親子間でお金の貸し借りをする。決して悪い事ではありません。しかし、税務署の見方、考え方をご存知でしょうか。貸し借りの陰に贈与あり、と睨んでいるのです。こちらがそこまで読んで更なる工夫をしても、かえってアダになることも。サラ金のCMではありませんが、ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!
1. 形式ではなく、返済能力
親子間でお金を貸し借りした場合、贈与と疑われないために契約書を取り交わし、公正証書にする。更に毎月親の銀行口座に振り込み、返済状況を外見上も明らかにしておく。こう言っては叱られそうですが、いかにも素人の方が考えそうな手口です。結論から言うと、こんな浅知恵で税務署を欺く事はできません。彼らが見るのは真実の返済能力だけ。公正証書など公証人役場に行けば簡単に作成でき、預金口座へ振り込んでみても後で現金での返還も容易、何の証拠にもなりません。
2. 抵当権の設定は余計だった!
子が土地を取得した後、建物を建築するに際して、親から資金の一部を借り入れたお客様の事例です。上述のように利息を付した借り入れの契約書を作成し、ご丁寧に建物に抵当権まで設定したのです。第三者からの借り入れであればこれも当然なのでしょうが、親子間でここまでなさったようです。想像ですが、その当時の税理士の入れ知恵ではないのでしょうか。この借り入れが贈与ではなく、真実返済する事を税務署にも知らしめたかったのでしょう。だからこそ第三者間であればする筈の抵当権の設定までをなさったのだと推測しております。
3.登記情報は税務署に
税務署と登記所が大の仲良しである事をご存知でしょうか。売買や贈与で不動産の移転登記がなされると、その情報が登記所から税務署に伝わる事になっているのです。税務署はそれを見て、売った人には申告の必要性を牽制し、買った人には資金の出所を質問します。前述のように資金が親からの借り入れの場合、本当に返済するのか、疑いの目で見ながら。勿論登記の原因が贈与と記載してあれば、贈与税の申告書を予め送付する事までのサービスまでしてくれます。もっとも昨今は税務署も忙しいのでしょう。売却し譲渡税の対象者には申告書の送付があるのに、贈与の場合は必ずしもここまでのサービスは無いようです。
4. 所得税の調査で発覚
話は抵当権設定の親子に戻ります。ここまで用意周到な準備で臨んだわけで、当然ながら毎月キチンと親の口座に返済も実施です。しかし、所詮は人間のやる事、緊張感は続かなかったのでしょう。いつしか元金も利息も梨の礫、返済がなくなってしまったのです。もっともそこは親子間のやりとり、親の方も催促もせず、もう返済はいいよ、位の会話があったのかもしれません。
さて、それから何年か経過したある日、と言ってもつい先だっての事、この親御さんに所得税の調査が入りました。今や私共の大切なお客様です。当方も万全の態勢で立会いに臨みました。が、親御さんとしてはすっかり忘れていた例のお金の貸し借りの問題が浮上したのです。
5. 資産家なればこその宿命か?
一定以上の資産家の方は、税務署では超大口資産家と言って管理が厳重になっています。通称マル超と呼ばれますが、一般の納税者とは別に一族全員の資料や情報を長期にわたって保管し相続税や所得税の調査時に活用しているのです。前述のお客様もこのマル超であったため、子が家を建てた時の登記の記録がしっかりと残っていたのです。
そして、現在の返済状況を確認され、親御さんの貸付残高があることを把握されたのです。もし抵当権さえ付いていなければ、貸付の事実はいつまでも残らずこんな話にはならなかったのに…
結果、貸付利息計上漏れで3年分の修正申告。貸付金が相続財産を増加させるオマケ付です。
6. 同族法人との金銭の貸し借り
話は変わりますが、親子ではなく同族会社との間でも金銭の貸し借りはよくあるもの。ご注意頂きたいのは、個人と法人では税務上の取り扱いが異なる事です。法人が貸主、個人が借主の場合、必ず利息を支払わなければなりません。法人は税務上あくまで利益を追求するための組織。無利息で特定の個人のために利益を放棄するなど許されないのです。しかし、逆に個人が貸主、法人が借主なら必ずしも利息は必要ありません。何億円もの多額の場合は別として、法人が無利息で得をすることについては、特段のお咎めは無いのです。むしろ経費となる利息が無い分、利益が出て課税対象額が増えるので税務署も喜ばしい位です。が、こんなお客様も。ご丁寧に会社として資金繰りに窮しながらも何年にもわたり利息を計上なさっていたのです。結果、会社の未払い利息分が個人としては未収金として相続財産を形成していたのです。借りても貸しても税務上は色々な問題が出てきます。ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!