お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5114号
電子申告には、絶対反対です!
当社もついにやられました。コンピューターウイルスです。風邪のウイルスとは大違い、被害甚大です。このATO通信も今や大半がメール送信のため、多くの方にご迷惑をお掛けしました。恥ずかしながら、その顛末をお知らせします。
1.新手の愉快犯?筆者の乏しいコンピューター知識でも、コンピューターウイルスの存在自体は理解しております。メールに送られてきた内容に、付属の添付ファイルがあり、それを開くと、さあ大変!データが破壊されたり、正常に機能しなくなったり、本物のウイルスの如く、コンピューターを蝕んでいくのです。だから、怪しげなメールは開かないのがこの世界の鉄則なのです。
当社がやられたのは、もっと手の込んだもの。敢えて内容を開かなくても、プレビューと言うメールの立ち上げ画面にしただけです。登録済みの当社の顧客リスト(アドレス帳)に載っている総ての方に、当社に送付されてきたメールが送信、転送されてしまうのです。そして、それをご覧になった方のコンピューターから更にその方の登録済みの総ての顧客に同メールが…こうして、ねずみ算式に爆発的な勢いで同じメールが世の中に出回ってしまうのです。
幸い、このメール、データの破壊等の実害はなかったようで、迷惑だけが被害でした。但し、当社のお詫びのメールが更なるご迷惑をお掛けしました。送信方法の不備から、お客様のアドレスを公表する結果となってしまったのです。
この場を借りて、改めてお詫び申しあげます。
2.不十分な危機管理無防備だった当社、当日は1日中その対応に追われ、大パニックでした。正に犯人の思うつぼ。
ここから何を学ぶべきなのでしょう?先ずは、現状分析。当社のコンピューター環境を把握し、現状での問題点を認識することです。その上で今回の様な事態を予想し、何らかの予防策を打つべきなのです。そして、万一事態が生じた場合、どのような手順で何をすべきか、をマニュアル化しておかなければならないのです。 正直な話、当社にはいわゆる危機管理の認識が薄かったのです。現代を生きる企業としては、その点では失格の烙印を押されても、甘受しなければならないでしょう。
これを教訓に、大いに危機管理体制の充実を図るつもりです。
3.もうすぐ、電子申告の時代です!今やコンピューター無しの生活など考えられない状況です。当社でも、出勤して最初の作業はコンピューターの電源を入れることから始まります。当社ですら、ソロバンのできる人間などごく僅か。
日常業務の何から何まで、コンピューターを駆使して作業をするのが大前提。こんな時代を反映してか、アメリカでは既に紙を使わない電子申告が始まっています。件数的にはまだそれ程ではないにせよ、確実に増加し、将来的には総てが電子申告になりそうな勢いです。
我が国でもご多分に漏れず、電子申告の導入が予定されています。メリットとして、国税当局は①税務署に行かなくても、自宅やオフィスから24時間、年中無休で申告が可能②企業では既に経理の電子化が進んでおり、申告までの一連の作業がインターネットの活用により、ペーパーレス化でコスト低減につながる。を謳い文句にしております。実際に昨年末から麹町署、及び練馬東署の2署において所得税、法人税、消費税の実験が行われています。それを踏まえて平成15年度から運用開始すべく準備中とのこと。
が、しかし。本当にそれまでにネット上の安全性は確保できるのでしょうか?個人や会社の申告内容が何者かにより、流出してしまう可能性はないのでしょうか?そして何より、ウイルス対策は万全なのでしょうか?筆者は今回の経験から、大いに疑問を感じています。はっきり言って、電子申告には反対です。そう言えば、原子力発電だって、我が国のは絶対に安全、なんてかつてはどなたかが言ってました。
ただ、時代の流れは否が応でも電子化でしょう。
署名捺印なんて、そんな言葉自体無くなってしまうかも知れません。でも、何となく寂しい気もします。メールで『愛してる』に対し、相手の名を書くまでもなく“返信”をクリックして『私もよ!』では色気がありません。熱い熱い思いが筆の乱れになる肉筆の手紙にこだわるのは、筆者だけでしょうか。2001年11月29日
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5113号
税理士同士も話し合い ~情けは人のためにならず~
相続がおこり、財産分けをめぐって親族間で血みどろの戦い、よくあるケースです。双方弁護士を立てて争うのは珍しくないにせよ、そんな時、相続税の申告書は別々に提出するのでしょうか?
同一の相続をめぐって内容の異なる複数の申告書、なんて事態が実際にあり得るのでしょうか?“争族”にまつわる税理士同士の熱い(?)戦いが本日のテーマ、お客様のご了解を頂いた上でのご紹介です。
1.相続人(?)がもう一人いた!母が死に、数年後父が後を追いました。一人娘のΑ子さん、父親名義の土地200坪を何の疑いもなく、自分名義に変えようとしていた矢先です。同じ敷地内に住む叔父が公正証書になった『死因贈与契約書』を突き出しました。見れば、叔父の住む敷地部分、父が亡くなったら叔父に贈与すると言う内容です。この死因贈与契約書、遺言書みたいなものと考えて頂ければよいでしょう。 日頃不仲の二人です。当事者同士で直接話し合うこともなく、手続きはたんたんと進みます。 が、最後に相続税の申告の段になってひと騒動。通常、相続税の申告書は相続人全員が同一の申告書にそれぞれ署名捺印をして提出です。全部でどれ程の財産があり、誰が何を相続したか、一目で分かる仕組みです。Α子さんに代わり当方で叔父さんに申告の説明をしたものの、聞く耳持たずの状況でした。そこで申告書はΑ子さんだけの署名捺印で提出です。この場合、叔父さんだけが無申告の状態ですが、第一義的にはΑ子さんには何の責任もありません。果たしてその後、叔父さん側の税理士から当方に連絡が入りました。 こんな場合、先方の税理士もやり難いに違いありません。先方に資料はなく、計算のやりようもないからです。結果的にはΑ子さんの了解のもと、当方の申告書をコピーし、税理士の名前だけが違う同一の申告書を提出して一件落着。 素朴な疑問が残ります。あの税理士は何の計算もせず、コピーだけをして、いくらの申告書作成報酬を頂いたのでしょうか?
2.財産が解らないまま、相続税の申告!前妻の子と後妻が相続人のケースです。後妻は財産の全貌を明らかにせず、財産の分割協議は当初よりドロ沼に。相続税の申告書も後妻は勝手に単独で提出です。困ったのは前妻の子、財産が解らないまま申告期限が近づきます。しかし、もっと困ったのは、その申告を依頼された当方です。先方の税理士は情報を提供してくれる筈もなく、解っている不動産だけでとりあえず申告。こんな場合、同じ被相続人について、異なる申告書が提出されるわけで、税務署も黙っているわけがありません。税務調査になれば、嫌でも財産の全貌が明らかになるため、むしろ早く税務署が来ることを期待さえしていたのです。双方弁護士を立て長期戦の様相でしたが、その後消息は不明です。税務調査になったら、どちらの税理士が立ち会うのか、その心配も杞憂に終わりそうです。
3.コピーで人助けも、情けは人のためならず分割争いが決着せず、数年にわたって共有状態になっている事案です。これまた双方とも弁護士を立てて争う中、解決の糸口が何となく見え始めた頃、税務面のご相談を賜りました。当方より大がかりな交換を提案し、何とか話はまとまったのです。 さて、話が決まれば、あとは“交換”に係る税務の申告です。勿論相手方にも税理士はいるのですが、そもそもの提案、試算は総て当方です。膨大な資料を整理した上で、先方の税理士に面談することに。と言うのは、交換の申告、相手方と当方は同じ内容になるはずです。そこで、双方の申告に辻褄合わせが必要なのです。 弁護士の世界と違い、税理士同士で話し合うことなど非常に珍しいことではあるのです。当方から資料に基づきご説明したところ、『その資料、そのままコピーして申告してもいいですか?』『???』当方も膨大な時間をかけ、精密な検討を加えて作成した資料です。それを単にコピーをし、他人の褌で相撲ならぬ申告書の作成を行うとは……。ただ、これなら双方同内容の申告になり、税務署に文句を言われることはありません。結局は当方のためにもなることです。それに、今回は当方の提案でしたが、先方の提案にこちらが載せて頂くことだってあり得ます。『結構です』の快諾に先方はニッコリでした。
ただ、またまた素朴な疑問が残ります。あの税理士は何の計算もせず、コピーだけをして、いくらの申告書作成報酬を頂いたのでしょうか?賃貸物件を建築することは、相続対策として昔からつとに有名です。確かに採算さえ合えば、税務上有利なことではあるのです。問題は建築をする、しないの決断の時期というかタイミング。 意外な落とし穴もあるので注意が必要です。2001年10月29日
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5112号
「建設途中で相続」の恐怖!
賃貸物件を建築することは、相続対策として昔からつとに有名です。確かに採算さえ合えば、税務上有利なことではあるのです。問題は建築をする、しないの決断の時期というかタイミング。
意外な落とし穴もあるので注意が必要です。
1.何故、建築が相続対策か?相続対策になる理由は概ね以下の3点です。
①まず第一は相続税の建物の評価が貸し家として、固定資産税評価額の7割相当で済むことです。そもそも固定資産税の評価額自体、木造で建築価格の4~5割、鉄筋で7~8割と低いのです。これの更に7割相当の評価なら確かにお得!
②賃貸物件を建てると、貸家建付地と言って敷地の評価が更地に比して7~8割に減額。土地部分の評価額の節税につながるのです。
③200㎡までですが、土地を上記②の評価をした上、更に賃貸物件の5割引の特例があります。小規模宅地の評価減の特例と言い、相続対策の基本中の基本。因みに事業用や居住用としてこの特例を受ける場合、最高8割引の大特価での評価が可能です。
2.建築途中で相続がおきたら…問題は建築の途中で相続がおきた場合です。 上記の有利なはずの評価は、一体どんな取り扱いになるのでしょう? まず、上記①の建物評価ですが、建築途上では当然固定資産税の評価額はありません。この場合、一般的な言い方をすれば、その時点までの支払額の70%で評価することになります。本来の評価方法に較べ、明らかに不利な場合も出てくるでしょう。
②の貸家建付地はどうでしょう?この評価、借家人がいて、オーナーにとっては利用に制限があるために減額されているのです。と言うことは、言うまでもなく建築途中では更地扱い。残念ながらこれまた不利な扱いになってしまいます。
③の小規模宅地はいささか微妙な問題です。
本来、相続税の評価についての考え方は、死亡日時点の状況での判断です。しかし、建築を予定し工事も進んでいるのに、たまたま途中で死亡しただけで特例が適用できないのでは、死人に鞭の酷な扱い。そこで、若干の条件は付くものの、特例が適用できると考えて頂いて宜しいと思います。
3.『建築途中』とは、どんな状況か?原則として、建築途中であれば③の特例の適用はあるとは言うものの、具体的にどんな状況が建築途中と言えるのでしょうか? 勿論、実際に基礎工事が終わり、柱や壁が完成していれば文句はないでしょう。結論から言えば、建築に着工していればOKです。では、何を以て建築に着工というのでしょう? 建物を建築する場合、まずは設計図の作成です。そして具体的な建物プランができると、今度は建築確認の申請をし、役所の許可が必要です。その許可が下りたところで、地鎮祭をし鍬を入れ、杭打ちの開始です。 外観だけで判断をする場合、設計図ができあがれば、何となく建築の意思表示はできたような気もします。まして、役所に建築確認申請まですれば、本気であることは自明の理。 が、残念ながらこの段階でお亡くなりになった場合、特例の適用はありません。税務の上では鍬入れなり杭打ちがあって、初めて建築に着手と言えるのです。
4.決断は経営者の感覚で!賃貸物件の建築は、相続対策になるとは言うものの、経営リスクも伴います。また、土地の評価は下がっても、納税資金も確保しておかなければなりません。そのためには、高い評価は覚悟の上で、駐車場として将来処分がしやすい形にしておく場合だってあり得ます。
残念なことに、何か対策が必要であると分かってはいても、結局あれこれ迷い何もしない方が結構いらっしゃるのです。 納税額を把握し、納税方法を考えたらあとは決断一つです。考え中に相続、ではシャレにもなりません。賃貸事業をするのか、しないのか、それは正に一刻を争う経営者の判断です。賃貸事業自体、文字通り一大事業なのだと言うことを、肝に銘じていざ、ご決断を!
なお、ご決断の参考になる書物をご紹介しておきましょう。 ダイヤモンド社『これからの賃貸住宅ビジネス』(三井不動産編)です。税務の部分は筆者が担当ですので期待はできる(?)お値段、ちょっと高めの2800円で10月4日発売です。 (ヤラレタ、結局は宣伝か!)2001年9月28日
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5111号
要は分割の仕方です
相続と言えば、条件反射的に『財産分けの紛争』が頭に浮かびます。しかし、分け方次第で節税になるケース。はたまた争いどころか譲り合いのケースまで、色々な分割方法のご紹介です。
1.分割もやり方一つです先ずは図イをご覧下さい。50万円と70万円の二方の道路に接する土地が100坪です。これを、被相続人が使っていた、そのままの形で相続すれば、二方の路線価の影響で非常に評価の高い土地になってしまいます。 一方、図ロのように、AとB別々の相続人がそれぞれに分割して相続すればどうでしょう?Aは50万円の道路だけ、Bは70万円の道路だけに接する評価となり、評価額は軽減です。 本来、相続財産は被相続人が利用していた、その利用単位ごとの評価です。しかし、分割して取得した場合には、その取得した土地ごとの評価になるのです。
2.やり過ぎは不合理分割!それではここで、もうひと工夫。図のハやニのように分割したらどうなるでしょう?
ハにおいては、Bは無道路地、評価は激減です。図ニだってBは道路に点の状態でしか、接してはいないのです。 結論から言えば、これは不合理分割と言い、AとB全体での評価が基準となってしまいます。分割後の画地が著しく不合理であれば、分割前に引き戻して考えなければならないのです。 具体的には①無道路地又は帯状地②著しく狭隘な宅地③現在のみならず、将来的にも有効な土地利用が困難な土地等々です。3.遺言は多過ぎます。そんなにいりません!
さて、話は一変します。相続における分割のもめ事は、基本的にはもっと自分の取り分が欲しいというものです。人間誰しも自分の取り分は多いに越したことはありません。 遺言を残して亡くなった方がおられました。そこには、財産の大半を占める土地を妻と長男、若干の預金を嫁いだ長女へと記されていたのです。よくあるパターンですが、文句が出るとすれば、長女でしょう。ところが長男が、自分が長女に比して多過ぎる、こんな遺言承服できないと言いだしたのです。 結果、遺言は無かったことにし、分割協議によって長女の取得分を増やす事にしたのです。 筆者も長いこと税理士をやっていますが、初めての経験でした。
4.私は何もいりません!世の中には欲のない人もいるものです。相続人は姉と妹。姉は嫁いで実家を出、妹が親の面倒を見ておりました。このケース、億単位の財産ですが遺言はなく、分割協議で決着です。普通はここで次のような展開が。姉『嫁いだとは言っても私は長女、半分の権利はあるはずよ。』、これに対し妹は『自分で好きに出ていって、誰が親の面倒見たって言うの、あなたにそんな事言う権利はないわ!』 が、筆者の期待を裏切って、姉は自分の住む土地さえ主張せず、妹も妹で住む所さえあれば土地なんて…
5.最近の相続における傾向と対策ただ、上記はいずれも例外的なケース。こんな例ばかりなら、税理士なんて寝ていたってつとまりそうです。 概して言えるのは、子供がいない場合、現金は別にして土地は人気がないようです。バブル崩壊後の地価の値下がりのせいでしょうか?若い人には特にこの傾向が顕著です。親が土地の保有、活用で苦労しているのを見ているせいでしょう。土地はいらない、金残せ、でしょうか?
筆者もお客様の苦労を沢山見てきたためでしょうか、土地は持たないことにしております。(世の中ではこの手を、持たざる者の負け惜しみとか?)2001年8月31日
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5110号
情報公開は納税者の権利です!
ちょっと前までは、『お上』の存在は絶対的なものでした。楯突くことはおろか、実態の開示など夢のまた夢だったのです。
時代は変わり、今や情報公開全盛で、税務の世界も例外ではありません。
1.税務問題はいきなり訴訟は出来ません税務署が行う処分に不服がある場合、どんな争い方があるのでしょう?いきなり裁判所で税務訴訟をするわけにはいきません。裁判の前に国税不服審判所への審査請求という手続きが待っているのです。 この国税不服審判所、公平な第三者機関として裁判の前に税務署と納税者の両者の言い分にご判断を頂けるのです。既刊第5093号に詳述しておりますのでご参考になさって下さい。 結論を先に申しあげれば、ここでの納税者側の勝算はほとんどありません。平成11年度に処理された件数 3,003件の内、一部だけでも納税者側の言い分が認められたのは、僅かに431件。何と14%に過ぎません。 因みに、その後裁判になれば、結果は更に悲惨です。同じく11年実績で、430件の訴訟件数に対し、一部勝訴を含め26件、6.1%と納税者側は惨敗です。 もっとも、この話には裏があって、税務実務の世界では、審査請求や訴訟にしないことが腕のいい税理士の対応なのです。 つまり、当局も訴訟と言うことになれば、彼らのプライドにかけても負けるわけにはいかず、なりふり構わぬゴリ押しをしてくるのです。 理論と現場は考え方が異なります。 現場で解決が生活の知恵!
2.朝日新聞の情報公開法に基づく請求今月15日付けの朝刊によれば、朝日新聞の公開請求に対し、審判所はその裁決(裁判における判決に相当)を公表。今年3月までの2年9ケ月分、計95件が今回の対象だそうです(毎年約千件程度の裁決が出る)。 我々税務関係者は公表された裁決に常に注目しておりますが、この内、既に公表されていたのは僅かに5件。
3.原則非公開、の問題点この裁決事例、従来は非公開で、審判所長が必要と認めた裁決だけが公表されてきた経緯があります。 その公表基準は①納税者の適正な申告に役立つ②課税や徴収の実務に役立つ、の2点。 但し、問題は実際の公表が審判所の裁量に任されていたことです。ちがった見方をすれば、税務署の違法、強引な課税処分が審判所で取り消された裁決等、国税当局に都合の悪い内容は公表されないこともある、と言うことです。 既刊第5093号でも取り上げたのですが、当局からの出向者が大半では、よほど国税側に明らかな非がない限り、納税者側に勝ち目など、最初からないのです。 その結果が勝率の低い数字となっているのではないのでしょうか?
4.いつまでも抜けない『お上意識』朝日新聞によれば、今回の公表で国税の強引な指導、処分が取り消された裁決が一部明らかになっています。 日頃、税務当局と折衝をし、実態を知っている税理士たる立場の一人としては、複雑な気持ちでこの記事を読んだものです。
人間である以上、間違いがあるのは避けられないこと。間違いが分かった時点で、訂正すれば良さそうなものですが、当局はそれが許せない。
お上に間違いなどあろう筈もなく、体裁が何より大事な世界なのです。ハンセン病訴訟しかり、税務訴訟しかりなのです。
5.もっと税務資料を公表すべき!こんな例もあります。過大な役員退職金は税務上、経費にならないことになっています。では、過大かどうかはどこで判断するのでしょう? 当局は、同規模同業種を基準にと言うのですが、我々はその基準が手に入らない。それを言うなら、固有名詞を伏せて、各種の数値をもっと公表すべきなのです。 筆者は正論を言っているつもりです。決して、税務調査で納得のいかない処分を受けた腹いせではないつもりですが(多少はあるかな?)…。
2001年7月30日
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5109号
税理士も損害賠償の対象です
今回のテーマ、税理士である筆者にとっては、身につまされると言うか、何とも重苦しく悩ましいテーマです。ズバリ税理士の損害賠償責任。勿論、本音で迫ります。
1.税理士も人間です税理士なる職業、いうまでもなくお客様から報酬を頂戴して生計を立てているのです。決して税務署から適正納税協力金を頂いている訳ではありません。 とは言うものの、建前上は『納税義務の適正な実現を図る』責務を負っている立場。脱税をお客様から頼まれれば、それを断るのは、なかなか勇気のいるものです。繰り返します。報酬を頂戴しているのはお客様からであって、税務署ではないのです。 良くないことと知りつつ協力した税理士の後始末が今回のテーマなのです。
2.当社の脱税に対する取り組み方脱税を頼まれること、残念ながら時にはございます。当社の場合、バレた時のリスク、加算税、延滞税等の費用負担を総てお話しします。それでもと言われれば、これらの事を説明した旨を書類に残し、お客様にお渡しをします。当社の責任は皆無とは言わないまでも、ご依頼に従って書類を作成した事は明記します。決して積極的に荷担は出来ませんし、税理士としての署名・押印は致しません。考えてみれば当然で、僅かな報酬でこちらまで手が後ろに回っては、たまったものではないからです。(僅かでない時はどうしましょう?)
3.事案の概要ある税理士が関与先の社長から、期末の売り上げの繰延べを頼まれました。本来今期末にあげるべき所、翌期のものとして処理をし、今期の税金を少なくしようとするためです。 よくある話で、期間をずらしただけと言えば、そのとおりではあるのですが、税務上は認められません。こんな事が数年続く内、つまり、毎期毎期売上げの繰延べをする中で、利益率が異常なものになってしまったのです。業種により、その利幅は概ね一定しているもの。それが極端な繰り延べをすれば、利益率が異常なものになるのも当然です。 ただ、社長に断りもなく、仕入れ金額まで調整してしまったのはちょっとやり過ぎ?税理士のミスまで重なって、大幅な利益調整をして(つまり脱税)申告書を作成したのです。 同業者の肩を持つわけではありませんが、一カ所ごまかすと、次々と辻褄合わせが必要なのも事実です。調査に選定されないようにとの彼の気持ちは痛い程理解できます。 一方、社長は内容を検討もせず、言われるままに署名押印。 さて、案の定、税務調査となりました。 税理士としての気遣いだったのでしょう。税務署に指摘される以前に、具体的な脱税の手口を記した上申書を作成し、社長に提出を勧めました。これで調査は終わるからと言われ、社長も渋々上申書に署名です。が、これで終わるほど税務署は甘くはない!通常、法人の調査は3年分です。が、税務署は相当な悪者と判断したのでしょう。あろう事か7年分も修正しろと言って来たのです。この時、社長は初めて事の真相を知ることに!
4.税理士の損害賠償責任さて、脱税をした場合、差額の本税の他、重加算税と言う罰金が課されます。税理士が勝手に作成した申告書の内、社長の知らない部分はこれが免除されるかと言えば、答はNO。重加算税がしっかりかかってしまうのです。対税務署上、総ての責任は署名した社長にあり、が大原則。 元々悪いのは社長でも、税理士の対応に怒り心頭、どうにも収まりません。税理士の首を切り、当社に御鉢が…。嫌な役回りです。税理士に対して、どんな手段が講じられるか、ご質問を受ける羽目に。相応分の損害賠償のご説明をしながら、我身に置き換えると複雑な心境でした。ただ、このケースの様なことでお困りのお客様に対し、税務署との交渉をし、解決していくことも税理士としての仕事。お客様の結論はミスの分と税理士の勝手な操作分の請求です。 不名誉な話ですが、税理士に対する損害賠償は年々増加の一途。そんな不測の事態に備えるべく、税理士損害賠償保険があり、我々業界の常識になっている程です。 脱税のお手伝いは今後もしないつもりですが、ミスは本当に怖いもの。色々な言葉が脳裏をかすめます。明日は我が身、他山の石、月夜の晩ばかりではない、盛者必衰…。 でも、最後は決まってお気楽ムード、褌(ふんどし)ならぬパンツのゴムを引き締めて、ミスのないよう仕事仕事!
2001年6月29日
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5108号
借地権の有無と税務署の見解
頭では何となく分かっていても、今ひとつ判然としない財産に借地権があります。
そもそも借地権が存在するのか否か、あるとすればどの位の評価か、今回はこの曖昧模糊とした借地権の存否がテーマです。
1.第三者なら判定は容易親の代から借地人さんがいる場合、金額の多寡は別として、地代を貰っていればほぼ間違いなく立派な借地権が存在します。契約書があってもなくてもです。
相手が他人であれば、判断はそれ程難しいものではありません。一定の賃貸期間とただではない地代の収受がポイントです。
2.同族法人が問題です問題は個人の土地に同族法人の建物が建っている場合です。『無償返還の届出書』と言う書類の提出があれば、若干の評価はするものの、理論的な話は別として、基本的には借地権はないと考えてよいでしょう。 この届けがない場合、色々なチェックが必要です。賃貸契約開始時に権利金の支払いはあったか、地代の水準は固定資産税の何倍か、賃貸期間はどれ程か、等々です。 相当程度グレーな問題で、税理士泣かせのテーマなのです。
3.借地権の有無で変わる相続評価と買戻し法人に借地権がある場合、地主である個人は底地だけの評価です。借地権の割合が6割なら底地は4割、7割なら3割で足して1が基本です。 応用編として、相続時に個人の底地を物納する事も可能です。物納後、地主は国に替わるものの、地代さえ払えば法人の事業はそのまま継続。法人が賃貸マンションでも経営していれば、収益確保も十分可能。国は底地を第三者に売却はしないのです。法人に資金さえあれば、買い取り交渉は国側も望むところで、時価での売買。昨今のように地価が下落傾向なら、かつて高い評価で物納した底地を安く買い戻す絶好の機会なのです。
4.親子に借地権なし親子の場合はどうでしょう? 親の家の庭先に子が建物を建て、世間並みの地代を払う、よくあるケースです。 基本的にはこの関係、何年続けても借地権は生じません。相当に高額な権利金を払ってまで借地契約をする親子はいないでしょう。 借地権が生じない代わりに、子が地代を払わなくても、また、権利金を払わなくても贈与税の対象にはならないのです。
5.来る人によって違う税務署の見解さて、話は再び個人の土地に法人建物がある場合です。無償返還の届け出もなく、借地権の存否が不明なケース。仮に古くなった法人建物を取り壊し、今度は個人が建物を建てるとしましょう。知らない仲ではない両者。特に立ち退き料の支払がなくても不思議ではありません。が、ここで法人の調査があったとしましょう。法人に借地権はあることが大前提とされるでしょう。そして、本来当然に貰えるべき立ち退き料、借地権相当額を貰わなくても貰ったものとして受贈益。それに相当する金額を個人に寄付したとして、計算されます。一見、収益と費用でツーぺイですか、寄付金課税でほとんど経費にならないのです。一方、個人も法人からの寄付で一時所得の課税です。また、その個人が法人の役員であれば、その役員に対する賞与。個人はその金額の給与課税、法人は損金不算入となり、全額課税の対象というダブルパンチです。 今度は、個人の調査があった場合です。
理論的な話はさておくと、実務では何も言われません。法人に借地権があったのではないのか、あれば立ち退き料を払うべきだから、その分が必要経費となるはず。その分必要経費として申告額から控除しましょう、などとは口が裂けても言いません。 税務署もお役所です。縦割り行政のなせる技、自分の得にならないことは一切しないのです。逆に、法人部門に連絡し、法人で否認したら如何ですか、と耳打ちすることもありません。幸か不幸か税務署って、そう言う所なのです。2001年5月31日
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5107号
時価って、一体何ですか?
同じ一人の人間にも、夫、父親、会社員と色々な側面があるもの。同じ事が土地や株式の時価についても言えるようです。
1.土地の時価の多面性一口に土地の時価と言っても様々です。路線価、固定資産税評価額、公示価格に基準価格等、一つの土地にも色々な価格が付されています。その土地の見方や目的によって、それぞれ異なる価格が算出されることになるのです。様々な時価があるため、土地は一物四価とも、五価とも言われる所以です。
2.土地を売買するときの時価は?例えば親子間で土地を売買するとしましょう。親子間での売買は、税務署の目も何かとうるさいもの。ただ、適正な価格での売買であれば、何の問題もありません。問題はこの時の価格で、個人間なら所得税法上の時価が問われます。 税務上の土地の時価で、最も馴染みの深いのは路線価でしょうか?しかし、路線価はあくまで相続税の時価であり、所得税の時価ではありません。相続時には処分等をする場合も多いもの。評価に余裕を持たせて、路線価は実際の売買価額よりも低い価額にしてあるのです。いや、してあるそうです。 話は戻って、所得税、つまり交換や売買の場合の時価。鑑定評価をとれば、適正な時価も算出されますが、簡便法としては公示価格です。 もっとも公示価格は総ての地点に付されてはいません。路線価が公示価格の概ね8割相当であることから、路線価を0.8で割返す方法が一般的でしょう。所得税では、実際の売買価格に近い価額が求められているのです。 公示価格は固定資産税評価額の基礎ともなっており、税務署も公示価格を売買時の時価と考えている節はあります。
3.非上場株式の評価非上場株式についても同様です。この株式にも実は色々な時価があるのです。
例えば、相続税の株式の評価方法の一つに、純資産価額方式なる方法があります。これは、先ず初めに路線価等から計算した純財産を時価ベースで算出。次に帳簿上の純財産を計算です。この両者の相違は、前者が時価で後者が簿価。つまり、前者には土地や株式の含み益部分が反映されているのです。 相続評価では、時価ベースでの純資産価額から、この含み益部分の42%を控除して、低い金額で計算をして良いことになっています。
4.非上場株式売買時の時価さて、問題は個人や法人が非上場の株式を売買するときの価額です。売買となれば、所得税、法人税の世界です。が、これらの税法には、非上場株式の価額を求める算式の法律上の規定はありません。時価で計算しろとしか言っていないのです。そこで相続税評価を準用するのが一般的な実務です。 ご注意いただきたいこと。法人税でも株式売買時の株価算定に当たり、前述の純資産価額方式を使うのはOKです。が、実務的には通達により42%控除は認められません。 つまり、含み益を反映した高い価額で売買しなければならないことになります。 相続時の評価とは、会社の解散を前提とした時の時価なのです。会社を解散するとなれば、清算した時の法人税等を計算しなければなりません。その時の法人税等の合計税率を42%とし、控除対象としているのです。
売買は解散を前提としないために、この控除は認められない理屈です。時価と一口に言っても、このように様々です。土地にも株式にも色々な顔があるわけで、ケースによって使い分けです。
人間は、とかく肩書きで判断しがちです。本当は唯のオジサンであることも多いもの。筆者も仕事柄、おだてられ“先生”なんて呼ばれますが、事務所内で先生の呼称は禁止です。色々な顔もあるものの、基本的には事務所の所長、残念ながら普通のオジサンです。2001年4月27日
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5118号
代償分割、贈与への応用!
相続で財産の分割をする場合、財産の種類や構成によっては、争いがあるわけではなくても、分割が難しいケースがあります。例えば小さな土地一つだけで、3人の相続人がいる場合です。こんな時、利用できるのが代償分割と言われる手法です。本来の目的以外にも、工夫次第では面白い利用方法が…
1.代償分割とは?相続人ABCの3人に対し、財産が前述のように小さな土地だけ、の想定です。売却すれば現金で分けられるものの、Aだけが相続すればBCは不満です。そこで、土地はAが相続するものの、その代わりにAが自身の預金を取り崩し、BCに相応分を支払うと言うもの。これが代償分割と言われるものです。分割協議書にAだけの相続を記載し、その後BCに資金を渡せば贈与税の対象です。しかし、代償分割を分割協議書に記載した上で実行すれば、贈与税の課税もありません。
因みに相続税の計算上、代償物を貰うBCは代償債権として課税され、支払うAは代償債務として借金と同じ扱い。つまり、財産からの控除項目になるのです。
2.俺が死ぬまで払え!昔、相続人2人、兄妹でもめにもめた事案がありました。土地が大半の相続案件です。妹が折れる形で決着がつくかに見えたものの、兄はどうしても小銭が欲しい。そこで最後の切り札です。妹が兄に対し、二人の内どちらかが死ぬまで、毎月一定額を支払うという約束で一件落着。珍しい代償分割ですが、問題は相続税額の算出に際し、これをいくらで評価するかです。仮に1年に100万円払うとしましょう。期限のないものを、しかもどちらが先に死ぬか解らないものを、どう評価するのでしょう?
3.税法上の評価方法結論から申しあげると、生存条件付有期定期金の評価と言って、生存中に限って定期的に受けられる権利の評価方法が定められているのです。定期金とはこの種の金銭を受ける権利を言います。やや専門的になりますが、このケースでは期限が決まっている場合(有期定期金)と決まっていない場合(終身定期金)とを比較し、いずれか低い額で評価して良いことになっています。有期の場合の年数の前提は平均余命も一つの方法でしょう。
さて、問題は終身定期金の評価方法です。1年間に受けるべき金額×評価倍数 と言う代物(しろもの) で下記の通り。
評価倍数法
権利取得時の年齢 倍 数 権利取得時の年齢 倍 数 25歳以下 11倍 50歳超 60歳以下 4倍 25歳超 40歳以下 8倍 60歳超 70歳以下 2倍 40歳超 50歳以下 6倍 70歳超 1倍 このケース、兄の年は56歳のため、年間100万円なら4倍で400万円の評価。
つまり、4年でもとを取る計算です。
4.こんな工夫で実質贈与!さて、上記の場合、4年以上兄が生存すれば、それ以降は課税もされず、丸儲けの勘定です。と言うことは、意識的にこの手の代償分割を親子でした場合、実質的な贈与が可能になるのではないでしょうか?
例えば、夫婦の間に子が一人で夫の相続がおきた場合です。配偶者控除を利用して、財産の半分までは無税で相続。分割協議の際、母が子に代償分割で払い続けるケースを考えてみます。年間1000万円として、子が40代なら6年、50代なら4年経過後は毎年無税で1000万円が子に移行できる計算なのです。相続税の節税にはつながりませんが、母と子が共に長生きできれば、贈与ができた上に母の相続時には財産が確実に減少していることに!二次相続の対策だってできちゃいます。
何故、この様なことが可能なのでしょうか?定期金の評価方法が杜撰(ずさん)だからです。税務の世界はいつも同じで、これをやる人数が少ない内はお咎め無し。増えれば必ず評価方法の見直しです。早い者勝ち、やった者勝ちですぞ!2001年3月29日
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5106号
本年分確定申告の総括-税務署の審判はこれからです-
今年も確定申告は終了しました。弊社でお手伝いをした事案の中で、今後の皆様の参考になりそうな事柄のご紹介特集です。ご注意頂く点、見習うべき点、お役に立てれば幸いです。
1.共有なのに一人で申告、売却時の申告は?母子で半分ずつ共有の土地がありました。 月極駐車場です。所得税ではこんな時、実際の管理状況や使用方法に関係なく、半分ずつ、二人で申告することになります。登記簿上の所有関係だけで決まってしまうのです。 さて、上記の状況で長年にわたり、母が全額を一人で申告していました。勿論間違いです。が、税務署もいちいち登記簿と照合なんかしていません。それはそれで指摘も受けなかったのです。 問題は、この土地を売却することになり、事業用資産の買換えの適用を受けようとしたことです。税務署に相談に行ったそうです。本来は共有なので、二人とも買換え特例の適用を受けたい旨を話したら、答はNO。 母は申告をしているため適用できても、子は無申告だから駄目と言うのです。 こんな時、税務署は決して救いの手を差しのべてはくれません。解決策はただ一つ。今から過年分を修正し、二人の申告のやり直しです。母は減額、子は増額で、若干の附帯税はかかっても、本来の姿に戻せばいいのです。これでも駄目なら、あとは得意のどなりこみ作戦。声の大きさなら自信はあります。
2.いつまで事業の用に供したか?同じく事業用資産の買換えです。郊外に約千坪の土地をお持ちの地主さんで、その土地で貸し倉庫を営んでおられました。 倉庫のテナントが退去したため、新たな借り主探しです。が、いい所まで話は行くものの決まらず、4年の歳月が経過。とうとう売却のご決断をなさったのです。 さて、事業用資産の買換えは、売却時点で事業用でなくても構いません。かつて事業用であれば、その後相当の期間内に売却すれば特例の適用は可能です。 10年前までは事業用と言われても、それは無理というもの。4年、5年は微妙です。期間的な事柄もさることながら、問題は事業用でなくなってから、転用があったのかどうかです。 子供が居住用に改造したり、事業以外の使用法があったりすれば、もはや、事業用ではありません。 今回のケースでは、テナント退去後、引き続き借り主を捜していたこと、他に転用がなかったことを、書面で証明できたため、問題はないものと思われます。
3.取得価額が不明でも、諦めないぞ!土地や建物を売却した際、税金はその売却によって得られた売却益に課税です。
言うまでもなく、この売却益、売却価額から取得原価や譲渡のための諸経費を控除して計算されます。 問題は10数年前に買った不動産の取得価額が、書類が火災で消失してしまっているため、不明なのです。税務上、相続等による取得のように、その年月が古く判然としない場合には、売却価格の5%を取得費として計算して良いことになっています。 今回も勿論これで計算はできるのですが、5%では実際よりも少な過ぎ、不利になってしまうのです。5%が嫌なら真実の金額を証明でる書類で立証する必要が生じます。が、火災でそれは無理。
このお客様、当時の売り主である不動産屋に、自分と同じ契約書の控えがあると考えたのです。やっと探し当てた不動産屋でしたが、運悪く既に倒産。これにもめげず、元社長の自宅を突き止め、概ねこの金額である旨の念書を印鑑証明付きで取ってきたのです。
なんたる執念、お見事の一言です。パチンコで2~3千円投資して、出ないと直ぐに諦める筆者とは大きな違い。大いに見習うべき姿です。但し、これで税務署が納得するかどうかは、今後の課題です。執念に栄光あれ!2001年3月29日
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5105号
生産緑地選択の悲劇
東京の中でも練馬区や世田谷区は、未だに畑が多く残っています。そして、よく見ると『生産緑地指定地区』の看板が。何のことか、馴染みのない方も多いことと思います。
要するに、農地としてこの指定を受けることにより、宅地としての高い評価を免れる制度、とでも言えるでしょうか。
基本的に、東京や横浜など、大都市の市街化された地域にある農地(以下、都市農地と呼びます)では、農業を継続していくことは非常に厳しい状況下にあると言うことです。
何が厳しいのか、それが本日のテーマです。
1.固定資産税はどうなる?都市農地、正確には三大都市圏の特定市街化区域内農地と言います。農地となれば、固定資産税の評価は、非常に安いのです。
が、この地域の農地は、本来市街化を進める区域のため、宅地並の課税となってしまうのです。農業を辞めろとは言えません。どうしてもと言う人には、生産緑地の申請を提出させ、その指定をしています。これで、例外的に非常に安い、農地としての課税です。
ただ、これには条件が付きます。自分の都合で農業を辞め、土地の有効活用をすることは許されないのです。辞められるのは、①死亡②一定の故障事由(重度の身体的障害等)③30年間の営農の場合だけです。途中で辞めても、罰金を払えば済む訳ではありません。
そして、これらの事由が生じた時も、自動的には宅地化できないのです。市町村長に農地の買い取り請求ができるだけで、要は簡単には宅地転用ができないと言う事なのです。
2.相続税はもっと大変です!かつては都市農地においても、相続税の納税猶予制度がありました。農業を継ぐ相続税が、相続後20年間農業に従事すれば、晴れて相続人は農地分はただ同然で免除です。 しかし、今や都市農地の状況はそう甘くはありません。納税猶予を受けようとすれば、先ずは生産緑地の指定を受けることが必要です。その上で、生涯、亡くなるまで農業を続けることが要求されるのです。途中で辞めれば猶予されていた相続税を支払い、利息分の延滞税も覚悟をしなければなりません。 相続人が生涯農業をやるかどうかは別にして、父親が固定資産税のために生産緑地を選択していると、とりあえず相続時の評価は生産緑地の評価です。ただ、この生産緑地の評価は、固定資産税とは異なり、期待するほど評価の低いものではありません。若干の造成費分は控除できるとしても、宅地の5%引きと考えて頂いて大きな間違いありません。
3.結論は相当な覚悟が必要です結論を申しあげます。本人も相続人も農業一筋で今後の人生を送る覚悟があれば、何の問題もありません。都市農地でも、生産緑地を選定し、固定資産税の負担は軽いまま。相続税だって終身営農で納税猶予されれば、結局のところ納税負担はないのです。めでたしめでたしのハッピーエンド。 が、しかし。相続人は農業を継がない、本人も最低30年農業をやれるかどうかは分からない、となると既に生産緑地を選定している場合、もはや打つ手はありません。相続を待って農地をはずし、初めて相続対策です。
4.調整区域の市街化区域への編入都市計画法という法律があります。市街化を促進すべき区域(市街化区域)と、抑制すべき区域(市街化調整区域)の線引きをし、国土全体として、均衡のとれた街作りを目指そうとするものです。 この法律が昨年改正となり、一言で言うと都道府県による線引きの見直しが、この春から施行される予定です。これにより、従来調整区域だったところが、市街化区域に編入の可能性があるのです。 編入された地域に農地がある場合、生産緑地とするかどうかを、その時点で選択しなければなりません。都市農地になり、放っておけば翌年から固定資産税は100倍以上に、その後の相続は納税猶予も不可能になるからです。ご本人も相続人も農業一筋でないならば、はっきり言って、生産緑地は選んではいけません。有効利用も相続対策も、何一つできないからです。冷たいようですが、法律は東京近郊では、農業をやるなと言っているのです。
2001年2月28日
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5104号
一緒でいいのは夫婦だけ
-兄弟も、共有になると他人です-相続が起こりました。遺言書はありません。相続人である3人兄弟はさんざんもめた挙げ句、結局ひとまず総てを共有です。もちろん、これは緊急避難、問題の先送りに過ぎません。 共有を避けるべきは、遺産分割における基本中の基本です。親子間の共有以外は、争いのもと。果たしてその後、共有物の分割を巡り、長い長い相続人間の葛藤が続いたのです。
1.共有状態の解決策共有状態になっていると、処分、売却等の意思決定をする場合、原則として、共有者全員の合意が必要になります。それが面倒なため、それぞれの方が単独行動ができるよう、共有物の分割が普通です。 この共有物の分割、持ち分が均等なら、分割後のそれぞれの価格も均等でなければなりません。価格差がある場合、贈与税の問題が生じるからです。逆にいえば、価格差さえなければ何の課税関係も生じないことになるわけです。
2.三者交換はできません例えば図イのように、AとBが相互に所有するものを交換する場合の税務を考えてみましょう。金銭のやりとりが無くても、税務上はAもBも双方ともに土地の売却となり、譲渡税の対象です。但し、次の要件を満たす場合は場合は譲渡税の課税はありません。①同じ種類の固定資産であること②双方の資産が1年以上保有しており、かつ、交換の目的で取得したものでないこと③交換後、従前と同一の用途に供すること④両者の差額が多い方の金額の20%以内であること、等々です。
さて、今回の相続人は3人であるため、図ロのような交換が考えられます。が、これは税務上認められません。交換はあくまで1:1の相対の関係を想定したものなのです。
3.最終的な解決策は、それでも交換今回のケース、解決策の結論を申し上げましょう。
図ハをご覧下さい。相続人3人はXYZそれぞれの土地を共有し、持ち分はそれぞれ1/3です。X土地のBの持ち分とY土地のAの持ち分との交換を①とし、同様に②③の交換を同時に行います。
結果、X土地はAの単独名義に。Y、ZもB、C単独とすることができるのです。
もっともこれは説明の便宜上、3つの土地が総て等価であることが前提です。しかし、このような考え方で、複雑な共有物の様々な問題を解決することも現実に可能なのです。
問題の発端は共有です。寂しい気もしますが、兄弟は他人の始まり。これくらい割り切ってお考えにならないと、後で争いの種を蒔く結果となってしまいます。兄弟が他人なら、夫婦は何なのでしょう?愛妻家の筆者にとっては正にベターハーフ。生涯の伴侶です。決して他人ではありません。
2001年1月31日