相続税の節税として、贈与を活用するのは世間の常識となっています。税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から相続開始前の贈与加算が段階的に7年に延長されるため、節税のための贈与はより早く行うのが効果的です。
子や孫が生まれてから、贈与税(暦年贈与)の基礎控除110万円を活用すれば、18歳で成人するまでの間、無税で約2千万円を渡すことができます。そこで、幼児への贈与についてご説明します。
1.贈与が成立するには
贈与は、無償(タダ)で資産を移転する契約をいいます。贈与の効力が生じるのは、贈与者が自分の財産を無償で相手方にあげることを伝え、もらう人が承知した場合です。つまり、あげる人ともらう人の双方の合意があってはじめて贈与が成立します。
2.税務署が認めない贈与は
税務署が認めない贈与は、贈与が成立していない場合です。たとえば、親が子の名義で作った預金の場合、以下のような理由から、その預金は親子間で「あげる」「もらう」の合意がなく贈与が成立していないと判断されると、名義が子であっても親のものと判定されます。このような預金を「名義預金」といいます。
・通帳、カード、印鑑を贈与者(親)が管理している。
・子がその預金の存在を知らない。
3.幼児への贈与は大丈夫?
幼児は、贈与が成立するための意思表示や財産管理ができないから、贈与が成立しないのではという疑問が生じます。
結論から言えば、幼児に対する贈与はできます。なぜなら、未成年者の場合、親権者が法定代理人となるからです(民法824条)。つまり、両親が、幼児である子に代わって贈与を承諾し、子が受けた贈与財産として管理していけばよいのです。
4.贈与契約書は必要なの?
贈与は口頭でも成立するので、身内で贈与契約書を作るのは堅苦しく感じます。しかし、将来の親族間トラブル防止や税務署に「名義預金」といわれないよう贈与契約書を作ることは重要です。たとえば、相続が発生したとき、幼児が大きな金額の預金を持っていると、税務調査を受ける可能性が高くなります。そんなときに、贈与契約書があれば、贈与成立を証明するため非常に有効です。署名押印のある贈与契約書を作成した上で、契約通りに財産が移っていれば、特殊な事情がない限り、贈与契約は成立しているとみます(民訴228条④)。税務署が、その贈与を成立していないとひっくり返すことはまず無理です。
5.口座振込をお勧めします
贈与契約書は作ったけれども、実際には契約通り財産を移していない場合などは、税務署から契約の真実性を疑われ、贈与が成立していないと指摘される恐れがあります。そのような意味では、記録が残らない現金で贈与するよりも記録の残る口座振込で贈与するほうが間違いありません。
6.贈与税の申告や納税はどうするの?
贈与税(暦年贈与)は、1年間に基礎控除額110万円を越える財産の贈与を受けた場合に申告が必要になります。贈与を受けた人が幼児であっても申告・納税をしなければなりません。実際には、親権者が代理人として申告と納税の手続きを行うことになります。
この場合の贈与税は、贈与を受けた幼児の負担となることにご注意ください。税金の支払いであっても、負担者が違えば贈与税の対象になってしまいます。
7.贈与を受けた子が成人したら
名義人である子が預金の存在を知らないまま、通帳を管理していた両親が亡くなってしまうと、贈与は成立していないとみられ、その預金は管理していた両親の相続財産になってしまいます。遅くとも子が成人するまでには、預金の存在を伝えて管理方法を親子で話し合いましょう。
8.まとめ
幼児への贈与はできます。しかし、せっかく子のためにコツコツ貯めてきたお金が、子の財産とは認められず、贈与税や相続税といった税金の対象となっては苦労が水の泡になってしまいます。
贈与契約書の作成や親権者としての財産管理方法など、不安やお悩みのことがあれば、当事務所にご相談ください。