お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
年度:
タイトル:
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5178号
買換え特例は延長されたが…
本年度税制改正で、事業用資産の買換え特例のうち、最も利用しやすいものの適用期限が延長されています。再度の期限延長は"絶対"にないと言われていた項目です。世の中に"絶対"は絶対に無いのでしょう。直前になって急転直下の変更です。税制は正しく政治の力でいかようにもなる生き物であることを再認識させられましたが、こんな問題も含んでいます。
1.制度の概要例えば、賃貸マンションを売却したら、言うまでもなく、譲渡税の対象です。損失ならばいざ知らず、利益が出れば、次の算式で売却益を計算することになります。
売却額-(取得費+譲渡経費)=譲渡益(売却益)
通常はこの売却益に税率を乗じて税額を算出するのですが、買換えを適用する場合は計算方法が全く異なります。法人については利益を圧縮するという表現をしますが、要は税務上相当額の利益をなかったものにしてくれ、最大で原則の1/5の税負担で済むというのがこの制度の特徴です。
その条件は、国内にある10年超所有の土地や建物等を売却して、国内にある土地や建物等を購入するという、いたって利用がしやすいもの。
これが本来は昨年の年末で終了予定だったのが、更に2年延長され、平成20年の年末まで延長されることになったのです。
2.事業用資産の買換え特例を適用すると…先程、利益がない事にすると言いましたが、未来永劫課税がないわけではなく、とりあえず、売却時点での税負担が少ないという代物です。課税の繰り延べという言い方をするのですが、一定の時点まで課税を待ってくれる制度なのです。そうは言っても、とにもかくにも売却時点での税金が安くなるわけで一見魅力的な制度です。
さて、この事業用資産の買換えで特例を適用すると、実はちょっとややこしい話が待っています。それは取得費、平たく言えば原価の問題です。例えば、1,000万円で買った土地Aが1億円で売却できれば差引き9,000万円が利益。その1億円で土地Bを買った場合、普通は9,000万円に課税がされた上で、1億円がBの原価となるはずです。
しかし、この特例を適用した場合、課税も少なくなるものの、土地Bの原価は1億円にはならないのです。計算過程は省略しますが、土地Aの時代の金額を引きずって、2,800万円にしかなりません。そのまま土地Bを持ち続けるなら問題は特にありませんが、再度Bを1億円で売却すると、今度は原価が1億円ではなく2,800万円のため、7,200万円が課税の対象です。つまりこの時点で前回課税されなかった部分にまで税金がかかる仕組みなのです。
3.建物の場合は問題が直ぐに顕在化上記は土地の例でしたが、これが建物の場合、売却をしなくても直ぐに税金の影響が生じてきます。何故なら、建物は土地と異なり毎年減価償却をするからです。買換えの対象を土地Bではなく建物Bにした場合その減価償却の基になる金額は、土地の場合と同様2,800万円、実際の建築価額が1億円でも、です。つまり、毎年の経費となる減価償却費が少ない分、利益が多く算出されることになってしまうのです。
個人の場合、課税される所得金額が1,800万円を超えると、最高税率の50%の世界に入ってしまいます。一方、税務上の買換え特例を適用せず、通常の長期の譲渡税率なら20%です。所得の多い方については、建物への買換えは売却時点での譲渡税は少ないものの、直ぐに50%での課税が毎年待っていることになるのです。一方、特例を適用しなければ、売却時の税負担はあるものの、20%で完結し後腐れはありません。くどいようですが、この特例は課税が免除されるわけではなく、繰り延べられるだけなのです。
4.買換え時の資金ショートの問題点もう一つの問題は資金繰りの問題です。先程、特例を適用すると最大で原則の1/5の税負担で済むと言いましたが、これは1億円で土地Aを売却して1億円以上で土地Bを購入した場合です。土地Bが1億円以下である場合には、買換えをしていない部分が生じるため、税負担はその時点で原則に近い金額になってしまうのです。これを避けようとして1億円以上の土地を購入した場合の資金繰りはどうなるでしょう。例えば買換え資産の土地Bが1億円でも、売却金額だけでは購入に十分な資金が手許に残らないのです。土地Aの取得価額が不明で売却額の5%と仮定した場合、税負担が380万円、その他に土地Bに係る登録免許税、不動産取得税等々1,000万円前後の資金が必要になります。これを売却資金以外から用立てなければなりません。
一見お得な買換え特例ではありますが、その後の税負担と資金繰りを考えると、手放しで喜べる制度の延長ではないかも知れません。2007年3月30日
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5177号
成年後見人
成年後見人の制度をご存じでしょうか。お年を召され、或いは認知症等のために、判断能力が不十分な方を法的に保護し支えるための制度です。社会的には確かに必要な制度ではありますが、資産家の方々には要注意。結論としては、やむを得ない場合を除き、利用しない方が無難な場合も多いようです。
1.成年後見制度の概要具体的な手続きとしては、先ず家庭裁判所に対して、成年後見人の申請をします。家裁はその申請に基づいて成年後見人を選任しますが、実はその選任が問題なのです。詳細は後述しますが、申請者の期待通りの人物にはならない事もあるからです。それはともかく、選任された成年後見人は、被後見人の①財産の管理②身上監護(こんな言葉があるのだそうです)をして③その結果を家裁に報告する事が要求されます。被後見人を保護し、助けることが目的ですので、被後見人にとって不利になる行為は一切できないことになっています。それを家裁が報告を通じて監督し、不適切な行為があれば解任できる仕組みです。
2.本人確認がネックに!底地を多数お持ちの、ある地主さんの事例です。高齢でもあり、将来の相続も考え底地の整理を進めていらっしゃいました。底地の売却や逆に借地権の買取り、更には物納の準備と作業は山盛りです。その中で底地を譲って欲しいという話がいくつか出てきたのです。ところがご本人は認知症が進んでいて、とても自らの意思で売買の判断などできる状況ではありません。以前はこんな場合でも、親族の方が代理で売買してしまうこともよくあったのですが、昨今はそれ程簡単ではありません。登記に際し司法書士に本人確認が義務付けられており、本人の意思でない売買には協力を得られないためです。登記と無関係の不動産売買は考えられません。司法書士の協力は必須なのです。
3.後見人に財産の処分は原則できないそこで成年後見制度の活用を検討したのです。身近にいらっしゃる奥様が適任とは衆目の一致するところ。ところが、家裁に対し奥様を後見人として申請したところ、意外な回答だったのです。身上監護については奥様が後見人で問題はないのですが、財産の管理についてまでは奥様にその権限を与えてくれなかったのです。法律行為であるため弁護士を選任するというのです。それも当方の申請する弁護士ではなく、あくまでも家裁独自で選任する弁護士です。つまり、こちらの意向に沿わない弁護士の可能性も大いにあり得ることに。更に言えば、そもそも被後見人の財産の処分を、後見人は原則として行わないのだそうです。居住用の財産の処分については家裁の許可が必要ですが、それ以外の財産であっても、後見人の同意は得られないのが実態のようです。無理をして強行突破を試みても、奥様が後見人を解任されては元も子もない話、結局、選任の申請を取り下げることになったのです。
4.財産が多額な場合の後見人制度発足当時は財産管理を含めて、配偶者が後見人に選任されることは珍しくはなかったそうです。しかし、財産がある程度以上ある場合、相続人がこの制度を悪用するケースが頻発したため、財産管理については家裁が公募した弁護士の中から選任するようになったとか。但し家裁やその支部、出張所によっても取扱いは様々なようですが、東京・霞ヶ関は間違いなく厳しい対応です。それはともかく、結果として、将来の相続のためにと思っても、奥様が被後見人の財産を売却は勿論、贈与も貸付もできないことになっています。後見人に選任された以上、身内ではあってもあくまで『他人の財産』といった意識で被後見人の財産を管理する必要があるわけです。しかし、財産の処分に厳し過ぎる制約が課されると、相続のための準備は何もできなくなってしまいます。
5.駐車場をやめて所有型法人の建物建設こんな事例もありました。既に一人息子のご長男と弁護士が二人で後見人の選任を受けておられるケースです。従前は青空駐車場として活用していたのですが、場所柄、駐車場ではもったいないと、賃貸住宅の建築計画が持ち上がりました。このケースではどれ程賃貸住宅の利回りが確保できても、被後見人の名義で賃貸住宅の建設は認められません。賃貸住宅の建設は評価の面でも相続税対策になるのですが、それもできないのです。そこで息子さんの法人が土地を借り受け、法人名義で建物を建築です。これも後見する上での不動産の処分に該当するのですが、本人の居住用ではないため家裁の許可は不要です。結局、法人が被後見人に支払う地代を従前の駐車場以上にすることで、弁護士である後見人の了解を取り付けることができました。被後見人を保護するための制度ではありますが、ひとたび後見人が選任されると財産の処分も活用も一切のことに制限が加わります。活用に当たっては、相続対策などできなくなることを念頭に置いて、十分な検討が必要です。
2007年2月28日
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5176号
不動産取得税の功罪
不動産を売却したとき、最も気になるのはいわゆる譲渡税です。逆に購入したとき忘れてならないのが本日のテーマである不動産取得税ですが、譲渡税ほどには一般には負担が重くないので軽視しがちです。
しかし、その対象が大きな建物である場合、この負担があると無いとは天地の差。土地の固定資産税にまで影響を及ぼすことにもなるからです。
前号に引き続き、今回も地味ながら地方税シリーズで迫ってみました。
1.不動産取得の意義不動産取得税は、個人・法人を問わず文字通り土地や建物の不動産を取得したときに課税される税金です。その取得が有償か無償かに関係なく、原因も売買・交換・贈与・寄付等どんなものでも課税の対象となります。但し、相続で取得した場合にはその対象から外れます。
問題はいつを以て不動産の取得とされるかです。
教科書的に言えば、"契約内容その他から総合的に判断して、現実に所有権を取得したと認められるとき"となるでしょうか。ここで売買の場合の移転登記の有無は全く関係がありません。登記は無関係というものの、実は建物の取得の時期をめぐって問題になった事例があり、これについての詳細は後述することにします。
なお、建築業者が建築した建物については、基本的には課税はありません。しかし、6ケ月以内に他に売却できないときに限って課税されることになっています。
2.建築途中の不動産売買上述の問題の事例です。都心の一等地をお持ちのお客様が1階を店舗、2階以上を賃貸マンションとする建物の建築をしておられました。当初は収益物件として賃貸収入を期待なさっていたのですが、竣工後には高額な売却価格が見込めることが判明。ご自身での賃貸経営よりも売却して換金化する方向に計画を変更なさったのです。
いわゆる投資家にとって、この物件は場所柄や収益性から見て垂涎の的、程なく買い手も見つかりました。と、そこまでは良かったのですが、事後に思わぬ問題が生じてしまったのです。
3.表示登記が引き渡しと認定!その問題とは不動産取得税です。お客様としては完成前に売却をしたつもりであるため、当然の事ながら建物の不動産取得税など、自分には関係のないこと、買い手が負担するものだと思っておられたのです。時系列に沿って整理してみましょう。売買契約を平成17年11月に締結、18年1月上旬に完成引き渡しの予定でした。ところが買い主側の要望で、借り入れの都合上、建物の存在が明示されなければならないとのこと。急遽17年12月末に表示登記(『用語の解説』参照)を売り主であるお客様名でする事になったのです。
この時点ではまだ引き渡しはなされていないため、建物は売り主のものです。
さて、不動産取得税を課税する東京都はこの表示登記に着目をしました。登記とは本来万人に義務付けられているものではありません。自分の権利を保護しようとする人がやればいいものです。
しかし、建物が竣工した場合、建物の存在を明示する表示登記だけは、一ケ月以内にしなければならないことになっています。表示登記がなされたと言うことは、逆に言えば建物が竣工したことを自ら証明した事にもなるのです。
4.不動産取得税の課税は必ずしも災難ならず!さて、買い主の融資への協力のための表示登記で、売り主は不動産取得税の課税を受けることになってしまいました。税額的にも結構な負担です。
しかし、悪いことばかりではありません。このことが土地の固定資産税にも影響を与えることになったのです。この建物、1階こそ店舗ですが、2階以上は総てマンションのため、敷地は大半が住宅用地と位置づけられます。実は店舗や工場、オフィス等のような建物の敷地と異なり、住宅用地には固定資産税の課税上大きな特例が用意されているのです。これは小規模住宅用地の特例と言い、その土地の上に住宅があることが前提なのです。
具体的には、200㎡以下の部分について、土地の固定資産税の税額が1/6に、200㎡超の部分は1/3に減額されるというもの。マンション等の集合住宅については200㎡の戸数倍までの面積の土地がその対象となりますが、建物の床面積の10倍が限度です。都市計画税にも類似の制度があり、この特例の適否は両税合計で相当額の影響を与えることになります。これらの判定時期は1月1日。
つまり年末に表示登記をしたため、引き渡しまでの1月分だけではありますが、土地の固定資産税が約1/6と大幅な減額となったのです。
建物の不動産取得税の負担はありましたが、冷静になってトータルで考えたとき、それ程の負担増にはなっていなかったのです。更に買い主に感謝されたことは言うまでもありません。人間万事塞翁が馬、と言う言葉もありますが、建物の竣工、引き渡しは十分な注意の上にも注意が必要です。2007年1月31日
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5175号
自治体も本気、償却資産税の課税強化
『償却資産税』と言うのをご存じでしょうか?
正確には固定資産税なのですが、固定資産税は土地や建物だけではありません。個人でも法人でも、一定の設備や備品にまで固定資産税が課税されるのです。ただ、従来は個人にはお目こぼしも多く、実態としてはあまり課税もされていませんでした。
が、ここへ来て自治体も税収確保のため本気です。あちこちで根こそぎ過年分を含めて課税をしているようで、今後は対策が必要かも知れません。
1.課税がなされるまでの手順まず、償却資産税が課税されるまでの手順をお話しましょう。各市町村に対し、1月1日現在で所有する一定の設備や備品の一覧と取得価額等を記載した申告書を1月末日までに提出します。
すると市町村は内容を吟味し、定率法による減価償却で未償却残高を計算。その合計額が150万円を超える場合、そのまま1.4%の税率を乗じて課税することになっています。課税する側が金額を決め、税額を通知する賦課課税方式と言われる課税の方法です。
2.課税の対象となる財産計算自体は決して難しいものではありません。問題はどんな財産に課税されるのか、判断に迷うことも多いのです。一言で言えば、“土地、建物以外の事業の用に供する資産”となります。パソコン、コピー機、エアコン、応接セット等がまずあげられるでしょう。不動産貸付業ならフェンスや外灯、ゴミ置き場、アスファルト舗装や機械式の駐車設備も含まれます。これらは比較的分かりやすい対象物ですが、建物の電気設備や給排水設備、空調設備は問題です。原則として償却資産から外れるものの、細部は市町村により取り扱いはマチマチです。実務的にはその峻別にはかなりの困難性を伴います。
3.市町村はどうやって課税対象を把握する?ここで素朴な疑問が生じます。市町村に対し、その手の財産はありません、と言う申告をしたら課税をされないで済むのでしょうか?税務署と異なり、市町村の税務調査はあまり聞かないし、仮に調査に来ても税務署ほど恐くないような気もします。しかし、結論から言えば、世の中はそれ程甘くありません。市町村だってちゃんと事実を把握しているのです。何故なら市町村と税務署はグルになっているからです。おっと、これは言葉が過ぎました。双方は協力体制を敷いているからなのです。
減価償却と言うのをご存じでしょうか。例えば建物を取得、建築して3,000万円かかったとします。建築業者に払ったこの3,000万円は直ぐに全額が経費になるわけではありません。建物としての機能は何十年にも及ぶことから、法律で定められた耐用年数に従い、長期間に亘って経費にしていく手続きです。税務署に対してはこの計算の明細を添付して経費を認めて貰うのです。
実はこの減価償却の明細が市町村の手に渡るカラクリになっていて、これから償却資産の内容が市町村にバレてしまうのです。冒頭に述べたように、従来市町村は特に個人分は力を入れていなかったのが、ここへ来て大変な力の入れようです。
4.減価償却の工夫がアダ?さて、この減価償却ですが、例えば建物を新築、取得した場合、税理士としてはなるべく早期に費用化する工夫をします。まずは建物本体と給排水設備、電気設備等の各種設備を別々の資産に区分計上するのです。建物本体よりこれらの設備は耐用年数が短く、本体に含めて計算するより初期段階の費用が多額に計上できるからです。また、減価償却の方法も本体は定額法が義務づけられていますが、設備ならこれより早期に償却できる定率法という方法が選択、採用できるのです。
しかし、前述のようにこれらは市町村により取り扱いが異なるため、必要以上に償却資産の詳細を明示すると思わぬ課税が待っていることになってしまうのです。もし、建物や付属設備に含めて計上していたら、どうなるのでしょう?固定資産税として既に課税されていることになり、償却資産税の課税は免れてしまうのです。但し費用化される時期が若干遅くなるデメリットは覚悟しなければなりません。勿論、市町村が建物や付属設備の内容まで調査すれば、課税対象の償却資産の内容は明らかになりますが、現状そこまでの状況にはありません。つまり、税理士の工夫が結果としてアダ(?)になっていることにもなる訳です。
5.市町村によって異なる対応に問題!実態としてこの償却資産税、力の入れ具合や把握状況も市町村によって相当違いが見られます。また、特に個人に対しては課税洩れが多いのも事実です。と言うより、少し前までは法人に対しても申告がなければそれ以上の追求をせず、みすみす課税のチャンスを逃していたのです。それが昨今は自治体の台所事情の悪化で、特に都市部では一転課税の強化に乗り出した、と言うのが実状のようです。狙われれば過去に遡って一網打尽、税務署の他にも恐い存在が一つ増えたようです。
2006年12月27日
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5174号
税務上の“妻の座”の価値
配偶者と内縁の妻或いは愛人という立場は、似ている部分もありますが、法律上は厳然たる相違があります。税務についても然りで、今回はその“妻の座”をどの程度の期間守り抜くとどれだけの価値があるものかを検証してみました。
1.民法上は1日でも妻になれば安泰!税務の話の前に、先ずは民法上のおさらいです。
実態での判断の部分も無いわけではありませんが、こと相続については戸籍上の“入籍”が法的な保護を受けるための絶対条件です。逆に言えばわずか1日でも入籍していれば、その後直ぐに夫と死別した場合でも、妻の立場が主張でき法定相続分をゲットできるのです。
先般もこんな事例がありました。奥様が長年病床に伏しておられ、その間に飲み屋の女将と男女の仲になった男性の話です。この女将、ちょっと質が悪かったようで、奥様が亡くなるやいなや同居を始め入籍をせまったそうです。そうはさせじと長男は本人に成り代わって『婚姻届不受理の申し出』で防戦にでました。この届け、要は文字通り婚姻届を受理させず、入籍を防ぐための制度なのです。しかし、女の執念は凄まじいもの、市の職員に本人の意思でないことを説明の上男性を説得。長男が提出した届けを取り下げさせ、見事に後妻の座を獲得したのです。言うまでもなく、この男性には相当額の不動産があり、財産目当てであることは明々白々。げに恐ろしきは女性なり!気をつけよう、暗い夜道と何とやら。
2.身近な所得税の配偶者控除からさて、税務に目を転じて身近な所から見てみましょう。所得税には配偶者控除の制度が設けられています。適用の有無は配偶者の所得金額だけが問題で、年間38万円以下であれば、一般の配偶者で38万円が本人の所得金額から控除される制度です。これは配偶者である期間に制限はなく、12月31日(年の中途で死亡している場合は死亡日)の現況で判断されます。但し、配偶者であるか否かは実質判断ではなく、入籍だけがその条件で、とにかく年末に入籍さえ済んでいればOK。逆に言えば、別居状態でも籍さえ抜いていなければ適用を受けられることに。
3.贈与税は20年“我慢”をした人だけに!それに比べて条件が厳しいのは、贈与税の配偶者控除でしょう。何しろ入籍している婚姻期間が20年と言うのがこの制度の条件です。但し見返りも大きく、居住用の不動産2,000万円の贈与が非課税なのです。基礎控除110万円と合計すれば、2,110万円分が税負担無しで配偶者に移転できる訳で、それを考えれば20年は仕方がない条件かも知れません。もっとも古亭主に20年耐えた結果のご褒美が2,000万円、これが高いか安いかは各自のご判断にお任せしますが…。
なお、この制度も問われるのは戸籍上の婚姻期間だけで、夫婦仲は問われません。従って、贈与を受ける側の配偶者が贈与を受けた不動産に居住してさえいれば条件を満たすわけで、実質が別居である不仲の夫婦にも適用はあるのです。
老婆心ながらこの制度を活用する際のご注意を一つ。合計で2,110万円が非課税の枠ですが、金額は些少でも必ず土地だけでなく、建物部分も入れておきましょう。と言うのは、建物部分が含まれていれば、将来この不動産を売却することになった場合、居住用の3,000万円控除や場合によっては特例の低税率が適用できるからです。これら居住用の特例は、基本的に建物についての特例であるため、実態は土地の売却益であっても建物が存在しないとそれらの恩典が受けられないためなのです。離婚をして売却、換金化することをお考えの方には必須の知識です!
4.相続税は民法と同様一日でも妻の座を確保ここでもう一度、冒頭の飲み屋の女将に戻りましょう。相続税にもご存じの配偶者の税額軽減制度が用意されています。法定相続分又は1億6,000万円のいずれか多い方の金額までは相続税がかからない優遇策です。これについても入籍が条件ですが婚姻期間は問われません。従って、前述の女将は男性にいつ万一のことがあっても、無税で少なくとも半分の財産を手にすることができるのです。これって何だか世の中の常識には合わない気がするのですが、画一的な処理を要求する法律上は避けられないことなのでしょうか?
しかし、一方で税法はとんでもない規定を用意しています。例えば同族会社の判定の際に適用される、同族関係者の定義として次のようなものがあります。
①株主等の親族、はいいとして②株主等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者、と。つまり内縁の妻や愛人です。内縁の妻や愛人かどうかの確認のため、税務署が興信所まがいの尾行や探偵でもやるのでしょうか。税金を召し上げる場合はこの手の規定を作るのです。それはともかく、いずれにせよ男女の仲は入籍してナンボと言うのが法律の世界、税法の特典と考えた方が無難なようです。2006年11月30日
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5173号
税務調査の是認と省略
税務署からの『是認通知』なるものをご存じでしょうか? 税務調査の結果、特段の申告漏れや処理上の誤り(これを「非違」と言います)がない場合、申告内容が適正であったことを書面で通知するものです。ところがこの書面、来る場合も来ない場合もあるのです。その訳は税務署にもこんな裏事情があって……
1.税務調査の是認通知とはこう言うもの先ずは是認通知の内容をご説明しましょう。正式なタイトルは「調査結果についてのお知らせ」です。次のような文言が記載されています。
《さて、あなた(貴社)の○○税について、調査を実施いたしましたところ、現在までの調査の結果によると、問題とすべき事項はなく、適正な申告と認められましたので、お知らせします。なお、今後とも適正な申告と納税にご協力をお願いします。》と、いたって簡単なものです。但し、税務署は用心深いところがあって、欄外にこんな記載の捨てゼリフと言うか負け惜しみを忘れていません。【本文書は、現在までの調査の結果を通知するものであって、再調査によって是正することもあり得ます。】
つまり、“今回の調査では残念ながら非違を発見できなかったけれど、それは税務署も限られた時間内で結論を出す必要があったためである。あくまでも現時点で非違が発見できていないだけで、将来に亘って適正であることを保証するものではない。スキあらば、いつか必ずしっぽを捕まえてやるぞ”と言いたいのです。
2.非違なしは必ずしも是認にあらず調査で非違がないと言うことは、修正申告を提出する必要もなく、また更正される心配もないと言うことです。それなら、非違がなければ必ず上記の是認通知が来るのでしょうか。結論を言えば、いつも是認通知が来るわけではありません。税務署的には両者はイコールの関係にはないのです。一体どういうことなのでしょう?
調査をする場合、相続税・所得税等の税目に関係なく、調査官としては必ず“成果”が期待されています。大の男が時間を使って調査にきたのです。仕事をした証が必要であることは言うまでもありません。調査官を営業マンと考えればお分かりになると思います。非違を発見し追加の税金を課税して、初めて男になれるのです(この頃は女性の調査官も増えましたが)。できれば大きな非違を発見し、手柄にしたいところです。この非違の額を増差(増減差額のこと)と言いますが、増差が大きければ大きい程お手柄なのです。
それはいいとして、調査をした場合、その結果について報告書を作成しなければなりません。報告書にはその調査に要した日数と経過、最終的な増差が記載されますが、その日数がミソなのです。
3.報告書は真実を語らない!調査に要していい日数は、事案の規模や内容により概ね決められています。ここで日数とは実際に現場に臨場した日数のみならず、準備や取引先等への反面調査、報告書作成に要する日々等の合計です。決して十分な余裕などありません。増差をノルマとして課することは無理ですが、年間の調査件数は決められています。件数はどうしてもこなさなければならず、調査官も忙しいのです。はっきり言えば、調査官は日数との勝負なのです。そして当たり前のことですが、日数を掛ければ増差がでるわけではなく、両者には相関関係は無いのです。しかし、現実問題として、10日も20日も日数を要して、増差がわずか20万円では洒落にもなりません。
そこで実務ではどうするか? 日数を適当に割り振るのです。増差の多い事案に実際以上の日数を乗せ、少ない事案の日数を削るのです。増差が多ければ多少日数が多くても見栄えは悪くはないし、上司の通りもいいからです。
4.是認が続けば省略という手も…さて、そうは言ってもさすがに是認は上司に報告しにくいもの。特にそれが続いたときなど、調査官としての自信も失ってしまいます。で、こんな時はそもそも調査をやらなかったことにする手があります。それが"調査省略"と言う方法で、調査をしなかったのだから報告もいらないと言うことになる訳です。この場合、納税者である調査の対象者に対しては、最後まで疑問点、問題点がある事を強調。しかし、税額の是正までは必要としない指導に留める旨の説明をします。問題が無い訳ではないので是認通知は出ないのです。何とも姑息な手段ですが、納税する側からすればお咎め無しで調査が終了し、めでたしめでたしです。
調査が終了し、是認通知が出ない旨を調査官が説明するときには、筆者は決して深くは追求しません。それが男の優しさ、武士の情けだと、調査経験者である筆者は考えています。2006年10月31日
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5172号
相続税増税の行方
毎年12月になると翌年度の税制改正の内容が公表され話題になりますが、今年は早々と増税論議が喧しい様相を呈しています。中でも消費税と相続税はあたかも増税は既定の路線のようで、一体どんな形での増税になるのでしょうか。まだ時間のある消費税はさておき、今回は相続税に注目し、どんな形の増税になるのかを探ってみました。
1.相続税課税の現状と増税の方向性相続税の対象となる方は、現状では概ね亡くなった方100人に5人の割合と言われています。つまり大半の95人は相続税の対象となっていないことになる訳です。極々限られた一部の富裕層のみが対象のため、増税の方向性としては、課税対象人員を増やし、今の5人を10人にも20人にもしていこうと言うものなのです。
それでは現時点で既に相続税の対象となっている方には増税の影響はないのでしょうか。結論から言えば、影響は必至です。単に課税対象の裾野が広がるばかりではなく、相続税の負担は確実に重いものになりそうです。例えば下記のような…
2.基礎控除の減額相続税を計算する場合、基礎控除と言われるものがあります。ご存じのように、5,000万円に法定相続人一人当たり1,000万円を加算した金額です。例えば夫婦に子供二人がいる場合、夫の相続に際しては8,000万円になる計算です。課税の裾野を広げるには、まずこの基礎控除を減額することが考えられます。
上記の例では財産が8,000万円までなら相続税の課税はありませんが、例えば基礎控除を2,000万円に法定相続人一人当たり500万円に変更したらどうでしょう。相続人の数が同じでも、3,500万円を超える方に課税となります。現状の金額は確かに今となっては大判振る舞いの感もあり、引き下げは最もてっとり早い増税策なのです。
3.税率の引き上げ次に想定されるのは税率の引き上げです。かつては最高税率も70%だったのですが、現在は50%に引き下げられています。つまり、最高でも"五公五民"の状態です。税率自体に関して言えば、他の税目をみても現在は50%を超えるものはありませんので、かつてのような高い税率に戻る事はないような気はします。ただ、税率そのものを上げるのではなく、適用税率の金額区分を変更することによる増税はあるかも知れません。
4.小規模宅地の評価減の特例相続税の計算をする場合、最も重要な特例の一つに‘小規模宅地の評価減の特例’があります。
居住用や事業用の敷地等について、適用のための条件や面積の制限はありますが、最大80%の評価の減額を行うものです。
例えば被相続人がお住まいだった土地を、配偶者が相続した場合で、原則的なその土地の相続税評価額が1億円だったとしましょう。240㎡までなら80%引きとなるため、実際には20%相当の2,000万円の評価になってしまうのです。
制度としては以前からあるのですが、バブルで土地価格が高騰した際、減額割合が引き上げられた経緯があります。昨今、一部の場所ではバブルの再来を思わせる値上がりはありますが、全体的には地価は安定と見ていいでしょう。そのような状況下では、バブル時期と同様に最大で80%引きの評価の減額は不要という議論は以前からあるのです。この減額割合をホンの少し変更しただけで、たちまち相続税の負担は増大します。一等地の土地を持っておられる方ほどその影響は甚大でしょう。従来は10億円が8割引きの恩恵で2億円の評価で済んでいたのに、もし最大で2割引となったら逆にいきなり8億円に評価が上がるのですから。個人的には、減額割合の引き下げは最も可能性が高いものと思っています。
5.裾野拡大の影響上記はホンの一例ですが、これらの施策により課税対象が広がり、従来は相続税とは無縁の方々も申告の義務が生じることになるでしょう。問題は単に裾野が広がるばかりではなく、基礎控除の引き下げ、税率の変更、小規模宅地の評価減額の割合変更、これらどの改正が行われても、従来よりも確実に増税になると言うことです。つまり、今まで相続税がかからなかった人に相続税が課税され、今でも課税になる人は、更なる負担が生じることになるわけです。
我が税理士業界はどうでしょう。今までお客様になり得なかった方々も新たにお客様になるわけで、結果は業務の拡大です。大きな声で特にお客様には言えませんが、有り難い話です。人様が亡くなる事に起因する相続の増税を有り難がるなど不謹慎ではありますが、筆者のせいではないと思いつつ、ひたすら、合掌。2006年9月29日
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5171号
税務署の追及
どの税目に限らず、申告書を提出すれば後日税務署の調査はつきものです。調査で特に困るのは知らないことを質問された場合。所得税や法人税なら自分の意志で行ったこと、身に覚えはありますが、面倒なのが相続税です。『それは"親父"がやったこと、相続人の私には分かりません』の答弁は一体どこまで税務署に通じるのでしょうか。
1.税務署はどこまでしつこいか?不動産の売却でまとまった大きな金額が懐に入り、当然の事ながら税務署に申告します。ここまでは良いとして、10年後に売却したご本人の相続が起こり、相続税の調査がありました。
こんな時、税務署は決まって売却代金の行方を質問してきます。『10年前に土地を売却してますね、その時の3億円は何に使ったのですか?』
税務署には毎年相当数の申告書が提出されます。過年度の申告書をいつまでも内部に保管しておくスペースはありません。署によっても違いますが、保管年限は4~5年分が限度でしょう。それを過ぎると各署からのものをまとめて別の場所にある大倉庫に移管するのです。ただ、申告書自体を保管していなくても、データはいつまでも残ります。詳細は不明ながら、後日追及するための材料には事欠かない状況なのです。結論として、金額にもよるでしょうが、売却から10年程度はお金の行方の質問を覚悟しておく必要がありそうです。
2.相続人が知っていること、知らないこと相続事案で困るのは、被相続人が自分で総てのお金を管理していて、相続人には全く知らしめていない場合です。会社のお金や不動産関係の収入、支出は資料を整理していけば後からでも分かるでしょう。問題なのはプライベートの支出部分、筆者の経験では大半が女性関係に使われた場合です。
相続人も女性の存在自体は知っている場合は多いもの。ただ、配偶者である奥様が健在な場合、知られないように隠すケースが多いのは言うまでもありません。逆に奥様に先立たれている場合、相続人である子供達も女性の存在は周知の事実。入籍さえしなければ黙認した方が自分達も楽、というのがどうも世の常と言うもののようです。
3.税務署の追求さて、話は相続税の調査に戻ります。お客様にご了解を頂いた範囲で御紹介させて頂きます。
一つは事業家Aさんのお話です。Aさんは奥様を早くに亡くし、女性関係が盛んだったようです。大変に気前が良く、旅行に行っても最上級の部屋に泊まり、湯水の如くにお金を使ったそうな。そうでもしないと女性にはなかなかもてないのかも知れませんが、事実、相当額が複数の方々に渡っていたそうです。
一方、Bさんはいわゆる地主さんです。Bさんも奥様に先立たれたのは同じですが、それ以前からやはり特定の女性がいらしたようです。ここでの御紹介はBさんご自身ではなく、Bさんのお母様の相続税調査の話です。両事案とも相続の開始数年前に億単位の土地売却代金があったのですが、それがどんな形で残されているかが不明だったのです。前述の通り、上記のいずれの調査においてもお金の行方を追求されました。
税務署の狙いは相続人がそのお金を相続財産から除外して、隠している事の立証なのです。ですからお金の使途が、例えば借金の返済、賃貸マンションの建築資金等々はっきりしていれば問題はありません。法人税には使途不明金・使途秘匿金の課税があり一刀両断ですが、相続税はそれぞれの事情によりなかなか複雑です。
4.税務署の反面調査はどこまで行うか?Aさんの相続人達は困ってしまいました。お金が女性に渡っていることの推測はできますが、本当に何に使われたかは分からないからです。税務署にもその旨を説明し、女性の住所、氏名も明らかにしました。女性にお金が渡っているのが真実なら、Aさんからの贈与となり、贈与税の対象ともなり得ます。そうなってもそれはその女性の問題であり、Aさんの相続人達の責任ではありません。その旨をはっきり税務署にも主張したのです。
結論を申し上げると、こんなケースではほとんど反面調査は行われません。女性名義で不動産の登記でもなされていれば別ですが、どの時点でいくらが渡ったのか、特定ができないからです。結果、状況証拠だけでは課税ができず、相続人達の話や態度に信憑性があれば、金額が多くてもそれ以上の追求はなされないと思っていいでしょう。
一方、Bさんの場合はちょっと面倒です。被相続人であるお母様は何年も寝たきりで、ご本人が使った形跡はないのです。調査ではBさんは知らぬ存ぜぬを繰り返すばかり。こういう場合、税務署が何かを掴んでいれば税理士が呼び出され、解決を迫られます。実はBさん自身の女性関係を税務署に指摘され、その確認を依頼されたのです。銀行調査からBさんが女性のために勝手にお母様の預金を引き出していた事実を確認していたのです。完全にお手上げで、修正申告となりましたが、Bさんにとっては税金より女性の存在が子供達にバレた事が何よりの痛手になったようです。2006年8月31日
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5170号
農業所得にも税務当局のメス!
黒字と赤字を相殺し、差し引き後の所得に課税をする。この極めて当たり前の事が、個人の所得税では年々通じなくなってきています。株式や不動産の売却損失(一定の居住用不動産を除く)は他の所得との通算はできません。せめて高齢の方のこんな所得にまで、メスを入れて欲しくない。そんな事例の御紹介です。
1.広がる損益通算不適用の包囲網サラリーマンが投資用にワンルームマンションを購入しました。勿論大半は銀行からの借入れです。初年度はこの利息の他に諸経費もかかり赤字決算、これを給与と通算ができれば税金還付で節税に成功です。が、ご存じの通り現在は土地取得に係る利息相当は損失が生じても通算ができません。建物の減価償却も定額法だけで、サラリーマンのささやかな夢は無惨にもうち砕かれてしまったのです。
それだけではありません。生活に通常必要でない資産の売却による損失、冒頭の土地・建物や株式の売却で生じた損失も他の所得との通算はできません。更に、ゴルフ会員権の売却損も現時点ではまだ通算できますが、いずれ規制の対象となるのは確実で、もはや風前の灯火です。
2.損益通算は当然の考え方同じ事を法人が行う場合はどうでしょう。例えば法人が投資目的のオフィスビルやマンションを売却した。福利厚生のためのリゾート施設を処分した。これらの売却により損失が生じた場合、本業の利益と通算することに、何の規制もありません。もっとも、レバレッジドリース等特殊なケースで部分的に経費化することに制限もありますが、個人に比べれば雲泥の差、相当に恵まれています。
そもそも所得税や法人税は利益が生じた場合、その利益に対して課税をしようとするものです。利益があれば、税金を負担する能力があると考えられているためです。従って、経費が収入より過大であったり、大きな損失が生じた場合、利益と相殺するのは極めて自然で、担税力から言っても当然の考え方なのです。
3.農業所得は通算が可能!さて、郊外にお住まいのお客様に91才で未だ元気に農業をお続けの方がいらっしゃいます。ただ、さすがに若い方と同じようにはいきません。ご自宅用の他、ご近所から頼まれる分程度の売上高しかありません。金額にして年間20数万円。これに対し経費は莫大です。何しろ郊外とは言え都心から1時間、生産緑地の指定は受けていないため、農地ではあっても固定資産税は宅地並の課税です。その農地だけで400万円は悠に超えてしまいます。
また、売上が上記のような状況のため、お金を払ってまで農作業に人手を頼むこともできません。やはり91才の奥様を青色事業専従者として雇用、お手伝いをお願いし給料をお支払いになっているのです。
その結果、農業所得は大幅な赤字なのですが、実はこのお客様、他に多額の不動産所得があるのです。農業所得というのは、税法上の正式な名称ではありません。本来は事業所得なのですが、便宜上申告書の上で農業を区分しているに過ぎません。つまり、他の所得との通算が可能なのです。これが本誌4月号記載の不動産所得のように、事業的規模でないことから雑所得に認定されたら大変です。損益通算ができなくなってしまいますが、農業所得については現時点では極めて大甘で、この点のお咎めはほとんどありません。
4.税務署の想定上記のような状況の下、このお客様に所得税の調査がありました。税務署の想定は容易に察しがつきます。
①ご本人、専従者である配偶者とも91才とご高齢であるため、事業の実態も専従の事実も無いこと②売上が極めて少額であるにもかかわらず、大幅な赤字を計上しているのは、損益通算を狙った節税策。固定資産税は実際に農地として活用している極く一部だけしか農業の経費となるものがないこと等々が彼らの想定なのです。
5.手入れが不十分だと農地が山林に!金額は些少であっても、売上は伝票に顧客名や農作物の品名の記載があり、農業従事の実態を税務署にも理解をして貰えました。しかし、農地の内の一部の地目が「山林」に変更となっていたのです。これは農業委員会の調査で、農地に雑草が生えており農地としての活用が充分でないためと判明。この部分の他、栗林として地目は農地にはなっていても栗の収穫がなく、その売上の計上がないことから、栗林の固定資産税の経費計上も認められないことになってしまいました。
勿論、固定資産税が経費として認められるためには必ずしも地目が農地である必要はありません。あくまで実態です。しかし、今回は実態をそのまま表していたわけで、反論の余地はありませんでした。結局、今回に限り何分にもご高齢であることから"指導"に留めていただきましたが、昨今の厳しい損益通算規制。農業所得が赤字のお客様、当局の格好の餌食になりませんようご注進です!2006年7月31日
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5169号
同族会社株式の共有
相続での財産分けについては、"共有"状態、特に兄弟間の共有はなるべく回避すべきであることは、既に何度も繰り返しました。中でも同族会社の株式を兄弟で保有することは、最も面倒な状況を生み出します。この問題を先送りするとどうなるか、影響とその解決策を検証してみました。
1.問題の先送り兄弟で父親の事業を引継ぎ、活動をしている会社がありました。兄が社長で弟が専務です。この会社、時価が非常に高い都心に土地を保有し、そこに本社屋があったため、株価の評価もそれを反映して相当高額に。さて、全株式を父親が持っていましたが、その父親の相続です。会社の業況はあまり芳しくなく、兄弟は廃業も視野に入れていました。会社自体は残したまま、本社屋の場所にマンションの建築を計画したのです。ただ、その株式をどちらが相続するのか結論が出ず、父親個人の土地を含め総てをとりあえず共有。問題を先送りしてしまいました。
2.株式共有の問題点同じ共有でも同族会社の株式が面倒なのは何故でしょうか。土地の共有であれば、売却して金銭で分けることも可能です。しかし、上場会社と異なり、同族会社の株式は第三者に売却するわけにはいきません。会社の支配権に関わるからです。
M&Αのように、株式を処分して業務を継続しないのであれば第三者への売却も可能でしょう。しかし、事業の継続が前提であれば、株式の処分はできません。兄弟で事業に対する意見が分かれ、袂を分かとうとしても、簡単ではないのです。20%の譲渡税を覚悟しても、売買の相手方は兄弟に限定されてしまいます。売るに売れない、購入する側も株価が高く金額的に難しいと言う状況になってしまいます。
3.法人が土地を売却すると…さて、マンションの建築計画も、借入れによる建築、等価交換等色々と検討しましたが、満足できるものがありません。結局、土地の売却となったのですが、ここで土地を売却すれば約50%の法人税等を覚悟しなければならないのです。もっとも、実質的には廃業を前提のため、従業員の退職金や繰越し欠損金の活用、不良在庫の処分等である程度は税負担の軽減も考えられます。また、そもそもこれを機に兄弟間の株式の共有を解消したい狙いもあるのです。何か他に抜本的な対策や工夫はできないものでしょうか?
4.会社分割という手もありますが…共有を解消するには、兄弟それぞれ自分が代表権のある会社を持ち、別々に活動をすればよいのです。その手法として、会社分割と言って一つの会社を複数の会社に分割する手法もあります。詳述は致しませんが、一定の要件を満たせば法人税等の課税もありません。但し、この課税を避けるためには、複数の会社の株主構成は分割前と同じでないといけません。つまり、兄の会社も弟の会社もそれぞれが現在と同じ共有状態と言うことなのです。そして、それぞれの会社の持ち分を、兄弟の将来の相続時に兄の持ち分は弟の子へ、弟の持ち分は兄の子へ無償で譲り渡します。これにより、最後は兄一家、弟一家がそれぞれの会社の株式を独占できる形態になるのです。この無償での譲り渡しは死因贈与か遺贈と言う形式を取りますが、相続税の対象となりますので注意が必要です。
それにしても、この方法では何年先になるか分からない、兄弟それぞれの相続の時まで共有の状態を解消できず、またまた問題の先送りになってしまいます。
5.法人か個人か?結局のところ、兄弟いずれかが自分の持ち分を相手方に売却するより他に方法はありません。今回土地を売却するに当たっては、前述のように会社は残すものの実質的には廃業を前提です。会社の財産をカラに近い状態にすれば、株価自体も土地の売却前より低くなるでしょう。退職金という経費を利用して土地の売却益と相殺する予定ですが、従業員の他、役員である兄弟二人ともに退職金を支給させる方が有利です。そのためには、会社を引き継ぐ兄弟いずれかの配偶者や子を新役員に就任させることも必要です。株式の売却代金や退職金の額を含め、兄弟の最終的な取り分がほぼ同額になるようにするとすれば、円満に解決ができるでしょう。
この手の会社の株式については、親族間での売買はその価格は自ずと税務上の制約を受けることになります。今回は会社保有の土地売却に絡めて共有を解消するため、何とか資金面の都合もつきますが、株価が高額な場合には、購入資金の点で解消ができないことも多いのです。経営は分散できません。同族会社の株式は、"一人に集中"が鉄則です。2006年6月30日
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5168号
不動産所得がなくなる日
個人の所得の中で、土地や建物を貸して得られるのが、ご存じの不動産所得です。実は、この不動産所得が所得税からなくなるかも知れません。税制調査会が昨年、個人所得税に関する論点整理と題して、その廃止を提言しているのです。
1.現行の不動産所得の取り扱い不動産所得と一口に言っても、その取り扱いは大きく二つに分けられています。事業的規模かそれ以外かという区分です。何をもって事業的規模かというと、①貸付資産の規模 ②賃貸収入の状況 ③貸付物件の管理状況等個々の事情を総合勘案して判定することになっています。そうは言っても実際の判定は難しいため、実務的には形式的な5棟10室基準が適用されることが多いのです。これは独立家屋なら5棟、アパート等の貸室なら10室以上が事業的規模であるというもので、物件ごとではなく所有資産全体での判定です。
2.事業的規模なら事業所得と同じ扱い不動産所得が事業的規模である場合、実質的には事業所得と同じ取り扱いになります。
事業所得というのは、文字通り小売業、製造業等の個人での営業活動によって得られる所得を言います。不動産所得でも、事業的規模であれば、正に事業そのものであるという考え方なのです。
さて、事業所得であれば、損益通算と言って、損失が生じた場合に他の所得との通算ができ、課税される所得が減少する結果となります。さらに、青色申告である場合には、同居の家族従業員に対して給与を支払うこともできるのです。所得税では原則として、同居の家族へ給与を支払っても、それを経費とすることができない反面、もらった側も収入とは見なされないことになっています。
それが青色であれば、支払った給与は経費となり、もらった側は給与所得として課税の対象となるわけです。つまり、不動産所得を廃止しても、事業的規模を事業所得として扱えば、現行と全く変わりはないという考え方なのです。
3.事業的規模でないなら雑所得一方、事業的規模以外の不動産所得は事業とは言えない小規模なもの、と言うわけで雑所得の範疇です。雑所得となると損失が生じても他の所得との通算、つまり、損益通算はできません。さらに青色申告をしたくても、雑所得にはそれが認められていないのです。従って、同居の家族従業員への給与を支払っても、必要経費として認めてもらえない事に。
結局、事業的規模でない場合には、損益通算が適用できない不利が生じることになってしまうのです。そもそも論として、その昔は不動産所得なるものは事業等所得に統合されていた経緯がありました。現時点では不動産所得に、既にその存在価値がないため、従前の形態に戻すというのが今回の議論の発端のようなのです。
4.会社法の出現も影響?平成18年5月から従前の商法に変わり、新たに会社法が施行されています。大きな特徴の一つとして、有限会社が姿を消し、株式会社に統合されることがあげられます。
我が国の圧倒的多数を占める小規模な同族会社においては、オーナー一族での支配を確保するため、株式の第三者への移転、流出を防ぐ方策がなされています。具体的には、定款で株式の譲渡を制限しているのです。このような会社においては、今後の新法では取締役は1名だけの会社が可能で、しかも監査役も不要です。しかも、今後は株式会社の設立も運営も非常に簡便になるため、個人からの相当数の法人成りが予想されています。
また、前述の不動産所得において、損益通算ができなくなる等の不利な状況を回避するため、個人でなく法人を設立しての運営を検討する方も増えてくることでしょう。会社法の出現はその勢いに拍車をかけること必至です。
5.法人か個人か?それでは、今後の不動産所得について、無条件に法人化が加速していくのでしょうか? 3月号のえ~っと通信でも既にご紹介のとおり、本年の税制改正の目玉として、一定の法人役員の給与所得控除相当額が経費化できない措置が施行予定です。これは、左記4の会社法の影響による法人乱造による節税防止をも考慮してのことと想像されます。
法人設立による税務上のメリットは確かに色々とあるものの、法人か個人かの選択はそれ程単純ではありません。ただ、不動産の売却損を他の所得と通算ができないことに続く今回の不動産所得の規制の動きです。所得税の締め付けがこれ以上増大すると、個人から法人へのシフトは止めようがないのかも知れません。2006年5月31日
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5167号
”時効”を考える!
確定申告も終わり、この時期はホッと一息と言ったところでしょうか。提出した申告書に、もし間違いや洩れがあったらと、ご心配の向きもあるかも知れません。ただ、うっかりであれ故意であれ、税法にも"時効"があります。ということで、今回は税務署が時の経過により水に流してくれる日はいつなのか、を考えてみました。
1.税法の規定では提出した申告書に誤りがあり、税金が少な過ぎる場合、自らの意思で修正をするのなら特に期限はありません。しかし、税務署の理論で課税をする場合には法定の期限があり、それが時効です。
申告済みの内容を変更するのが「更正」で、申告がなされていない場合に課税する手続きが「決定」です。更正は申告期限から3年、決定は5年が原則。その意味では、すねに傷ある方々も申告さえしていれば3年経てば枕を高くして寝られます。但し、税額が減少する場合にはその期限は5年と長く、納税者有利に配慮がなされているのです。が、甘いのはここまでで、不正をはたらく輩には7年がその期限。逆に言えば、どんなに悪質な脱税をした場合でも、7年過ぎれば晴れて自由の身、これが税法の規定です。
2.税務署に昔の話をされた場合には実は時効を今回のテーマに選んだのには、一つのきっかけがあったのです。税務調査と言えば調査なのかも知れませんが、昨年の暮れ、個人の不動産所得についてのお尋ねがあったのです。聞けば、何と3年前の平成14年分の経費に疑義があり、修正申告を提出しろというのです。調査と言っても現地に足も運ばず、資料の提出だけで申告の是正をせまってきたのです。しかも過年分だけの修正です。何を今更と思いながら確認すると、以外な事実に突き当たりました。14年分よりも15,16の両年の方が本当は問題があったのです。しかし、税務署のご指摘は14年だけで肝心の年分にはお咎めなし。何やかやと折衝する内に2月に入り、確定申告時期も間近です。こうなれば、あとは時間稼ぎ。3月15日が来れば、3年経過で時効成立です。この時期、税務署も確定申告で忙しく、修正申告に応ずるなら別として、更正などする暇などないはずなのです。本稿をお読みいただく頃には祝杯をあげていること必至です。
3.贈与にも時効はあるのか?あるお客様からこんなご質問を頂きました。親から子へ多額の金銭の貸付けがあったのです。親御さんに万一のことがあった場合には、子への貸付金として相続財産の一つとなってしまいます。それに、そもそも返済するのが非常に困難な状況だったのです。そのためか、この貸付を無しにしたいと言うご相談なのです。無しにすれば、その時点で贈与ですが、以下はその時の会話です。
『貸付の返済を免除すると言う書面を作成するだけで、お金の動きがない場合、税務署はどうやって贈与の事実が分かるのですか?』
『その時は分かりませんが、貸付金の存在は既に税務署に報告済みです。相続税の申告書に貸付金が計上されていなければ、相続財産が洩れていると言うことになります。』
『でも、その時は免除のこの書面を見せて納得して貰います。』
『税務署はそんな紙切れだけでは信用してくれません。亡くなった後からだって作成できるのですから。』
『公証人役場で確定日付を取っておくか、それとも内容証明郵便で送付したら日付は信用して貰えますよね!』
『……』
『先生、贈与税にも時効ってあるんですよね?』
『……』税理士としては、とてもお勧めできる方法ではありませんし、それ以上の関与をするつもりもありません。ただ、免除した年の申告期限から7年で時効が成立することだけは確かです。
4.縦割り行政の弊害こんな事もありました。御父君が亡くなられ配偶者である奥様とお子さんが相続をしました。数年後、奥様の土地が収用にかかり、その資金で子の多額の相続税の延納分を完済したのです。更に10年を経て今度は奥様の相続。相続税の調査の過程で収用代金の使途が問われました。子の相続税の納税原資は収用代金、つまり子から見て母親のお金です。子のために立て替えたのか、贈与なのかが問題となったのです。贈与であれば既に時効は完成、税務署もなかなか贈与の事実を認めませんでしたが、最後はご了解を頂きました。
税務署も多額の納税が一括納付された時点で資金の出所を確認すれば良かったのです。それは管理課の仕事、相続・贈与税は資産税課の仕事。縦割り行政が生んだ贈与税の取りこぼしです。
過ぎ去ったことは7年を待たずに早く忘れる、私の個人的な時効は1日です。2006年4月28日