世の中には面白い国があります。ある団体については、人件費を除く50,000円以下の経常経費の領収証は添付の必要がないのだそうです。これを許している国では、一体税務調査の際、金額のチェック、領収証の有無等はどの程度問題になるのでしょうか?彼の国の状況を税務の実務の観点から視察をしてみました。
1.法人の会議費の基準は5,000円
法人の場合、交際費については個人より厳しい規定になっている事をご存じの方も多いと思います。経費にできる金額に限度があり、限度内の場合でも一部は経費として認められないと言うものです。それを回避すべく、交際費ではなく会議費や支払い手数料等の科目を使って経費にする会社も多かったのです。今は一人当たり5,000円までの社外の方との飲食を伴う実質交際費については、限度計算に含まない処理をしていいことが明定されています。
但し、この場合でも参加者名、人数、店の所在等を明示し、領収証が必要であることは言うまでもありません。
2.証明はできなくても…
前述の例に限らず、法人は個人より厳格な処理が要求されますが、こんな事もありました。当事務所では珍しい法人組織で高級飲食店を経営するお客様の調査です。築地市場に毎日仕入れに行くのですが、その際に築地で顔の利くやくざまがいの方に同行して貰うそうです。これによって、本来は少量では購入できない高級本まぐろの仕入れが可能になるとのこと。彼への支払いは、帳簿上は『給与』扱いになっていますが、現金渡しであるにも関わらず領収証はありません。もっともこの世界の方々の間では当然です。いわゆる『みかじめ料』とでも言うのでしょうか、調査でもこの事が指摘されました。社長は必死になってその存在の必要性、真実性を調査官に訴えました。社長の気持ちが通じたのか、全額否認されると覚悟はしていたものの、何と『交際費』で了解を得られたのです。つまり、全額は経費にならないものの、少なくとも架空の経費ではないものと扱われたのです。私共も真実は知りませんが…
3.領収証が貰えない場合は諦める?
上記のみかじめ料程ではないにせよ、世間には通常領収証が発行されないものもあります。例えば人様が亡くなった場合の香典が典型的でしょう。個人的な付き合いなら領収証の有無は必要ありませんが、困ってしまうのが会社の業務上のお付き合いです。心情的には勿論会社として支出をする以上、領収証はなくても交際費として経費に計上したいところです。実務的にはご会葬御礼の挨拶状でも葬儀の証拠として残しておけば、社会通念上妥当な金額であれば大抵の場合は税務署も認めてくれます。
4.お布施、戒名料に領収証は貰えない?
経費と言うことではありませんが、相続税の申告に際しては、葬儀に要した金額は債務と同様に財産の金額から控除されることになっています。
業者に対する支払いの領収証は必ず発行されるのですが、問題はお寺さんです。読経料、お布施、或いは戒名料等については、領収証を発行しないお寺も多いもの。これについてはお寺の名称、所在地、金額、支払日等を明記すれば、ほぼ間違いなく税務署は認めてくれるのが実務です。仮にお寺としては領収証を発行し、収入が明らかになったところで、心配ご無用。所詮は宗教法人の本業での収入であり、非課税扱い。昔から言われているように『坊主丸儲け』の世界なのです。
5.ねつ造による二重計上は脱税です!
以上でお分かりのように、税務の実務では領収証が絶対のものではありません。場合によってはその存在がない場合でも、税務署は認めてくれるのです。但し、状況証拠なり、申述する人物の人間性というか、そう言うものが決め手にはなります。税務職員も所詮は人の子、なのです。
但し、税務職員の心証を悪くするような行為については、経費を否認された上で厳しい処分が待っています。例えば同じ経費の領収証をコピーして経費を二重に計上したり、架空の経費の領収証を購入したりする行為です。何処かの国では、上記の二重計上を単純なミスとの言い訳をしたそうですが、先進国の税務署には決して通りません。この手の行為を世間ではねつ造と言い、法人税法上は重加算税の対象となります。ここで重加算税とは、いわゆる脱税をした場合に課されるペナルティーです。申告書の提出がなされた上での重加算税は、加算された本税の35%相当額と重く、税務署の処分によってはごまかした金額以上の負担になることもあるのです。
話は冒頭の某団体に戻りますが、50,000円は税務の常識としては論外です。1円に引き下げようとする動きもあるようですが、少なくとも、現在の永田町の論理では税務署には通じないと、税理士としては断言をしておきます。