前号では、自転車が都会の車道を通行するのは歩行者にとっても、自動車にとっても案外迷惑であるという話、そして解決のためには本格的な自転車レーンを都会の幹線道路に導入すべきだ、という話を書いた。が、紙数が足りず、「迷惑」の所以を抽象的にしか書けなかったので、今月号では、もうすこし具体的に、都会幹線道路における自動車vs自転車バトルについて書いてみたい。
まず、貴方が信号のある交差点を自動車で、左折しようとしていると仮定する。横断歩道には青信号を直進する歩行者の群れが居て、あなたは行儀よく横断歩道の手前に停車して、歩行者の群れが渡り終わるのを待っている。ようやく、歩行者が途切れあなたは注意深くそろそろと歩道をクロスして左折を完了しようとする。
すると、後方から思いがけず、歩行者の途切れた歩道の右を、しかもかなり速いスピードで自転車が突っ込んでくる。左折を開始した貴方の自動車のミラーにはその自転車はうつらない。貴方の注意は、歩道上の歩行者に集中しているので、猛然と突っ込んでくる自転車は視野の外である。自転車は左折しようとする貴方の自動車の横腹すれすれで急停車し、怒号をあげる。
自転車の側からすれば、信号は青、直進OKである。自分は直進車だから、左折しようとする自動車に対して優先権がある。歩道上の歩行者も途切れているので徐行しなければならぬ理由はない。
このような事態は何故起こるか。それは、貴方の自動車は最左側の車線に寄って左折に備えて停車しており、「それより左に車は通らない」と考えているからである。一方自転車は、貴方の車が走ってきた最左車線のさらに左内側に自転車通行のための「見えない車線」があって、そこをすり抜けるのは当然の権利だと思っているのである。「最左車線より左に車は通らない」のか「最左車線の内側に見えない二輪車用の車線がある」のか、それが問題の本質である。(これが左折する貴方の後ろから来る自動車であれば、話は簡単で、貴方の左側を後方からすり抜けるのは物理的にも不可能だから、後方から来た車はたとえ直進しようと思っていても、行儀よくあなたの車の後ろに停まって、貴方の左折が終わるまで待つしかない)
同様のことは、赤信号の手前で、何台かの自動車が並んで信号待ちをしている場合に、後ろから二輪車が信号直前まで自動車をすり抜けて出てよいか、という問題についても言える。二輪車の側は、「同一の車線内に見えない二つの車線がある」と考えているので、すり抜けは当たりまえ。自動車側からすると、先ほどさんざん苦労して時速20km程度でのろのろ走る邪魔な二輪車を抜いたばかりなのに、赤信号で停まったら又さっきの二輪車に前に出られてしまう、ということになる。
さて、自転車レーンは、この「最左車線より左に車は通らない」のか「最左車線の左に見えない二輪車用の車線がある」のかという問題に、決着をつけようとする試みである。自動車の最左車線の左に「見える」自転車専用車線を引くのが「自転車レーン」なのである。