんが、生前に相続問題を解決する手法の一つではあります。実は、実務では当初想定していなかった、こんな使い方が非常に多いのです。
1.もう一度制度の概要を復習非課税枠と税率は上述の通りですが、この制度には注意すべき点が一つあります。それは贈与したと言っても、将来の相続時にもう一度相続財産として持ち戻し計算を行い、相続税として納付した贈与税の精算をする点です。その時の計算は、贈与時の価格で行います。従って贈与時よりも相続時に評価額が上がっていれば得をしますが、下がってしまえば損をすると言うリスクを覚悟しなければなりません。
相続税の負担のない方はこの贈与だけで課税関係は終了です。しかし、相続税が掛かる方は贈与自体が完結しても、贈与税の精算はあくまで実際の相続時。贈与税の計算は仮計算で、いわば相続税の前払い的な性格のものなのです。
2.想定していた使われ方当事務所で当初想定をし、お勧めしていたのは例えばこんな使い方でした。ご夫婦に長男、長女の二人のお子さんがいるケースです。財産は同居の長男との二世帯住宅の不動産と若干の預金とします。長女は嫁いで住宅ローンと教育費に四苦八苦の状態をお考え下さい。ここで長女に対してこの制度を使い、生前にゲンナマを贈与するのです。本当に現金が必要な時期に贈与を受ける訳で長女には値千金。が、価値として大きい二世帯住宅の土地建物は将来長男に、と考え長女にもその旨を伝えます。相続のゴタゴタを回避のため遺言書も用意しておきます。そこまでしても、遺留分について争いになることもあるので、長女には遺留分の放棄もさせます。つまり、相続時精算課税制度、遺言、遺留分放棄、この3点セットで生前に相続問題は総て解決です、と言うのが当初考えていたこの制度の典型的な活用方法だったのです。
3.税理士の立場でできること上記の考え方に沿った形で実際に沢山のお手伝いをしてきました。また、贈与時の価格が実際の相続時の価格となる点に注目し、不動産の値下がりの時点で、贈与をなさる方もおられました。その時が相場的に底値だとの判断なのでしょう。
ただ、私共の立場では不動産の値動きを予想することも、何より人の死亡時点、つまり相続がいつ起こるのかを予言することも勿論できません。
従って、相続税のいわゆる節税の目的でお勧めすることは税理士としては出来ないのです。結果的に節税になることはあっても、その保証は出来るはずもありません。
4.実際の相談事例では父上の再婚が多数現実には、この適用事例は父上が再婚をしておられるケースで多いのです。例えば先妻との間にお子さんがいて、先妻と離婚ないしは死別で再婚をなさった場合。後妻さんの立場では、入籍さえしていれば法定相続分はご主人が亡くなった場合、全財産の1/2。中には後妻さんとの間にもお子さんが出来ることもあるでしょう。また、連れ子と養子縁組をすることだってあるかも知れません。年齢にもよりますが、先妻のお子さんも成人していれば、後妻さんと一緒に生活をしていることは少ないでしょう。実際の相続を考えると、先妻の子の立場は何とも微妙なものがあります。できれば事前に自分の取り分は確保、確定しておき、分割協議で争うことだけは避けたいのが人情です。そんな時に精算課税制度の活用をお勧めしています。こういう場合、先妻のお子さんからの相談事例が大半です。遺言を作成して貰うのがベストですが、彼らの立場で父親にそこまでを依頼し、話すことは、ほとんどの場合不可能なのです。
5.相続税は100人に4人でも…御案内の通り、本年からの相続税の大改正は見送りになりました。改正されれば相続税の納税義務を負う方が激増することが予想されていました。 従って、改正の見送りにより、当面は相続税の課税対象人員は100人の死亡で4人という状況に大きな変化はないでしょう。しかし、相続税の申告義務はなくても、相続そのものはどなたも例外なく遭遇する事象なのです。実は、何を隠そう筆者も先妻の子として父の相続時には後妻さんやその子供達と分割協議をした経験があります。極めてスムーズに事は運びましたが、決して楽しいものではありません。会わずに済めば、それに越したことはないのです。本来、こんなケースで被相続人としてなすべきは、間違いなく遺言の作成です。しかし、そうは言っても遺言は作成しない方の方が多数派です。ならば、せめて相続時精算課税制度で争いの芽を摘み、極力相続人同士が会わずに済む工夫をしておく事が、税金面は別として、男として準備すべき事だと筆者は信じています。
2009年4月30日
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5202号
改正後の『物納』制度の実態
『とりあえず物納』と言う言葉をご存じでしょうか。現行の物納制度に改正される以前の、相続税の納税戦略のことです。かつては納税に窮した場合、とりあえず物納の“申請だけ”をしておいて、時間をかせぐ事が可能でした。許可にも却下にも相当の時間が掛かっていたためです。
今は違います。迅速そのもの。が、現実の物納にはこんな問題が…
1.改正で物納はこう変わった!現在の物納制度は、基本的には申請する時点、つまり相続税の申告期限である10ケ月以内に必要な整備をし、書類を提出しなければなりません。
期限を延長することもできない訳ではありませんが延納金利(延納の利子税、以下同じ)が課されます。実務的には時間の掛かる確定測量や関係者との折衝があり、相続が開始されてからではとても間に合いません。入念な事前の準備が必要なのです。その替わり、許可も却下も原則的には3ケ月以内に結論が出る事になっています。
2.金銭納付を困難とする理由書相続税の納税だからと言って、常に物納が認められる訳ではありません。原則は金銭による一括納付、それができなければ延納で、それでも無理な場合に限って物納が認められます。そのため、物納申請に当たっては、その状況を示すため『金銭納付を困難とする理由書』と言う書類が用意されています。毎月の生活費、近い将来(現行は概ね1年)の支出予定等を記載し、文字通り金銭納付が困難である窮状を金額的な根拠を示して説明する事に。この書類自体は従来からあり、物納制度の改正で新たに登場した訳ではありません。ただ、従前は金額を記載するものの、証憑の添付までは求められていませんでした。従って、たとえ今現在は現金が多少あっても、近々息子が医学部へ進学予定、自宅の建替え予定あり等々現金が必要な旨の“作文”の余地が残されていたのです。
3.生活費は一人月額10万円ところが、改正後の書面は原則として総ての金額について、その根拠となる証憑を添付することが必要とされています。つまり、前述の“作文”の余地がなくなってしまったのです。更に決定的な相違は、生活費の計算です。多額な相続税を負担し、税金を納めようとする方々です。生活だってそれなりだろうとの想像くらい働くもの。
しかし、現在の理由書では、何と生活費は一律に物納の申請者は月10万円、配偶者その他の親族は月45,000円と決められているのです。もっとも、固定資産税や庭の剪定費用等の維持管理が必要であれば、それは別途考慮して下さるそうではありますが…。いずれにせよ、この金額がお役所の方々の生活費の水準なのでしょうか。彼らをバカにするつもりはありませんが、相続税を負担する方の生活レベルをご理解頂いていないのは確かです。この金額で生活しろと決めつけられているので、勿論作文の余地は皆無です。
4.申請期間は慎重に!また、前述の通り、どうしても申請期限までに総ての書類を整備できない場合もあり得ます。その場合、一度の申請に付き最長3ケ月、合計で1年の延長ができる事になっています。但し、公定歩合に連動した延納金利が課され、現時点では約4%の高金利。
問題はそれを覚悟し、例えば3ケ月の延長を提出した上で急いで整備をした場合です。全精力を傾けて努力をし、1週間でクリアーしたとしましょう。面白いことに、と言うより呆れたことに、何とこの場合でも3ケ月と申請してしまったので、金利負担は1週間ではなく3ケ月。サラ金だってここまで阿漕な事はしないはず。しかもこの3ケ月の間、彼らはその審査を放置しておくのです。何度も言うように、3ケ月と申請したからです。こう言う硬直的な物の考え方がお役所仕事の最たるもの。申請を出す段階でその期間を可能な限り短期にし、万一整備ができなければ、面倒でも何度も申請し直す覚悟が必要です。延長申請期間についてはとにもかくにも慎重に。
5.たまには粋な計らいもさて、必要書類に不備や不足がある場合、税務署から書類の訂正や追加の請求がなされます。この書面を『補完通知書』と言いますが、この通知が発行された場合には、20日以内に整備をすることが必要です。これについても20日以内が無理であれば最大3ケ月は延長可能です。
先般も必要書類を提出の後、若干の不備や不足があった時の事です。結構細かなことをおっしゃるので、間違いがあってもと思い、書面で指示して貰う旨をお願いしました。『書面で出すのは構いませんよ。でも、そうすると補完通知扱いとなり、20日以内の整備が必要です。その間の延納金利も必要となります。口頭でのご説明なら補完扱いにしませんが…』。勿論口頭で承ることにしました。いつもいつも税務署の悪口を言ってはいけません。たまには税務署もこんな粋な計らいをしてくれるものなのです。2009年3月31日
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5201号
大山鳴動して、相続税の大改正は…
平成21年の税制改正も、相続税については大山鳴動して鼠一匹どころか結局は蟻の一匹に終わりました。平成19年の年末に税制改正大綱の中で、21年から相続税の計算方式を根本的に変更する旨が謳われていたのにです。結論としては見送りとなり、計算方法に変更はありません。本稿でも何度か取り上げたこの大改正、見送りに至る経緯とその背景を追ってみました。
1.事業承継は税制の整備が最後の課題中小企業の事業承継が、法律や税制等の壁があり、難しい状況にあるとの議論が従来からなされてきました。この手の企業の株式は、経営権支配のため他に売却することはできません。相続するには株式の評価額が高額で、多額の相続税の課税が待っています。兄弟で仲良く共有にすれば、それこそ経営権や処分する場合の価格をめぐり将来の争いの火種を残すだけ。結局は事業の承継者一人が独占するのが常道ですが、それをすると税負担のみならず、株式だけが相続財産である場合、民法上の法定相続分や遺留分の侵害にまで問題は発展してしまいます。そこで、かねてより事業承継が円滑に進むよう、関係法令の改正が検討され、税制面での整備が残された課題になっていたのです。そこで浮上した問題が従来の相続税の計算方式。幾つかの難点が指摘され、是正のために21年から相続税の大改正が予定されていました。
2.遺産取得課税方式への変更の問題点それは遺産取得課税方式と言われるものでした。相続で遺産を取得した相続人毎に相応の基礎控除をし、税率を乗じるという単純なものです。計算自体は簡単なものの、様々な問題点が当初より指摘されていました。ここでその詳細を論じても、あまり意味のあることではないのでそれは省きます。項目だけを挙げれば、財産の全体像の把握、財産の分割が整わない場合の税負担軽減への防止策、税務調査への対応等々解決すべき問題は山積していました。
3.決定打は都市部の農家改正された場合、恐らく相続税の課税対象となる人数は増えるであろうことが予想されていました。つまり、結果的には増税です。
さらに、特に大きな影響を受けるのが、都市部の農家でしょう。従来からの方式は、財産全体を法定相続分に分割したと仮定して、その上で相続人毎に税率を乗じて税額を算出します。そして、その合計額を実際の相続割合に応じて按分するため、累進税率が緩和される結果となっていたのです。100の物を5人で分けて適用する税率と、1人だけで負担する場合の税率を比較すれば、5人で分けた場合の方が負担は軽いのです。
農家の場合、都市部とは言っても実質的には未だに長子相続が根強く残っています。大半の財産は長男が相続して“家”を継ぎ守っているのが実態なのです。他の兄弟にハンコ代程度の財産分けはしても、長男が一人で高率の税率を適用されれば、相続税負担は従来とは較べ物にならないほど、過大になることは火を見るより明らかです。勿論、農地については納税猶予制度という物が用意はされています。しかし、この制度の適用には様々な問題があり、それなりの決心というか決断が必要です。この制度を除いて考えた場合、増税に繋がる改正はとても選挙前には考えられません。
4.結局は税制は政治そのもの!情報筋によれば、昨年11月末の自民党税制調査会の小委員会では、『都市部の農家は全滅する』『選挙前にやられたら終わりだ』等々遺産取得課税方式に反対する議員が続出したそうです。自民党にとって農家は大切な大票田であり、お得意様。反対する気持ちは理解できます。
税法は、言い方は悪いかも知れませんが合法的に国民から税金を召し上げる法律、手段です。税制をどの様に組み立て執行していくかは、正に国の最重要事項です。しかし、そもそも課税方式にしても税率の決め方一つにしても、数字そのものに理論的な根拠はありません。その時々の政策そのものなのです。農家の税負担だけで相続税の改正が先送りされたわけではないのでしょうが、選挙前の情勢を無視するわけにはいかないでしょう。
5.農家を取り巻く税制とその問題点東京を中心として3大都市圏においては、生産緑地法という法律により、農業を継続することが非常に困難な状況になっています。広大な農地に対しても、固定資産税は原則的には宅地並の課税がなされます。それを避けるには生産緑地の指定を受けなければなりません。ただ、生産緑地にしてしまうと宅地への転換が制限され有効活用もままならないのです。相続税もそれに追い打ちを掛けます。前述のように農地の納税猶予制度というものもあるにはあります。しかし、これを選択すると、生涯農業を継続しなければならず、人生の途中での職業選択の自由は奪われてしまいます。勿論、宅地としての莫大な相続税を払えばいいのですが…。現状でさえ難しい農家の理解を得ての相続税改正、初めから実現は困難だった???
2009年2月27日
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5200号
税務調査への協力も、事と次第によりけり!
税目を問わず、税務署に申告をすればその申告内容について税務調査の可能性はあります。言うまでもなく調査を受けることは決して楽しいものではありません。しかし、納税をする者の義務として甘受せざるを得ない部分もあるでしょう。
が、それも程度問題です。未だに旧態依然の時代錯誤的な税務調査も時折散見されます。以前からある手法ですが、普段税務調査に馴染みのない方々に、税務署のやり方の一端をご紹介します。
1.『相続財産以外の所有財産』の開示は必要かこんな調査手法が未だに継続して行われているとは筆者も少々驚きでした。相続税の調査の過程で各相続人に『相続財産以外の所有財産』なる書類を提出させるやり方です。相続税の調査ですから被相続人の全財産について、誠意を持ってかつ正直に財産を開示し、協力するべきは当然のこと。しかし、“相続人”の財産をどうしてここまで詳細に知らせる必要があるのでしょう。この書類には、例えば預金については次の項目を記載するよう指示があります。預金の種類、取引銀行・支店、口座番号、名義人、相続開始日の残高、調査日現在の残高等々。
その他にも、不動産は勿論のこと、有価証券や保険の内容、貴金属の取得日や取得価額まで詳細にわたり開示が求められています。ご丁寧に“名義等が作成者以外(例えば子、孫名義)のものでも、実質的に所有している財産については記載すること”との説明まで付いているのです。 調査の段階でこの手の書類を事前に提出させる狙いは何なのでしょう。後日これに記載のない財産が見つかれば、それらは総て被相続人の相続財産として課税するぞ、とでも言うつもりなのでしょうか。
2.被相続人の財産 、相続人の財産そもそも相続人が従来から所有している、相続財産以外の財産についてまで、税務署に調べる権限があるのでしょうか。彼らの主張は決まっています。「被相続人の財産か、相続人の財産か、それを確認するのが我々の仕事です。その峻別をはっきりさせるためには、相続人の財産も調べる必要があるのです。」と。一見もっともらしい事をおっしゃいます。しかし、この論理は間違っていると筆者は思っています。この論理を拡大していけば、合理的な理由や根拠がない場合でも、一族郎党、親戚の親戚のその又親戚の財産まで、被相続人の財産か、はたまた親戚の親戚のその又親戚の財産かの峻別が必要になってしまいます。もう無制限一本勝負。峻別を盾に取れば隣の住人の財産まで調査ができることになってしまいます。
3.似たような話が、個人か法人かこれによく似た話が法人税の調査にも出てきます。法人と言っても、未上場のいわゆる同族の中小法人で、実質は個人に毛の生えた程度の会社です。本来法人に帰属する収入を、社長が個人の懐に入れてしまうことも良くあるもの。そんな想定から社長個人の預金通帳や手帳、鞄まで中味の確認を要求されることがあります。そんな時、これは個人のものであって法人とは無関係だと主張すると、先程の論理が登場です。『個人か法人か、それを確認する必要があるから個人の物まで見せて欲しい。』ン十年前、筆者も税務職員であった頃、確かにこんな台詞を申し上げた記憶がございます。決して自己弁護をするつもりはありませんが、ま、ケースによっては、この辺までは調査手法として仕方がないかな、と言う気もします。
4.調査への協力を拒否したら…さて、話は相続人の財産調べに戻ります。当事務所では、従来から『相続財産以外の所有財産』の提出は総てお断りをしております。誤解のないように申し上げておきますが、我々は税務調査には常に最大限の協力をしているつもりです。そして1日でも早く調査が終了するように、指示された宿題も迅速に解決しています。税務調査は無いに越したことはありませんが、必要悪であることも事実。もしこれがないとすれば、申告納税制度は成り立ちません。悪人が得をする世の中は正しい姿ではありませんから。
しかし、だからと言ってどんなことでも税務署のおっしゃることに盲従は致しません。協力ができないことは、きっぱりと拒否を致します。税務署の要求を拒否したら、どんな仕返しがあるか…なんて言う心配はご無用です。税法に照らし合わせて是か非かを争えばいいのです。
5.税務調査の担当官へ『相続財産以外の所有財産』に協力しない理由は、被相続人の調査の領域を逸脱していると考えるからです。普遍的な調査には協力できません。
もしこの原稿を税務署の方がご覧になる機会があれば、是非ご確認を頂きたい。当事務所の関与した申告書で大きな増差がでた事案が無いことを。節税等の工夫は勿論していますが、それくらい自信を持って、誠実な申告書を作成しています。税務署の論理ではなく、税法に照らし、是は是、非は非で臨んでいるのです。2009年1月30日
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5199号
今更どうして税務署は拘る?貸家建付地の評価
1. “貸家建付地”の評価とは
先ずは土地評価の基本的な話です。アパートや賃貸マンションを建てた場合、借家人にはいわゆる借家権と言う権利が生じます。それを踏まえて相続税ではその敷地の評価に当たり、貸家建付地と言って、次の算式のとおり更地より減額する工夫をしています。
貸家建付地の評価額=更地評価額×Α
Α:1-借地権割合×借家権割合借家権割合は一律30%とされているため、例えば借地権割合が60%の東京近郊の住宅地のようなケースでは、更地の82%になる計算です。
なお、建物についても貸家であれば、自用の場合の評価より借家権割合の30%が減額です。
2. 相続評価の原則は死亡時点の状況相続評価の原則は、相続開始時つまり死亡時点の状況によります。従ってその時点でアパートに空室があれば、借家人不在で借家権自体が存在しないため、それに対応する部分の土地は更地扱いです。例えば全室同面積の部屋が10室あり、その内1室が空室であれば、敷地の9/10は貸家建付地、1/10は更地の評価となるのです。しかし、何年も借家人がいたにも拘わらず、たまたま死亡時に空室になっていたら……。これが貸家建付地評価とならないと言うのも実態を反映せず、何だか運が悪かったようでスッキリしません。また、これは建物の30%減額にも影響をしてきます。
3. 賃貸が継続していれば…かつては税務署にも一時的に賃貸されていない事例について、見解が別れていました。つまり、一つは借家人がいない以上更地評価やむなしとする見解。もう一つは、そのアパートに一人でも借家人がいればその権利は敷地全体に及ぶとして総合的な判断、即ち貸家建付地として評価をしようと言う考え方です。
そして平成11年の評価通達改正時に、上述の9/10と1/10に分けるような“賃貸割合”と言う考え方を基本に、一定の場合には一時的に空室の状態でも、全体を貸家建付地として評価する方向性が打ち出されたのです。
その一定の場合とは、以下の点を総合的に判断するものとされています。
①各独立部分が課税時期(つまり死亡時)前に継続的に賃貸されてきたものかどうか②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか③空室の期間、他の用途に供されていないかどうか④空室の期間が、課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であるかどうか⑤課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか、等々です。一言で言えば、継続して賃貸の意思があり、実際にも募集活動を行っている事、と考えられるでしょう。
4.それでも執拗な税務署の追求当事務所でも相続税の申告に当たっては、上記の点を十分考慮し、事実の検証を行った上で結論を出しています。そして、その判断の結果貸家建付地として申告をしても、税務署は空室があるとなかなか貸家建付地と認めたがらないのです。近年その傾向が顕著で、相続税の税務調査では本当にしつこいくらい、この点を追求してきます。特に建物が老朽化し、なかなか新たな賃借人が見つからない場合は敵の出方も強行です。古い建物は現実問題として募集に相当な苦労が強いられてしまいます。ただ、現在は既に考え方については決着が付き、以前はそれ程問題にもしてこなかったのに、ここへ来て何故か追求は執拗です。筆者にもその原因は分かりません。
5.問題は空室だけではありません空室ではないのですが、こんなケースがありました。孫夫婦に他の賃借人の半額でアパートの部屋を賃貸していた事例です。その部屋については賃料が安いこともあり、所得税の申告はせず、いわばオーナーであるおばあちゃんの“お小遣い”。この状態で相続を迎えました。
ここで問題は相続税の土地の評価です。賃料が半額でも使用貸借と言われるタダ同然ではない限り、貸家建付地として評価できるでしょう。但し、所得税の申告書との整合性が必要です。今からでも小遣い部分を申告し、所得税を修正しなければなりません。それが嫌であれば、相続税は更地の評価。要は相続税と所得税の損得勘定で判断することになるでしょう。
因みに賃料が半額のため、差額分は祖母から孫への贈与として課税があるのでしょうか。これは冷静に考えれば答えは出てきます。オーナーが誰にいくらで部屋を貸そうとオーナーの勝手です。贈与税の課税対象にはなりませんのでご心配なく。 お好きな方にお望みの金額でお貸し下さい。2008年12月15日