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今月の言葉

2016年9月1日

広報

この稿の筆者が、あるビール会社の広告宣伝の担当者であったことは、本欄でも折に触れて書いている。時期によって、所属した部門の名前は広報部であったり、マーケティング部であったり、宣伝部であったりしたのだが、とにかく広報部門というものが、宣伝部門の隣にあった時期が長く、隣の部門の仕事を兼務したり、手伝っていたこともある。

 宣伝と広報で、仕事の内容はどう違うか。会社経営に詳しくない方のために少し説明する。宣伝と言うのは、スポンサーとしてお金を払い、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、交通広告、屋外看板などの媒体のスペースを買って、これに自社の商品などの広告原稿やコマーシャルをのせる仕事である。広告原稿やテレビ、ラジオのコマーシャルは広告代理店や制作プロダクションに頼んでつくることもあるが、基本的には自社の言いたいことを消費者の皆様に伝えるのが使命である。一方、広報というものは、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどのニュース欄に、自社の情報を載せていただくのが仕事である。新聞記者や放送番組の制作者は、スポンサーのお金の力では自由にならないので、広報部門の担当者は日頃から記者や制作者と仲良くして、自社の事業内容、商品情報をよく理解してもらい、少しでも自社に好意的な記事やニュースを発信していただくのが使命であった。筆者の隣の席の広報課長は、よく「マスコミに接待されるのが宣伝部門、マスコミを接待するのが広報部門なのさ」とか、軽口を叩いていたものだ。

 さて、今月はその広報部門(英語では宣伝=advertisingに対して、広報はpublicityという)の話を書く。企業広報の仕事(学校や役所にも共通する)を詳しく分析すると「火消しの広報」、「ばらまき広報」、「仕掛けの広報」の三つの段階がある。

 「火消しの広報」とは、当該企業の不祥事(たとえば経営者の背任や脱税、製品のクレームやリコール、事故や火災、社員のセクハラ、パワハラ等々、自社が世間にご迷惑を掛け、頭を下げるべき出来事)が生じたときのマスコミ対応である。記者会見をセットし、経営者の出席を手配し、出席の役員に頭の下げ方の角度を指導し、誤解に基づくマイナス情報が発信されないように、的確な説明を行うことを以て「火消し」という。災いは何時やってくるか分からないから、広報部門には、つねに非常事態に備える準備が必要である。

 「ばらまき広報」とは、広報部門のもっとも日常的な業務で、広報資料(業界ではレリース=releaseと呼ぶ)という自社が世間に発信したい情報を書いた書類や写真を記者倶楽部に一斉に配布し、マスコミからの取材に応える仕事である。只ばらまいただけでは取り上げてもらえないので、取材する側との日常のコミュニケーションが大切である。時には特定のメディアに大事なニュースをリークし、大きく取り上げてもらうような寝技も使う。

 「仕掛けの広報」とは、イベント、コンクールなどを広報部門側で企画し、マスコミに取り上げてもらうニュース自体を創造する仕事である。たとえば新商品の感想文コンテストなど、ニュースの内容はたわいないものも多いが、広報担当者の企画センスが問われる。

 広報の仕事は、宣伝に比べると地味だが、時にはコストを掛けずに社名や商品名を情報発信することもできる。企業人の仕事としては魅力的な部門の一つだ。