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代表 高木康裕が自身で執筆しております。
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新たな税務の情報や事例をご紹介。
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5366号
賃貸建物の生前贈与のポイント!
所得税や相続税の対策として、また効率的な管理・運営のため、個人所有の不動産を法人化することはとても効果的な手法です。しかし、家賃収入を次世代に移転できれば良いのだというのであれば、子どもなどへ単純に生前贈与するのが最も簡単です。この場合のポイントは何なのか、探ってみましょう。
1.家賃収入を移転する賃貸建物から生じる家賃収入、そして所得は当然に所有者に帰属します。ここで、所有者が親世代であれば、今後はもう家賃収入を得る必要は無いので子どもたちに早めに収入を移転したい、ということもあるでしょう。早く移転させたい、要は相続まで待てないというのであれば賃貸建物を生前贈与すれば良いのです。そうすれば自ずと家賃収入は贈与を受けた人に移ります。言うは易しですが、実際には贈与税の負担を考えなければなりません。贈与税の計算で用いる評価額は、相続税評価額と同じで賃貸建物であれば固定資産税評価額の70%です。贈与税のことを考えるのであれば、生前贈与に適している賃貸建物は、相続税評価額が比較的低いものになります。イメージ的には築年数がある程度経過した建物といった感じです。築年数は多少経過しているが、しっかりと稼いでいる物件であればベストです。ちなみに、外壁塗装などの大規模修繕が必要そうな建物は、贈与前に工事しておくのが良いでしょう。なぜなら、修繕をしたとしても、あくまで建物の維持管理費である以上は固定資産税評価額が変更されることはないからです。つまり、贈与する親が通常の大規模修繕を行っても相続税評価額は変わりません。その分お得に贈与できるということです。
2.地代は無償で良い家賃収入はあくまで賃貸建物から生じます。したがって、アパートなどであれば贈与対象は建物だけでOKです。アパート敷地まで贈与するとなると相続税評価額が大きくなってしまいます。目的は家賃収入の移転であるならば、建物だけを贈与すれば良いのです。そして、その敷地は相続時に建物の所有者が引き継げば問題ありません。遺言書を作成して土地の相続先を決めておけばスムーズに承継できることでしょう。この場合、建物の贈与後は土地と建物の所有者が異なりますが、個人間ですので地代は無償とする使用貸借契約で問題ありません。逆に地代の授受をしてしまうと借地権課税の問題が発生してしまいます。地代は無償にしておきましょう。
マンションなどの敷地権付の区分所有建物は建物だけの贈与はできないため、贈与対象は土地建物一体です。
贈与するのであれば、事前にマンションの相続税評価額を確認しておきましょう。
3.負担付贈与には注意賃貸建物の生前贈与を行うときには、非常に注意しなければならない点があります。それは、負担すべき債務を付けたままの贈与、いわゆる負担付贈与にしてはいけないということです。
敷金・保証金や、借入金などの負担が付いたままであると、この負担付贈与に該当してしまいます。これに該当すると、賃貸建物を時価で評価しなくてはならなくなり、相続税評価額を利用して贈与することができなくなってしまうからです。そのため、このような場合には債務に相当する現金相当額を同時に贈与して、実質的な債務の負担を無くすようにしましょう。敷金・保証金であれば、その分の現金を渡してあげれば良いのです。ところが、借入金となるとそう簡単にはいきません。金額も大きくなるでしょうから現実的には現金精算はありえません。そのため、借入金が多額の場合には実務的には難しくなります。ちなみに、実質的な負担を引き継がせないようにと、当事者間では借入金相当の債権債務を別に認識すればテクニック的には可能でしょう。いずれにしても多額の借入金があると実務的には少し厄介なのです。
4.時価と相続税評価額の差が大きいと有利生前贈与をするのであれば、時価と相続税評価額の差異が大きい方が効果はあります。低い相続税評価額でより大きな物件を贈与できるのですから、通常は家賃収入の相対比率も高くなるはずです。なお、都心のマンションはこの差異が比較的大きくなる傾向が強いです。令和4年4月の最高裁判決のことを心配する方もいるでしょうが、判示では時価と相続税評価額の乖離が大きいことだけをもって否認することはできないとされています。今回の生前贈与は、その目的からすれば問題が生じることはないでしょう。なお、生前贈与をして3年を経過すれば相続税の計算に取り込まれることがなくなり、財産の切り離しが終了します。
5.法人化との選択贈与をすれば家賃収入を移転できます。しかし、移転したとしても贈与を受けた子どもに相応の給与収入があれば所得税対策にはなりません。税負担全体を考えるのであれば、移転する収入(所得)規模と受贈者の所得税負担も考慮する必要があります。
単純に生前贈与を行うべきか、それとも法人化を選択すべきか、是非とも総合的に検討したうえで賢い選択をしましょう。2022年11月30日
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5365号
相続分譲渡を賢く使う
相続の手続きは、遺言が無ければ相続人間で遺産分割協議を行って決めることになります。この協議は全員の合意が必須ですので、当事者の人数が多くなれば協議自体がかなり面倒な手続きです。争いが無くとも手間と時間が掛かるのです。遺産分割をスムーズに進めたい!そんな時は相続分の譲渡が活用できるかもしれません。
1. 相続分の譲渡相続人は遺産全体に対して割合的な持分を有しており、これを相続分といいます。相続人が配偶者と子1人であれば1/2ずつの法定相続分を持つことはご存知の通りです。この相続分ですが、実は他の共同相続人や第三者に譲渡することが可能です。相続分の譲渡を行うと、その相続人は遺産分割協議の当事者から外れます。その代わりに譲受人がその相続分の権利・義務を引き継ぐというわけです。
したがって、相続人間で相続分の譲渡を行えば、遺産分割協議の対象人数を減らす効果があるのです。
話し合いの当事者が減るのですから、相続人の数が多い場合には、遺産分割の手続きがスムーズになることが期待できます。譲渡は無償・有償のどちらでも構いません。無償であれば譲渡を行った相続人は手続きから抜けて何も相続しなかったことになります。有償で譲渡した場合には、代償分割と同じように考えますので、その譲渡代金が相続財産になります。
なお、借金などの相続債務がある場合には注意が必要です。相続分の譲渡をした人は相続手続きから抜けるのですが、相続放棄と異なり債権者から責任を免れることができない(対抗できない)とされています。
2.相続放棄より活用できる?遺産の取得を希望しない、遺産分割に参加したくないというのであれば、相続放棄をすれば済むことです。相続債務の問題も回避できます。また、現物財産の相続ではなく、金銭を望むのであれば代償分割を選択すれば良いのです。それでは、相続分譲渡の利用価値は何なのでしょうか。先ほどの考え方は、あくまで譲渡を行う人からの視点です。しかし、相続分譲渡を受ける相続人側からすると利用価値を結構見出せるのではないでしょうか。
※相続をできるだけ意識させない!
このような事例がありました。被相続人には配偶者や子がいなかったため相続人は兄弟でした。ただし、その内の1人は面識も無い異父兄弟の子だったのです。兄弟の気持ちとしては他人と変わりません。調べてみると、地方在住で高齢なことが分かりましたので、もしかすると相続には興味がない可能性もありそうです。そこで、まずは相続を意識させずに遺産分割から抜けてもらうことができないかを考えました。ご挨拶の手紙に、相続財産は多少の預金しかなく、自宅は借地であるためその手続きに迫られていること、今後の相続手続きが煩雑になることから、今回は被相続人の近郊にいる他の兄弟だけで手続きを進めたい旨を伝えました。すると、幸運にもそれで結構、構わないという回答が届いたのです。すぐに、無償の相続分譲渡証書を作成して郵送したところ、実印と印鑑証明書も無事に受領できたというわけです。
ちなみに、相続放棄をするときは本人が裁判所に対して手続きを行う必要があります。また、手続き後には裁判所から相続放棄についての照会書が届き、本当に放棄する意思があるかどうか、その経緯についても細かな確認がなされます。否が応でも相続財産の状況を意識させられるのです。遺産争いや煩雑な手続きから離脱させたいだけ、というのであれば相続分譲渡は一考の価値ありです。
3.こんなケースでも活用※お金で早期に解決!
相続人の1人はお金に困っているようでした。金銭を少しでも早くと欲しがっており、相続手続きも煩わしい感じです。そこで、遺産分割を行って預金の解約手続きをするのでは時間が掛かるので、他の相続人が相続分を有償で買い取るのはどうかと提案してみました。結果、これも上手くいきました。実質的には代償分割と同様ですが、その後の遺産分割協議の登場人物を少なくできました。実は、他の相続人同士は仲が良かったこともあり、揉める可能性・不安要素を先に片づけておくためにも、相続分譲渡を活用して早急に済ませたかったのです。
相続分譲渡を利用すれば、遺産分割協議に参加しない人を作り出せます。上手に話がつけられるのであれば、遺産の全容を開示せずとも、話を進めることだってできるでしょう。要は相続人の交渉力次第です。
4.第三者への譲渡はやめるべき相続分譲渡は、実務的には相続人間で行うことを考えます。第三者(法人含む)へ譲渡することもできますが、その場合には相続税とは別に贈与税や譲渡税の問題を考える必要があります。そもそも、相続にまったく関係なかった方が遺産分割に参加してくるのですから良いことなどありません。相続人間であればこそ、賢い利用方法にできるのです。
2022年10月31日
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5364号
宗教法人への寄附、税の優遇は?
国や地方公共団体だけではなく、公益法人等へ寄附を行った場合にも税制上は優遇措置があります。公益というと公益社団法人・公益財団法人、学校法人やNPO法人、宗教法人などが思いつくことでしょう。これらの法人は、大きなくくりとしては公益法人等という同じ枠組みの中にあります。それでは、宗教法人へ寄附をしたときに税制上の優遇は何かあるのでしょうか。
1. 所得税の優遇は?公益法人である宗教法人へ寄附をすると所得税はお得になるでしょうか。まずは難しく考えず、感覚で捉えてみましょう。いままでの経験と常識で考えてみれば、一般的に神社や寺に金銭の寄附をしたからといって所得税が軽減されるようなことは無かったはずです。それに、宗教法人への寄附が対象になるのであれば、それこそ本人の思いだけで、様々な団体への寄附が税の優遇対象になってしまうことでしょう。したがって、所得税の寄附金控除の対象からは宗教法人は除かれているのです。お世話になったので神社や寺に大きな寄附をしたいのだけれど、税金上は何か特典がありますか?と聞かれることが時々ありますが、残念ながら何も無いのです。
ちなみに、宗教法人への寄附が全て対象外ということではありません。財務大臣が指定する寄附金であれば、それは特別に対象になります。この指定、国宝や重要文化財を修理・保護するための寄附が一般的ですが、大きな災害が起きたときは本堂などの建物修理についても指定されることがあります。たとえば、東日本大震災のときは、被災した宗教法人の建物等の復旧費用に対する寄附金が指定対象になったこともあります。このような災害時はアンテナを張っておくのも良いでしょう。
2.相続税の優遇は?次に相続税を考えてみましょう。
所得税や法人税では、「科学または教育の振興、文化の向上、社会福祉への貢献等のため」という目的で、寄附金控除があるのです。そのような趣旨からすれば、相続税についても同じような制度を設ける必要があるでしょう。
そこで、相続した財産を申告期限までに公益法人等へ寄附をしたときは、その財産には相続税を課税しない、つまりは非課税扱いとなっています。具体的には、相続税の課税対象そのものから寄附財産が除かれることになるのです。
なお、注意点は申告期限までに寄附をする必要があることです。申告期限を過ぎてしまうと適用外になってしまいますので、気持ちがあるのであれば、早めに対応しましょう。それでは、対象になる寄附先はどこなのでしょう。
先ほど述べた通り、趣旨としては所得税と同じ意味合いです。そういうことですから、対象となる寄附先は所得税の優遇対象と同じ、と考えてもらって実務的にはOKです。したがって、こちらも残念ながら宗教法人は含まれません。考えてみれば当たり前ですが、もし宗教法人が対象になっているとすれば、相続人が被相続人のお金を懇意の団体へ寄附したらそれは非課税、というようなことになってしまいます。宗教法人は、市民全体との関わり合い(公共性)というよりは、檀家などの特定の方とのつながりが強い法人と考えているのでしょう。
なお、所得税と同様に考えれば良いということは、地方公共団体への寄附であるふるさと納税も対象になるということ。つまり、あくまで相続財産の範囲内ですが、ふるさと納税をするとその金銭は相続税の対象外になるのです。
3.不動産を寄附した場合譲渡所得の対象になるもの、たとえば不動産や株式そのものを公益法人等へ寄附することもあります。寄附のため無対価なのですが、税金のルール上は時価で売却したとみなして、譲渡所得税を課税することになっています。ただし、国や地方公共団体への寄附と、公益法人等への一定の寄附であれば、譲渡所得税を課税しなくてもよいという制度があります。
それでは、この制度の対象になる寄附先はどこでしょうか。所得税や相続税と同じなのでしょうか?正解は、この制度に限っては宗教法人もその対象に含まれているのです。公益目的のための財産提供、その行為に関してまで譲渡所得税を課税することはしない、といったところでしょうか。先ほどの所得税や相続税の範囲より少し広く考えているのでしょう。そのため、この制度では一般社団法人・一般財団法人であっても、非営利性が徹底された法人であるならば対象になってきます。
この制度を利用するには、要件を満たしているかどうかについて国税庁長官の承認を得なくてはなりません。寄附を受ける公益法人側にも要件チェックがあり、協力してもらう必要があるため実務的には結構面倒です。
4.どうせなら生前対応相続人が宗教法人へ寄附をしても、相続税は面倒を見てくれません。相続税を減らしたいのであれば、生前に寄附を行って財産を減らしておくか、または遺言書で金銭を直接遺贈すればよいのです。備えあれば憂いなし、生前の対応次第です。
2022年9月30日
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5363号
遺留分への対策はお早めに
相続の際には揉めることが無いようにと、遺言を用意しておくとします。円満相続のための第一歩といったところでしょうか。その際、相続人には遺留分という最低限の権利があるため、一定の配慮が必要になってきます。もし遺留分を侵害してしまうと争いに発展するケースだって有り得ます。遺留分への事前対策ができるか否か、それが運命の分かれ目なのかもしれません。
1. 遺留分とは自分の財産、相続が起きたら誰に何をどのように引き継がせるかを、自分で決めることができるのは当然です。つまり、遺言書を作成すれば、自分の意志のもと財産の承継方法を指定することができます。
しかし、特定の親族や親族以外の人に全財産を渡してしまうと、残された相続人は住む家すら失ってしまうかもしれませんし、生活に困窮することだってあり得るでしょう。そこで、相続人には一定割合の財産を取得する権利が保障されており、これを遺留分といいます。そのため、遺言書で定めた財産の取得額が遺留分に満たない場合には、その足りない分を請求することができ、これを遺留分侵害額請求といいます。ちなみに、この遺留分は兄弟姉妹にはありません。相続人が兄弟姉妹の場合には、遺言書を作成しておけば争いが生じることは無いのです。
この遺留分は、相続人が直系尊属(両親や祖父母)だけの場合は財産の1/3、それ以外の場合は1/2が対象です。例えば、相続人が配偶者と子2人の場合は遺留分の対象は1/2です。各相続人はこれを法定相続分で分けることになるので、配偶者は1/4,子は1/8ずつの遺留分を有するという具合です。
2.遺留分の計算方法遺留分の対象となる財産の計算方法を確認します。
遺留分の対象となる財産 = 相続財産 + 生前贈与財産※ - 相続債務
(財産は時価計算)※加算対象の生前贈与財産は次のものです。
(1) 相続開始前1年以内の贈与
(2) 遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与
(3) 相続開始前10年以内の相続人に対する特別受益としての贈与
(婚姻・養子縁組・生計の資本のための贈与)
それでは、特定の相続人ができるだけ多くの財産を承継できるように、遺留分への対策を考えてみましょう。
3.遺留分の生前放棄は可能?家庭裁判所の許可があれば、相続人は遺留分を生前に放棄することができます。したがって、これができれば遺留分を気にせずに柔軟な遺言書の作成が可能です。ただし、裁判所に認めてもらうには合理的な理由が必要になります。一般的には、「遺留分放棄の代償と考えられるような相応の生前贈与を受けた。よって私には遺留分は必要ない。」というような理由です。しかし、遺留分を放棄させたい相手とは、そもそも多額の財産を渡したくない相続人ではないでしょうか。そうするとこの制度、実務的に利用できるケースは限られることでしょう。
4.生前贈与を活用する遺留分の計算に組み込まれる生前贈与は、通常は長くても過去10年間のものです。多額の生前贈与であっても悪意が無ければ10年より前のものは関係ありません。
つまり、早いうちからの計画的な贈与が功を奏します。
例えば、取引時価が1億円のマンションを所有しているとしましょう。遺留分の計算では当然1億円の財産としてカウントされます。しかし、相続税評価額は2~3千万円程度ということはよくある話です。そこで、生前に贈与をしてしまいます。贈与税は相続税評価額で計算しますが、10年経てば遺留分の対象額からは時価の1億円分が減少します。ご自宅マンションであれば、配偶者贈与の2000万円控除を利用することで贈与税を軽減することができます。また、相続時精算課税の2500万円控除も利用価値があるかも知れません。
いずれにしても、早い段階からの計画的な生前贈与が実は遺留分対策にもなるのです。ポイントは、時価と相続税評価額の差額が大きいものを移転することです。
5.生命保険金の活用生命保険金は、民法上は相続財産ではありません。あくまで受取人固有の権利だからです。したがって、遺留分の計算対象から生命保険金は原則除外されます。預金や株式を解約して、一時払終身保険へと変更してしまえば、遺留分の計算対象はその分減少します。相続直前は問題になりそうなので、余裕を持って実行しましょう。
6.不動産の法人化不動産も同じです。所有する不動産を同族会社へ適正価格で売却して法人化します。売却代金は計画的な生前贈与で減らすとともに、保険金に代えてしまいましょう。そうすれば遺留分の計算対象から消えてしまいます。悪意と見られるような行き過ぎた行為はダメですが、相続対策の一環ならばリスクは軽減することでしょう。遺留分を気にするなら、早めの遺言と対策です。
2022年8月31日
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5362号
土地の交換、当事者の合意価額で大丈夫!
共有土地の整理、底地や借地の整理など、権利関係の整理を行うにあたって交換が必要になることがあります。いわゆる固定資産の交換といわれる取引きです。この交換取引、それが等価であれば当然に清算金は無いでしょうし、税負担も原則生じません。それでは、ここでいう等価とは何なのでしょうか?
1. 交換の特例物と物を交換する場合でも、原則的には税務上は譲渡所得税が発生することになっています。売った、買ったという取引きについて代金授受を省略しただけである、したがって売った事実があるのだから譲渡所得税を課税するのだ、と考えれば分かり易いでしょう。
そうは言っても、実際には代金を受領していないのですから担税力は無いとも考えられるところです。そこで、税務上は特例を用意しており、これが「固定資産の交換の特例」という制度になります。この特例、次の要件を満たしていると適用することができます。
(1) 交換対象の譲渡資産と取得資産はいずれも固定資産
(2) 土地と土地、建物と建物のように同種類の資産
(借地権は土地と同じ種類グループになります)
(3) 譲渡資産は1年以上所有しているもの
(4) 取得資産は、相手方が1年以上所有しており、かつ交換目的で取得していないもの
(5) 取得資産の用途は譲渡資産と同じ用途で使用すること
(譲渡資産が宅地であれば宅地、居住用建物であれば居住用など)
(6) 譲渡資産と取得資産の時価の差額は、高い方の価額の20%以内であること
2.当事者が等価であれば良い先ほどの特例要件を見てみましょう。物々交換と考えれば、(1)~(5)の要件は比較的満たせる取引きが多いのではと考えられます。注意するのであれば、土地と土地付建物の交換です。建物は土地とは同種資産ではないことから、この場合の建物は交換の特例対象にはならず、清算金の一種として見られてしまいます。
次に(6)の時価についてですが、土地の場合で考えてみます。世の中にはまったく同じ土地など無いのですから、路線価や公示価格、鑑定評価をもって、いくら確認したとしても等価になるということは有り得ません。しかし、ここは時価などという細かなことは抜きにして、一般論として考えましょう。通常の交換取引はその前提として、当事者同士では等価であると認識して行うことが多いでしょう。当然、清算金もありません。なぜなら、路線価評価額などにたとえ差額があったとしても、当事者の話し合いでは等価と認識するからです。それが当事者間で合意した価額なのです。そうであるなら、税務署が取引価格について一方的なルールを押し付けることや、文句を言う筋合いは本来ないはずです。そこで、いわゆる利害関係がない第三者間における交換取引については、税務署も文句を言わないことになっています。つまり、利益を与えるような関係がない相手との交換は、路線価評価額や公示価格に乖離があったとしても、当事者が等価として合意するのであればそれを認めるというわけです。もっとも、相当に乖離があれば清算金(差金)の認識をする可能性はあります。
3.底地と借地権の交換底地(土地の所有権)と借地権の交換取引を行うことがよくあります。下記の300平方メートルの土地について、地主と借地人で交換取引を行い、A土地は借地人、B土地は地主へと整理を行うイメージです。
この図では、借地権割合が60%地区であることから借地人が180平方メートルの土地を取得したかたちですが、必ずしもこのようにする必要はありません。先ほどの合意価額と同じで、当事者が決めたのであれば借地権割合に縛られる必要は無いのです。取引きですから力関係で決することになります。したがって、借地権割合が60%であっても50対50で交換をすることも往々にしてあり、税務上の問題はまったくありません。借地権割合が60%なら、その割合で交換しないと税務署から目を付けられてしまう!と、交渉する人もいるようですが騙されないようにしましょう。あくまで当事者で決めれば良いのです。
4.親子間はダメ当事者の合意価額、これが認められるのは利益の移転を考えない間柄での取扱いです。そのため親子間の交換取引では認められません。では、親子間の交換はどのようにすれば税務署は文句を言わないのか?これは、個別事例でしょうから、是非弊社までご相談を。
2022年7月29日
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5361号
路線価評価、最高裁判決の影響は?
令和4年4月19日、税理士業界で注目されていた最高裁判決が下されました。この判決、新聞など様々な紙面にも載ったのでご存知の方も多いことでしょう。もしかすると、今年一番の話題かもしれないので、ここでも少しだけ取り上げることにします。この判決、端的に言えば、土地建物の評価にあたって通達評価(路線価評価)が否認された事案です。さてさて、その内容が気になります。
1. 事案の内容新聞報道では「路線価認められず」などと、いかにも煽った報道がされましたが、結局のところどのように考えれば良いのでしょう。まずは事案内容のおさらいです。
札幌にいた被相続人は90歳を過ぎてから相続対策を目的に不動産の購入を行い、その後94歳で亡くなりました。時系列と内容は以下のとおりです。(1) 平成21年1月に甲不動産(東京の物件)を購入
(2) 平成21年12月に乙不動産(川崎の物件)を購入
(3) 平成24年6月に死亡、相続開始
(4) 平成25年3月に相続人は乙不動産を売却なお、上表の申告評価額は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額によって評価した、いわゆる相続税評価額のことです。被相続人は亡くなる3年半前~2年半前に札幌とは関係のない東京と川崎の不動産を多額の借入金によって購入することで、評価額を購入価格から10億円超下げたのです。しかも、乙不動産は相続税の申告期限前である死亡後9か月で売却をしています。これに対し税務署は申告評価額を認めず、鑑定評価額で評価し、更正処分を行いました。
2.ポイントは何?この被相続人、元々は相続税の課税価格が6億円超あったにもかかわらず10億円を超える評価差額を利用し、他の相続財産と減殺して課税価格を約2800万円にしてしまいました。つまり、相続税の基礎控除額以下となり相続税負担をゼロにしたのです。この案件、はたから見ても少しやり過ぎた感があるのは否めないでしょう。以下に、判決のポイントを簡単に挙げておきます。
(1) 財産評価基本通達による評価(いわゆる路線価評価)を用いることを原則否定できない。
しかし、租税負担の公平に反するなどの合理的理由がある場合には、通達評価額以上
(鑑定評価額)による評価が許容される。
(2) 評価差額が多額に生じているということだけをもって、通達評価(路線価評価)の否定は
できない。
(3) 租税負担の軽減を意図して、期待して、不動産の購入・借入を行ったことで、他の納税者
と看過しがたい不均衡が生じている場合は、租税負担の公平に反する。
判決文なので理由を示していますがどうでしょう。この判示内容をみても明確なガイドラインを引くのは難しいのではないでしょうか?やはり抽象的なニュアンスが残るのは致し方ないと言ったところです。私見ですが、相続開始後9か月弱で乙不動産を売却してしまったこと、これがひとつの引き金になったのでは?と思ってしまいます。やはり、相続後に売却するのは心証が悪すぎるので止めておくべきでしょう。
3.これからどうなる大事なのは、路線価や固定資産税評価額を用いた通達評価額を、税務署は合理的な理由がない限り否定することができないということです。つまり、路線価評価を全面否定するものではないのです。
自己資金で不動産を購入するのであれば、問題が生じることはないでしょう。また、自宅や親族の家を購入した、資産の組換えを行った、などは借入金があっても問題にならないケースも多いことでしょう。このような場合には、取得した物件を相続後に売却するようなことは通常は無いはずです。節税以外の目的、ストーリーを語ることができるか否かがポイントなのです。
4.何事もほどほどに数年前に問題となったタワマンもしかり。節税以外の理由もなく相続直前に購入し、しかも相続後に売却してしまっていたら、指摘してと言っているようなものです。国税も裁判所も、法律があったとしても根本は人です。癪に障らせて、怒らせたらアウトです。最高裁判決は、世間へのやり過ぎはダメですよ!との注意喚起なのでしょう。それでも線引きはどこ?と不安ですので、そこは是非とも信頼できる税理士へ相談です。
2022年6月30日
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5360号
法人化、資産移転時のポイントと誤解
所得税・住民税の最高税率は、復興税まで考慮すると55.945%です。これは、あくまでも所得が4000万円超の部分に適用される税率ではあるものの、稼ぎの半分超が税金です。個人的には50%超というのはいかがなものかと思ってしまいます。そこまでの所得がなかったとしても、個人は法人に比べると税負担が重くなる傾向は否めません。そこで、法人化(法人成り)を考えるのですが、法人への資産の移転、ポイントを押さえれば怖いことはありません。
1. 法人化する際の売却価格法人化を行うときは、個人で所有している事業用資産などを法人へ移転することになるでしょう。その際における売却価格は当然時価を参考にして決める必要があるのですが、それはどのような価格にすれば良いのか。そのポイントは次のようなところでしょう。なお、移転する資産は様々なものが考えられますが、ここでは金額の大きい不動産を対象に考えましょう。
(1)土地は公示価格
土地の売買を考えるときは、時価指標の1つである公示価格が目安になります。路線価は公示価格の80%相当として定められていますので、実務的には相続税評価額を80%で割り戻した金額とすることが多いです。
(2)建物は主に帳簿価額
建物の売買を考えるときは、取得金額から減価償却費を控除した後の帳簿価額、いわゆる簿価が時価の目安です。そうは言っても、建物が古いと減価償却が終了して簿価が1円になっているものもあります。そういう場合には、固定資産税評価額なども参考にしながら問題とならないような価格を決めます。
(3)マンションは取引事例価格も参考に
マンション、いわゆる区分所有建物は土地と建物が不可分一体です。そのため土地と建物を合わせて考える必要があります。土地や建物そのものであれば、上記(1)や(2)の価格について税務署が文句を言うことはまずありません。ところが、マンションの場合には単純に土地と建物の合計額=取引時価になるというわけではないでしょう。そこで、マンションの相続税評価額や、上記(1)や(2)の金額も参考にするのですが、取引事例も調べましょう。マンションの取引事例価格は、インターネットである程度調べることができますが、不動産会社が活用している「レインズ」を用いれば、過去の成約価格や現在の売出価格を調べることが可能です。そこで、レインズの価格も参考にしながら、税務上問題にならない価格を決めていきます。ケースバイケースなので、税理士の経験と勘が求められるかもしれません。
(4)時価の2分の1以上を死守する
税務上問題にならない価格と(3)で述べましたが、そのポイントは何でしょう。法人化の際、わざわざ売却益を計上したくはないでしょうから、通常は多額の売却益が出ないように決めたいはずです。時価にはある程度の幅があるので多少の融通は利きますが、売主である個人が一番注意すべき点は時価の2分の1未満にはしないということです。万一これを税務署から指摘されてしまうと、多額の所得税負担が生じて目も当てられないことになるので、絶対に回避しなければなりません。マンションの場合には取引事例価格も気に留めて決定しましょう。
2.売却代金を授受しないと贈与になる?さて、無事に価格も決まり法人へ売却しましたが、代金の精算はどうしたら良いのでしょう。不動産であれば金額も大きくなるので、一括で代金支払いをできないケースが多いことでしょう。法人が借り入れするのも良いのですが、でもご安心ください。必ずしも一括払いにする必要はありません。売却代金は当事者間の貸し借りということにして、分割払いにしてしまえば良いのです。売買時に代金精算しなければ贈与になる?という話を聞いたことがありますが、そんなことはありません。税務上は売却代金の貸し借り、これを契約書に記載するなどしてしっかりと認識しておけば問題ないのです。
3.売却代金の分割払いと利息売却代金を貸し借りとして処理するのであれば、次は利息を定めないと贈与になる?とお話をされる方がいます。結論からいうと無利息でも問題はありません。法人化ですので、あくまで法人が個人から代金相当を借りているようなものです。このようなケースでは、非常識な取引きでなければ、通常は利息を認識しなくても課税上は問題が無いことになっているのです。
4.税務上のルールを知って上手に実行法人化にあたって、個人と法人との間で土地の賃貸借が生じるのであれば借地権課税の問題が生じないようにする必要があります。土地の無償返還制度や相当の地代制度を活用しつつ、場合によっては定期借地契約を考えることもあります。
法人化すれば、役員報酬や給与の支給などを活用して所得の分散を図れるようにもなります。税務上のルールを押さえれば如何様にも対応できるのです。2022年5月31日
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5359号
多額の退職金、ふるさと納税には恩恵無し
皆様のちょっとした楽しみになっているふるさと納税。令和4年1月号でも取り上げましたが、最近また違う相談を受けたので、ちょっとしたお話をしようと思います。ふるさと納税をしようと思い立つと、いくらまでが税金上損をしないのか、その限度額が非常に気になるところです。だからこそ、特別に大きな収入があった年は、いつもより限度額が増加するのではと期待してしまうことでしょう。
1.ふるさと納税の限度額が気になるふるさと納税は、自己負担額2000円を除いた寄附金額を、所得税と住民税から控除するという仕組みです。したがって、納める税金が増えれば当然に限度額も増加します。
いつも納税額が多い方であれば気にしないのかもしれませんが、一般的にはふるさと納税の限度額が100万円を超えるような方は少ないことでしょう。だからこそ、臨時収入があり納税額が増えることが予想される年があったとすれば、ここぞとばかりに、いつもより多めに寄附ができるだろうと淡い期待をしてしまいます。
そこで、多額の臨時収入が発生する場合を考えるのですが、最も良くあるケースとしては、不動産の売却をしたときが考えられるのではないでしょうか。
2.不動産や株式の譲渡益があった時こそ不動産を売却したといっても、居住していた自宅の場合には、たとえ売却益があっても3000万円控除などの特例があるため多額の税金が生じることは稀です。ふるさと納税の限度額が増えるためには、大きな譲渡益が生じて、かつ、納税額も多額にならなければダメなのです。したがって、該当するケースとしては、相続税の納税などのために相続で承継した不動産を売却したようなときが考えられます。また、株式等を売却して多額の利益が生じることもありえます。このようなときは、例年よりも納税額が増えることから、ふるさと納税の限度額も増加します。
いずれにしても、いつもよりも納税額が増加するのであれば、ふるさと納税の限度額を試算してみると良いでしょう。思ったより寄附をすることができるかもしれません。
3.多額の退職金をもらった年の限度額不動産や株式の譲渡があればよいといっても、多額の利益が生じる方は現実にはそう多くはおられないことでしょう。そうすると、一般的には大きな所得が生じることは無いのでしょうか。
そこで考えてみると、サラリーマンの場合でも大きな収入を得る機会が1度だけあるのです。それは、ズバリ退職金です。終身雇用が崩れてきたと言っても、いまだ数千万円に上る金額の支給を受ける方も多いことでしょう。
退職金については、通常は源泉徴収をされて課税関係が終了することから、わざわざ確定申告をするようなことはありません。しかし、源泉徴収されたとはいえ大きな所得が生じていることは確かです。そうすると、確定申告書に退職金を記載すれば、ふるさと納税の限度額も増加するのでは?と思います。でも本当にそうなのでしょうか。
4.残念!退職金は対象外ふと思うと、そういえば今年は定年退職で多額の退職金をもらったことを思い出しました。そこで、ここぞとばかりに、どこに寄附をしようかとふるさと納税の検討に入ります。所得が実質増加したのだから、ふるさと納税の限度額も当然に増加するのだろうと思いがちです。でも、それって実は落とし穴なのです。正解は、いくら多額の退職金があったとしても、住民税から差し引かれるふるさと納税の控除額にはまったく影響が無いのです。
ふるさと納税の寄附金額は、所得税と住民税からそれぞれ控除されて、その控除額を合算すると寄附金と同額(2000円を除いて)になるという仕組みです。つまり、所得税と住民税それぞれから控除されなくては意味がありません。退職金を確定申告書に記載すれば、確かに所得税の控除枠は増加するのですが、住民税の控除枠は一切変わりません。したがって、住民税を考慮した限度額が増えないことから、結果としてふるさと納税という観点からは影響が無いと考えた方が良いというわけです。
住民税では退職金は特別扱いされており、課税ルールが違うというのが原因です。退職金は他の所得とは区別して完全分離課税で計算するため、通常の住民税の計算には一切影響を与えません。ふるさと納税を活用しようといった淡い期待も、残念ながら面倒をみてくれないのです。
5.損得だけではないのかもふるさと納税の寄附金による住民税の控除は、寄附を行った翌年分からになります。もしも、ふるさと納税をした年に死亡をしてしまったらどうなるのでしょう。実は、翌年は住民税が課税されないので控除は受けられなくなります。損をしたような気になりますが、そもそも最後の年の所得については、住民税を納めなくて良いというメリットがあるのですから、残念がる必要は無いでしょう。
ふるさと納税は、その制度の宣伝もあってか、なぜか損得を考えがちになります。しかし、あくまで寄附なのですから、事前に計画を立てながらも、いっそ細かなことは気にしないぐらいが良いのかもしれません。2022年4月28日
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5358号
成年後見を使わずに財産管理
認知症になったからといって、日々の生活ができないということではありません。今も昔も家族の協力のもと、できるだけ同じように過ごすことでしょう。ところが最近は、本人の意思確認が取れないと、法律的には色々と厄介事が増えます。一番うるさいのが、ズバリ銀行です。成年後見を付けないと預金の引き出しには応じないなどと言ってきます。でも、預金のためだけに成年後見を本当に利用するのですか?
1.成年後見は全財産が対象です認知症が進行して判断能力が低下したことを銀行が知れば、預金の引き出しはできなくなります。そして、成年後見(法定後見)の利用を薦めてきます。別にこのこと自体は正しいのですが、成年後見は一旦スタートしたら途中で止められませんのでご注意ください。
成年後見の趣旨は、本人を保護・支援するため、つまりは守るためのものです。財産管理のための制度と思いがちですが、それは本人を守るための一環として行っているのです。したがって、全財産は裁判所の監視下に置かれ、一切の融通が利かなくなってしまいます。本人の財産を守るための制度なのですから、言わずもがなです。でもこれって視点を変えると、本人保護の名目のもと全財産が凍結されることとあまり変わらないのでは。
2.自分では管理ができない成年後見を開始するということは、判断できない人なので守ってくださいと宣言するようなものです。当然、新たな資産運用はできず、土地の有効活用だってできなくなります。本人の財産が減少する行為である生前贈与を行うことなど、もってのほかです。相続対策は何もできなくなってしまうというデメリットがあります。
しかも、通常は裁判所が選任した第三者が成年後見人となり財産管理を行うことになります。したがって、財産は家族の元から完全に離れて、コントロール外になります。
3.預金を引き出したいがために成年後見の申し立て動機のトップは何だと思いますか?普通に考えれば、不動産の売却や相続手続きなど法律行為に支障が出たから、または、身上保護や介護契約のために申し立てをしたのだろうと思うことでしょう。ところが違うのです。裁判所の統計値をみると、なんと預貯金等の管理・解約のためがダントツ一番なのです。
世の中どれだけ銀行がうるさくて、仕方なく成年後見制度を使わざるを得なかったのかという結果です。
4.成年後見でなくても何もできなくなるので成年後見は使いたくない。しかし、預金の引き出しに支障がでるのは避けたい。そのようなことであれば、まずは次のような手法を考えてみるのはどうでしょう。
(1)財産管理契約
令和3年2月、全国銀行協会は預金の引き出しに関して新たな指針を出しています。そこには、親族等であれば生活費等を引き出せるケースも書かれているのですが、実際にはいろいろとハードルが高そうです。そこで代わりに、財産管理契約を活用することを考えます。いままでは、たとえこの契約があったとしても、銀行によっては預金の引き出しに応じてくれないことが多かったのですが、この指針では取引が可能であると記載されたのです。ただし、任意後見契約とセットでないとダメと言われる可能性はありそうです。
(2)代理人指名手続
銀行で、あらかじめ代理人を指名する手続きを行います。そうすれば、本人の判断能力が低下した後もその代理人が出金できるようになります。なお、できることはあくまで出金だけです。
(3)予約型代理人サービス
三菱UFJグループで提供しているサービスですが、これを利用すると預金の入出金や投資信託の解約など様々なことを代理人ができるようになります。本人が元気なうちに代理人を指定する必要があるのは上記(2)と同じですが、日常必要なことはほとんど何でもできてしまいます。この制度を使えば、もはや成年後見を利用する価値は無くなってしまうかもしれません!2022年3月31日
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5357号
生保の加入状況を一発検索!
どの生命保険会社にどれだけの契約をしているのかどうか、きちんと把握をしていますか?せっかく保険に加入していたとしても忘れてしまっては元も子もありません。特に相続が開始すると、被相続人がどのような保険に加入していたかどうか、その内容が分からないことも多いのではないでしょうか。受け取れるはずの保険金、もらい忘れがないかどうか確認する方法が実は最近できたのです!
1.生命保険契約の照会制度家族の死亡の際、生命保険の手がかりがないため契約状況を把握できず、困ってしまったことはないでしょうか?このような場合、いままでは預金からの保険料の引落し記録や保険会社からの契約内容のお知らせなどを調べて、各生命保険会社に個別に問い合わせを行うしかありませんでした。しかし、全ての保険会社に問い合わせをすることは現実的にはできませんので、網羅できたかどうか不安です。そのようなこともあり、令和3年7月以降からは、「生命保険契約照会制度」というものが新たにできました。この制度を利用すれば、どの会社と生命保険契約を締結しているのか、その有無を一括照会できるようになったのです。
いままでは「もう分からないのでいい!」と、あきらめていた古い保険契約、もしかしたら発見できるかも知れませんよ。
2.調査対象に注意この生命保険契約照会制度ですが、仕組みとしては生命保険協会が窓口となって各生命保険会社に調査依頼を行うことで契約の有無を検索します。したがって、あくまで調査対象は協会に加盟をしている生命保険会社です。そうはいっても、日本で営業する生命保険会社の全社(全42社)が加盟をしていますのでご安心ください。通常はもれるようなことはないでしょう。郵便局で加入する保険でさえ、いまや株式会社かんぽ生命保険という生命保険会社が扱う商品ですので、当然対象に含まれています。ただし、次のものは調査対象外のため、いままでどおり個別に調べるしかないので注意です。
(1)農業協同組合などの共済契約
(2)支払いが開始した年金保険契約
(3)保険金等を据置きとした保険契約
(4)財形保険契約・財形年金保険契約
3.具体的にはどうなる?調査結果は、生命保険契約の有無です。保険契約者又は被保険者となっている生命保険契約があるかどうか、それがどの生命保険会社なのかを調べるものです。したがって、契約の具体的な種類までは分かりません。契約があることが分かったら、各生命保険会社に問い合わせをするようにしましょう。
ちなみに、照会制度は次の3つの事由が生じたときにだけ利用できます。実務的に考えれば、相続開始のときの(1)死亡時に利用することが多いでしょう。
(1)死亡
(2)認知判断能力の低下
(3)災害時の死亡又は行方不明
4.相続時には利用すべきかさて、相続が開始したときですが、この制度は利用すべきなのでしょうか?
相続税試算をあらかじめ行っており状況把握ができている、保険契約リストを作成済みである、などであれば利用する必要は無いと思うかもしれません。ただ、その内容が全てを網羅しているかどうかは分かりません。生命保険金は請求をしなければ受け取ることができないのですから、万全を期すならせっかくの制度を活用しない手はないでしょう。
弊社が相続税申告のお手伝いをさせていただくときには、照会制度のお声がけをしますので、その際には是非とも一度利用をしてみてください。
ちなみに、照会制度の利用には料金が掛かりますが手数料はたったの3000円(税込)です。3万円と言われるとさすがに躊躇するでしょうが、この金額であれば悩むような金額では無いのでは。
5.税務署も利用するのか?照会対象者が死亡している場合、生命保険契約の照会を行うことができる人は原則法定相続人ですが、その代理人でもできます。また、遺言により遺言執行者が定められているのであれば、その遺言執行者も行えます。
遺言執行者に税理士が就任している場合で、照会制度を利用しなかったばかりに生命保険金を把握しきれず、後々相続税の申告漏れが生じてしまったときはどうなるのでしょう?専門家責任に問われてしまいそうで少し怖くなります。
いままでは確定申告内容や預金の入出金状況などから把握していた生命保険契約ですが、税務署も職権によりこの制度を利用するかもしれません。被相続人の分はもちろん、相続人の保険情報も調べ上げ、課税漏れがないかどうかお上は全てお見通しかも?!2022年2月28日
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5356号
ふるさと納税の返礼品だって課税対象!
平成20年度の税制改正で導入されたふるさと納税制度。すでに10年以上が経過したこともあり、世の中に相当浸透されました。使わなきゃ損とでもいうように、インターネット上には効率的に返礼品を検索するためのふるさと納税支援サイトがあふれています。この返礼品、実は所得税の課税対象なのですが、ご存知ですか?
1.ふるさと納税を再確認ふるさと納税とは、都道府県や市区町村へ寄附をしたときに税負担を軽減してくれる制度です。実際に軽減される金額は各人の所得金額に応じて計算され、一定の寄附金までであれば寄附金合計から2000円を差し引いた額が税金から控除されます。したがって一定の寄附金まで、いわゆる限度額までの寄附金であれば、実質的な自己負担は2000円ということになります。ちなみに、詳細な説明は割愛しますが、限度額は次の計算式で求めることが可能です。
限度額 = 住民税の所得割額 × 20% ÷( 90% - 所得税の限界税率 )+ 2000円
給与所得だけの方であれば、総務省は控除額計算シミュレーションまで用意してくれていますのでホームページを見てみると良いでしょう。
そして、ふるさと納税の一番の魅力?とも言われるのが、寄附に対する各自治体からのお礼の品、いわゆる返礼品です。食料品を筆頭に、雑貨、衣服、温泉宿泊券など、いまやその種類は数えきれない程あり、もはやカタログギフトよりも充実しているのではないでしょうか。
なお、ふるさと納税の控除を受けるためには確定申告が必要です。申告義務の無い方で寄附先が5団体以下の場合には、確定申告を必要としないワンストップ特例もありますが、医療費控除などを受けるために確定申告を行う場合には注意です。たとえワンストップ特例の申し込みをしていたとしても、確定申告をする場合には寄附の記載をしなくてはならないのでお忘れの無いように。
2.返礼品は一時所得扱い返礼品を受け取った場合、それは地方公共団体という法人から利益を受けたものとなり、一時所得として所得税の課税対象になります。一時所得は、収入金額から50万円を差し引いた残額の2分の1が課税対象になるため、次のように計算します。
一時所得の課税対象 =( 返礼品の額 - 50万円 )× 1/2
つまり、他の一時所得がないのであれば50万円を超えない限りは課税されません。そのようなこともあり、多額の寄附をしているお客様には課税のことを伝えるものの、実際には確定申告で計上しないこともしばしばです。当然、税務調査があれば指摘がされることになるのですが、この返礼品の額、いったい何円分として計算すれば良いのでしょう。
本来は、いくら相当の返礼品なのかをひとつずつ調べたうえで積み上げる必要があるのですが、現実的にはいくらなんでも酷です。
そこで、実務的な落としどころですが、最近の返礼品は寄附金額の3割を目安に設定されていることを使うのが良いでしょう。したがって、200万円の寄附をしたのであれば60万円相当を受けたとして計算すれば文句を言われることは無いということです。
3.税務署はいくらから目を付けるのか税務署はどのくらいのふるさと納税を行っている人に目を付けるのでしょうか。返礼品の合計額が50万円を超えると一時所得の問題が生じます。よって、50万円を返礼品割合3割で割り戻すと約166.6万円、つまり170万円を超える寄附をした方をピックアップしているようです。時々テレビなどで、返礼品でこんなに得をしたなどと自慢している有名人などがいますが、彼らはしっかりと申告していたのでしょうか?税務署に調べてくれと言っているようなものです。もし申告していなかったとすれば、すでに税務署からの接触があったことでしょう。
4.令和3年からは寄附金領収書でなくてもOK確定申告を行う際には、地方公共団体からの寄附金領収書そのものを用意する必要があります。しかし、令和3年分の確定申告からはふるさと納税支援サイト事業者経由での寄附は、その事業者が発行する証明書でも良いことになります。寄附先が複数ある方はとても便利になりましたが、この証明書は国税庁が指定する事業者のみが発行できます。当然、ふるさと納税支援サイトは指定業者になっているのですが、裏を返せば税務署は寄附先に問い合わせするまでも無く、事業者から寄附金の内容を把握できるようになったということです。
サイト事業者から情報を吸い上げるシステムが完成したとみるべきなのでしょう。
5.これからどうなる?さらに税務署としては、寄附金領収書などに返礼品がいくら相当であるかの金額記載をして欲しいと要望を出しているようです。そうすると、返礼品が何円相当なのかについても簡単に情報を得られるようになります。
令和3年は、返礼品に対するチェック強化元年なのかも知れません。2022年1月31日
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5355号
児童手当の見直しに騙されるな
令和4年10月支給分から、児童手当の支給要件が改正されることはご存知でしょうか?中学校卒業前までの子どもを養育している場合、いままではどんなに所得があったとしても最低限として月額5000円の手当てが受けられました。これが、来年10月からは新たに所得制限がかかり、支給が0円になるケースが生じることになったのです。ただ、そもそもこの改正、何かがおかしいことに気づいていますか?
1.子ども手当の導入背景平成22年度の税制改正によって、平成23年分から扶養控除が改正されたのですが、内容は覚えていますでしょうか?23歳未満の子を扶養している場合の扶養控除は次のようになっていました。
平成22年分まで(所得税の控除額、以下同じ)
・16歳未満・・・38万円控除
・16歳以上23歳未満・・・63万円控除
つまり、義務教育後の高校生から大学生の間は教育費がかかるだろうということで、控除額が多くなっていました。
ところが、平成23年からは子ども手当の支給と高校授業料の実質無償化という2つの政策(民主党政権時)が導入されることになりました。そこで、これに平仄を合わせるために23歳未満の扶養控除が次のように変更されたという訳です。
平成23年分から現在まで
・16歳未満・・・0円(控除無し)
・16歳以上19歳未満・・・38万円控除
・19歳以上23歳未満・・・63万円控除
つまり、中学生までは扶養控除を削減して子ども手当の支給で対応、高校生は高校授業料の実質無償化があるので控除を減額、大学生以上はいままでどおり、といった感じでしょうか。ちなみに、「子ども手当」はその後「児童手当」へと改変されています。
2.「控除から手当」の精神はどこへ?子ども手当や高校授業料の実質無償化の導入背景、それは「控除から手当(給付)へ」というものです。このあたりで当時を思い出した方も多いのではないでしょうか。そもそもの考え方は、高所得者ほど税効果によって負担軽減額が大きくなる扶養控除は制限する必要がある。代わりに、支援の必要な方に有利になるように、手当て支給型に切り替えるというものです。このような背景で導入されたのですから、支給額に差異はあったとしても、対象者全員に対して支給がなされなくてはおかしいのです。
3.政府の言葉に騙されるな今回の児童手当の改正ですが、おおよそ1200万円以上の年収がある親がいる家庭では、支給額を0円にするという内容です。いままではどんなに所得があっても最低月額5000円は支給されていました。したがって、単純に支出額を減らすための政策といったところでしょう。政府としては、社会保障費の財源確保のためだと言えば所得がある世帯からは文句が出ないだろう。だから、取り易いところから取ってしまえということです。
マスコミなどの報道をみても、そもそもの導入背景からしたらおかしい!などの意見はまったくと言っていいほど見かけません。いかがなものなのでしょう。
過去の経緯を踏まえれば、社会保障費の財源というキーワードをうまく使って騙したということは一目瞭然なのですが、、、
4.配偶者控除や基礎控除の改正もしかり最近は、所得控除関係の改正が頻繁に行われた結果、配偶者控除や基礎控除の利用にも所得制限があります。
配偶者控除は、所得が900万円を超えると控除額が減少し、所得が1000万円超になると0円です。給与の高いサラリーマンは文句を言わないだろうからと、そこを狙い撃ちにした増税に見えて仕方がありません。
基礎控除は、人として最低限の生活に必要なお金には税金を課税しない、という考え方によって設けられているものです。ところが、これも改正がなされてしまい、所得が2400万円を超えると控除額が減少し、2500万円超になると0円になります。もはや、税制の考え方や法律上の理念は無くなってしまったようです。
また、なぜに2400万円から制限をしたのでしょう?もしや、法律をつくる側、つまり事務次官などの高官には影響が及ばないようにと、彼らのモデル給与を参考に設定したのではないか?と、悪意ながら疑ってしまいます。
5.取り易いところから取る最近の税制改正は、理論的なことはともかく、取り易いところから取るという安直な内容が多いような気がしてなりません。
コロナ後の増税がとても心配な今日この頃です。ここはまさに、上手な節税を提案できるか否か、税理士の腕の見せ所。是非ともご相談を!2021年12月24日