お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
年度:
タイトル:
-
5202号
改正後の『物納』制度の実態
『とりあえず物納』と言う言葉をご存じでしょうか。現行の物納制度に改正される以前の、相続税の納税戦略のことです。かつては納税に窮した場合、とりあえず物納の“申請だけ”をしておいて、時間をかせぐ事が可能でした。許可にも却下にも相当の時間が掛かっていたためです。
今は違います。迅速そのもの。が、現実の物納にはこんな問題が…
1.改正で物納はこう変わった!現在の物納制度は、基本的には申請する時点、つまり相続税の申告期限である10ケ月以内に必要な整備をし、書類を提出しなければなりません。
期限を延長することもできない訳ではありませんが延納金利(延納の利子税、以下同じ)が課されます。実務的には時間の掛かる確定測量や関係者との折衝があり、相続が開始されてからではとても間に合いません。入念な事前の準備が必要なのです。その替わり、許可も却下も原則的には3ケ月以内に結論が出る事になっています。
2.金銭納付を困難とする理由書相続税の納税だからと言って、常に物納が認められる訳ではありません。原則は金銭による一括納付、それができなければ延納で、それでも無理な場合に限って物納が認められます。そのため、物納申請に当たっては、その状況を示すため『金銭納付を困難とする理由書』と言う書類が用意されています。毎月の生活費、近い将来(現行は概ね1年)の支出予定等を記載し、文字通り金銭納付が困難である窮状を金額的な根拠を示して説明する事に。この書類自体は従来からあり、物納制度の改正で新たに登場した訳ではありません。ただ、従前は金額を記載するものの、証憑の添付までは求められていませんでした。従って、たとえ今現在は現金が多少あっても、近々息子が医学部へ進学予定、自宅の建替え予定あり等々現金が必要な旨の“作文”の余地が残されていたのです。
3.生活費は一人月額10万円ところが、改正後の書面は原則として総ての金額について、その根拠となる証憑を添付することが必要とされています。つまり、前述の“作文”の余地がなくなってしまったのです。更に決定的な相違は、生活費の計算です。多額な相続税を負担し、税金を納めようとする方々です。生活だってそれなりだろうとの想像くらい働くもの。
しかし、現在の理由書では、何と生活費は一律に物納の申請者は月10万円、配偶者その他の親族は月45,000円と決められているのです。もっとも、固定資産税や庭の剪定費用等の維持管理が必要であれば、それは別途考慮して下さるそうではありますが…。いずれにせよ、この金額がお役所の方々の生活費の水準なのでしょうか。彼らをバカにするつもりはありませんが、相続税を負担する方の生活レベルをご理解頂いていないのは確かです。この金額で生活しろと決めつけられているので、勿論作文の余地は皆無です。
4.申請期間は慎重に!また、前述の通り、どうしても申請期限までに総ての書類を整備できない場合もあり得ます。その場合、一度の申請に付き最長3ケ月、合計で1年の延長ができる事になっています。但し、公定歩合に連動した延納金利が課され、現時点では約4%の高金利。
問題はそれを覚悟し、例えば3ケ月の延長を提出した上で急いで整備をした場合です。全精力を傾けて努力をし、1週間でクリアーしたとしましょう。面白いことに、と言うより呆れたことに、何とこの場合でも3ケ月と申請してしまったので、金利負担は1週間ではなく3ケ月。サラ金だってここまで阿漕な事はしないはず。しかもこの3ケ月の間、彼らはその審査を放置しておくのです。何度も言うように、3ケ月と申請したからです。こう言う硬直的な物の考え方がお役所仕事の最たるもの。申請を出す段階でその期間を可能な限り短期にし、万一整備ができなければ、面倒でも何度も申請し直す覚悟が必要です。延長申請期間についてはとにもかくにも慎重に。
5.たまには粋な計らいもさて、必要書類に不備や不足がある場合、税務署から書類の訂正や追加の請求がなされます。この書面を『補完通知書』と言いますが、この通知が発行された場合には、20日以内に整備をすることが必要です。これについても20日以内が無理であれば最大3ケ月は延長可能です。
先般も必要書類を提出の後、若干の不備や不足があった時の事です。結構細かなことをおっしゃるので、間違いがあってもと思い、書面で指示して貰う旨をお願いしました。『書面で出すのは構いませんよ。でも、そうすると補完通知扱いとなり、20日以内の整備が必要です。その間の延納金利も必要となります。口頭でのご説明なら補完扱いにしませんが…』。勿論口頭で承ることにしました。いつもいつも税務署の悪口を言ってはいけません。たまには税務署もこんな粋な計らいをしてくれるものなのです。2009年3月31日
-
5201号
大山鳴動して、相続税の大改正は…
平成21年の税制改正も、相続税については大山鳴動して鼠一匹どころか結局は蟻の一匹に終わりました。平成19年の年末に税制改正大綱の中で、21年から相続税の計算方式を根本的に変更する旨が謳われていたのにです。結論としては見送りとなり、計算方法に変更はありません。本稿でも何度か取り上げたこの大改正、見送りに至る経緯とその背景を追ってみました。
1.事業承継は税制の整備が最後の課題中小企業の事業承継が、法律や税制等の壁があり、難しい状況にあるとの議論が従来からなされてきました。この手の企業の株式は、経営権支配のため他に売却することはできません。相続するには株式の評価額が高額で、多額の相続税の課税が待っています。兄弟で仲良く共有にすれば、それこそ経営権や処分する場合の価格をめぐり将来の争いの火種を残すだけ。結局は事業の承継者一人が独占するのが常道ですが、それをすると税負担のみならず、株式だけが相続財産である場合、民法上の法定相続分や遺留分の侵害にまで問題は発展してしまいます。そこで、かねてより事業承継が円滑に進むよう、関係法令の改正が検討され、税制面での整備が残された課題になっていたのです。そこで浮上した問題が従来の相続税の計算方式。幾つかの難点が指摘され、是正のために21年から相続税の大改正が予定されていました。
2.遺産取得課税方式への変更の問題点それは遺産取得課税方式と言われるものでした。相続で遺産を取得した相続人毎に相応の基礎控除をし、税率を乗じるという単純なものです。計算自体は簡単なものの、様々な問題点が当初より指摘されていました。ここでその詳細を論じても、あまり意味のあることではないのでそれは省きます。項目だけを挙げれば、財産の全体像の把握、財産の分割が整わない場合の税負担軽減への防止策、税務調査への対応等々解決すべき問題は山積していました。
3.決定打は都市部の農家改正された場合、恐らく相続税の課税対象となる人数は増えるであろうことが予想されていました。つまり、結果的には増税です。
さらに、特に大きな影響を受けるのが、都市部の農家でしょう。従来からの方式は、財産全体を法定相続分に分割したと仮定して、その上で相続人毎に税率を乗じて税額を算出します。そして、その合計額を実際の相続割合に応じて按分するため、累進税率が緩和される結果となっていたのです。100の物を5人で分けて適用する税率と、1人だけで負担する場合の税率を比較すれば、5人で分けた場合の方が負担は軽いのです。
農家の場合、都市部とは言っても実質的には未だに長子相続が根強く残っています。大半の財産は長男が相続して“家”を継ぎ守っているのが実態なのです。他の兄弟にハンコ代程度の財産分けはしても、長男が一人で高率の税率を適用されれば、相続税負担は従来とは較べ物にならないほど、過大になることは火を見るより明らかです。勿論、農地については納税猶予制度という物が用意はされています。しかし、この制度の適用には様々な問題があり、それなりの決心というか決断が必要です。この制度を除いて考えた場合、増税に繋がる改正はとても選挙前には考えられません。
4.結局は税制は政治そのもの!情報筋によれば、昨年11月末の自民党税制調査会の小委員会では、『都市部の農家は全滅する』『選挙前にやられたら終わりだ』等々遺産取得課税方式に反対する議員が続出したそうです。自民党にとって農家は大切な大票田であり、お得意様。反対する気持ちは理解できます。
税法は、言い方は悪いかも知れませんが合法的に国民から税金を召し上げる法律、手段です。税制をどの様に組み立て執行していくかは、正に国の最重要事項です。しかし、そもそも課税方式にしても税率の決め方一つにしても、数字そのものに理論的な根拠はありません。その時々の政策そのものなのです。農家の税負担だけで相続税の改正が先送りされたわけではないのでしょうが、選挙前の情勢を無視するわけにはいかないでしょう。
5.農家を取り巻く税制とその問題点東京を中心として3大都市圏においては、生産緑地法という法律により、農業を継続することが非常に困難な状況になっています。広大な農地に対しても、固定資産税は原則的には宅地並の課税がなされます。それを避けるには生産緑地の指定を受けなければなりません。ただ、生産緑地にしてしまうと宅地への転換が制限され有効活用もままならないのです。相続税もそれに追い打ちを掛けます。前述のように農地の納税猶予制度というものもあるにはあります。しかし、これを選択すると、生涯農業を継続しなければならず、人生の途中での職業選択の自由は奪われてしまいます。勿論、宅地としての莫大な相続税を払えばいいのですが…。現状でさえ難しい農家の理解を得ての相続税改正、初めから実現は困難だった???
2009年2月27日
-
5200号
税務調査への協力も、事と次第によりけり!
税目を問わず、税務署に申告をすればその申告内容について税務調査の可能性はあります。言うまでもなく調査を受けることは決して楽しいものではありません。しかし、納税をする者の義務として甘受せざるを得ない部分もあるでしょう。
が、それも程度問題です。未だに旧態依然の時代錯誤的な税務調査も時折散見されます。以前からある手法ですが、普段税務調査に馴染みのない方々に、税務署のやり方の一端をご紹介します。
1.『相続財産以外の所有財産』の開示は必要かこんな調査手法が未だに継続して行われているとは筆者も少々驚きでした。相続税の調査の過程で各相続人に『相続財産以外の所有財産』なる書類を提出させるやり方です。相続税の調査ですから被相続人の全財産について、誠意を持ってかつ正直に財産を開示し、協力するべきは当然のこと。しかし、“相続人”の財産をどうしてここまで詳細に知らせる必要があるのでしょう。この書類には、例えば預金については次の項目を記載するよう指示があります。預金の種類、取引銀行・支店、口座番号、名義人、相続開始日の残高、調査日現在の残高等々。
その他にも、不動産は勿論のこと、有価証券や保険の内容、貴金属の取得日や取得価額まで詳細にわたり開示が求められています。ご丁寧に“名義等が作成者以外(例えば子、孫名義)のものでも、実質的に所有している財産については記載すること”との説明まで付いているのです。 調査の段階でこの手の書類を事前に提出させる狙いは何なのでしょう。後日これに記載のない財産が見つかれば、それらは総て被相続人の相続財産として課税するぞ、とでも言うつもりなのでしょうか。
2.被相続人の財産 、相続人の財産そもそも相続人が従来から所有している、相続財産以外の財産についてまで、税務署に調べる権限があるのでしょうか。彼らの主張は決まっています。「被相続人の財産か、相続人の財産か、それを確認するのが我々の仕事です。その峻別をはっきりさせるためには、相続人の財産も調べる必要があるのです。」と。一見もっともらしい事をおっしゃいます。しかし、この論理は間違っていると筆者は思っています。この論理を拡大していけば、合理的な理由や根拠がない場合でも、一族郎党、親戚の親戚のその又親戚の財産まで、被相続人の財産か、はたまた親戚の親戚のその又親戚の財産かの峻別が必要になってしまいます。もう無制限一本勝負。峻別を盾に取れば隣の住人の財産まで調査ができることになってしまいます。
3.似たような話が、個人か法人かこれによく似た話が法人税の調査にも出てきます。法人と言っても、未上場のいわゆる同族の中小法人で、実質は個人に毛の生えた程度の会社です。本来法人に帰属する収入を、社長が個人の懐に入れてしまうことも良くあるもの。そんな想定から社長個人の預金通帳や手帳、鞄まで中味の確認を要求されることがあります。そんな時、これは個人のものであって法人とは無関係だと主張すると、先程の論理が登場です。『個人か法人か、それを確認する必要があるから個人の物まで見せて欲しい。』ン十年前、筆者も税務職員であった頃、確かにこんな台詞を申し上げた記憶がございます。決して自己弁護をするつもりはありませんが、ま、ケースによっては、この辺までは調査手法として仕方がないかな、と言う気もします。
4.調査への協力を拒否したら…さて、話は相続人の財産調べに戻ります。当事務所では、従来から『相続財産以外の所有財産』の提出は総てお断りをしております。誤解のないように申し上げておきますが、我々は税務調査には常に最大限の協力をしているつもりです。そして1日でも早く調査が終了するように、指示された宿題も迅速に解決しています。税務調査は無いに越したことはありませんが、必要悪であることも事実。もしこれがないとすれば、申告納税制度は成り立ちません。悪人が得をする世の中は正しい姿ではありませんから。
しかし、だからと言ってどんなことでも税務署のおっしゃることに盲従は致しません。協力ができないことは、きっぱりと拒否を致します。税務署の要求を拒否したら、どんな仕返しがあるか…なんて言う心配はご無用です。税法に照らし合わせて是か非かを争えばいいのです。
5.税務調査の担当官へ『相続財産以外の所有財産』に協力しない理由は、被相続人の調査の領域を逸脱していると考えるからです。普遍的な調査には協力できません。
もしこの原稿を税務署の方がご覧になる機会があれば、是非ご確認を頂きたい。当事務所の関与した申告書で大きな増差がでた事案が無いことを。節税等の工夫は勿論していますが、それくらい自信を持って、誠実な申告書を作成しています。税務署の論理ではなく、税法に照らし、是は是、非は非で臨んでいるのです。2009年1月30日
-
5199号
今更どうして税務署は拘る?貸家建付地の評価
1. “貸家建付地”の評価とは
先ずは土地評価の基本的な話です。アパートや賃貸マンションを建てた場合、借家人にはいわゆる借家権と言う権利が生じます。それを踏まえて相続税ではその敷地の評価に当たり、貸家建付地と言って、次の算式のとおり更地より減額する工夫をしています。
貸家建付地の評価額=更地評価額×Α
Α:1-借地権割合×借家権割合借家権割合は一律30%とされているため、例えば借地権割合が60%の東京近郊の住宅地のようなケースでは、更地の82%になる計算です。
なお、建物についても貸家であれば、自用の場合の評価より借家権割合の30%が減額です。
2. 相続評価の原則は死亡時点の状況相続評価の原則は、相続開始時つまり死亡時点の状況によります。従ってその時点でアパートに空室があれば、借家人不在で借家権自体が存在しないため、それに対応する部分の土地は更地扱いです。例えば全室同面積の部屋が10室あり、その内1室が空室であれば、敷地の9/10は貸家建付地、1/10は更地の評価となるのです。しかし、何年も借家人がいたにも拘わらず、たまたま死亡時に空室になっていたら……。これが貸家建付地評価とならないと言うのも実態を反映せず、何だか運が悪かったようでスッキリしません。また、これは建物の30%減額にも影響をしてきます。
3. 賃貸が継続していれば…かつては税務署にも一時的に賃貸されていない事例について、見解が別れていました。つまり、一つは借家人がいない以上更地評価やむなしとする見解。もう一つは、そのアパートに一人でも借家人がいればその権利は敷地全体に及ぶとして総合的な判断、即ち貸家建付地として評価をしようと言う考え方です。
そして平成11年の評価通達改正時に、上述の9/10と1/10に分けるような“賃貸割合”と言う考え方を基本に、一定の場合には一時的に空室の状態でも、全体を貸家建付地として評価する方向性が打ち出されたのです。
その一定の場合とは、以下の点を総合的に判断するものとされています。
①各独立部分が課税時期(つまり死亡時)前に継続的に賃貸されてきたものかどうか②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか③空室の期間、他の用途に供されていないかどうか④空室の期間が、課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であるかどうか⑤課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか、等々です。一言で言えば、継続して賃貸の意思があり、実際にも募集活動を行っている事、と考えられるでしょう。
4.それでも執拗な税務署の追求当事務所でも相続税の申告に当たっては、上記の点を十分考慮し、事実の検証を行った上で結論を出しています。そして、その判断の結果貸家建付地として申告をしても、税務署は空室があるとなかなか貸家建付地と認めたがらないのです。近年その傾向が顕著で、相続税の税務調査では本当にしつこいくらい、この点を追求してきます。特に建物が老朽化し、なかなか新たな賃借人が見つからない場合は敵の出方も強行です。古い建物は現実問題として募集に相当な苦労が強いられてしまいます。ただ、現在は既に考え方については決着が付き、以前はそれ程問題にもしてこなかったのに、ここへ来て何故か追求は執拗です。筆者にもその原因は分かりません。
5.問題は空室だけではありません空室ではないのですが、こんなケースがありました。孫夫婦に他の賃借人の半額でアパートの部屋を賃貸していた事例です。その部屋については賃料が安いこともあり、所得税の申告はせず、いわばオーナーであるおばあちゃんの“お小遣い”。この状態で相続を迎えました。
ここで問題は相続税の土地の評価です。賃料が半額でも使用貸借と言われるタダ同然ではない限り、貸家建付地として評価できるでしょう。但し、所得税の申告書との整合性が必要です。今からでも小遣い部分を申告し、所得税を修正しなければなりません。それが嫌であれば、相続税は更地の評価。要は相続税と所得税の損得勘定で判断することになるでしょう。
因みに賃料が半額のため、差額分は祖母から孫への贈与として課税があるのでしょうか。これは冷静に考えれば答えは出てきます。オーナーが誰にいくらで部屋を貸そうとオーナーの勝手です。贈与税の課税対象にはなりませんのでご心配なく。 お好きな方にお望みの金額でお貸し下さい。2008年12月15日
-
5198号
遺言書作るなら元気な内に!
相続ならぬ“争族”を避ける方法は、遺言書の作成を置いて他にありません。分かってはいても、楽しい作業ではないので、なかなか実行に移せないのが人情です。ただ、加齢に従って痴呆の進行等により、正常な判断が困難になる場合も。遺言をするなら、とにもかくにも元気な内に、早目のご決断を。本日は、遅くなるとこんな余計な確認作業が必要になると言うお話です。
1. 公正証書が何より安全法的な安全性や確実性から、遺言と言えば何と言っても公正証書遺言にする事をお勧めします。
公正証書遺言とは、遺言者の意向を受けて公証人が作成した遺言書で、原本は公証人役場に厳重に保管されます。遺留分の侵害があり、相続人から自分の取り分が少な過ぎると言う文句(減殺請求という)があれば別ですが、一般的には遺言者の思いが安全、確実に伝えられる方法なのです。
2. 公証人の役割そうは言っても公証人だって人間です。手続きや遺言者の意思確認の段階で誤りがあれば、遺言書自体の有効性について後日争いが生じないとも限りません。従ってその辺りは慎重に事が運ばれます。なお、通常は証人2人の立ち会いのもと、公証人役場でその手続きは行われますが、遺言者の要請により遺言者の自宅や入院先等へ公証人に出張して貰うことも可能です。
3. 遺言者の意思の確認公証人はまず、遺言者が本人である事を印鑑証明書を提出させることで確認します。それは宜しいのですが、問題は遺言者の意思の確認です。健常者の場合は何の心配もないのですが、公証人から色々な質問がなされます。そのため、軽い痴呆が始まっていたり、言語障害で意思表示が明確にできない場合には、実務的には若干の苦労が伴います。
先日もこんな例がありました。家族との日常の会話には何の支障もないものの、いわゆる“まだらボケ”の症状がある方の遺言です。車椅子の生活のため、公証人にはご自宅まで出張をお願いしました。公証人を含め、知らない人に会うと緊張し、ボケの症状が出やすいとのこと。そのため、遺言当日は証人として立ち会う我々も公証人より早目に到着して、公証人の質問に対する回答を練習しておくことにしたのです。
4.何と『長谷川式』 の質問で確認!さて、公証人の行う遺言者の意思確認ですが、結構厳しいものがあります。世間話程度から始まりますが、遺言者に面接してちょっと疑問符が付く場合、意思能力、判断能力の確認が始まるのです。実は今回、何と『改訂長谷川式』と言う認知症のテストが行われたのです。医療の現場では広く知られた方法のようで、私も付き添いの看護士から教えられて初めて知ったテストです。
この公証人、何と約束の時間より20分も前に到着し、我々が予行演習をする前に付き添いさんの前でこのテストを始めていたのです。遺言者は賃貸マンションをお持ちの方で、その1室にご家族とは別に起居されていたため、公証人に予め部屋番号を教えていたのが災いした格好です。
5.『長谷川式』テストの概要ここでその『長谷川式』と言われるテストの概要を御紹介しておきましょう。満点は30点で20点以下だと痴呆の疑い有りとされるようです。どれも正常な方なら簡単に答えられるものばかりですが、ボケておられるとやはり難しいようです。
先ずは年齢や当日の日付、曜日、面接の場所等の確認から。次いで簡単な引き算です。例えば100から7を引いた数、更にそこから6を引いた場合の答を求められます。また、面接者が幾つかの数字を言った上で逆さから言わせたり、知っている野菜の名前を複数言わせたりと、概ねこんな形で進められるようです。
回答により加点方式で採点、判定されるテストで、元々は任意後見人制度から始まったようです。任意後見契約について公正証書の作成を依頼された場合に、本人の判断能力に疑問がある場合は、このテストを行うそうです。それが、遺言書にも利用された訳ですが、現時点で遺言公正証書の作成について、このテストが一般化されている訳ではないそうです。言ってみれば、今回の遺言者はちょっと運が悪かった、と言ったら言い過ぎでしょうか。
6.結論は遺言するなら元気な内に!さて、今回は軽い言語障害があり、質問に対し迅速に答えができなかったのですが、機転の効く看護士の助力もあって、何とかクリアーできました。何のために遺言をするかとの公証人の質問に、やっとのことで絞り出すように『相続』と言えたことが決め手になったようです。
質問を終え、『ちょっと危なっかしいけど、まあいいか』との一言に安堵、安堵、安堵でした。
いずれにせよ、遺言は争族回避の最善の策。元気で適切な判断力がある内に。私共も全力でお手伝いします!2008年11月28日
-
5197号
問題山積の相続税改正
昨年、つまり平成19年の12月に公表の税制改正大綱で、21年から相続税の計算方法が改正されることが明記されました。本稿の読者の皆さんへは、勿論既にご報告済みです(5190号)。しかし、当時日経新聞でさえこの重大事を報道していませんでした。が、やっとここへ来て、平成21年度の改正が話題になるにつれ、俄に脚光を浴びるに至った相続税改正です。ただ、実務的には問題山積で、予想を基にその行方を追ってみました。
1. 極々 簡単に復習すると詳細は触れませんが、事業承継税制の中で、いわゆる中小企業の後継者の税負担を軽減する議論がかねてからなされていました。その円滑な事業承継に対応すべく、相続税の計算方法を根底から見直すというのが改正の表向きの建前でした。現実論としては、相続税の課税対象者等の拡大を狙った増税策。何しろ従来の相続税の課税の対象となる方の割合は、100人亡くなって僅かに4人と言うのが実状だからです。当事務所ではこの事には瞬時に気付き、既報の通りのご報告を致しました。一般のマスコミではこの大改正自体を全く取り上げず、来年の税制改正のこの時期になって、初めて俎上に上がって来たのです。が、とにかくこの改正、様々な問題が…
2. 従来の相続税の計算方法これも詳細は触れませんが、従来の計算方法は、とにもかくにも全財産を把握し、それを法定相続分通りに分けたと仮定して、税額の合計をはじくのです。その総税額を実際の相続割合に応じて各相続人財産を相続した方は、少額の方より当然の事ながら税額は増加するというものです。
3. 従来の計算方法の問題点この方法の問題点を幾つか列挙すれば、一つには特例の適用者の影響が他の者にも及ぶことが挙げられます。例えば居住用や事業用の土地については、最大で80%引きの評価の特例があります。仮に長男が相続した土地がこの評価減効果により8割引になった場合、本来は長男だけが減額の恩恵を受ければよいわけです。しかし、全体の財産総額が減少するため、結果的には相続人全員の税額、つまり相続税の総額が減少することになる訳です。
また、相続税の総額の計算には累進税率が適用されるため、財産総額によっては大幅に税負担が増加する事もあり得ます。従って、同じ1億円の財産を相続した場合でも、財産総額により納税額は異なります。全体の財産が2億円の場合の1億円の土地と、200億円の場合の1億円の土地では、同じ1億円の土地を相続しても納税額は天と地ほど相違が生じることになるのです。
4.相続税の調査はどうなる?改正後はまず前述の相続税の総額の計算がなくなります。全体の財産に対する税額計算はしないからです。ただ、相続人毎に税額計算をするとは言うものの、実際の相続税の申告書は従来同様、通常は全員で一つの申告書に署名、捺印する形式に変更はないものと想像しています。贈与税の申告書のように、贈与を受けた人毎の申告書にはならないと予想しているのです。現在の相続税の申告書は、被相続人の住所地の税務署に相続人全員が原則一つに纏めて提出をします。それに対し贈与税は文字通り贈与を受けた人毎です。従来通りの形式を維持しないと、税務署は全体の財産を知るのが困難となり、税務調査もやりにくくなってしまうからです。その税務調査は、いずれにせよ困難を極めることにはなるでしょう。従来は被相続人の配偶者や長男が相続人を代表して調査に立ち会えば良かったのですが、今後は相続人毎となるわけで、全員の立ち会いが求められることに。果たしてそんなことができるのでしょうか。
5.他の相続人に知られずに申告ができる!現在の申告書は、何度も言うように財産全体を把握した上で相続税の総額を計算します。従って長男が財産を隠しても、税務調査で見つかればその事実は白日の下に晒され、他の相続人にも影響を与えることになるのです。そして全員で修正申告をすることになる訳です。しかし、今後は長男が財産を隠しても、誰にも知られず修正することが可能です。例えば相続人がA,B,Cの3人とします。被相続人である父親はAに大半の財産を相続させたいと思っていたとしましょう。ただ、表面上は平等原則の遺言を作ります。争いを避けてほぼ均等の相続になるようにしておくためです。恐らく申告書の形式に変更がないものと仮定すれば、一度は3人全員の署名、捺印で申告です。が、実はもう1通の遺言書があり、それには前述の平等原則の遺言書に記載されていない財産がAのために用意されていたらどうでしょう?当初の申告の直後にAは自主的にこの遺言を加えた内容の修正申告をA単独の名義で提出ができるのです。何しろ相続人毎の申告ですから。修正するのはAだけでいいのです。遺言方法にまで影響しそうな改正に、大いに注目が寄せられます。
2008年10月31日
-
5196号
路線価は上がっているけれど…
今年は例年よりひと月ほど早く路線価が公表されました。全国平均で前年比10.0%、東京圏で14.7%の上昇となっています。逆に27県では前年から下落が止まらず、地価は依然として二極化傾向です。しかし、実勢としては既に都心でも昨年の秋から下落傾向で、路線価は現時点での状況を正しく反映はしていません。その結果、現実には地価下落でこんな事が…
1. 担保価値の急落の影響土地を購入する場合、豊富な資金が有れば別ですが、通常は不足分を銀行からの借入れで補うことになります。その場合、銀行としては対象となる土地の担保価値を査定することに。東京の都心でも、前述の通り実勢価格は昨年の夏頃がピークだったと言えるのでしょうか。秋以降は下落傾向が続き、担保価値も急落しています。
そのため、融資が下りず契約に至らなかったり、契約は締結したものの融資が実行されず、手付けを流したりするケースが散見されます。
また、所有している土地を担保に賃貸物件を建築する場合、収益還元価値からは十分でも、土地の担保価値が急落の影響を受けて満額の融資が実行されない例もあるほどです。 。
2. 路線価のタイムラグ路線価は毎年1月1日の時価として、その年中の相続税や贈与税を計算する場合、土地の評価額算出に使用されます。
価格としては、路線価に先立ち3月末に公表される公示価格の概ね80%の水準に設定されることになっています。公示価格は路線価と異なり、幾つかのポイントとなる地点だけの価格算定となります。しかし、この公示価格が公表された時点で、路線価も近隣の公示価格を参考に、80%水準のルールから推測は可能になっているのです。
この公示価格も路線価と同様1月1日の時価となっていますが、それを3月末に公表するためには実際の作業はその前年中に終わらせなければなりません。つまり、調査時点と公表時点では既にタイムラグがありますが、路線価は公示価格よりさらに遅れて公表されています。このタイムラグ、地価上昇時には上昇分の反映が遅れるため、納税する側にとっては有利に働きます。しかし、地価下落時には逆に実際より高い価格で課税されることとなり、不利になってしまうのです。
3. 契約は締結しても、残金決済不能の場合さて、話は戻ります。不動産の売買には契約から代金決済まで、どうしても相応の時間が掛かってしまいます。金額が多額で大きな案件になればなるほど、測量、隣地境界の確定、抵当権の設定と解除、融資の条件等様々な事柄を解決するためには時間が必要になります。
売買契約を締結したものの、時間がかかり過ぎたため、結局融資の条件が変更され残金決済が不可能になった例がありました。前述の担保価値の急落が原因です。
このケースでは、契約締結時に売買代金の1割相当額を手付金として受領しています。買い手の事由で契約の履行ができないため、勿論この手付金の返金は不要です。売り主が個人の場合なら、一時所得として半額が課税の対象になります。累進税率で最高の50%が適用される場合でも、半額課税のため25%と考えることは可能です。しかしこのケース、売却に際しては借家人が居たため多額の立退料を支払っているのです。25%で喜んでいられるほど事態は甘くありません。
4.契約に至らない場合には…もっと深刻な例もありました。上記3.と同様に借家人がいる事案です。契約を締結すべく立退きを完了させ、いよいよ契約という段になって買い手の融資が実行不能になってしまったのです。こうなると、立退料は支払ったものの賃料収入が無くなり、新たな借家人を入れれば今度は売却そのものを諦めねばなりません。正に踏んだり蹴ったりの状況です。
これら立退料は原則として不動産所得の必要経費となりますが、売却のために生じたものは譲渡所得の経費です。売却はできず今や不動産収入もなくなって、立退料は行き先を失ってしまいました。
5.金融機関はやっぱり土地の担保価値融資には担保がつきものです。それ自体不自然なことではありません。しかし、バブル華やかなりし頃、銀行は土地さえ有ればほぼ無条件で湯水の如く、融資を行ったのです。本来融資とはその事業の内容を吟味し、収益性や確実性を総合的に勘案して実行すべきものなのではないでしょうか。
バブル当時の融資はそんなことはお構いなし。とにかく土地が有れば良かったのです。その結果、バブルが弾けて散々痛い目を見たのは銀行だったのではないのでしょうか。
が、喉元過ぎれば何とやらで、ここへ来て結局融資は土地の担保だけ。いつか来た道の再来にならないことを祈るばかりです。2008年9月30日
-
5195号
税務署には分からない、美術品の評価!
相続税を計算する場合、先ずは財産や債務の評価をすることから作業は始まります。土地ならばご存じの“路線価”が基本でしょう。では相続財産に美術品があったらどうするのでしょう。“何でも鑑定団”にでもご相談ですか?そもそも税務署はどんな対応をしてくるのか、実際の相続税調査での対応をご紹介です。
1. 事案の概要被相続人は大変な資産家であると同時に、様々なご趣味をお持ちだったようです。その一つに絵画のコレクションがあったようです。と、他人事のように申し上げるのは、申告の時点では絵画の存在は明らかではなかったからです。相続人の方々にもその認識が無く、従って絵画については全く申告をしていなかったのです。そこへ相続税の税務調査です。調査の過程で一片のメモが発見されました。某デパートの“絵画購入メモ”には十数点の作品の題名と購入金額と思しき金額の記載が。総額にして何と1億数千万円です。こうなると、税務署は鬼の首でも取ったように相続人への追求が始まります。ただ、相続人に財産隠しの意識はなく、『そう言えば数点の絵が何処かにありましたね』と言う程度です
2. 評価の原則は『時価』!さて、こんな場合、まずはその絵画の評価と言うことになりますが、実はこれが問題です。絵画の価値を知る方法の一つに『美術年鑑』と言うものがあります。税務署の主張はとりあえずこの美術年鑑、但し“参考価格”ですとのお申し出。実務的には当方で鑑定なり、それなりの権威のある方の意見書なりを添付しろとのご指示です。本来、こう言うケースでは、税務署が新たな財産を発見したのですから、この金額で課税するぞ、と言うのが筋なのですが。当初より税務署は評価額で争わないからこちらで価格の算定をせよとのご指示だったので、仕方なくそれに従いました。
3. 夢膨らむ税務署と『美術年鑑』との乖離何しろ購入価格が1億数千万円、例の美術年鑑ではそれを更に上回る価格です。税務署にとっては待望の“増差”と言う手柄に夢は大きく大きく膨らんだのでしょう。調査の論点は他にもあったのですが、この期に及んではもうこの絵画に一点集中。彼らの立場で考えればそれも無理はありません。が、しかしです。美術年鑑の価格とは保存状態が完璧で、デパートや画廊が顧客に売却する場合の参考価格なのです。所詮、所有しているだけでそれだけの財産価値が保証されるものではありません。
4.税務署にも予算が…ここで重要なことは、何故こちら側に価格の算定を要請したか、です。専門家へ鑑定を依頼する場合、当然ながらそれなりの費用が必要です。しかし、そんな費用に対する予算が税務署には全くないのです。前述の美術年鑑による価格で課税でもしたら、とても訴訟に耐えられる案件にはなりません。税務署だってそれは先刻ご承知なのです。だからこそ多少譲っても、こちら側に鑑定を要請してきたのです。
事は美術品に限ったことではありません。よくあるのは、不動産の評価を路線価によらず、鑑定評価をとって申告した場合です。その鑑定価格が妥当なものであれば格別、そうでない場合には否認する根拠がなければなりません。双方の話し合いがつかず、価格を巡る争いにでもなれば税務署も鑑定評価をすることになりますが、予算には限りがあります。総ての事案に鑑定を取ることなどできるはずもありません。
5.難しい美術品の鑑定さて、気になる鑑定価格ですが、結局のところ購入価格の1/20程度の価格水準で落ち着きました。若干ではありますが、傷やカビが散見されたことも影響したようです。もしかして、詐欺とは言わないまでも、法外な価格でデパートに売りつけられたのかも知れませんが。夢を抱かせてしまった税務署には申し訳ない結果となりましたが、美術品の実際の価値は、どうやら購入価格とはかなりの乖離があるものと覚悟しておいた方がよさそうです。美術品と言えば、かつて相続直前に純金に近い仏具を購入したお客様がいらっしゃいました。仏具は相続税法上の非課税財産だからです。結論を言えば、この手のものは非課税にはなりません。仏具という用途より、金その物の価値に着目されるからです。
6.敵ながら天晴れな税務調査!蛇足ですが、今回の調査を振り返ると、一片のメモの発見がその端緒となったのです。メモさえ見つからなければ、税務署に絵画の存在もその価値も分からなかったであろうと思うと、ちょっと悔しい気もします。調査では、くれぐれも昔のメモや手帳に要注意、と言うのが大切な教訓でしょうか。敵ながら天晴れ!もっとも、別の調査事案では居間に何気なく掛かっていた数百万円の絵画には、何のお咎めもありませんでした。堂々と申告をしていなかったにもかかわらず、です。
2008年8月29日
-
5194号
売買時の固定資産税精算の問題点
不動産の売買に際しては、契約時点で固定資産税・都市計画税の精算が行われることが一般的です。あまりに一般的過ぎて、何の疑問も感じていない方も多いのではないでしょうか。実務としては確かにそれで宜しいのですが、税務的には実は色々な問題を含んでいるのです。
1. 固定資産税の基本的な考え方先ずは原則論から。固定資産税は毎年1月1日の所有者に対し課税がなされます。従って、その後、年の途中で所有者が変更になっても、課税をする市町村に日割り計算という考え方はありません。だからと言って、実務が間違っていると言うことではありません。固定資産税の考え方は考え方、実務は実務なのです。良い悪いの問題ではなく、理屈を踏まえた上で実務を行えばいいだけの話なのです。
2. 事の発端は消費税の考え方さて、かつては税務署でも実務の日割り精算に対し、何らの課税も行っていませんでした。その意味では、固定資産税の課税の仕組みより、実務を優先していたと考えられなくもありません。
しかし、消費税の導入後、次第にこの点についての取り扱いが厳しくなってきたのです。先ずは消費税において、その精算金は譲渡代金とする旨が通達という形で明示されました。勿論、土地の売買については消費税の課税対象となりません。従って、この影響を受けるのは建物や償却資産の売買についてです。
3. 譲渡税の取り扱いにも飛び火!消費税の考え方を受けて、今度は譲渡税についても税務署は取り扱いを変更してきました。所得税でも土地や建物に係る固定資産税の精算金は売却代金の一部だと言うのです。従来は何らの課税もしていなかったのに、です。
我々実務家が業務を遂行する上で、課税当局の見解を知るための資料として、市販の質疑問答集の類があります。蛇足ながら、この手のQ&Aはかつては当局の担当者の肩書きが氏名と共に明示されていました。しかし、現在は責任回避の観点から氏名のみの記載で、肩書きは省略されています。当局としての見解ではなく、あくまで担当者個人の見解とする立場からです。それはともかくとして、現在はこれら当局本にもはっきりと精算金が課税の対象と謳われているのです。
4.譲渡税の課税対象と言えるのか?ここで譲渡税の課税対象の性格を考えてみましょう。言うまでもなく、所有期間中の値上がり益に着目して、その値上がり益分に税金をかけようとするものです。キャピタルゲイン課税などとも言われています。譲渡税の課税の対象がその値上がり益だというのであれば、固定資産税の精算はその範疇からは明らかに外れる事になるでしょう。その点を強調して、断固譲渡税課税に反対する論者もいるようです。
5.いずれにせよ、何らかの課税対象ここでは理論的な是非についての検証をするつもりはありません。ただ、仮に上記の論者の言うように、値上がり益ではないので譲渡税の課税は承服できない見解をとったとしましょう。固定資産税の基本的な考え方からは日割り計算はないのは前述の通りです。だとすれば、精算という行為自体をどの様に考えるのか、と言う問題が生じてきます。譲渡税の課税対象ではないにせよ、金銭の授受が行われているため、何らかの課税対象であることは間違いありません。理論的にはかつて何らの課税もなされていなかったこと自体に問題があるだけで、売買を契機に精算と称してお金が動いているのですから。
6.賢い実務的対応は…お断りをしておきますが、筆者は学者ではありません。また、理論的な税法論議をする立場にもありません。ただ、税理士として、実務的な対応を考えなければならない立場にはあります。結局のところ、精算金自体が何らかの課税の対象となるとすれば、所得税的には一般論としては、雑所得になるのではないでしょうか。
もしそうだとすれば、総合課税で累進税率の適用を受けることとなり、住民税との合計で最高50%の適用もあり得ます。一方、百歩譲って理論的には納得のいかない譲渡税の課税対象とすれば、分離課税で一律20%の世界です。住民税の税率は現在一律10%、所得税の累進税率は5%~40%となっています。所得によって適用税率はマチマチですが、少なくとも資産家の方にとっては譲渡税の分離課税の方がお得な場合が多いのではないのでしょうか。つまり、実務的な対応策としては、税務署の主張に乗っかって、20%の分離課税で申告する方が得策なのではないかと考えるわけです。今や、精算金について何らの課税も受けない時代ではなくなっているのですから。
税務調査についても同じ事が言えるのですが、理論や本心は別にして、税務署の主張に乗ることが得策であるならば、決して我を張らない。これが賢い実務的対応というのが弊社の考え方です。2008年7月31日
-
5193号
相続の効果はいつから?
相続が起こると、遺言がない限り速やかに財産の分割協議を始めなければなりません。この協議が整うまでは総ての財産は相続人の共有です。協議が整って初めて各相続人のものになるわけですが、その法律的な効果は単純に相続時点に遡ると考えればいいのでしょうか。常識で考える程単純にはいかない税務の問題点を探ってみました。
1. 遺産分割の効果冒頭でも述べたとおり、遺言がない限り財産を分けるには分割協議をしなければなりません。そして、この分割協議が成立すると、民法の上では遺産分割は相続開始時に遡って効力が生じることになっています。例えば平成20年4月1日に亡くなった場合を考えてみましょう。10月1日にその相続についての分割協議が整うと、各相続人はそれぞれ遡って4月1日からその財産が自分のものとなる訳です。
2. 問題はその財産から生まれる果実問題は、ちょっと難しい言葉になるのですが、その財産から生まれる“法定果実” と言われるものです。例えば賃貸ビルを相続すると、ビル自体は相続財産です。しかし、そのビルから生じる賃料は相続財産そのものではありません。この賃料のように、元物(収益を発生させる元になる物)から生じる収益のことを一般的には法定果実と言っています。つまり、相続財産自体は相続時点に遡って相続人の物になっても、その果実である賃料までをも同様に考えていいのかどうかが問題になるのです。
3. 所得税の申告は…上記1.のケースでビルの賃料についての所得税の申告を考えてみましょう。平成20年の申告にあたっては、1月1日から3月31日までは被相続人の所得、分割協議でAが相続すれば10月1日以降は間違いなくAの所得でしょう。この場合は確定申告の時期までに分割協議が整っているので、4月1日から9月30日までをAの所得に含めて申告することも一応は可能です。分割協議による相続の効果は相続開始日に遡るため、法定果実を相続財産と同様に考える立場に立てば、4月以降は総てAの所得となるのでしょう。
4.最高裁の判決は、法定果実は別扱い!かつて相続開始から分割協議までの賃料が誰のものであるかについて争った事例があります。法定果実は相続財産とは別物と考えれば、この期間の賃料は全相続人の共有財産です。従って、分割協議が行われても分割協議成立前の部分は法定相続人が法定相続分で取得できることになるわけです。結論としては、最高裁の判決は法定果実を相続財産とは別物と考える立場です。一般人の常識としては同一視してもよさそうな気もします。一審、二審とも別物とは考えていないことからも、それをうかがい知ることができるからです。
5.税務の考え方は?さて、税務の世界では一体どの様に扱っているのでしょう。上記の判決が出る前は、必ずしも態度を明確にはしていませんでした。どちらの考え方に従って申告をしても、それぞれ認められていたのが実務です。ただ、理論的には、最高裁と同じ立場だったと言っていいでしょう。
前述のケースは確定申告期限前に分割が整っていますが、もし協議が不調であれば、法定相続分で申告せざるを得ません。その場合、後日協議が整っても、所得税の世界ではやり直しを認めてはくれないのです。ことは所得税だけではありません。賃料が消費税の対象となるものであれば、消費税の考え方もこの事については全く同様なのです。
6.消費税への影響消費税も同様とはいいながら、実は消費税にはちょっと厄介な問題があるのです。所得税と異なり、消費税には基準期間というものがあるためです。一般論で言えば、消費税の課税の対象となる2年前の年分の売上げが1,000万円以下である場合、消費税の納税義務は生じません。この2年前の年分のことを基準期間と言いますが、相続の時はこの基準期間の売上げをどう考えるかによって相違が生じてきます。再び上記1.のケースで考えてみましょう。相続人が従来は消費税とは無縁で、相続したために消費税の課税の有無が問題となる場合です。具体的には平成20年から2年経過し、基準期間となる20年をどの様に考えるのかと言うことです。理論的には分割協議と無関係に、4月~9月までの期間は法定相続分で考えます。ビル本体を相続したAの場合には、課税の対象となっても、そのビル自体に相応の収入があるのなら当然と言えば当然の課税。問題は金額的には僅かではあっても、法定相続分を考慮することで1,000万円を僅かに超えてしまう場合の相続人です。税務署がその点まで本当にチェックしているかどうかは甚だ疑問です。前述の通り、実務では必ずしも法定相続分でやっていないものを放置しているのが実状です。果たして今後、実務の取り扱いは厳格になっていくのでしょうか?
2008年6月30日
-
5192号
『贈与』がバレる時!
生前に少しでも子供に財産を渡しておきたいと思うのは親心。残せば相続税、それを避けて生前ならば贈与税が待っています。分かってはいるものの、それでも元気な内に贈与したらどうなるか。贈与税実務の実態に迫ってみました。
1. 税務署も総ての贈与は把握できない!通常の贈与税には、年間110万円の基礎控除があることはご存じの方も多いでしょう。この金額の範囲内なら、税務署にとやかく言われることもなく、無税で贈与が可能です。問題はこれに収まり切らない場合です。相続時精算課税制度もありますが、ここではひとまず通常の贈与に限定して議論を進めましょう。当たり前ですが、総ての贈与を税務署が把握できるはずはありません。スピード違反が総て検挙されないのと同じです。ではどんな贈与に注意をすればよいのでしょうか?
2. 最もポピュラーなのは 登記の異動何と言っても最も分かり易いのは不動産の動きでしょう。売っても買っても不動産には登記がつきものだからです。登記の異動を基に、売れば譲渡税の申告書が送付され、買えば不動産の取得についてのお尋ねの書面が来ることに。後者では購入資金の出所が問われます。購入者の所得や財産状況から購入資金の原資についての疑念があれば、贈与を想定するのが税務職員の習性と言うものです。とにもかくにも、税務署と登記所はグルであることを肝に銘じておきましょう。彼らは仲の良いお友達、情報は筒抜けなのです。
3. 貴金属等の高額な買い物にも要注意!不動産ばかりではありません。デパートや宝石商、田中貴金属等の高額商品を扱う店も注意が必要です。と言うのは、税務署は時折これらの店に出向き、優良な顧客の洗い出しをし、リストを作成するからです。業界用語で“資料箋”と言いますが、高額商品の購入顧客の住所や名前を確認し、相続や贈与の調査の際の参考資料とするのです。店頭で現金で購入すれば別ですが、外商や得意先係からも顧客情報は確実に把握されることに。
4.贈与税の調査はあるのか?相続税も贈与税も、言うまでもなく申告納税方式です。つまり、納税者自らがその金額を計算して申告、納税する方式です。税務署は提出された申告書の内容を検討して、疑念があれば実地に調査をし、疑念がなければそれを“調査省略”として特段の行動はしないのです。これは所得税も法人税も基本的にはみな同じです。
しかし、贈与税については申告後に具体的な調査期間を決めた上での実地の調査はまずありません。勿論、税法条文の適用誤りや計算ミスがあれば指摘を受けます。それよりはむしろ、前述の登記情報や資産の異動資料から、税務署として把握しているものだけを重視し、確認する方法が採用されています。だからと言って、安心はできません。後で辻褄合せはキチッとするのが税務署です。
5.面白いのは“社会通念”ここでちょっと目先を変えたお話です。扶養義務者から生活費や教育費として贈与を受けた財産で、通常必要と認められるものは贈与税も非課税です。一般論としては入学金等の学資や生活用具ですが、“通常必要”かどうかの判定は実務的には難しいものがあります。言うまでもなく、地方からの上京に際し、子供を所有者として通学に便利なマンションを購入しても、流石にこれは非課税扱いにはなりません。ただ、通常必要かどうかは、『被扶養者の需要と扶養者の資力、その他一切の事情を勘案して、社会通念上適当と認められる範囲』で判断することになっています。つまり、お金持ちと貧乏人ではその範囲は自ずと異なることになるのです。
6.相続税の調査では預金の動きは徹底チェック生前に贈与をし、仮にその時点では贈与税の課税を免れたとしても、相続税の調査では意外な結末が待っていることもあります。と言うのは、相続税の調査では、被相続人や相続人の預金の動きは必ずチェックされるからです。特に大きな金額の使途は間違いなく税務署からの質問の対象に。現金で引き出しがなされただけならまだしも、相続人の口座へ振り替えられていたり、特定の資産の購入代金に充てられていたりした場合が問題です。当時贈与があり、現時点では贈与税の課税も7年経過で時効だと主張しても、贈与自体を立証できないこともあります。贈与はあくまで当事者双方であげました、貰いましたが前提だからです。一方的な行為は贈与にならず、前述4との辻褄合せもあって簡単には贈与を認めません。相続財産に加算することを強要する事が多いのです。
7.結局は『社会通念』次第?結局のところ、通常は不動産や高額品の取得以外、贈与の事実がその時点で明るみにでることは少ないとは言えるでしょう。但し、上記6のように、相続時には徹底チェックされる事を忘れてはいけません。あとは『社会通念』をどう考えるかですが、課税の対象と知っていながら実行するのは、文字通り確信犯。くれぐれも適正な納税を!
2008年5月30日
-
5191号
還付金請求すると、即調査?
税金を納めるお役所が税務署です。しかし、必要以上に納めた場合、当然のことですが還付されることに。理屈はただそれだけのことですが、還付についての実状はなかなか厳しいものが。還付金の請求をすると、税務調査を呼び込む事が多いというお話の御紹介です。
1.還付でお馴染みは医療費控除?還付と言えば、お馴染みは医療費控除でしょうか。サラリーマンの場合、毎月の給料から受給時に源泉の形で所得税が控除されています。そこでは医療費の負担は考慮されていません。そのため、実際に医療費があれば、確定申告で控除対象額を明示することにより、税金が還付される仕組みになっています。その他には年の中途で納めた予定納税の額が、最終税額より多過ぎればこれも当然還付されます。これらはいずれも税務署にとって、既に納められた税額の訂正で、それ程抵抗なく還付の手続きが期待できるものなのです。
2.消費税の基本的な考え方ちょっと毛色の違うのが消費税です。消費税の納税の原則は、売上等でお客様から預かった消費税と、諸経費等の支払いでご自身が負担した消費税の差額です。申告に際し両者を比較して、前者が多ければ納税に、逆に後者が多ければ還付になる訳です。他の税目と違うのは、消費税の納税義務があるかないかの判定を、基準期間といわれる期間の課税対象の売上額で決めるところでしょう。この基準期間、通常は2年又は2事業年度前の事を言い、この売上げが1,000万円以下であれば、免税事業者となって消費税の申告義務は負わないのです。
3.消費税還付の典型例さて、消費税が還付される典型的な例は建物を建築や購入した場合です。アパート等の居住用でない賃貸建物を建築したとします。店舗や倉庫のように、その賃貸料の性格が消費税の課税の対象となる建物が前提です。前述のように消費税はその賃料と支払った諸経費等の多寡を比較して申告をすることに。建物を建築した年は、通常の年と違いその建物に係る多額の消費税を支払っているでしょう。つまり、こういう年には消費税が還付になることが多いのです。しかし、初めて賃貸業を開始する場合や2年前には課税対象の売上が1,000万円以下であれば、免税事業者となってしまうため、還付の対象自体が発生せず、申告書を提出する必要がありません。
4.工夫すれば 還付もあり得る消費税そこで事前の工夫が必要になります。まず、建物を購入や建築をする年・事業年度の開始前に、敢えて『課税事業者』になる旨の届け出をしておくのです。この手続きで申告する義務が生じ、還付を受ける権利が発生するのです。しかし、その後2年(事業年度)は申告を続けなければならず、納税になる年もあることに注意が必要です。
5.還付の申告書が提出されると…税務署は建物の建築や購入による消費税の還付については異常なほどの注意を払っています。と言うのも、これらの場合には還付する税額が比較的大きな金額になるからでしょう。消費税の課税の対象となる範囲、その事実、計算の適否等々を実地の調査という形で確認するのです。通常、消費税については所得税や法人税の調査の際、いわば“付録”的に調査が行われる事が多いのが実状です。しかし、還付の場合には消費税単独で調査を行う場合もあるくらいです。それだけ消費税の扱いについて神経質というか、疑ってかかるのです。消費税が納付の場合には、消費税単独の調査はまず行われないのに、です。
6.還付の申告はやっぱり狙われる!いわゆる同族の管理会社については、管理の実態を鋭く追求されます。多くはペーパーカンパニーで管理とは名ばかり、何もやっていない事が多いからです。そこで、ATOでは管理ではなく建物自体を法人に所有させる方法を従前からお勧めしてきました。帳簿価格によって税負担なしで個人から法人に移行させるのです。先日もこの移行時に前述の消費税の還付を請求したのですが、案の定、調査を受けることに。しかも、消費税の単独調査です。この管理会社、私共がお手伝いをする前は、個人オーナーから一括で賃借し、それを外部に転貸していました。従って、法人としては賃貸収入と支払い家賃の両建ての経理になっていた訳です。
しかし、何故か賃貸借契約書の形態は個人から直接外部に賃貸の形式になっていたのです。税務署の指摘は契約当事者が法人となっていないため、賃貸収入を法人が計上することはおかしい。法人の行為は単なる管理に過ぎないとの指摘です。つまり、賃貸収入と支払い家賃との差額だけが実質的に法人の管理収入との理屈ですが、これでは課税売上額が1,000万円以下で免税事業者。つまり還付は受けられない結果になってしまうのです。結論として以前の税理士の経理処理を認めて貰う交渉に成功しました。が、とにもかくにも消費税の還付の請求は税務署を呼び込むことを覚悟して、厳正な処理・手続きを肝に銘じておきましょう。2008年4月30日