民法改正により新たに配偶者居住権という制度ができました。令和2年4月からの施行のため、記憶に新しいこともあり、ご存知の方も多いことでしょう。
令和3年に入り、施行から1年以上が経過しましたが、まだまだ運用は始まったばかり。上手に使えば節税にもなりそうですが、うまい話ばかりとは限りません。今一度、取扱方法の確認をしてみましょう。
1.配偶者居住権のおさらい
配偶者居住権とは、「夫または妻が亡くなった後も、遺された配偶者が自宅に、終身又は一定の期間、住み続けることができる権利」のことをいいます。配偶者が前提ですので、夫婦のための制度になります。ちなみに、戸籍上の婚姻関係が必要なため、内縁の妻などの事実婚状態の方は対象外です。たとえ別居していたとしても配偶者の地位さえあれば大丈夫ですが、籍が入っていない方はアウトです。夫婦愛がどんなにあっても籍が一緒でなければ一切認めてくれない、これがこの国の厳しいルールなのです。
この制度、簡単にいえば、配偶者が自宅の所有権を相続しなくても、住める権利を特別に設定できるようにしたもの。極論、自宅は居住さえできれば良いのですから、わざわざ自宅そのものを所有する必要がないということです。
そこで、所有権とは別に、配偶者が生きている期間を上限に居住できる権利を設定できるようにしたというわけです。ただ、有期の場合は期間経過後のことを考えなければならないので、現実的な対応としては終身になることが多いことでしょう。
2.設定方法に注意しよう
配偶者居住権は法定の権利、つまり法律で定められた権利です。そのため設定方法が決まっており、次の3つとなっています。
(1) 遺産分割による取得
(2) 遺贈による取得(死因贈与を含む)
(3) 家庭裁判所の審判による取得
一般的には(1)か(2)のいずれかになるでしょう。ここで、(2)の遺贈による取得を選択するときに、とても大事な注意事項があります。遺贈、すなわち遺言によって設定するのですが、文言には注意して下さい。遺言では通常「〇〇を相続させる」というように書きますが、配偶者居住権にこのフレーズを利用してはダメです。
あくまで、遺贈に限られますので、「配偶者居住権を遺贈する」と書きましょう。公正証書遺言では公証人が文面チェックをしてくれますが、自筆証書遺言ではそうはいきません。公証人手数料をケチって水の泡とならないように!
3.相続税の節税になる?
配偶者居住権を設定すると、二次相続の対象財産が少なくなります。
例えば、夫に相続が発生し、相続税評価額1億円の自宅の土地建物を妻が相続するとします。この場合、妻が相続した自宅1億円は、二次相続時も相続財産です。
次に、自宅は長男が相続し、妻が配偶者居住権を設定するケースを考えます。配偶者居住権は不動産そのものではないので、評価額は1億円より少なくなり、ここではその評価額を6千万円としましょう。すると、差額の4千万円、これが所有権としての自宅評価額となり、長男が相続します。一次相続時の財産は先ほどと同じく、合計1億円が相続対象です。
それでは二次相続時はどうでしょう。妻の配偶者居住権は死亡により消滅しますので、6千万円は消えて無くなり相続対象になりません。自宅は二次相続の対象から外れるということです。
つまり、配偶者居住権を設定すれば、一次相続で長男は土地建物を低い評価額で相続できることになります。
4.現実にはトラブルの種になるかも?
配偶者居住権は売却することができません。そのため、換金価値がない権利になります。老人ホームへの入居のために売りたいと思ってもお金にすることはできません。
なお、土地建物の所有者が売却に賛同していれば換金できる可能性があります。配偶者居住権を消滅させた後に所有者が売却を行い、配偶者には消滅の対価を渡すことにするのです。ただし、これは仲が良いことが前提なのは言わずもがな。配偶者だけではどうにもなりません。
ケースとしては、先妻の子と後妻がいる場合にも活用できると想定しているようですが、必ずしも仲が良いとは限りません。揉め事の種にならなければ良いなと、余計な心配をしてしまいます。
また、配偶者よりも先に自宅の所有者が亡くなってしまう事だってあり得ます。配偶者居住権はまだ消滅していませんので、孫世代は制限付きの不動産を相続して税金を支払います。果たして納得できるかどうか。
5.家族円満が一番
法律的には、自宅の固定資産税相当額は配偶者が負担することになっていますが、納税通知書は所有者宛に届きます。年老いた配偶者が負担してくれるのは円満な家族間が前提、これが現実でしょう。
家族間の円満な相続はどれだけ仲が良いのか、結局は人と人とのコミュニケーション、これに尽きるのです。