確定申告も終わり、この時期はホッと一息と言ったところでしょうか。提出した申告書に、もし間違いや洩れがあったらと、ご心配の向きもあるかも知れません。ただ、うっかりであれ故意であれ、税法にも”時効”があります。ということで、今回は税務署が時の経過により水に流してくれる日はいつなのか、を考えてみました。
1.税法の規定では
提出した申告書に誤りがあり、税金が少な過ぎる場合、自らの意思で修正をするのなら特に期限はありません。しかし、税務署の理論で課税をする場合には法定の期限があり、それが時効です。
申告済みの内容を変更するのが「更正」で、申告がなされていない場合に課税する手続きが「決定」です。更正は申告期限から3年、決定は5年が原則。その意味では、すねに傷ある方々も申告さえしていれば3年経てば枕を高くして寝られます。但し、税額が減少する場合にはその期限は5年と長く、納税者有利に配慮がなされているのです。が、甘いのはここまでで、不正をはたらく輩には7年がその期限。逆に言えば、どんなに悪質な脱税をした場合でも、7年過ぎれば晴れて自由の身、これが税法の規定です。
2.税務署に昔の話をされた場合には
実は時効を今回のテーマに選んだのには、一つのきっかけがあったのです。税務調査と言えば調査なのかも知れませんが、昨年の暮れ、個人の不動産所得についてのお尋ねがあったのです。聞けば、何と3年前の平成14年分の経費に疑義があり、修正申告を提出しろというのです。調査と言っても現地に足も運ばず、資料の提出だけで申告の是正をせまってきたのです。しかも過年分だけの修正です。何を今更と思いながら確認すると、以外な事実に突き当たりました。14年分よりも15,16の両年の方が本当は問題があったのです。しかし、税務署のご指摘は14年だけで肝心の年分にはお咎めなし。何やかやと折衝する内に2月に入り、確定申告時期も間近です。こうなれば、あとは時間稼ぎ。3月15日が来れば、3年経過で時効成立です。この時期、税務署も確定申告で忙しく、修正申告に応ずるなら別として、更正などする暇などないはずなのです。本稿をお読みいただく頃には祝杯をあげていること必至です。
3.贈与にも時効はあるのか?
あるお客様からこんなご質問を頂きました。親から子へ多額の金銭の貸付けがあったのです。親御さんに万一のことがあった場合には、子への貸付金として相続財産の一つとなってしまいます。それに、そもそも返済するのが非常に困難な状況だったのです。そのためか、この貸付を無しにしたいと言うご相談なのです。無しにすれば、その時点で贈与ですが、以下はその時の会話です。
『貸付の返済を免除すると言う書面を作成するだけで、お金の動きがない場合、税務署はどうやって贈与の事実が分かるのですか?』
『その時は分かりませんが、貸付金の存在は既に税務署に報告済みです。相続税の申告書に貸付金が計上されていなければ、相続財産が洩れていると言うことになります。』
『でも、その時は免除のこの書面を見せて納得して貰います。』
『税務署はそんな紙切れだけでは信用してくれません。亡くなった後からだって作成できるのですから。』
『公証人役場で確定日付を取っておくか、それとも内容証明郵便で送付したら日付は信用して貰えますよね!』
『……』
『先生、贈与税にも時効ってあるんですよね?』
『……』税理士としては、とてもお勧めできる方法ではありませんし、それ以上の関与をするつもりもありません。ただ、免除した年の申告期限から7年で時効が成立することだけは確かです。
4.縦割り行政の弊害
こんな事もありました。御父君が亡くなられ配偶者である奥様とお子さんが相続をしました。数年後、奥様の土地が収用にかかり、その資金で子の多額の相続税の延納分を完済したのです。更に10年を経て今度は奥様の相続。相続税の調査の過程で収用代金の使途が問われました。子の相続税の納税原資は収用代金、つまり子から見て母親のお金です。子のために立て替えたのか、贈与なのかが問題となったのです。贈与であれば既に時効は完成、税務署もなかなか贈与の事実を認めませんでしたが、最後はご了解を頂きました。
税務署も多額の納税が一括納付された時点で資金の出所を確認すれば良かったのです。それは管理課の仕事、相続・贈与税は資産税課の仕事。縦割り行政が生んだ贈与税の取りこぼしです。
過ぎ去ったことは7年を待たずに早く忘れる、私の個人的な時効は1日です。