この稿の筆者が、あるビール会社の宣伝マンをしていた頃、ライトビールの新製品のCMに、朗々たるトランペットの吹奏を用いた。制作スタッフによれば、そのメロディはショパンの幻想即興曲から採ったもので、ポピュラーソングとなり「虹を追いかけて」とかいう題名がついているとか。
それから四半世紀が過ぎ、最近ショパンの幻想即興曲を耳にしたことが契機で、ふとそのことを思い出し、「あれはどんな楽曲であったか」と、おぼろげな記憶をたどってみることにした。
最近の世の中は、大変便利にできていて、インターネットの「教えてgoo」に質問を投げたところ、しばらくして回答の投稿があった。曲名は Im always chasing rainbows。その回答から、You Tubeにたどり着き、サミー・デービスJr、ジュディー・ガーランド、ペリー・コモ、ジェーン・オリヴァー、フランク・シナトラなど多数のアメリカの歌手がこれを歌っているのを知ることができた。
さらに、CMに使用したときはトランペットの吹奏だったので知ることができなかった歌詞が、とてもすてきなものであることを知った。ジェーン・オリヴァーのYou Tube動画には、英語の歌詞も掲載されているので、それを見ながら、この曲を聴いて思わず涙してしまった。
歌詞は、ひと言で言えば、アメリカンドリームに敗れた者の言葉である。「私はいつも漂う雲の彼方の虹を追いかけてきた。私の企てはいつでも空の夢と消え、他者は栄光をつかんだが、私の手元には何も残らなかった。でも信じてほしい、私がいつも幸せの青い小鳥にいつか出会うことを求めて、虹を追いかけていることを」というような詞で、失敗と挫折を繰り返しながらも、毅然と夢を追い続ける姿が、大戦間時代のアメリカ人の底知れない楽観主義を、よく表現している。
この楽曲は、1918年のミュージカルコメディOh, Look!のために書かれたものだそうだが、残念ながらそのミュージカルまでは、調べきれなかった。後にジュディー・ガーランド(同じく虹をテーマにしたSomeday over the rainbow-オズの魔法使い、1939年MGM-で有名になった)が、ミュージカルZiegfeld Girl(1941年、邦名「美人劇場」)の中で歌っている。
我は唯虹を追うなり 漂える雲の彼方に 企てはみな夢のごと 大空の中に果て行く
輝ける陽を浴むは誰ぞ 我が逢ふは降る雨の日ぞ
栄冠を戴くは誰ぞ 我が得るにたつきとてなし
信じてよ 我は唯虹を追うなり 幸せの青き小鳥と めぐり逢ふその日を待ちつ
我は唯虹を追うなり 幸せの青き小鳥と いたずらに逢ふ日を待ちつ
(筆者拙訳)