会社の規模の大小に関わりなく、役員に退職金を払うことは珍しいことではありません。特に同族会社の役員については、節税対策にもよく利用されています。ただ、法人税では過大な退職金は経費とならない旨が規定されています。過大かどうかはまさにケース・バイ・ケース。 一体、いくらまでなら税務署に認められるのでしょうか。
1.法人税法の規定
法人が役員に対して支給した退職金については、基本的にはその支給額が確定した日の事業年度の経費になります。但し、「不相当に高額な部分」、”過大”な部分は現実にお金は出ていくものの、経費とは認められないのです。しかし、この過大とは何とも曖昧で具体性に欠ける規定です。
実はこの規定が抽象的であるために、実務では結構問題になる事も多いのです。と言うより、税理士も税務的な適正額を決めるに当たり、逡巡することが多い規定になっているのです。
2.どんな時に活用するのか?
最も簡単な使い方は、実際に退職する時に支給する事です。しかし、実務では恣意的に行う事もあり、例えば予定より多額の利益が生じてしまった場合です。退職金と言えば、それなりの金額になります。それが経費になるとなれば、節税策としてはそれなりの効果を発揮する事でしょう。
これの応用編としては、株価を引き下げる場合に用いる方法です。極く簡単に言うと、株価計算の方法として”類似業種比準価額方式”と言うのがあります。この評価方法は3期分の会社の利益金額等を用いて計算するのですが、利益の金額が低ければ結果として株価が低くなるのです。
そして、株価が低くなった時点をとらえて一気に株式を贈与するのです。上場会社の株式と異なり、ご自身で所有しているいわゆる同族会社の株式なら、こんな方法で株価対策をし、来るべき相続に備えることもできるのです。
ただ、一度退職金を支給したら、原則として再び役員に復帰することはできません。実際に陰で指揮を執るかどうかは別として、役員報酬は取れなくなりますので注意が必要です。
3.適正額の考え方と税理士の対応
話は戻って役員退職金の過大にならない適正額とはどんな金額なのでしょうか。教科書的な説明をすると、A.最終の月額報酬×B.在職年数×C.功績倍率 と言われています。例えば月額100万円の役員が20年在職したとすれば、100万円×20年×Cで算出されます。AとBは説明を要しないでしょうが、問題はCの功績倍率なのです。この倍率が大きくなればなるほど、適正とされる退職金の金額は跳ね上がるからです。裁判や国税不服審判所等で争われた事例での結論は、概ね、2~3倍と言う事で落ち着いているケースが多いようです。但し、これらはそれぞれ個別の事情もあり、十把一絡げに括ることはできません。
そうなると、税理士としてはどんな事情があっても2~3倍で計算することになりがちです。税務署に否認されることが怖いからです。
4.2~3倍に捕らわれることはない!
しかし、よく考えてみましょう。最終月額報酬一つにしても、たまたま最終期の業績がその期だけ悪く、月額報酬を下げていたとしたら、それまで何十年の長きにわたって支給された報酬は加味されないのでしょうか。また、同じ報酬額、同じ在任期間であっても、苦労して1から築いてきた創業者と、既に地盤ができた上でそれを引き継いだ2代目、3代目は同じなのでしょうか。
こんな事もありました。あるお客様がお父様と一緒に会社を立ち上げました。お父様は個人で所有していた賃貸マンションをその法人に売却。ご子息はコンピュータ関係の業務を、それまでの個人事業から法人に移行して代表者に就任し、一緒に始められたのです。30歳を過ぎたばかりのバリバリの現役です。しかし、不幸なことにご子息は急病で、突然亡くなってしまったのです。会社を立ち上げて僅かに2年です。
このケースでの適正な退職金は最終月額報酬が100万円として、100万円×2年×2.5=500万円なのでしょうか。若くして亡くなられ、節税対策でも何でもなく、遺族に少しでも死亡退職金を渡したい。この人情を税務署は果たして否認できるのでしょうか。個人的には倍額程度は認められると思いますが、如何なものでしょう。
5.何より目立つのは絶対額
税務署は決算書に記載された退職金を見て、最初に考えるのは退職金の絶対額です。実際の調査になれば別ですが、一つ一つ月額報酬と在任期間を調べる訳ではありません。他の会社と較べて、目立つほどの金額でなければ調査にも選定されないでしょう。日本一の麹町税務署、筆者の事務所を管轄する渋谷税務署や新宿、日本橋署等々は億円単位の退職金は珍しくありません。田舎の税務署ですか?1,000万円でも目立ちますよ!それへの対応策や如何に?麹町税務署他、都心の署への本店移転が手っ取り早い???