税務署に申告書を提出した後、その申告に何らかの誤りがあり、税金の納め過ぎが判明したとします。そんな場合、一定の手続きを経て税金は還付されますが、必ずしも現金で返ってくるとは限りません。
”目には目を”が税務署の鉄則だからです。
1.税金の取り戻し方
税金の納め過ぎが解った場合、法律に基づく取り戻しの方法は『更正の請求』です。一般的なものは、その申告期限から1年以内とされています。それに対し超法規的なものとして、『嘆願書』という制度があります。これは読んで字のごとく、税務署に対してお願いをするわけで、駄目で元々、認められれば儲けものという代物です。
いずれにしても、申告期限から5年を過ぎてしまうと救いようがありません。税務署長の権限が法律的に及ばなくなってしまうからです。
2.典型的な”広大地”
以前にも本誌で御紹介しましたが、典型的なものとして、相続税の広大地の評価があげられます。
面積の広大な土地については、道路や公園等の提供による潰れ地割合を計算し、実際に有効な宅地の面積に基づく評価をしようとするものです。これを活用して申告するのは、実務的には結構専門的な知識が必要で、適用していない場合も多いのです。
先般も相続税の申告の見直しを依頼され、他の税理士の方の作成した申告書を再チェックしたのです。あら探しのようで気持ちはよくないものの、お客様にとっては重大事。場合によっては億単位で税金が戻ってくるのです。案の定、広大地の評価を適用していませんでした。現在は通達の改正で簡便な算式になっていますが、平成16年以前の相続は面倒でした。前述の有効宅地を専門家による図面を作成して税務署を説得する必要があったのです。
3.還付は決まったが、物納を申請!
とにもかくにも、面倒な図面を添付し評価の正当性を税務署に主張したのです。この手の業務はうまくいくこともいかないこともあるため、成功報酬方式で受注です。結論から言うと、私共の主張が通り、数千万円が戻ってくることに。と、ここまではよかったのですが、問題が一つあったのです。それは、このお客様が物納申請をしていたことなのです。税金の還付と物納申請とどんな関係があるのでしょう。例えば物納を200申請していたとします。この状況で150の税金の還付が認められても、150は現金では返ってこないのです。物納申請200の内、150が認められたことになり、物納による納税が残額50と言う計算なのです。
つまり、分割ができる土地を前提に考えれば、200坪の内150坪相当は現金ではなく土地で返ってくる理屈です。が、実はここまでは想定していませんでした。
4.成功報酬の支払い原資は?
お客様にとって納税の負担が減るという意味では同じでも、私共にお支払い頂く成功報酬の原資がないのです。報酬を土地で頂くのもできればご遠慮させて頂きたいもの。そもそも、物納の方が売却より有利であったため、土地の物納申請をしていたのです。つまり、その土地を売却しても物納の収納額にはならないのです。それでも換金化は必要ですし、年の瀬にかけ、売却できるまで私共へのお支払いも頂けないのかと心配で心配で…。主張は認められたものの、「目出度さも中くらゐ也おらが春」の心境でした。
幸いにも最終結論が出る直前に物納が許可になり、上記の心配は杞憂に終わったのですが、正しく間一髪。冷や汗ものでした。
5.滞納がある場合も同じ理屈です
必ずしも現金が戻らないのは上記のような場合だけではありません。滞納がある場合には、何かの理由で税金が減額されても、結局は滞納税額に充当されるため、実際の現金は戻ってこないのです。ある人が平成15年分の所得税に滞納があった場合、16年分に還付額があればそれに充当されるのは納得がいくところ。しかし、同じ本人に相続税の還付があっても、税目の違いは関係なし。やっぱり15年分の所得税に充当されてしまうのです。そう簡単に現金は戻してくれないのが税務署と覚えておきましょう。