東日本大震災の後、2011年8月号の本欄で「節電、蓄電、自家発電」と題し、地球温暖化防止と脱原子力のための代替エネルギーについて書いた。その続きの話である。
「節電、蓄電、自家発電」の要旨は、電気というものは水の流れのようなもので、貯めておくことが難しい。もし真夏の昼間電力の10-20%程度でも貯めておくことができれば、発電所の数をかなり減らすことが出来る。脱原子力発電も可能かもしれない、というものであった。具体的な例としては、揚水発電と言って、夜間電力で水をポンプで高所に汲み上げ、昼間その水をダムから落として水力発電を行う術などを紹介した。
さて、世間でよく知られる、太陽光発電や風力発電などには、一つの欠点がある。それは、不安定で、要るときに使えるとは限らないということである。真夏の昼間、ものすごく暑い日に太陽光で発電することは出来そうだが、風が吹かなければ風力発電は出来ない。
つまり、代替エネルギーによる発電は、人々が電力を欲しいときに、当てにならないことがあるという訳で、その欠点が原子力発電推進論の一つの論拠になっている。ところが、電気を貯める(電池代わりの)手段として、水素というものが最近有力になってきた。
水素は、地球上に水という形で普く存在している。電力の原料としては木材、石炭、石油などの炭素系の化石燃料や、ウランなどの核燃料に比較しても、入手はきわめて容易である。とくに我が国の様な海洋国家の場合、国の四囲は水だらけである。
さて、よく知られているように水の構成要素は水素原子2個と酸素原子1個である(H2O)。水の分子の水素と酸素は、固く結合しているのだが、電気を与えると分解する。これを水の電気分解という。水が電気分解すると酸素は大気中に放出され、残りは水素ガスになる。その水素ガスをタンクに貯めておいて、電力が欲しいときに大気中の酸素と再び結合させると水になる。水素と酸素が結合して水が出来るときには、電気分解と逆の原理が働いて、電気が放出される。石炭や石油を燃やす(酸素と結合させる)と二酸化炭素が大気中に放出されるのだが、まあ簡単に言えば水素を「燃やして」も水しか出てこない。その上結構なことには、水素と酸素が結合し水となるときに、電気が出てくるのである。一つ問題があるのは、この水素燃料電池の仕組みは、現在の所まだロスが大きい。最大でも、水を電気分解するときに使った電力の60-70%くらいしか、回収できない。
現在の技術では、水から水素をつくるよりも、むしろ天然ガスから水素を取り出す(改質という)方が、効率は良い。既に市販されている「エネファーム」などの水素発電装置は、天然ガス改質法を用いているが、これだと有限の化石燃料を使うし、改質の過程で二酸化炭素も発生する。
やはり、将来の技術の本命は、水の電気分解であるだろう。水の電気分解効率が向上し、且つ水素ガスという一種の危険物を都会の中で安全に管理する技術が進めば、太陽光や風力発電で得た電力を用いて、水を分解して水素を貯め、その水素を電力が欲しいときに水に戻して電力を取り出すという方法が、代替エネルギーの本命となることだろう。
注:本稿は、「東芝が目指す水素社会」のホームページに取材させていただいた。http://www.toshiba.co.jp/newenergy/