お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5298号
退職金の使い方
"退職金の使い方"とは言っても、資金の運用や活用方法ではありません。身内だけで会社の意思決定ができる同族会社のような場合(以下、単に同族会社と言う)には、退職金は法人税や相続税の節税対策に、絶大な効果を発揮するのです。そこで今回は、それらの節税対策のために退職金をどう利用するかについて考えてみました。
1.法人税法上の制約まず、ここでの退職金は同族会社の役員に限定します。従業員と言う身分では、多額な退職金の支給が見込めないからです。税法の規定では原則的には退職金は法人の経費になります。但し、過大と認定された部分の退職金は、経費とならないことになっています。実はこれが非常に難しいのですが、教科書的な適正額は次のとおりです。
最終月額報酬×役員の在籍年数×功績倍率
種々の条件によっても異なりますが、一般的には功績倍率は2.0~3.0程度でしょうか。創業社長や特別な功績があれば、この限りではありません。但し、実務ではそれ以前に絶対額がモノを言います。以前にもお話しましたが、都心は田舎に比べてかなり高額でも目立たないため、認められることも多いのです。場所によるのが実状です。
2.死亡退職金と言う使い方被相続人の死亡に伴う退職金については、相続税の対象にはなりますが、非課税枠が用意されています。500万円×相続人の数で、相続人が4人いれば2,000万円もの非課税枠となる訳です。相続に際し、同族会社の役員であればこれを利用しない手はありません。
ただ、問題は月額報酬です。生前に高額な役員報酬を支払っていれば、それがそのまま現預金の形で相続財産を形成してしまいます。さりとてある程度の金額を支給しなければ、上記の算式で計算した際に、期待できるような金額の退職金になりません。従って、早目に役員報酬を支払い始め、役員の在籍年数を長期にすることが得策です。場合によっては当初は少額に留め、漸増させる方法も効果的でしょう。
3.相続税の納税資金にも死亡退職金の場合、それを受給するのは相続人です。つまり、相続人はその受給した退職金を、相続税の納税資金に充当できると言う事になるのです。もし、納税資金が足りず、延納や銀行からの借り入れで賄った場合、その利息は何の経費にもなりません。しかし、同族会社に潤沢な資金があれば、その資金で充当できますし、潤沢でない場合でも、会社が退職金支給目的で借り入れをすれば、その利息は会社の経費です。つまり、本来は相続人が個人的に負担すべき納税資金を、会社に転嫁できると言う事なのです。
4.生前の退職金もこんなに有利!生前に退職金を支払う事もあるでしょう。この場合、受給した退職金はその方の退職所得となります。勿論所得税の対象となるのですが、これが通常の所得と較べ、格段に税負担が少なくて済むのです。その計算方法ですが、まずは勤続年数による控除額を控除します。20年以下の場合は1年当たり40万円ですが、最低でも80万円は控除できる仕組みです。また、20年を超える部分については1年当たり70万円。従って、30年勤続の場合には、70万円×(30-20)+40万円×20で何と1,500万円も控除できることになります。更に実際に課税される金額は、役員の在籍年数が5年超ならこの控除額控除後の金額の1/2。30年勤続2,000万円の退職金なら、控除後は500万円でこの1/2の250万円にしか課税されません。しかもこれは分離課税のため、他の所得と合算されることもなく、課税される退職所得の金額に税率を乗じればいいのです。従って、例えば自宅の建て替え等の具体的な資金の活用方法が決まっているならば、生前の退職で低い税負担で現金化。それを基に相続税法上非常に有利な評価となる建物にすれば、3,000万円の現金が1,000~1,200万円程度に変身です。
5.生前退職の注意点但し、生前の退職金支給に当たっては、退職に伴う実態が必要です。"退職したことにして"実際には経営に関与していれば、退職金の支給は経費とは認められません。退職後、単にそれまでの役員報酬を若干引き下げたり、相変わらず大株主として経営を差配できる立場にあったり、非常勤となったりするだけでは、真実の退職とは認められません。役員としての地位又は職務の内容が激変し、実態が伴わなければならないのです。取締役を退任して、形式的にだけ監査役になったりするのも同様です。また、分掌変更等に伴い役員報酬が激減する場合も、激減と言うからには概ね従来の報酬の50%以上の減額は必要でしょう。 このような注意は必要ですが、退職金の支払いは会社に多額の経費を生じさせることにもつながります。保険金の満期時の大きな利益が生じる場合にこの退職金支給を合わせたり、株価を一気に引き下げ、その時点での株式贈与に活用したり、魅力満載の退職金を検討することは有用です。
2017年3月31日
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5297号
結局、解決されない”タワマン節税”
本年の税制改正で改正前から注目されていた項目に、いわゆる"タワマン節税"があります。改正内容の詳細は、別途今月号の『え~っと通信』に譲りますが、結論を言えば、大山鳴動して鼠一匹、と言ったところでしょうか。実は筆者はこの程度の改正になることを、かねてから"予測"していました。なぜなら、この改正がそれ程簡単でないことは、火を見るより明らかだからです。
1.タワマン節税とはタワマン節税(タワーマンション活用の節税策)を一言で言えば、相続税においてマンションを評価する場合、高層階の部屋は節税効果が大きいと言う事なのです。マンションの相続税評価は実際の時価とは無関係に、土地部分と建物部分を分けて評価し、その合計とするものなのです。マンションは土地の立体利用なので、高層マンションになればなる程、土地部分の占める割合は低いもの。建物は建築価額に比べかなり低額の固定資産税の評価に基いて計算します。が、固定資産税そのものは、マンションの建物全体での評価。それを部屋の持ち分に応じて按分するため、高層階でも低層階でも床面積が同じなら同じ評価額になる仕組みです。現実には高層階の方が眺望が良いため、低層階より売買価額は高いと言うのが相場です。このような仕組みのため、マンションの相続税における評価は、実際の売買価額よりかなり低めになっていますが、高層階ほどその影響が顕著と言うのが、タワマン節税の概要です。
2.固定資産税の改正は相続税にも影響するが…さて、今回の税制改正はあくまでも固定資産税の改正であり、相続税の評価方法に関する改正ではありません。ただ、相続税においては、前述のように建物の評価は固定資産税の評価額に基づくため、大元の固定資産税評価額が変われば、それに伴って相続税評価額も影響を受けると言う事になるものです。今回の固定資産税の改正は、建物全体の評価額・税額は変更せずにそのままで、その全体の固定資産税額を各戸に按分する方法を変更したのです。単純な持ち分割合ではなく、基準階を中心に階層によって本来の按分額に増減を設け、高層階は高く、低層階は低くなるようにすると言うものなのです。結論的には非常に軽微な改正で、相続税への影響はなし。これでタワマン節税が封じられたなどとは言えない代物です。つまり、マンションに対する固定資産税及び相続税の抜本的な改正にはなっていないのです。
3.何故、抜本的な改正ができないのか?それでは、何故、抜本的な改正をしなかったのでしょうか。それは、マンションの評価がそれほど簡単ではないからです。改正をしなかったのではなく、できなかったのです。そうは言っても世間では、タワマン節税が親の仇のように声高に叫ばれていました。政府としても、それを放置する訳にはいかなかったのでしょう。つまり、この程度の改正でお茶を濁しただけだったのです。
具体的に、何処がどのように難しいのでしょうか。実は問題の根は非常に深いのです。まず第一に、高層階の方が低層階より眺望が優れていると言いますが、隣地に同程度の高さのマンションが建ったら、眺望は一気に遮られ、従来の快適さは著しく阻害されます。また、同じマンションでも、その部屋が南向きか北向きかで、実際の販売価格は異なります。更には角部屋か否かによっても価格は異なる事でしょう。つまり、決して高層か低層かだけの問題ではないことは、誰の目から見ても明らかなのです。
4.固定資産税と相続税との建物評価の相違点そもそも、固定資産税の建物の課税は、建物の物理的な価値に対しての課税です。そのため、木造より堅固で耐用年数も長い鉄筋の建物は、必然的に評価額も高くなります。また、内部の構造も、床の厚さや柱や壁の部材によってもその評価に影響を与えます。そのため、全く同じ構造、全く同じ部材で作った建物であれば、どの場所に建っていても評価額は同額になる筈なのです。それ自体、間違ってはいないのでしょうが、それを相続税評価額にそのまま当てはめたところが間違いなのです。相続税の評価は収益性等を考慮した相続時点での"時価"とされています。その時価とは、国税庁が定めた財産評価基本通達と言う評価のルールブックに、『不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額』と明記されているのです。つまり、明らかに固定資産税のような物理的な価値ではないのです。
5.タワマン節税の将来的予測税務署は上記のようなことが分かっていながら、どうして建物評価を固定資産税に委ねているのでしょうか。答えは簡単で、個別の評価など税務署にできないからです。相続の度ごとに、一軒一軒の建物を評価することが税務職員には不可能だからです。と言う事は、今後も固定資産税の抜本的な見直しをしない限り、相続税においても、今回のような"お茶濁し"程度の改正に留まる事を、筆者は税理士として断言しておきます。
2017年2月28日
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5296号
調査能力の低下を嘆く!
筆者は税理士として、年間に何件もの税務調査に立会う。税目も所得税から法人税、相続税に消費税、たまに源泉所得税や印紙税と多岐に及ぶ。どの税目についても言えるが、昨今の調査官の調査能力低下は著しい。納税する側から見れば歓迎すべき話ではあるが、税理士から見たその原因と実態を探ってみたい。
1.不均等な年齢構成あまり世間的には知られていないが、現状の税務職員には若い人が非常に少ないのだ。人事院が公表している世代別人員統計によると、最もバリバリ働く28歳から40歳未満は全体の約24%、それに対し44歳から60歳までの中高年が何と51%弱にもなっている。この年代にもなれば出世レースは概ね決着済み、万年係長の上席調査官のオンパレードなのだ。税務職員には実質的に調査件数のノルマはあっても、増差(調査で申告額に上乗せされる所得や税額)のノルマはない。従って、件数だけこなせば上からは文句も言われず、通常通りの昇給も約束されている。
2.60歳定年制の弊害調査官の様な公務員の場合、現状では例外なく60歳が定年である。その後は税理士資格がほぼ自動的に得られるため、税理士として活動する道がある。その場合、初めは先輩のOB税理士事務所に世話になるケースが圧倒的だ。もう一つは、再任用の道を選ぶコース。ただ、この場合、週4日勤務で給与は激減、その地位は基本的には調査官やせいぜい上席。若い人に交じって現場の調査。さすがに元署長クラスに調査はさせないものの、原則として管理職にはなれません。どんなに頑張っても昇給も出世もなく、士気が上がる筈もない。つまり、この手の調査官が調査に来ても、ここでも調査内容より件数消化に留まることが多くなる。調査を受ける側に立てば、これ程ラクな事はない。前述の人事院の世代別人員統計からも明らかなように、中高年の割合が非常に高いのが現状である。これからも当分の間、この再任用の調査官による調査が相当の数見込まれることになる。
3.準備調査不足税務調査と言うのは、実際に会社や自宅に来る以前に様々な準備をしてくるものなのだ。数年分の決算書を比較して、問題点や異常項目を抽出し、又は実際に調査に臨場した際に確認すべき事柄を整理した後にやって来る。これを準備調査と言うが、入念な準備があってこそ調査の際に力のいれ所が違ってくるもの。備えあれば憂いなしなのである。
ところが、昨今の調査ではこの準備調査が不十分なまま自宅や会社に臨場なさるケースが多い。本来は事前に調べてくれば分かることを、調査の場で初めて確認が始まったりする。準備調査を満足にしてこないのは、彼らが忙し過ぎるせいだろうか。確かに近年、国税庁は概ね56,000人体制で一般職の国家公務員の組織としては最大勢力と言う事になってはいる。しかし、平成27年度、28年度とも定員を含め減少傾向が続いているそうだ。一定の調査件数は確保せねばならず、一方で定員は減少傾向となれば、調査官一人あたりの負担が増えることは必至であろう。
4.相続税調査における金融機関への照会特に顕著なのが金融機関に対する預金の照会である。先般も相続税の調査で過去の預金通帳を見せてくれとの依頼だ。ここまでは調査での常套手段なのだが、実はパフォーマンスに過ぎない。実際には相続税の申告書を提出すると、税務署は直ぐに申告書に記載されているすべての金融機関に、相続時の残高はもとより、過去数年分の普通預金の動きを本人や家族を含め照会済みなのだ。これを基に不審な案件を調査に選定し、疑問点を解明するのだが、預金の中味を知らないふりして通帳の提示を求め、その場で質問をすることが多い。
しかし、先般の調査ではこの事前の照会を省略したのだろう。その場で一枚一枚通帳の写真を撮り始めたのだ。今はカメラの精度も良く、通帳程度のものははっきりと数字まで撮影も可能だ。が、これに延々と時間を掛け、ほぼこれだけで午後の時間を使い切った。
5.写真を撮れば満足なのか?写真絡みではもう一つ。ある著名な音楽家一族の相続税の調査である。さすがにストラディヴァリウスとまでは行かなかったが、かなりの名器と言われるヴァイオリンが相続財産に計上されていた。当方はきちんと鑑定書を付けて時価評価をしたので、これについての指摘はなかった。が、保管状況を質問されたので、金庫を案内し実物をお見せした。彼らに何が分かるのか、一所懸命に写真を撮りまくっていた。また、600万円の支出が通帳から確認されたので、使途を尋ねられ、ヴァイオリンの弦だと説明したら、やはり写真。その後何らのお咎めもない。昨今の調査は写真を撮り、調査調書に添付しておけばいいのだろうか。
元調査官である税理士としては、嘆かわしい実態に喜んでいいのやら、悲しむべきなのやら…。2017年1月31日
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5295号
小規模宅地の特例は共有で?
『ここはいったん、全員の共有と言う事にしておこう。』相続にあたり、財産分けの話し合いがまとまらない場合、誰かがこんな"名案"?を口にします。この"共有"は誰にとってもまさしく平等で、文句がつけられない分け方だからです。普段、共有は本当の意味での解決にならない、単なる問題の先送りだ、と言ってATOではお勧めしていません。が、時には共有でこんなにお得な事も。
1.共有の考え方共有と言う考え方、法律上は全員が平等で対等の地位に立ち、権利も義務も等分に分かち合うシステムではあります。しかし、最も大きな問題は、原則として全員の意見が一致しない場合、何もできないと言う事です。言うまでもなく、とりあえずの共有状態では、誰もが100%の満足はしていません。しかし、仕方なく我慢をしている状態なので、いつかは解決したいと心の中では思っているのです。ただ、残念ながらその具体的な手法が分からぬまま悶々とした日々を送っている相続人も多いのではないでしょうか。
2.事案の概要都心にほど近い、住宅地としては一等地にその土地はありました。相続財産としては唯一の不動産です。他にそれなりの金融資産もありましたが、この土地の分け方、行方が今回の相続の最大の懸案だったのです。このご家族、父と母との間に長男、次男、三男の3兄弟がいました。数年前に父親が亡くなった時に、母親がこの自宅の土地・建物を相続しています。長年夫婦二人だけの生活をしていたこともあり、小規模宅地の特例を受ける事からも、母親がそれを相続することに3兄弟とも異論はありませんでした。そして、今回の母親の相続です。別居はしていたものの、長男が頻繁に母親の様子をうかがい、気にも掛けていました。長男も次男もそれぞれ持ち家でしたが、昨今の風潮か妻の実家近くに居を構えていたのです。三男だけが母親の近くに住んではいましたが、持ち家は所有していなかったと言う状況です。また、この実家に対する思い入れも、3人の中では最も強かったのでしょう。そのため、三男が実家の不動産を相続したいと申し出たのです。路線価に基づく自用地としての原則評価で約3億円。長男も次男も三男がそれを相続すること自体に反対はしませんでした。ただ、当初から今回の相続については、均等に3等分すると言う了解事項ができ上がっていたのです。
3.代償分割と言う手法3億円の不動産を相続するなら、その見返りに他の兄弟に1億円ずつを支払うことがその条件です。当時の税理士には、いわゆる代償分割の手法でそれが可能であるとも教えられていたようです。しかし、三男にそれだけの返済原資も能力もありません。結局は共有にして直ぐに売却。売却代金を均等に分けてこの相続は無事に終了したそうです。これだけを見れば、共有大いに結構。三男の思い入れを実現できなかったのは残念ですが、現実問題としては他の方法はなかったであろうことも、想像に難くありません。
4.小規模宅地の特例適用を考えてここでの問題は、関与税理士の不十分なアドバイスです。代償分割まで考えたのであれば、どうしていったん三男に相続させなかったのか、と言う点です。ここで三男は唯一の"家なき子"。つまり被相続人の居住用の土地について、小規模宅地の特例の適用上、330㎡までは8割引きになる特例の適用対象者になり得るのです。
具体的には、分割協議書上は三男がいったん単独で実家の土地建物を相続する。その上で特例の適用を受けられるよう、相続税の申告期限まではその土地を保有し、その後に売却する。分割協議書にもその売却代金を三男の譲渡税控除後の金額で3等分する旨を謳っておけばいいのです。
但し、売却価額が相続税の申告期限までに確定していない場合もあるでしょう。その場合、各人の相続分も不明で、申告書にも記載できません。そこで、売却準備は事前にしておくとして、いったんは未分割の状態で申告をします。そして、価額が確定したところで分割協議書を作成し、三男が取得することを前提に、他の2人の取り分を確定するのです。当初の申告では小規模宅地の特例を適用していないので、これを適用すれば全員が更正の請求で相続税の取戻しは可能になります。もちろん、未分割で申告する時点で、一度は過分な税負担となりますが、短期間に取戻しは可能なので、そこは目をつぶるしかないでしょう。それが負担であれば、何とか申告期限前に売買契約の準備だけはしておくことです。契約を締結し内金を貰っても構いませんが、申告期限を待って残金の決済をして引渡し、登記を移転すれば問題はありません。申告期限までは保有することが条件だから、これは何をおいても死守しなければならないのです。このような配慮、準備があれば、相続税においては小規模宅地の特例を享受することができ、なおかつ公平な財産の分割が可能になるのです。2016年12月26日
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5294号
税務署も監視カメラを使う時代
税務署には税務調査の際に活用すべき色々な情報源がある。最も典型的なのが一般取引資料箋と言われるもの。例えばA社を調査した時に、その仕入先B社との取引金額を把握する。すると、それはB社の税務調査をする際、B社の売上先としてA社が計上され、金額が符合するかどうかの確認項目として利用できることになる。税務署ではこの手のものを資料箋と言うが、これを基にこんな事までやる調査の最新の実態をご紹介しよう。
1.昔は"紙"、今は"電子データ"この資料箋、昔は総て紙に書かれ、それを保管していた。そして個人でも法人でも、確定申告が終わると、申告内容とその資料箋との突き合わせを行うのである。もし符合しないものがあれば、申告漏れが想定されるため、要調査事案として選定される可能性が高まる事は確実だ。
しかし、ペーパーレス時代の昨今、これらの資料箋はKSKと言う国税庁の課税情報システムに電子情報化されている。筆者が税務署に居たのはもう何十年も昔の事だ。現在の資料箋の運用実態は知る由もないが、基本的なやり方は同じではないのだろうか。調査官としては資料箋との突合を綿密に行うことが非常に有用なのである。ただ、紙と電子データとを比べると、見易さ、使い易さは紙の方が上だろう。見逃しがあるかも知れない。
2.税理士を交代させてATOが調査立会このATO通信はネットでも公開している。税務署の実態や税務調査で戦う姿を記事にしているからだろうか。先般もこんな事があったのだ。関与している税理士がいるのに、それを断って当事務所に今後の関与も含めて、税務調査の立会を依頼されたのである。とりあえず調査年分の決算内容も詳細は分からぬまま、調査には立ち会った。税務署は開口一番、X銀行との取引はあるか、との質問である。決算書綴りにX銀行は載っておらず、簿外の取引口座ではないかとの疑念があると言う。上述した一般取引資料箋があり、それが今回の調査の選定理由だと知らされた。が、3年前のものなので取引の全容は分かっていないとの事。
3.社長の答弁それに対し調査会社の社長は次のように説明した。『X銀行に口座があるのはウスウス知っていた。それは元共同経営者が開設したものだと思うが、自分はその口座開設に積極的には関与していない。その後、彼とは経営をめぐる意見の違いから、現在は手を引いて貰っている。従って彼が当社の名前で取引をしているものだと想像するが、彼への反面調査は避けて欲しい。彼は得意先への影響力が非常に強く、怒らせると現在の取引先まで失う恐れがある。金額次第では当社が総ての責任を負うので、先ずは取引金額の全容を教えて欲しい。』この時点で筆者は社長に若干の同情を禁じ得なかった。税務署も簿外の預金口座があることは把握していても、全容を把握していないので税務調査で状況を確認してから銀行調査を行うとの事。とりあえず、直ぐに元共同経営者に対する反面調査は行わないと約束してくれた。
4.税務署が行なう銀行調査その後税務署は銀行調査を実施したようだった。銀行に行けば、その簿外口座と想定される普通預金の動きは総てが復元できる。それを基に、社長が自分で責任を取るべき金額を税務署から指摘されるだろうと思っていたのだが、事はそれほど単純ではなかった。この預金口座に関して、社長自らは関与していないと言っていた。にもかかわらず、何と税務署が調査をしたい旨を会社に連絡した直後に、この社長は自分でこの口座を銀行に行って、解約していると言うのだ。それを税務署は銀行の監視カメラで社長本人であることを確認していると言う。確かに今は監視カメラ、防犯カメラの時代である。預金の動きだけではなく、誰がいつ手続きをしたのか、カメラは総てを見ているのだ。これらのカメラは警察が犯人を特定するだけのために使っている訳ではない。税務署だって任意調査の段階でも、積極的に活用している。強制調査のマル査などは推して知るべしである。
5.税務署に嘘はいけない!この事例、当初は自分の関与している口座ではないが責任を取る旨の供述をしていた社長である。筆者も同情すら感じていたが、それは税務署も同様だろう。勿論、だからと言って社長に対する課税が軽減される訳ではない。しかし、このような場合、税務署は元共同経営者への反面調査を省略したり、除外した売上に対する原価を一部認めてやったり、それなりの配慮をしてくれることも多いのだ。それがこの社長のように税務署に嘘をついていたことが判明すると、もはや同情の余地はない。確かに税務署も資料箋を直ぐに活用せず、3年も経ってから見直ししたのは職務怠慢だ。また、筆者も税務調査に当たっては、税務署に対して日頃から是々非々で対峙してはいる。が、嘘はいけないし税務署を甘く見てもいけない。税務署と喧嘩ができるのは、あくまでも理屈の世界、税法に則って適正に処理をしている場合だけである。
2016年11月30日
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5293号
高級車の購入方法
フェラーリ、ベントレーにランボルギーニ、車にあまり興味のない方も名前だけはお聞きになったことがあるのではないでしょうか。高級名車の数々です。昨今、若者の車離れが著しいようですが、私共のお客様には車好きの方も多いようです。
さて、これ程の車ではなくても、ン千万もの高級車を買う場合、個人、法人、誰の名義で買うのが節税になるのでしょう。そりゃ経費になるから法人だろう、と簡単に決めつけてはいけません。
1.基本的には法人名義確かに所得税と法人税、二者択一で考えれば言うまでもなく法人です。個人名義で車を買っても減価償却費、ガソリン代、駐車料等の全額が必要経費にはなりません。小売業や製造業を個人事業として行う場合、必ず問われるのはその事業にどの程度その車を活用しているか、です。個人的な買い物やレジャーにも車を利用するだろう、その分は経費としては認めないぞ、と言うのが税務署の考え方。税務署はそもそも性悪説の考え方で固まっています。そのため所得税においては、業務以外に個人的にも車を使っているだろうと疑ってかかるのです。その分は家事費として必要経費性を認めない方向なのです。もっとも、正確にその使用割合なんて誰にも分かりません。適宜の割合を決算書に記載しておけば、それ以上の追及をそれほど心配する必要はないでしょう。
それに対し同じことをしても、法人は総ての業務が法人の業務と言う前提です。実際には中小企業の場合、社長が友人とのゴルフに車を使用することだってある筈です。従って100%をその事業に利用している訳ではないでしょうが、これについては税務署も程度問題。理論的には甚だおかしいのですが、私的利用も常識の範囲内であれば税務署もこれを否認はしないのです。法人が100%業務に利用していると申告した内容を否認するためには、基本的にはその反証は税務署がしなければなりません。が、これも結構難しいので、お目こぼしも期待できる場合が多いのです。
2.個人の不動産所得では望み薄!法人に比べ個人は経費化が難しいと申しました。前述のお話は小売業や製造業の場合なのですが、これが不動産所得になると事態はさらに深刻です。結論から言えば、車の関係費用はほとんど経費として認められません。何故かと言うと、家賃や地代を得るために何で車が必要なのかを問われるためです。これに対し、例えば現場の見回りに行くのに車を使用すると答えれば、月に何度その現場に行くかとなるでしょう。月に1回と答えたら総額の1/30だけは経費と認めましょうと言うことになるのです。
税務署の考え方として、不動産所得は不労所得。額に汗をしないでお金を稼ぐことをあまり快くは思っていないのです。そのためか不動産所得に対しては、とりわけ厳しい見方をするような気がします。と言うことで、基本的には法人名義での取得が有利と考えて間違いないでしょう。
3.相続直前の車購入は?92歳のおじいちゃんがいます。勿論ご高齢のため車の運転はしません。車椅子ではありませんが足も不自由です。相続を控え孫のために、3,000万円のベンツをプレゼントすることを考えました。お墓にお金は持っていけません。元気なうちに家族を喜ばせてこそお金も生きるのです。しかし、こんな高額な車を買ってやれば、文字どおり贈与税の餌食です。およそ1,000万円の贈与税がかかります。それならと言うことでおじいちゃん名義で購入したらどうでしょう?今では運転もできないし、実質的に使用しているのは20歳の孫。税務署はその実態から見て孫への贈与だと言うのでしょうか。
これに対し、例えばこんな風に応えたらどうでしょう。『確かに私は年寄りなので運転はできません。大抵孫にやってもらっています。でも、この孫は大変なおじいちゃん孝行で、病院に行く時は必ずこの車で送り迎え。買い物や旅行にもこの車で連れて行ってもらっています。近頃の若者にしては、本当に偉いでしょ?』こう言われて税務署は、そんなのウソだと言えるでしょうか。運転はしなくても購入資金の出所はおじいちゃんです。だから名義はおじいちゃん。車の名義人が必ず運転しなければいけないルールはありません。税務の世界では事実認定と言うのですが、真実の姿と言うか、実態で判断をすることになります。実際的には上記のような事実もなく、孫がただ単に遊びに使っていれば、贈与だと言われても仕方がないでしょう。また、税務署だって本気になれば、毎日の見張りまではしなくても、病院までの走行距離や買い物の頻度等から否認する可能性もなくはありません。そこは法人名義の車を社長が友人とのゴルフに使用するのと同じで程度問題。
3,000万円のベンツも耐用年数は6年。直ぐに償却が総て終了します。相続直前の購入で相当程度の評価も落ち可愛い孫に喜ばれる秘策、検討の余地はあるのかも知れません。2016年10月31日
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5292号
贈与ではなく給与で移そう!
お金に色は付いていません。従って、相続の時に誰のお金だったのか、税務調査では常に問題にされるのです。いわゆる"名義預金"、"名義株"と言われるものがそれに当たります。真実が何処にあるのかは難しい問題なので、それを合法的にクリアーする新手法のご紹介です。
1."生計一"の親族とは所得税法に"生計を一にする親族"と言う、一見分かったようで、実際にはその判断が非常に難しい用語があります。敢えて大胆に定義すれば、『同居をしていて、同じお財布で生活を営む親族』、とでも言うことができるでしょうか。キーワードは"同じお財布"であって、必ずしも物理的な同居が条件ではありません。単身赴任のお父さんが一家の生計を支えていれば、その奥様やお子さんは言うまでもなく生計を一にする親族です。そのお子さんが就職をし、自らマンションを借りて住んでいれば、仮に親に幾ばくかの仕送りをしていても、これはもうお財布は別々なので生計は別と言う判断なのです。
2.生計一の親族に給与を払うと…基本的に配偶者は、多少の収入があっても生計を一にする親族に該当します。別居でそれぞれに収入がある場合もあるでしょう。が、ここは説明の都合上、筆者夫婦の様な収入は夫だけ、妻は専業主婦である円満(?)夫婦を想定して下さい。
不動産賃貸業又は小さなお店、例えばラーメン屋でも居酒屋でもいいでしょう。夫がそんな事業を営んでいて、妻がそれをたまに手伝っていたとします。個人事業なのでその利益に対しては、夫に所得税の課税が生じます。その夫が妻にお礼程度の気持ちで給与を払っていても、原則として払った給与は夫の経費にならず、逆に貰った妻も収入にはなりません。原則としてと言ったのは、青色申告の場合には、夫婦であっても専業主婦ではなく、実際に事業に専従する青色事業専従者となれば給与として認められるためです。勿論、この場合には貰った側は給与として課税されますが。ラーメン屋や居酒屋稼業で生計を立てていれば、利益の多寡と関係なく所得税の世界では立派な事業所得。青色事業専従者として給与の支払いが認められます。問題は不動産賃貸業で、専門的には"事業的規模"と言うのですが、一定規模以上でないと青色事業専従者として認められません。つまり、この場合には、白色申告ではなく青色であっても給与を経費とすることはできないのです。
3.給与を支払うと(貰うと)どうなるか?不動産賃貸業でもラーメン屋でも、とにかく例えば妻に給与を支払うとしましょう。先程、原則として青色事業専従者給与以外はその支給額が経費とならない代わりに、貰った側も収入にならないと言いました。従って、その給与に源泉税も住民税も掛りません。無税なのです。生活費その他の支出は総て夫のお金で賄えば、給与は総て妻が貯金する事も夢ではありません。例えば月に25万円の給与に夏冬にそれぞれ2ケ月分の賞与を支払ったらどうなるでしょう。年間に400万円の妻の貯金ができる計算です。10年で4,000万円、20年なら8,000万円もの金額が無税で妻の貯金形成です。ここで判断すべきは贈与との比較でしょう。年間110万円までは非課税ですが、400万円に係る贈与税は毎年約33万円。10年で335万円、20年で670万円にも上ります。一見、給与の方が良いことずくめの感もありますが、無税で妻に行った分は夫が所得税として総てかぶっているのです。あまり高額所得の方にはお勧めできない方法です。
但し、この方法なら妻の預金が多額にできていても、名義預金の心配は全くありません。これを原資に株を買っていれば、名義株と言われることもありません。正々堂々と合法的に夫の財産を減らし、妻名義の預金形成ができるのです。
4.高額所得ならどうするか?それではこの手法、どんな場合に有利になるのでしょう。前述のように夫の所得税と妻の贈与税の比較になります。ただ、夫の所得については、法人化や信託で既に対策済みと言う方も多い事でしょう。例えば、土地も建物も個人所有である場合、所有型法人に建物を移しても土地は個人のまま。従って、個人は法人から地代を収受することになり、この部分は個人の不動産所得です。が、この中から妻や子へ給与を支払えばいいのです。これと低額の贈与を併せて行えば、それなりの金額を妻や子に移すことも可能です。ここでもう一度復習です。この給与は支払っても経費にならずに、貰っても収入にならないのです。つまり、決算書にも何処にもその履歴が残りません。従って、毎月本当に給与の額として定時同額を妻や子の口座に振り込んでいれば、給与として支払った事実は証明ができるのです。さて、問題は地代だけがその内容となる不動産所得の申告で、一体どれ程の金額の給与を支払うことができるのかでしょう。相続時にこれが判明しても、真実給与を支払うだけの実態があれば、名義預金だと言われる心配はありません。但し、その金額があまりに高額であれば、高額な部分は贈与となる可能性も。給与か贈与か総ては腕の良い税理士との相談です。
2016年9月30日
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5291号
長く連れ添えばお得?
相続において配偶者の地位が非常に強いものであることは、ご存じだろうと思います。民法においては、配偶者は"常に"相続人となるのです。敢えて平たく言えば、配偶者以外の相続人は先ずは子で、子がいなければその親、子も親もいなければ兄弟姉妹と、順序が決まっています。が、配偶者は別格なのです。実は、その配偶者の地位を、少々変えようと言う動きがあるようなのです。
1.民法における相続の順位と相続分民法では、誰が相続人になるのか、そしてその場合の法定相続分がどれ位有るのかが規定されています。誤解のないように申し上げておくと、法定相続分とは、民法上これだけ相続をする権利があることを示した割合のこと。この通りに財産を分けなければならない訳ではありません。
A.相続人が配偶者と子(厳密には直系卑属と言い、子が既に亡くなっていれば孫)の場合、配偶者1/2、子が1/2。子が2人ならその1/2を2人で分けるので各々1/4となります。B.配偶者と親(厳密には直系尊属と言い、親が既に亡くなっていれば祖父母)の場合、配偶者が2/3、親が1/3。C.子も親もいなければ、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となっていて、兄弟姉妹が死亡していれば、その子までで孫に相続権はありません。
2.配偶者となるための条件と期間このように、配偶者であれば必ず相続人となり、しかもそれなりの相続分が約束されています。法的に配偶者となるためには、『入籍』が絶対条件で"事実婚"は民法でも相続税法でも考慮されません。しかもその効力は入籍したその日から生じることに。つまり、結婚をして入籍の翌日に相手方が亡くなったとしても、僅か1日でも婚姻期間があれば配偶者として相続人となり、相続権を得られるのです。だからこそ夫の財産目当てで結婚したり、中には保険金を狙って殺害するような事件までも起こるのでしょう。
3.相続に係る民法の改正試案配偶者の相続分が現行のようになったのは、昭和55年でそれ以降ずっと変更はされていません。実は、これを改正する動きが法制審議会でなされているのです。婚姻期間が20年とか30年とか一定期間を経過した場合、配偶者の法定相続分を引き上げようと言うものです。確かに婚姻期間が一日だけでも何十年でも同じと言うことに、問題はあるかも知れません。試案では前記A.の場合に配偶者は従来の1/2を2/3にC.の場合は従来の3/4を4/5にまで引き上げようとしています。
その他にも、ア)亡くなった夫が遺言で自宅を誰かに贈与しても、妻には住み続ける権利を与えるとか、イ)相続や遺贈の対象となっていない人でも、看病や介護をすれば相続人に金銭を請求できる権利を与えるとか、ウ)自筆証書遺言の形式を緩和し、自筆でなくワープロでも可とすること等が検討されているようです。
4.財産目当てを防ぐ法かつて奥様に先立たれた方の長男から、ご相談を頂いたことがありました。財産目当てで女性が同居を始めたため、その女性の入籍を恐れているとのこと。世間にはよくある話で、その女性とは男性が夜な夜な通い詰めた飲み屋のママだそうです。男性が高齢のため、子の立場では入籍されてしまえば、財産の半分を相続されてしまうからです。
こんな時には役所の戸籍係に対し『不受理の申し出』と言って、婚姻届を受理しないよう、事前に届出をしておく制度があるのです。これは、"婚姻届のように届出をして初めて法的効力が発生する場合に、届出の意思のない者、又は一度は届出書に署名したが、その後その意思を翻した者が自己の意思に基づかない届出をされる恐れがあるとして、予め申し出をすることによりその受理を防止する制度"とされています。
ただ、この事例、一度は不受理の申し出によって受理を阻止できたのですが、この女性はそれ程簡単には諦めませんでした。今度は夫となる男性本人と一緒に役所へ出頭したため、無事(?)入籍を果たしたのでした。いくらこの防衛策があっても、本人が行けば、そりゃ何でもできます。
5.相続税でも配偶者はこんなにお得!最後に相続における特典の話をしておきましょう。大きく3つの特典があります。1つは配偶者の税額軽減の制度で、配偶者には相続した財産額が1億6,000万円までなら税金はかかりません。これを超えても法定相続分までの金額であれば、やはり相続税の負担はないのです。残された配偶者のその後の生活を考えての優遇策なのです。2つ目は小規模宅地の評価減の特例と言って、ご自宅の敷地を相続した場合、面積制限はありますが配偶者が相続すれば評価額が80%引きになると言うもの。更に婚姻期間が20年以上であれば、贈与税の配偶者控除と言うものがあります。居住用の土地建物等又はそれを取得するための資金の贈与は2,000万円まで非課税と言う制度です。民法改正で配偶者は益々優遇され、力を付けてきそうです。
2016年8月31日
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5290号
共有状態を解消するには…
相続財産を相続人の間で分けるのに、絶対にやってはいけないのが"共有"です。その理由は財産分けの解決になっていないからです。単なる問題の先送りに過ぎません。中でも上場されていない同族会社の株式を共有と言うか、複数の相続人が相続したら、その結果は悲惨なものに。他の株主への対抗策や共有の解消策を考えてみました。
1.共有の様々な形態共有とは一つの財産を複数の人間で所有し、原則として単独では使用、収益、処分ができない状態を言います。各自の持ち分が定められていて、収入も経費もその割合によって按分することになります。何をするにも全員の合意が必要なため、意見の対立がある場合には収拾がつきません。共有と言っても親子の共有であれば、それ程問題はないでしょう。避けるべきは兄弟の共有で、仮に兄弟間の共有で円滑な関係でも、その一人が亡くなれば、叔父や叔母と甥・姪の共有となり、関係は非常に複雑なものになってしまうのです。
2.最も難しいのは株式の共有中でも将来に禍根を残すのが、上場されていない同族会社の株式です。会社に不動産等の資産が有り、業績が良ければその株式の相続税評価額は非常に高額になってしまいます。そのため、実質的にその会社を承継すべき相続人に、総ての株式を相続させられないケースが生じます。価額が他の相続人に比べて高くなり過ぎ、不公平感を生んでしまうからです。また、例えば長男と次男の双方が被相続人の営む会社で一緒に仕事をしている場合も問題です。株式を仲良く50%ずつ所有していたら、数の上ではどちらも優位に立てず、権力争いに発展することも多いからです。この手の会社は後継者が全株100%所有すべきなのです。
3.株式を分散してしまった事例賃貸物件を多数所有している法人がありました。全株式を一人のオーナーがお持ちだったのですが、生前から長男がオーナーである父親の業務を手伝っていました。ここで相続が起こります。相続人は長男の他に長女と次女の3人です。相続財産はこの会社の株式が評価額で3億円、他に不動産が2億円と金融資産が1億円ほどです。会社を承継し運営していくのは長男だと、本人を含め誰もがそう思っていました。従って、会社の株式は長男が総て相続するものと。しかし、評価額3億円もの株式を総て長男が相続しても、売却はできない株式です。相続税の納税原資がありません。そこで、不動産と現預金については3人が均等に1/3ずつ分けようとの長男の提案に対し、他の2人は猛反発。それなら株式も均等に相続させろと言うことになり、結局、長男、長女、次女もその会社の株式をそれぞれ34%、33%、33%ずつ取得することに。ここから悲劇は生まれるのです。
4.長女、次女は経営からは蚊帳の外相続前から長男が父親を補佐してこの会社の運営は行っていたため、相続後もその路線に変わりはありませんでした。ただ、長女、次女には役員として報酬は支払っているものの、毎期の決算や申告書の内容を開示する事はなかったのです。二人ともそれを気にもしていませんでした。が、ある時、会社所有の都心の収益物件を長男は誰にも相談もせず、10億円で売却していたことが長女の知る所となったのです。多額の売却益があったものと想定もされましたが、長男からの説明は全く無し。ここから長男に対する不信感は一気に募り、決算や申告内容の開示を要求。しかし長男はそれに応じる気配もなく、困った長女は息子に相談したのです。その結果、息子がATOに助言を求めにおみえになったと言う次第です。
5.息子が母親(長女)に代わり直談判する方法本来、長女はこの会社の大株主であり、かつ役員でもあります。法的にも決算書その他の帳簿書類を閲覧する権利はあります。従って、喧嘩でもして法律論に持ち込めば、その全容が明らかになることは明白です。しかし、血を分けた兄妹でもあり、ここは大人の解決策はないものか、と言うのが長女と息子の意向です。そこで、会社株式は長男に買い取ってもらう事をお勧めしました。長男以外の2人は株主でかつ役員でも、実質的には何らの関与もできない立場、いっそ総てを長男に任せ換金化した方が得策だからです。個人所有の不動産についても、同じくこの同族会社が総てを管理していたのです。これらの土地には思い入れもあり簡単には手放せないとのこと。さりとて共有のため、長男との協議も難しい状況です。長女は今後は長男との交渉を息子に託したい意向から、その不動産を息子に信託するようにお話したのです。これにより、この息子は母からの"受託者"として伯父である長男と男同士の交渉が可能になります。この事例のように、共有持ち分だけでも信託は可能なのです。妹である長女は長男とは対等に話ができません。今後は頼りになる息子に総てを任せ、伯父である長男との丁々発止の渡り合いが期待できそうです。
2016年7月29日
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5289号
益法人を活用すれば、
タックスヘイブンはいらない???残念ながら(?)我がATOのお客様には、今話題のパナマ文書の対象となる方はいらっしゃいませんでした。いわゆるタックスヘイブンは、パナマの他にもケイマン諸島、バハマ、モナコ、サンマリノ共和国等々世界中枚挙に暇がありません。何故このようなものを利用するかと言えば、言うまでもなく脱税ならぬ節税目的。でも、そんなことをしなくても、公益法人を設立できれば合法的、合目的的で、公益にも資する節税策が可能かも…。
1.個人に財産がなければ相続税はかからない!当たり前ですが、財産を個人としてお持ちでなければ相続税は掛りません。個人ではなく法人で財産を持っていても、その法人の株式を個人でお持ちであれば、その株式の財産価値が相続税の対象です。では、どうすればいいのでしょう。
ご自身が株式を所有しない会社に財産を移転してしまえばいいのです。ただ、実際に事はそれ程簡単ではありません。例えば子が100%その株式をお持ちの会社に、上場株式や不動産を無償で譲るとします。譲り受けた会社は受贈益として、その財産の時価相当額に法人税が掛ってしまいます。差し上げた方の個人にも、時価で売却したと見なされ、時価相当額で譲渡税が課税です。また、無償と言う極端な例ではなく、例えば時価1億円の不動産等を3,000万円で売却しても、やはり1億円で売却したとみなされてしまうのです。時価の1/2未満での売却は時価での課税となるためです。
それでは、1/2を超える6,000万円で売却したらどうでしょう。1億円と言う時価課税はありません。個人は6,000万円の譲渡税で済みますが、差額の4,000万円は法人が得をしたものとされ、受贈益と言う法人税が課税されてしまうのです。
2.公益法人なら課税はなし!法人に財産を移転するのは、このように容易ではありません。しかし、その法人が公益法人なら話は別。公益法人の場合、限定されている34業種の継続的に行なわれる収益事業を行えば、それについては課税の対象になります。が、それ以外は総て非課税です。従って、公益法人が受ける補助金、助成金、寄付金等の対価性のない収入は、限定されている収益事業ではないので課税されません。
一方、寄付をした個人の方は、相続税の対象となる財産が減るばかりでなく、所得税も軽減されます。所得控除と言って所得金額から控除され、課税される金額が減少するか、公益法人によっては納税額のうち、その税額そのものが減額される特典が付いてくるのです。相続財産が無税で減るだけでも嬉しいのに、所得税まで減税されるとは何とも夢のような世界なのです。
3.公益法人が設立できれば…公益法人が設立できたとします。ここでは個人から拠出された財産を運用するための組織として、それに公益性を持たせた公益財団を念頭にお話しします。相続税はその公益財団に財産を移した分負担は減りますが、その後の財団の運営はどうなるのでしょう。公益財団には、最高議決機関である評議員会と執行機関である理事会が有り、それぞれ3名以上の評議員、理事で構成されます。監査役に相当する監事がお目付け役。計7名が最低基準で、親族で占められる理事、監事は各々1/3以下と規制されています。ここで言う親族とは3親等内の親族のことで、7名体制であれば目付け役の監事を除き理事、評議員を各1名、合計2名を身内で固めるのが"実務的"と言うことになります。
つまり、ご本人と身内一人の他、息のかかった第三者で先ずは理事、評議員、監事を選出し、自らは理事長に就任します。その公益財団を理事長として実際に運営し、その相続人が子子孫孫にわたって理事長を務めれば、大切な個人財産は公益財団として守ることができるという仕組みです。
4.公益法人の実態現在の法制度では、法人は一般法人と公益法人に分類されます。そして社団法人や財団法人等かつては公益性が主体となっていた法人も、現在は一般社団法人、一般財団法人なら株式会社と同様に登記のみで簡単に設立が可能です。その上で公益法人を目指す場合は、公益認定基準を満たすことが要求されるのです。この認定は内閣総理大臣、又は都道府県知事が行うとされていますが、絶対にやってはいけないのが都道府県知事による認定です。何故なら、都道府県の認定を受けた公益法人は、これら自治体の天下り先として利用され、拒否すれば公益性を取り消される可能性があるためです。実質的な乗っ取りがあり得ると言う話なのです。それに比べ内閣府として国がやることは流石です。そのような妨害行為もなく、何代にもわたって公益財団の理事長を務めることができるのです。しかし、内閣府に公益性を認めてもらうには、多大な労力とノウハウを必要とします。
最後に質問です。ここまでお読み頂いて、相続財産を公益財団に移そうと決意したとします。その相談にATOは乗ってくれるのか?勿論乗りますが、それ以前に相応の財産が必要です。その財産の作り方についてまではお力になれませんが…。2016年6月30日
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5288号
正しい税務署との喧嘩の仕方
税務調査に当たっては、当局とお客様の主張が異なり収拾のつかないことがある。税務署は調整が不能と判断すると、時として"更正"と言う強権を発動、職権で課税しようとすることも。これに対して従来から異議申立てをすることが認められている。が、所詮その課税をしてきた同じ税務署に対して文句を言うこと。通常その結論は変わらない。が、法令の改正で必ずしも税務署相手にその手続きをしなくてもよくなっている。では今後、税務署とはいかに戦うべきなのだろうか?
1.いきなり裁判は起こせない二重前置主義課税の可否をめぐって税務署と見解が異なる場合、最終的に税務署の主張に迎合すれば、修正申告書を提出して手続きは終了。問題は納得ができない場合だ。税務署も譲れなければ、更正と言う強硬手段を講ずるが、これに対しては異議申立てと言う手段で抗議はできる。ただ、更正をした当局相手への抗議であるため、基本的にはその主張が認められることはほとんどない。相手方である税務署ではなく、いきなり第三者の仲裁を求めることはできない仕組みになっていた。
異議申立ての結果に満足できなければ、次は国税不服審判所と言う審査機関の判断を待つことになる。これを審査請求と言うが、それでも納得ができない場合、ここで初めて訴訟と言う司法の場に舞台は移る。裁判の前に審査請求、それに先立つ異議申立てと二重前置主義と言われる制度になっていたのだ。
2.喧嘩の相手にその非を認めさせられるか?今般この二重前置主義が改正された。税務署に対する異議申立てと言う手続きを経ず、当局の更正に対し直接国税不服審判所に審査請求ができることになったのだ。考えてみればむしろ当然で、この異議申立てとは、喧嘩を売ってきた相手に、あなたと私とどちらの主張が正しいか考えて下さいと言うようなもの。更正の結果が覆る事も皆無ではないが、ほとんど期待はできない。一種のセレモニーと言ってもいいだろう。その事にやっと気づいたのか、上記のような改正となった。
ただ、いきなり審査請求する道の他に、『再調査の請求』と言って、実質的には従来通りの異議申立てをする道も残されている。つまり、選択肢が2つになったと考えればいいだろう。再調査の請求はあまり意味が有りそうには思えないが…。
3.審査請求の手続きをしても…それはともかく、税務署ではなく国税不服審判所に審査請求をしたとしよう。納税者側の主張はどの程度認められるのだろうか。下表をご覧頂きたい。最近5年間の統計表である。全部認容と言うのは納税者側の主張のすべてが、そして一部認容はその一部が認められたものである。直近2年間だけを見ても、7.7%、8.0%と一桁台の低さだ。逆の見方をすれば、税務署の勝率は9割以上と言う圧倒的な強さであることが見て取れる。長期的に見ても、12~13%程度しか納税者側の主張は認められていない。税務署との喧嘩はことほど左様に勝つのは難しいと心得ておいた方が良いだろう。
4.それでも多少は期待ができる改正項目悲観的な事ばかりでもない。審査請求の手続きの中で、今後は喧嘩相手の税務署に質問ができるようになる。更には国税不服審判所の担当の審判官が収集した証拠資料等も閲覧ができ、コピーまでもが許されることになったのは朗報であろう。従来は何と税務署が提出した資料等の書き写ししか認められていなかったのだ。とかく納税者側には不利な扱いになっていた手続きが、今後は少しだけではあるが、有利に働く事にはなるだろう。
5.税務署はメンツがつぶれる事を何より嫌う!税務署に異議申立てをしても、ほとんど結論が変わることはないと申し上げた。ただ筆者にも、一度だけあまりにひどい更正処分への異議申立てが、後日覆った経験がある。調査が杜撰過ぎたのだ。当方としては当然審査請求を考えていたのだが、国税不服審判所まで行けば、税務署の敗色が濃いと判断したようだ。しかし、そこは税務署。更正が間違ってましたとは決して言わない。いわゆる中を取って収める妥協案を提案してきた。しかも、こちらが提出した異議申立ては取り下げ、税務署が自主的に再更正した形にしてくれとのご要望付き。税務署が部分的にでも"負けた"形は取りたくないのだ。メンツを重んじる税務署。異議申立ても、審査請求もいとわないぞ、と強気で税務署に圧力を掛けて有利な結論を引出し、実際には喧嘩をしない事が大切である。筆者は"戦う税理士"の異名を持つが、負け戦はしないのだ。
2016年5月31日
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5287号
返却すれば、事は済むのか?
税務上、個人と法人はどちらが得か、昔から幾度となく議論されてきたテーマです。昨今の法人税率の引き下げと、所得税率の引き上げを較べれば、一般論として法人有利は間違いなし。経費に認められる項目も、確かに法人に有利な面も。が、万が一にも売上をもらしたり、架空の経費を計上すれば、個人よりは数倍重い処分が法人には待っています。しかし、税理士が変な理屈をこねると、税務署も時には応じてくれる変な世界のお話です。
1.税率だけの比較なら法人と言ってもここでの話は資本金が1億円以下の中小企業、いわゆる同族会社が前提です。所得が800万円以下であれば、その実効税率は22%台、将来は21%の声も聞こえてきます。それに引き替え個人の方は、累進課税とは言うものの、住民税と合わせ最高税率は55%。更に所得税額の2.1%が復興特別所得税として加算です。法人税率を引き下げれば、財源確保で狙われるのが個人になるのは必然か。
2.経費も厳しい所得税個人に対する所得税でもとりわけ厳しいのは経費面。いわゆる"家事関連費"には税務署も目を光らせます。法人名義の車なら、実務的には本体は減価償却を通じてもちろんのこと、ガソリン代も自動車税も車検代だって法人経費。個人はそうはいきません。遊びや個人的な利用もあるだろうと言うことで、事業に使用する割合だけが経費です。とりわけ個人の不動産所得には、車も交際費も大半は経費には認められません。
3.貸付金の考え方面白いのが貸付利息。個人は血も涙もある存在です。法人に貸す場合、ン10億円でもない限り無利息貸付はOKです。が、逆に法人は利益を追求するための存在で、法人が無利息で貸し付けるなど論外なのです。法人は利益追求の存在なればこそ、無利息借入なら、その分経費が減少し課税所得は増加。税務署にとっては好都合だと言う理屈です。ある意味経済合理性もあるのでしょう。
4.社長が売上や経費を故意にごまかすと売上や経費をごまかすのは、個人でも法人でも勿論誉められた話ではありません。調査でその事実が明らかになれば、当然のこととして修正申告となり、本税の他にも加算税・延滞税等の附帯税が。ここで問題なのは、法人の場合は個人ほど単純ではないと言うことです。個人の所得税では、そのごまかした金額が所得金額に加算され、増えた分だけ税負担が増すだけです。ところが法人は、決算で締めた帳簿自体を、その期に遡って訂正はさせないのです。それを法人税の申告書の第4表・5表と言って、申告書上で調整をすることになります。会計上の帳簿と税務上の帳簿と2種類の帳簿があると考えてもいいでしょう。会計上の決算書には、基本的には当期の経営成績を表す損益計算書、財政状況を示す貸借対照表等から成り立っています。法人税法上のそれぞれに対応するものが、申告書の第4表、第5表と言うこともできます。
そして、ここが法人税の面倒な所なのですが、売上や経費をごまかしたお金が最終的にどう言う形で何処へ行ったのか、それを明らかにしなければならないのです。例えば、社長が真実は1,200万円の売上を1,000万円だけで計上し、200万円を自分の懐に入れてしまった場合を考えてみましょう。税務調査でこれが判明すれば、当然、法人は差額200万円を売上もれとして所得に加算します。問題はこの200万円がどんな形で何処に行ったかです。いったん社長の懐に入ったのはいいのですが、社長がそれを返却するのか否かによって、その処理は異なります。返却しない場合は認定賞与と言う扱いになります。社長に対する賞与です。賞与ですから、社長個人としては、それに対する源泉税を負担することになるのです。法人と個人双方でその責任を負うことになる訳で、非常に重たい処分なのです。
5.返却することにすれば"貸付金"こんな時、税理士は少しでも税負担を軽くすべく税務署と交渉をするのです。認定賞与を"貸付金"に変更して貰うのです。貸付金となれば、社長は会社に返済しなければなりません。しかし、もらいっ放しではないため、源泉税の対象にはならないことになります。但し、先程の3.で述べたように、会社が社長個人に貸す訳で、利息が付されることにはなります。現在は低利率のご時世なので年率1.8%ですが、かつては10%と言う高利の時代もあった程です。高利の時代ではあっても、認定賞与と較べれば月とスッポン。
一方、認定賞与となれば、中小企業の社長はそれなりの給与を取っているはず。本来の給与に上乗せされれば、相応の負担になることは間違いありません。だからこそ、こんな場合には税理士に税務署との交渉力、力量が問われるのです。真実は社長が使ってしまったのに、貸付処理とは『泥棒しても返せばいいんだろ!』と言う考え方。お客様のためではありますが、何とも変な理屈です。2016年4月28日