令和4年4月19日、税理士業界で注目されていた最高裁判決が下されました。この判決、新聞など様々な紙面にも載ったのでご存知の方も多いことでしょう。もしかすると、今年一番の話題かもしれないので、ここでも少しだけ取り上げることにします。この判決、端的に言えば、土地建物の評価にあたって通達評価(路線価評価)が否認された事案です。さてさて、その内容が気になります。
1. 事案の内容
新聞報道では「路線価認められず」などと、いかにも煽った報道がされましたが、結局のところどのように考えれば良いのでしょう。まずは事案内容のおさらいです。
札幌にいた被相続人は90歳を過ぎてから相続対策を目的に不動産の購入を行い、その後94歳で亡くなりました。時系列と内容は以下のとおりです。
(1) 平成21年1月に甲不動産(東京の物件)を購入
(2) 平成21年12月に乙不動産(川崎の物件)を購入
(3) 平成24年6月に死亡、相続開始
(4) 平成25年3月に相続人は乙不動産を売却
なお、上表の申告評価額は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額によって評価した、いわゆる相続税評価額のことです。被相続人は亡くなる3年半前~2年半前に札幌とは関係のない東京と川崎の不動産を多額の借入金によって購入することで、評価額を購入価格から10億円超下げたのです。しかも、乙不動産は相続税の申告期限前である死亡後9か月で売却をしています。これに対し税務署は申告評価額を認めず、鑑定評価額で評価し、更正処分を行いました。
2.ポイントは何?
この被相続人、元々は相続税の課税価格が6億円超あったにもかかわらず10億円を超える評価差額を利用し、他の相続財産と減殺して課税価格を約2800万円にしてしまいました。つまり、相続税の基礎控除額以下となり相続税負担をゼロにしたのです。この案件、はたから見ても少しやり過ぎた感があるのは否めないでしょう。以下に、判決のポイントを簡単に挙げておきます。
(1) 財産評価基本通達による評価(いわゆる路線価評価)を用いることを原則否定できない。
しかし、租税負担の公平に反するなどの合理的理由がある場合には、通達評価額以上
(鑑定評価額)による評価が許容される。
(2) 評価差額が多額に生じているということだけをもって、通達評価(路線価評価)の否定は
できない。
(3) 租税負担の軽減を意図して、期待して、不動産の購入・借入を行ったことで、他の納税者
と看過しがたい不均衡が生じている場合は、租税負担の公平に反する。
判決文なので理由を示していますがどうでしょう。この判示内容をみても明確なガイドラインを引くのは難しいのではないでしょうか?やはり抽象的なニュアンスが残るのは致し方ないと言ったところです。私見ですが、相続開始後9か月弱で乙不動産を売却してしまったこと、これがひとつの引き金になったのでは?と思ってしまいます。やはり、相続後に売却するのは心証が悪すぎるので止めておくべきでしょう。
3.これからどうなる
大事なのは、路線価や固定資産税評価額を用いた通達評価額を、税務署は合理的な理由がない限り否定することができないということです。つまり、路線価評価を全面否定するものではないのです。
自己資金で不動産を購入するのであれば、問題が生じることはないでしょう。また、自宅や親族の家を購入した、資産の組換えを行った、などは借入金があっても問題にならないケースも多いことでしょう。このような場合には、取得した物件を相続後に売却するようなことは通常は無いはずです。節税以外の目的、ストーリーを語ることができるか否かがポイントなのです。
4.何事もほどほどに
数年前に問題となったタワマンもしかり。節税以外の理由もなく相続直前に購入し、しかも相続後に売却してしまっていたら、指摘してと言っているようなものです。国税も裁判所も、法律があったとしても根本は人です。癪に障らせて、怒らせたらアウトです。最高裁判決は、世間へのやり過ぎはダメですよ!との注意喚起なのでしょう。それでも線引きはどこ?と不安ですので、そこは是非とも信頼できる税理士へ相談です。