相続税は財産分けの方法が決まり、申告書を提出すれば終わりと言うものではありません。納税までができて初めて手続きが完了するのです。しかし、この納税がひと苦労なのです。多くの場合、原則通りの現金による一括納付は困難です。そこで延納や物納となるのですが、これはあくまで許可されてこその話です。今回は延納にスポットを当ててお話ししますが、悪い担当者に当たると、実はこんな意地悪に遭遇することも…。
1.申告期限が同時に納税の期限です!
相続税は原則として亡くなってから10ケ月が申告期限です。そして、その申告期限が同時に納税の期限なのです。つまり、この期限までに納税方法を確定し、実際に完納することが義務付けられているのです。そうは言っても相続税の場合、資産家であればある程納税額も多額になる事でしょう。従って、現金による一括納付は困難が予想されます。
2.現金の一括納付が困難ならば、まず延納
そこで、まず考えられるのが延納です。最長20年の分割払いですが、延納は言ってみれば税務署に借金を負うこと。勿論担保の提供が必要です。相続税の場合、他の税目に比べて金額が多額になることも多く、そのために特別に設けられた制度なのです。もう一つの納税方法に物納がありますが、延納と物納は選択ができる訳ではありません。先ずは延納を指示されるのです。それでも納税ができない場合に限って、出来ない部分にだけ物納が認められると言う順序になっているのです。ここで詳述はしませんが、延納できる金額も税務署が定めたルールに従って計算されます。1年分の所得から生活費その他必要な金額を控除した残額は、総て納税に充てなさいと言う考え方なのです。しかも驚くべきは、ぜいたくな生活は許されず、生活費として控除される金額は税務署に決められています。ひと月に本人分は10万円、親族は4万5,000円です。まさに爪に火を灯す生活を強いられるのです。筆者の勝手な推測ですが、税務署職員の生活の実態はこんなものなのでしょう。こんな制約もあってか、延納金利よりも低い金融機関からの借り入れで賄う方も多いようです。
3.賢い延納の活用法
上記のような背景があるからでしょうか、現実問題として20年を掛けて分割払いする方は少ないようです。ならば、どうするか。延納は単なる時間稼ぎに使うことが実務では多いのです。つまり、申告期限までには納税ができないので、とりあえず申告書と共に延納の申請書だけを提出するのです。この申請が認められるかどうかは別として、申請書だけを提出しておけば滞納扱いにはならないからです。
延納にも金利は掛りますが、相続財産の種類や延納期間によって異なり、0.2%~1.3%までと様々です。もし、何の申請もせず放っておけば延滞税の対象に。この延滞税、銀行の貸出金利を基に算定されるのですが、最高で当初の2ケ月が2.6%、これを過ぎると8.9%と言うとんでもない金利になってしまうのです。だからこそ、絶対に延滞税の対象にはしないことが重要なのです。
そして、とにかく納税資金を確保するため不動産の売却等を進め、早期に残金を返済することを考えるべきなのです。繰り上げ返済を行っても、どこかの銀行と違って違約金は取られません。税務署は喜んで完済手続きを行ってくれます。
4.延納の申請手続きに運はつきもの
さて、その延納ですが、手続きはそれ程難しいものではありません。言ってみれば、所定の申請書に加え担保の提供を行えば済むと考えていいでしょう。とは言っても申請をして、それが認められて初めて延納としての返済ができるのです。あるお客様が延納の申請をした時のこと。納税のために不動産の売却手続きを進めていましたが、申告期限には間に合いません。そこで延滞税を免れるため、”とりあえず延納”の手続きをしたのです。許可を待つまでもなく不動産は無事に売却ができ、即刻納税をしました。模範的な納税者、日本国民の鏡です。
が、しかしです。延納の許可はできないと当局の担当者はうそぶいたのです。理由は不動産を売却済で決済だけが未了と言う状況なのに、20年もの長きにわたる納税計画を提出したこと。許可をする前に既に納税ができるのであれば、そもそも論として、延納の申請をするのはスジ違いだと言うのです。呆れてモノが言えません。このお客様、納税義務を果たしたいものの、期限までの資金化ができないので、仕方なく延納の申請をしたのです。延滞税を嫌って延納申請をしたのは事実ですが、実務では当たり前の事。本来の延納の趣旨とは確かに違うかも知れませんが、既に納税までしている模範的納税者なのです。頭の固い担当者もいるのでしょう。長年税理士をやっていますが、こんな事を言われたのは初めてです。直談判の末、やっと延納を認めて貰いましたが、延納手続き一つでも担当者の運不運はありそうです。