今回は、昨年末に受けた所得税の調査でのお話です。税務調査では、調査官は何としてでも誤りを見つけ、修正申告に持ち込もうとします。それを必死に体を張って、お客様をお守りするのが我がATOの仕事です。とは言うものの、結局は税法をめぐる攻防です。どちらの言い分に理があるか、税法の知識と日本語の国語力と常識論を駆使し、頭の体操をして頂ければ幸甚です。
1.管理型法人とは
かつて一世を風靡した不動産所得の節税策、と言えば何と言っても管理会社方式でしょう。親族だけで管理会社を設立し、その会社にご本人の賃貸物件を”管理”させるのです。その管理料相当分が不動産所得の経費となり、所得税の節税が図れると言う仕組みです。その管理料が問題で、中には収入の50%なんて、とんでもない強者までもが現れる始末。流石に税務署も行き過ぎた節税策に腹を立て、当初は20%がその料率の限度と規制したのです。しかし、この20%と言う料率は、法律でも通達でもないため拘束力がありませんでした。そのため、当局と税金を納める側で、常に争いが絶えなかったのです。結局、最後は国税不服審判所と言う大岡裁きで実質的にほぼ決着が。何%と言う料率ではなく、”管理の実態”で判断をし、実態があれば料率が不当に高いか否かを判断することで体勢は決まったのです。
2.所有型法人の登場
ここで節税を諦めては男がすたると言うもの。合法的に不動産所得を減らし、所得税の負担を軽減させる秘策をATOでは考えました。それがいわゆる”所有型法人”で、お陰様で「相続財産は法人化で残しなさい」なる本まで出す始末。管理ではなく建物そのものを、帳簿価額で法人に売却しようと言うものです。こうすれば、法人自体が建物のオーナー。管理の実態など問われることもありません。そして、法人に集まった賃貸収入は、ご本人ではなく親族を役員にして役員報酬で分散します。こうすれば、賃料の分散効果で所得税は激減し、ご本人に財産の蓄積もできないために、相続税対策にもなるのです。
3.事案の概要
前置きが少々長くなりました。問題の所得税の調査では、初めに述べた”管理料”の料率のみならず、その計算方法が問題だと指摘されたのです。実は、総ての物件を所有型法人に移すことは難しい場合があるのです。ここで詳述はしませんが、法人に移せない物件についてだけ、管理料を徴収していたのです。そして、その管理契約書には『賃貸収入総額の10%相当額』が同族法人への支払い管理料である旨が規定されていたのです。税務署の具体的な指摘事項は、(1)この10%と言う料率が高過ぎる点。(2)10%を乗じる”基になる金額”に問題があると言う2点です。つまり、賃貸収入総額の中に、水道光熱費等のいわゆる共益費が入っているが、これは実費の預かり分であり、賃貸収入ではないと言う指摘なのです。共益費部分にまで管理料を徴収している管理会社など、一般的な管理形態ではない。賃貸収入と言うのは、不動産等のモノを貸す事によって生じる収入である、との主張なのです。
4.ATOの主張
まず、(1)については、料率そのもので判断すべきではなく、管理の実態で判断すべきだと考えています。ご本人は80歳を過ぎたご高齢で、外部の管理会社に一部管理業務を任せてはいるものの、実質的な活動は総てご子息の営む管理会社が行なっているのです。金額的には年間で約600万円、専従者給与と考えれば、規模や業務量を勘案した場合、決して高過ぎる金額ではないと反論しました。そして問題なのは(2)の点です。確かに多くの管理会社では、共益費にまで管理料を徴収することはないかも知れません。しかし、法律論としては、どの部分に料率を乗じても、税務上の問題がなければ、契約の両当事者の任意です。更に、不動産所得用の青色決算書の収入金額の欄には、賃貸料、礼金・権利金・更新料、共益費等と記載され、その合計額を収入金額として計上しているのです。契約書上『賃貸収入総額の10%相当額』となっており、”総額”の中に共益費が入っていても、何ら問題はないと考えています。
5.屁理屈には屈しないぞ!
冒頭にも書いたように、税務署と言うところは何が何でも修正申告をさせたいのです。当方が修正に応じない場合、税務署は「更正」と言う職権で強制的に課税することも可能です。しかし、更正されればこちらは「異議申立」をして、あくまで戦う覚悟です。修正申告をした場合には、後でこの「異議申立」はできないのです。だからこそ、税務署は”修正申告”を迫ってくるのです。そして彼らはプライドに掛けても負ける喧嘩はしたくないので、この程度のことでは「更正」はなかなかできないのです。共益費収入は賃貸収入ではないのでしょうか。”家賃の”とは書いてありません。どこまでも争うつもりだったのですが、当初修正しろとあれだけ言っていた税務署は一転「これで結構です!」。最終的に当方の主張が通って終結。ホッ!!