相続財産を相続人の間で分けるのに、絶対にやってはいけないのが”共有”です。その理由は財産分けの解決になっていないからです。単なる問題の先送りに過ぎません。中でも上場されていない同族会社の株式を共有と言うか、複数の相続人が相続したら、その結果は悲惨なものに。他の株主への対抗策や共有の解消策を考えてみました。
1.共有の様々な形態
共有とは一つの財産を複数の人間で所有し、原則として単独では使用、収益、処分ができない状態を言います。各自の持ち分が定められていて、収入も経費もその割合によって按分することになります。何をするにも全員の合意が必要なため、意見の対立がある場合には収拾がつきません。共有と言っても親子の共有であれば、それ程問題はないでしょう。避けるべきは兄弟の共有で、仮に兄弟間の共有で円滑な関係でも、その一人が亡くなれば、叔父や叔母と甥・姪の共有となり、関係は非常に複雑なものになってしまうのです。
2.最も難しいのは株式の共有
中でも将来に禍根を残すのが、上場されていない同族会社の株式です。会社に不動産等の資産が有り、業績が良ければその株式の相続税評価額は非常に高額になってしまいます。そのため、実質的にその会社を承継すべき相続人に、総ての株式を相続させられないケースが生じます。価額が他の相続人に比べて高くなり過ぎ、不公平感を生んでしまうからです。また、例えば長男と次男の双方が被相続人の営む会社で一緒に仕事をしている場合も問題です。株式を仲良く50%ずつ所有していたら、数の上ではどちらも優位に立てず、権力争いに発展することも多いからです。この手の会社は後継者が全株100%所有すべきなのです。
3.株式を分散してしまった事例
賃貸物件を多数所有している法人がありました。全株式を一人のオーナーがお持ちだったのですが、生前から長男がオーナーである父親の業務を手伝っていました。ここで相続が起こります。相続人は長男の他に長女と次女の3人です。相続財産はこの会社の株式が評価額で3億円、他に不動産が2億円と金融資産が1億円ほどです。会社を承継し運営していくのは長男だと、本人を含め誰もがそう思っていました。従って、会社の株式は長男が総て相続するものと。しかし、評価額3億円もの株式を総て長男が相続しても、売却はできない株式です。相続税の納税原資がありません。そこで、不動産と現預金については3人が均等に1/3ずつ分けようとの長男の提案に対し、他の2人は猛反発。それなら株式も均等に相続させろと言うことになり、結局、長男、長女、次女もその会社の株式をそれぞれ34%、33%、33%ずつ取得することに。ここから悲劇は生まれるのです。
4.長女、次女は経営からは蚊帳の外
相続前から長男が父親を補佐してこの会社の運営は行っていたため、相続後もその路線に変わりはありませんでした。ただ、長女、次女には役員として報酬は支払っているものの、毎期の決算や申告書の内容を開示する事はなかったのです。二人ともそれを気にもしていませんでした。が、ある時、会社所有の都心の収益物件を長男は誰にも相談もせず、10億円で売却していたことが長女の知る所となったのです。多額の売却益があったものと想定もされましたが、長男からの説明は全く無し。ここから長男に対する不信感は一気に募り、決算や申告内容の開示を要求。しかし長男はそれに応じる気配もなく、困った長女は息子に相談したのです。その結果、息子がATOに助言を求めにおみえになったと言う次第です。
5.息子が母親(長女)に代わり直談判する方法
本来、長女はこの会社の大株主であり、かつ役員でもあります。法的にも決算書その他の帳簿書類を閲覧する権利はあります。従って、喧嘩でもして法律論に持ち込めば、その全容が明らかになることは明白です。しかし、血を分けた兄妹でもあり、ここは大人の解決策はないものか、と言うのが長女と息子の意向です。そこで、会社株式は長男に買い取ってもらう事をお勧めしました。長男以外の2人は株主でかつ役員でも、実質的には何らの関与もできない立場、いっそ総てを長男に任せ換金化した方が得策だからです。個人所有の不動産についても、同じくこの同族会社が総てを管理していたのです。これらの土地には思い入れもあり簡単には手放せないとのこと。さりとて共有のため、長男との協議も難しい状況です。長女は今後は長男との交渉を息子に託したい意向から、その不動産を息子に信託するようにお話したのです。これにより、この息子は母からの”受託者”として伯父である長男と男同士の交渉が可能になります。この事例のように、共有持ち分だけでも信託は可能なのです。妹である長女は長男とは対等に話ができません。今後は頼りになる息子に総てを任せ、伯父である長男との丁々発止の渡り合いが期待できそうです。