我々税理士が財産の評価を行う場合、通常は国税庁が定めた『財産評価基本通達』と言うマニュアルに従って作業を行います。国税庁が定めたものなので、これに従って評価を行えば、勿論税務署には何の文句も言われずに済むからです。
しかし、この通達には沢山の問題点があり、従って矛盾する事柄も多いのです。その一つが不動産、とりわけ建物やマンションの評価です。どんな問題点があるのか、ご一緒にお考え頂きたいと思います。
1.『財産評価基本通達』って何だ?
相続税法の規定では、財産の評価は”時価”で行う事になっています。ここで、ただ時価と言われても、方程式を解くのと違い答えは一つとは限りません。そうは言うものの、財産評価に当たりあれもこれも時価であり、人によって価格が異なれば、課税関係は不公平になり安定しません。
従って、どうしても何らかの基準が必要となり、課税庁としての立場から定めたものがこの通達なのです。この中で土地は路線価を時価とし、建物は固定資産税の評価額をもってその時価と定めているのです。当局もこれが唯一絶対のものでないことは承知をしており、場合によっては鑑定評価やその他の手法で評価したものを認めることもあり得ます。しかし、基本的には彼らが定めたこの通達、その矛盾点や問題点を素直には認めたがらないのが実情なのです。
2.マンション評価の怪!
筆者がこの通達の中で最も問題があると思っているのは、マンションの評価です。マンションをどう言う風に評価するかと言うと、もうこれは噴飯ものなのですが、土地と建物の二つの財産に分解するのです。まず土地ですが、マンションの敷地全体を評価します。勿論、路線価に基づいて計算する事になります。その上で、各部屋の持ち分割合を乗じて、マンションの土地部分を算出しようと言う考え方なのです。
次に建物部分ですが、建物の評価については、国税庁は完全に自らの考え方を放棄してしまっています。固定資産税の評価をそのまま採用し、自分で使っている場合にはその評価額、他人に賃貸している場合にはそこから借家権である30%相当額を控除した金額で評価を行っているのです。
不動産の実態を何もご存じない方にとって、ここまでの説明はなるほど、と思いの方も多いのではないでしょうか。マンションを土地と建物に分解し、土地は各部屋の持ち分割合で按分する考え方に、実は筆者も初めて勉強した時は、一種感動さえ覚えたものです。極めて理論的だ、と。
3.本当に土地と建物に分解できるのか?
しかし、本当にマンションは土地と建物に分解できるものなのでしょうか。通常の分譲マンションの場合、土地と建物の名義は一致していますし、土地だけ、又は建物だけを他の者に売却する事はできません。土地は敷地権と言って、建物と切り離して考えること自体ができない仕組みなのです。
考えてみればこれは至極当然で、マンションは土地と建物がセットになって初めてマンションなのです。法律的にも分解ができないものを、相続税では敢えて別々の財産としているのです。
4.評価誤りの最たるものはタワーマンション!
マンションの建物の固定資産税の評価は、勿論建物全体で行います。その全体の評価額を、部屋ごとの持ち分割合に応じて按分し課税しているに過ぎません。と、ここまでお読み頂くと勘の鋭い方はお分かりになるのですが、タワーマンション50階と1階の部屋、同じ面積同じ間取りであれば、必然的にその評価額は同じになる訳です。実際の販売価格も果たして同じでしょうか?マンションにも拠りますが、価格は上層階程高く1フロアー当たり100万円以上違う例もあるとか。眺望の良さが価格の差なのでしょうか。もっとも取得時の価格差ほど売却時に差は出ないそうですが、それにしても、この価格差が相続税評価にはいっさい反映されないため、タワーマンションの高層階は絶好の相続税対策になるのです。
5.建物の価値は何処にあるのか?
もう少し掘り下げて考えてみましょう。建物の価値とは何から生まれるのでしょうか。例えばオフィスビルを筆者の事務所のある渋谷駅前に20億円を投じて建てたとしましょう。これと全く同じビルを同額で乗降客が少数の郊外の駅前に立てた場合を想定してみて下さい。まず、賃料収入は明らかに渋谷の駅前の方が郊外よりは多いでしょう。さて、ここで建物の評価です。同額で同一の建物なので、勿論固定資産税評価額は同額です。
しかし、この同じ建物から生じる収益には大きな差が生じています。それでもこの二つの建物は価値が同じなのでしょうか。建物の価値とは、何処に建っているかによって異なるのではないのでしょうか。だとすれば、建物の評価を固定資産税評価額で行うこと自体、意味の無い事にもなりかねません。土地と建物は一体です。建物の単独評価自体に無理があるのではないのでしょうか?